【JA全農ミートフーズ】生鮮固有の「不定貫取引」に対応する流通BMSで食肉の受発注を効率化

JA全農ミートフーズ
管理本部 情報システム部
部長
沓澤 宏紀 氏

 

JA全農グループの食肉販売事業部門として、2006年に設立されたJA全農ミートフーズ。 食肉販売を通じて消費者と国内畜産農家の懸け橋となり、畜産農家の経営の維持・発展に貢献することを目指す同社は、07年の流通BMS共同実証プロジェクトに参加。 標準仕様の策定に貢献するとともに、一部のスーパーマーケットとの取引に流通BMSを採用し、部分肉(ブロック肉)とスライスパック肉の受発注業務を行っている。
今回は、生鮮卸の代表格である食肉業界が抱えるEDI(電子データ交換)の課題と流通BMSについて、同社の戦略を紹介する。

 


不定貫商品の電子取得に対応するため流通BMSの実証実験に参加

食肉販売事業者として、牛肉と豚肉の集荷から加工、販売までを一貫して行っているJA全農ミートフーズ。 全国に拡がるネットワークを駆使して生産者と卸売店や販売店を結び、消費者に安全な牛肉・豚肉やハム・ウィンナーなどの加工品を届けている。 食肉の年間出荷頭数は、牛肉で約30万頭、豚肉で約300万頭。 販売シェアで、牛肉と豚肉ともに約20%を占める業界大手の一角だ。

 

JA全農ミートフーズが流通BMSに取り組んだのは、06年の共同実証からと早い。 同社管理本部情報システム部部長の沓澤宏紀氏は「食肉メーカーである私たちは、商品の納入先として数多くの得意先を抱え、それぞれデータ交換の方法が異なります。 そこで、取引先である大手スーパーが流通BMSの実証実験に参加するのに合わせて、当社もいちはやく参加しました。 流通システムが標準化され、取引先ごとの個別対応が少なくなれば、私たちメーカー側の負担軽減も期待できます」と語った。

 

一方、食肉をはじめとする生鮮食品の受発注の大きな特徴に「不定貫取引」があるが、電子取引への対応が遅れていた。 不定貫取引とは、重量が異なる商品を取引するもので、例えば食肉の場合、同じ部位でも個体によって5.1kg、5.3kg、5.2kgといった重量差が生じる。 取引先のスーパーマーケットなどから「ロース肉10本」といった発注が入った場合、食肉メーカーでは、それぞれ食肉の重量を確認し、個数と総重量(kg)を記載したうえで納品するのが基本だ。 そして、納品原価は、重量×単価で確定される。
しかし、これまで電子発注(EOS)を含めたチェーンストアでの取引は、グロッサリーや日用品のように数量での取引を前提とする定貫商品が主流で、83年に開発されたJCA(日チェーンストア協会)手順では不定貫商品まで想定していなかった。 そのため、不定貫取引を基本とする生鮮系は、JCA手順では扱いにくい品目になっていたという。 「食肉は、品目として牛や豚の「枝肉」、一定の部位を丸ごとブロックにした「部分肉」、スライスした肉をパック詰めした「パック肉」に分かれていますが、スーパー側のEOS担当者がその品目特性をよく認識してもらっていたわけではないと思います。 そこで、不定貫取引を正しく認識・認知してもらうために、流通BMSの導入・標準化には積極的に参加する必要がありました」(沓澤氏)

 

食肉業界全体でも、流通システムに関する標準化には利害関係を越えて共同で取り組んできた。 06年9月には、JA全農ミートフーズを含む大手食肉メーカー4社が幹事企業となり、食肉流通に関する標準化事項を整備推進する「食肉流通標準化システム協議会」を設立。 食肉業界がタッグを組み、物流バーコードの標準化や、牛肉トレーサビリティー法の周知・実施の仕組み、疫病に備えた事業継続の仕組みなどについて検討してきた。 こうした背景もあり、食肉業界として流通BMSに積極的に取り組む機運が高まったという。

 

 

将来に向けてデータ交換方式の集約が加速

JA全農ミートフーズは06年、流通BMSの実証実験に備えてサーバー to サーバー型のEDIシステムを導入。 07年に大手食肉メーカー4社とともに実証実験に参加し、食肉の受発注に関するメッセージ交換を検証した。 その後、取引先のスーパーマーケットが流通BMSに対応するのに合わせて順次対応し、現在は部分肉の受注・納品で3社、スライスパック肉の受注・納品で5社と流通BMSによるデータ交換を行っている。 EDIシステムは従来の自社システムから外部の事業者が提供するASP型サービスに切り替え、自社でシステムを持たない運用体制を確立している。

流通BMSの導入によってJA全農ミートフーズは、受発注の効率化という面では一定の成果を得た。 沓澤氏は「今まで取引先ごとに用意しなければならなかったデータ交換の方式の集約が進むことは将来に向けた大きな効果です。 しかし、現時点ではデータ交換の手順のひとつという認識に留まり、本当の効果として実感できるのは、従来型のJCA手順がすべてなくなった時ではないでしょうか」と語った。また、伝票レスについては、食肉業界特有の「量目表(重量を記載した伝票)」を作成する必要があるため、現時点では実現していないという。

 

 

受発注サイクルの短縮に向け発注情報を速めに取得

今後、食肉業界が流通BMSに切り替えてくためには、食肉を扱う難しさを克服しなければならないというのが沓澤氏の認識だ。 生ものを扱う食肉業界においては、大量の在庫を長期間確保することは難しい。 このような状況でデータ交換が流通BMSに切り替わると発注と納品のタームが短くなり、それに備えて在庫サイクルを早めなければならない。 沓澤氏は「部分肉の場合、発注に備えて大量の在庫を確保したとしても、取引先からの発注が少なければ肉を腐らせてしまう可能性があります。 保存性を高めるために肉を冷凍してしまうと、品質は落とさざるを得ないでしょう。 そのため、部分肉のEOS化においては発注情報を早めに入手するなどの工夫が必要です」と指摘した。

 

一方、JA全農ミートフーズが自社内で肉をスライスし、パック詰めして納品する「パック肉」は、ある程度の出荷量が予測できることもあり、流通BMSには対応しやすい。 しかし、同社において「パック肉」の売上げは部分肉などと比較して規模が小さいことから、大きなメリットを得るまでに至っていないのが現状だ。

 

最後に沓澤氏は流通BMSの将来について「JCA手順がなくなり、すべてが流通BMSで標準化されると、バーコードリーダーやRFIDを用いた自動計量システムなどとの連携がししやすくなり、さらなる業務の効率化が進むでしょう。 また、トレーサビリティーが確保されることで、食の安全性が高まることは間違いありません。 企業理念に「消費者に安全・安心で価値ある豊かな食を提供する」を掲げるJA全農ミートフーズにとって、流通BMSがその一助となることを期待しています」と語った。

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