【伊藤ハム】食肉業界全体で早期対応 業界標準メッセージ、複雑な商品形態に対応

伊藤ハム
食肉事業本部 事業戦略部 物流情報部
部長

田代 俊文 氏

 

 

 食肉、ハム・ソーセージ、調理加工食品の製造・販売を主軸に事業を展開する伊藤ハムグループは中期経営計画に成長戦略を掲げ、食肉事業では食肉バリューチェーンの創造と拡大を目指す。同社は2008年の流通BMS共同実証プロジェクトに参加し、小売店との直接取引や、不定貫取引など、食肉メーカーならではの課題を克服しながら導入を進めてきた。現在は約100の企業と流通BMSを使った取引を進めるとともに、標準データを活用した物流改革に着手している。

 

 

実証実験から参加。現在約100社と流通BMSで取引

 「事業を通じて社会に奉仕する」を社是とする伊藤ハムは、2011年に「中期経営計画(CNV2015)」を掲げ、2013年には「構造改革」から「成長戦略」へ軸足を移し「アジアの中で最も信頼される食肉加工メーカーを目指す」という経営ビジョンの下、畜産事業の拡大や、販売力の強化に取り組んでいる。さらに、成長著しいアジア市場での販売拡大を目指して中国やタイに進出を始めたほか、海外拠点での日本向け生産の拡大に乗り出した。

 

 業界大手の一角を占める同社は08年、経済産業省が主導する流通BMSの共同実証に参加。食肉の受発注に関するメッセージを検証し、同じく共同実証に参加していたスーパーマーケットの近商ストアとデータ交換を開始した。実証実験に参加した理由を食肉事業本部 物流情報部 部長の田代俊文氏は「いずれ小売店から流通BMSへの対応を要請されることが予測されていた。対応力を早期に身につけることを目指して参加しました」と説明する。

 

 共同実証には大手食肉メーカーが団結して参画したことも特徴のひとつだ。食肉業界は、国産牛肉トレーサビリティ法施行をきっかけに、06年9月に食肉流通に関する標準化事項を整備推進する「食肉流通標準化システム協議会」を設立し、トレーサビリティーの確立や、食肉標準物流バーコードや物流ラベルの標準化を一足先に進めてきた。流通BMSへの対応はその一貫として業界全体で取り組んだものだ。

 

 共同実証の終了後も、取引先のGMSやスーパーマーケットの要望に応じて順次流通BMSに対応し、今年11月現在、約100の取引先と標準メッセージでデータ交換を行っている。

 

 

不定貫取引の効率化進む。ポイントは複雑な商流への対応

 食肉をはじめとする畜産品の受発注業務の特徴として挙げられるのが、不定貫取引の存在だ。不定貫取引とは、受注確定で重量が決まらず、出荷の段階ではじめて重量と取引金額の2つが確定するというもの。取引先から発注を受けた食肉メーカーは、出荷の際にそれぞれ食肉の重量を確認し、個数と総重量を流通BMSのメッセージに記載したうえで納品する。

 

 「流通BMS導入以前のWeb-EDIでは、納品時に得意先ごとに用意された個別のウェブ画面に確定した個数と重量を入力していました。入力方法にもバーコードで読み取った数値を貼り付けるものや、手作業で入力するものがあり、これらの作業に大変な労力がかかっていました。流通BMSではフォーマットが標準化されているので、バーコードで読み取ったデータをそのまま入力でき、作業の効率化が進みます」(田代氏)

 

 一方で、食肉ならではの難しさに商品形態の複雑さがある。食肉の商品形態は、大きく「部分肉」と「パック肉」の2つに分けられる。部分肉とは、出荷後にスーパーマーケットのプロセスセンターやバックヤードで加工されてパック肉となるものだ。一方、メーカーが自社工場内で部分肉を加工し、パック詰めをしたうえでスーパーマーケットに出荷する形態がパック肉。パック肉は不定貫取引の形態を取るものの、加工して出荷することから流通BMSのメッセージに載せやすく、扱いやすいメリットがある。

 

 ところが、ブロックごと納品する部分肉の流通はより複雑だ。伊藤ハムの場合、部分肉の輸入肉は営業冷凍庫から出荷する形態と、賞味期限の短い国産鶏肉や国産豚肉は産地から取引先に直送する形態の2種類があり、注文伝票は一緒でも、受注後の出荷ルートは別々となる。田代氏は「産地直送形態の場合、当社の取引先である小規模な食肉処理メーカなどはIT(情報技術)化が進んでおらず、現在も電話やFAXで伝票をいただくこともあります。こうした場合でも流通BMSの出荷メッセージに載せて納品しなければならず、そこに手間がかかります」と説明する。

 

 同じ取引先から部分肉とパック肉の両方の注文を受けた場合はさらに複雑化する。同社内では商流を「社内出荷」「産地直送」「パック肉」の3つのルートに分け、それぞれを物流に乗せ、メッセージに不定貫の重量を記載して送らなければならない。

 

 

通信時間短縮。確定発注情報の精度向上

 とはいえ、伊藤ハムが流通BMSの導入によって得られた効果は少なくない。まず、通信手順やデータフォーマットの標準化により、システム部門の負担が大幅に削減された。従来は、システムの個別対応が必要で、取引先が増えるとシステム開発を繰り返さざるを得なかった。現在は流通BMSに対応している取引先であればシステム変更の負担は大幅に軽減されている。

 

さらに、通信時間の短縮により、締め時間に余裕が生まれ、より正確な発注情報を受け取れるようになった。食肉や生鮮食品の場合、スーパーマーケットでは特売が多く、天候などによって売れ行きも左右されるため、小売側も発注量に関しては難しい判断を迫られる。

「今までは、小売側から早めに発注情報が寄せられても、後から追加発注や数量変更などがあり、最終的な発注が確定するまでに時間がかかりました。ところが流通BMSによって情報伝達スピードが速くなり、小売側がぎりぎりの時間まで待ったうえで確定発注が出せるようになったことで、当社としても後段の処理が効率化されました」(田代氏)

 

 

流通だけでなく、物流においても標準メッセージが必要

 同社では今後も小売側の要請に応じて流通BMSへの切り替えを進めていく方針だ。メーカー側から取引先に切り替えを依頼するのは難しい状況だが、「食肉流通標準化システム協議会」などを通じて業界全体で対応を呼びかけていくという。

 

 また田代氏は、食肉業界独自の複雑な商流に対応するため、社内でやり取りするすべてのメッセージを流通BMSで統一していくことも、効率化に向けた対応策のひとつであるとの認識を示した。例えば、社内出荷、産地直送、パック肉の商流情報を標準メッセージで統一できれば、社内業務は効率化される。さらに、この考えを発展させ、物流自体を同一のメッセージで統一することで、新たなメリットが生まれることを示唆した。

 

 「ITで物流を変えていく余地は多分に残されていると思います。例えばトラックの配車ひとつを取ってみても、流通業界と同じように、発注、配車、配送、納品、請求といった手順を踏むのが一般的です。配車の場合でも、食肉業界では重量や容積が関連するほか、共同配送、チャーター便、小口便とメーカーによって選ぶ物流形態も異なります。こうした流れを流通BMSと同じように標準的なメッセージに乗せることができれば、業界全体の業務が効率化できます。サプライチェーンでは、流通、物流、情報の3本柱が重要であることから、物流に流通BMSのような標準メッセージが採用されることで、さらなる業務の効率化やサプライチェーンの高度化が進んでいくと思います」(田代氏)

 

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