【セイミヤ】EDI化率96%を達成した中堅スーパーの流通BMSの導入チャレンジ


株式会社セイミヤ
取締役
情報システム部
部長

勢司 秀夫 氏

 

 茨城県、千葉県で18のスーパーマーケットを展開する株式会社セイミヤは、年商300億円弱のご当地スーパーだ。1980年代からオフコンによる情報システム化を進めてきたが、2008年からPCサーバー系のシステムへと移行を開始。基幹システムのリプレースにあわせて2011年8月に流通BMSの導入に踏み切った。2014年11月末の時点ではEDI化率が96%まで達し、大幅なコスト削減効果が現れている。そこで、中堅・中小スーパーの流通BMSの導入のポイントを、同社取締役で情報システム部長の勢司秀夫氏に聞いた。

 

 

伝票の枚数が約14万枚に達し、伝票処理にかかる作業量が膨大に

 セイミヤは漬物製造卸小売業として1887年(明治20年)に創業し、1967年(昭和42年)に1号店となる潮来店(茨城県潮来市)を開店した。現在は、茨城県と千葉県にスーパーマーケット(SM)12店舗、大型スーパーマーケット(SSM)6店舗を運営している。

 

 同社は、以前からEOSによるオンライン発注を行っていたが、伝票を扱っているがゆえに4つの課題があった。

 

 1つは伝票枚数の多さだ。11年当時で15の店舗数に対して伝票の枚数が約14万枚に達し、伝票処理にかかる作業量が膨大になっていたという。1つの店舗を出店するたびに伝票枚数は約9000枚増えるため、従業員やパートを雇って対応する必要があった。

 

 2つめは、手作業ゆえの伝票記入ミス、コンピュータへの打ち込みミスだ。さらに、従業員が伝票をポケットに入れたまま紛失したり、洗濯してしまったりすることもあった。

 

 3つめは取引先からの請求書と伝票の照合作業及び差異の問い合わせや調査に時間が取られていたこと、4つめは店舗で膨大な検収作業を強いられることだ。1店舗につき1日数百枚もの伝票にサインと仕分けをする作業が発生していた。

 

「これらの課題を解決するためにはEOSからEDIに切り替えるしかないと思ったのが流通BMSに関心を持ったきっかけです。さらに、電話回線を使うJCA手順は通信に時間がかかるばかりか、回線数が3回線しかなかったこともありますが発注が混み合う時間帯にはつながりにくくなるというデメリットがありました。通信コストも高くつくため、その分の負担を取引先に強いることになり、長い目で見ると商品にコストが転嫁されて消費者に負担がかかってしまいます」と勢司氏は説明する。

 

 これらの課題を抱えていたころ、08年からオフコンで運用してきた基幹システムをPCサーバー系にダウンサイジングする全社的なプロジェクトが始まったことから、そのタイミングでEDI(流通BMS)に切り替えることを決断した。

 

 しかし、EOSで一方的に発注データを送ってきたセイミヤにはEDIに関するノウハウがない。そこで勢司氏は当時経済産業省・流通システム開発センターが主催する「流通サプライチェーン全体最適化促進事業成果報告会」に参加。そこでの議論を見て「普段は競争している同業者が真剣に標準化を考えているなら本気に違いない」と新しい標準EDI(後の流通BMS)の誕生を確信する。その後、大手チェーンストアの動向を追いかけ、普及の進捗状況を見守った。

 

 それと並行して11年3月には同社の主要取引先195社に対してアンケート調査を実施する。すると、EDIの導入実績は79%、流通BMSの導入実績も検討中を含めて58%に達していることがわかり、導入に向けた手応えをつかんだ。

 

「EDIの領域で独自性を発揮して、他のスーパーと競争したところで何の意味も持ちません。それなら発注からの流れについては、標準化されたものを用い、本当の勝負を店舗力、商品力ですることこそが、最終的なお客様のメリットにつながるという思いを強くしました」(勢司氏)

 

 

クラウド型サービスで流通BMSを導入、補完手段としてWeb-EDIを併用

 流通BMSの導入に際しては、VAN会社、ITベンダー合わせて9社に提案依頼書(RFP)を送り、初期費用、運用費用、導入実績、サービス体制などを検討。最終的に、アウトソーシングによる業務負荷の軽減、人材不足への対応、業界共通のIT基盤で流通BMSのデータにマッピング変換できるメリットを考慮して、クラウド型(ASP型)サービスを採用し、11年8月から流通BMSに切り替えた。

 

 しかし、流通BMSの導入で勢司氏を大いに悩ませたのが、Web-EDIへの対応だった。当初は流通BMS一本でいくことを考えていたが、現実的に流通BMSを知らない取引先、すぐに対応できない取引先が全体の約半数あり、多大な負担をかけることになってしまう。とはいえ、Web-EDIを認めてしまうと、個別形式によるデータ交換のデメリットは解消されないままだ。

 

「どうすれば矛盾を解消し、効率化ができるか真剣に考えたところ、流通BMSの導入で採用したクラウド型のEDIサービスが、流通BMSにおけるWeb-EDI基本方針に準拠していることがわかりました。そこで、流通BMSの補完手段として、Web-EDIの併用に踏み切りました。ただしWeb-EDIはあくまでも流通BMSへのつなぎであることを取引先にお伝えしています」(勢司氏)

 

 14年11月現在、流通BMSに対応している取引先は40社、Web-EDIは128社、2つを合わせて168社のEDI対応と、主要な取引先のほとんどが対応している計算だ。伝票枚数のEDI化率で見ると、生鮮も含めて約96%に達していることから、ほぼ完成された状況にあると見てよい。同社の取引先は全部で350社ほどあるが、まだ残っている発注件数が年に1回や月に1回といった取引先や、取引金額が極端に少ない取引先については、今後の状況を見ながら対応していくという。

 

 流通BMSとWeb-EDIの導入効果は早々に現れ、冒頭に記した4つの課題はすべてクリアになった。伝票の96%が電子化されたことで、従業員が伝票を処理する負担はなくなり、残業もなくなっている。店舗が増えても新たな人員を増やすことなく、既存の従業員だけでカバーすることが可能だ。伝票の記入ミス、入力ミスも意識する必要もなく、請求書も不要になった。店舗で伝票にサインをして仕分けする作業もほぼなくなり、今では1店舗で1日18枚程度に減っている。電話回線からインターネット回線に切り替わったことで通信時間も短くなり、通信回線が混雑して取引先に迷惑をかけることもなくなった。

 

 

EDI化と流通BMSを同じ土俵で考えるべきではない

 基幹システムの更新を機に流通BMSに移行し、どこよりも早くクラウド型サービスによる流通BMSの導入を果たしたセイミヤだが、勢司氏は「EDI化と流通BMSを同じ土俵で考えるべきではない」と注意を喚起した。同社のように伝票を扱うEOSから流通BMSに移行した場合と、すでにWeb-EDIを導入している小売業者が改めて流通BMSを採用する場合とでは、考え方がまったく異なるという。

 


 つまり、Web-EDIを導入している企業は、すでに伝票削減などで業務が効率化されている状況にあり、そこから新たに流通BMSに移行する意義、メリットはなかなか見いだしにくい。しかし、実際の流通BMSは個社業務の効率化だけでなく、サプライチェーン全体の最適化を目指したもので、従来のEDIとは根本から異なるというのが流通BMSを導入した勢司氏の考えだ。

 

 「当社は、EOSから移行したので、個社最適と全体最適の両方を実現する流通BMSの意義が理解できました。しかし、同業者と話をすると、EDI化のメリットは理解していても、流通BMSには関心がない方もいらっしゃるようです。やはり、小売業全体の理念である消費者のメリットを実現するためには、サプライチェーンの最適化が欠かせませんので、流通BMSは単にEDI化するためのものではないことを正しく理解いただきたいと思います」(勢司氏)

 

 また、流通業界全体で考えていかなければならない問題が、流通BMSでは規定されていない「出荷始まり」のデータ作成だ。小売側から取引先に対して、追加発注などで電話やFAXによる発注が依然として存在する。すると卸売業者や製造者側で改めてデータを作成して返信しなければならない。セイミヤでは流通BMSを始めた当初から、追加発注などの「出荷始まり」について取引先と議論を重ねてきたが、結果として取引先の好意に甘えざるを得ないことから、いち早く標準化すべきであることを訴えてきた。「ここにきてようやく流通BMS協議会も重い腰を上げ、卸売業からのチェンジリクエストを検討したようですので、出荷始まりの標準化に期待しています」と勢司氏は語る。

 

 とはいえ、ある大手卸業者のデータ交換処理率を見ると、14年の段階でレガシーのJCA手順・全銀手順が依然として全体の80%を占め、EDI化率はほんの20%に過ぎないという現実がある。このような状況に危機感を募らせている勢司氏は最後に次のようなメッセージを送った。

 

 「流通BMSは普及しなければ『標準』と胸を張れるものではなく、本来の目的であるサプライチェーンの最適化の理念は果たせません。私たちは今後も微力ながら流通BMSの普及に努めて参りますので、小売業の方は何か困ったこと、わからないことがありましたら、ご相談に乗りたいと思っています」

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