【成城石井】差別化を実現し新たな価値創造へ

株式会社 成城石井 社長
大久保恒夫 氏

 いま流通業界では、成熟した市場で激化する競争を勝ち抜くために、多様化する消費者ニーズをとらえ、真の顧客満足につなげる業務改革が進行。それを支え、経営の効率化を図るIT(情報技術)活用が不可欠になっている。需要予測や在庫管理システムの高度化、最新販促ツールや進化する電子マネー対応、また業界標準データ形式「流通ビジネスメッセージ標準(流通BMS)」の導入など、流通・サービス業のIT化はどうあるべきなのか。食品スーパーとしていち早く流通BMSの導入を推進する成城石井社長の大久保恒夫氏に情報化投資戦略を聞いた。

 おおくぼ・つねお/1979年イトーヨーカ堂入社。81年、経営トップ直結の「業務改革」の主要メンバーとして同社の構造改革に取り組んだ経験を生かし、同社退社後もコンサルタント、流通経済研究所研究員として活躍。90年、リテイルサイエンスを設立。ファーストリテイリング、良品計画などの経営改革を担当し、2003年から06年、ドラッグイレブンの代表取締役を務める。07年から現職。

 

 


価格以外の顧客満足追求

―経営環境が激変している。

大久保

 現在の流通・サービス業全体の経営環境を考えるうえで影響が大きいのは少子高齢化だ。マーケットの縮小傾向にどう立ち向かっていくのかが問われている。今後は売り場面積を増やしても売り上げの伸びは期待できない。ディスカウント志向の中堅以下の企業は効率性が落ちることで利益が圧迫され、規模・売り上げの上位企業が有利になる傾向にある。
 今後は、スケールメリットで体力勝負のディスカウント志向と、店舗や品ぞろえの独自性をアピールする差別化志向に二極化していくだろう。当社は後者。お客様のニーズに対応して付加価値を提供することで生き残ろうとしている。幸い日本の消費者は価格以外のニーズが強く、差別化志向に応える製品・サービスを提案できる余地は大きい。例えば日本の小売市場をみると、コンビニがほかの業態をリードしている。これは日本の消費者が、便利で清潔、新しい製品や独自の製品が買えることに大きな価値を見いだしているということ。今後はコンビニ以外の業態でも、価格以外の顧客満足を追求してそれを購入してもらえるかどうかが重要な鍵になる。

 

― そのために必要な情報化投資とは。

大久保

 当社は食品スーパーとしては先行して、流通BMSの導入を決めた。POS(販売時点情報管理)など売り場づくりを目的とした情報システムとは異なり、受発注と経営全体の効率化を図るのが大きな目的だ。受発注データの標準化により、卸売業者やメーカーなどと、相互に商品の受発注や決済の情報を電子的にやりとりできるほか、自社内データから外部向けデータを瞬時に作り出力できるため、一貫・連動した経営システムの構築が図れる。情報システム化を進めることで業務のスピードを上げ、さらに質の高い商品を提供していくことで粗利率を高める。その結果、経営資源を接客やサービス、仕入れなどに回し、より価値ある商品を価値ある売り方で提供していく方針だ。情報システムの構築から、「新たな価値」の追求への流れをつくることが経営改革。これは社員のモチベーション向上にもつながると考えている。

 

 本来、小売業は創造性が生かせる職場。アイデアを仕入れや販売につなげれば、結果はすぐに目に見えて出てくる。工夫のある売り場づくり、実績を検証した中での改良を重ねることで小売業の仕事は一層おもしろく、意義深いものになる。情報化投資はそのための手段だ。

 

 

ニーズ基に流通構造変革

― 食品スーパーで流通BMSの導入に踏み切ったというインパクトは大きい。

大久保

 今回の情報化投資は、将来にわたり小売業やその関連の取引事業者がどう利益を出していくかという流通全体の根本的な発想の転換にかかわるものだ。小売業がお客様に一番近い立場にいるので、それを生かして流通業界全体の利益に波及させるべきだと考えている。

 

 ニーズを基に生産、物流、在庫を管理するよう、小売業の機能を変えなければ利益は持続的に高められない。その機能や業務に合わせた情報システムを構築する必要がある。例えばアパレルは既に工場や原材料がどこにどれだけあるかの情報を基に生産計画を立てている。さらに物流や在庫管理、出荷、売り場の情報までつながり、追加生産計画をどうするかといったサイクルが確立している。この流通構造に対する小売業の存在価値が大きいからこそ、製造から小売りまで行うSPA業態を確立したアパレルチェーンは利益が出る。今後は、食品を扱う小売りやその関連事業を含め、どんな小売り業態でもそこに踏み込まないと利益が出ないだろう。

 

 こうした変革に合わせて、情報システムを変えることが重要だと考えている。流通BMSでシステムを標準化・統一化し、社内という横軸はもとよりサプライチェーンの縦軸をつなぐことで効率化していきたい。

 

 

-情報システムを活用するポイントは。
大久保

 売り場づくりのスピードと提案力が重要なポイントとなる小売業の情報化戦略は、売れ筋を詳細に明確にリアルタイムに把握するのが目的。当社ではそれに加えて、今後売れそうな商品をテスト販売し、その結果を把握する目的でもPOSなどの情報システムを活用している。試行を繰り返してお客様のニーズを見つけ、ニーズに即した売り場づくりを進めている。値段を下げずに販売するために重要なのは、独自に良い商品を発見し調達する仕入れ開発力と、商品の良さをアピールし販売を推進する力だ。


 良い商品を(1)よく見えるようにフェース数を拡大する(2)お客様の動線・目線に合わせて並べる(3)売り場での在庫を増やして豊富感を出す(4)POPで伝える(5)良い接客で印象付ける――など、基本的な小売りのノウハウに加え、経営状態を情報化しデータを蓄積することが必要。例えば粗利の高い商品を抽出し、売り場で訴求しより大きな利益につなげる。また新たな商品開発リストも作成する。売り場に出して仮に売れなかった場合でもその敗因をデータから分析する。そしてスピーディーに次の手を打つ。
データを見て検討し実行し、また検討することの繰り返しをいかに速く回すか、これが情報システムを有効に生かすことにつながる。

 


経営者主導で全体最適化

― 情報システム統一のメリットは。

大久保

 営業利益が重視される時代には、仕入れデータの精度や確定のスピードが重要だが、情報システム全体が精度の高いものに統一されていないためにロスが発生している。流通BMSに統一することで解決できることは多い。今はPOSの精度が上がり、チェーンストアにおける導入率も100%に近いので、流通BMSを導入し売り場のシステムと連動させることで、情報システム全体の精度が向上する。

 

 来春からの流通BMS導入に伴い、当社は関連する情報システムを総入れ替えする。投資力があれば、本来はすべてを刷新するのが望ましい。ただ、情報化投資はあくまで経営改革を実現させるための有効な手段の一つだ。情報投資コストは下がってきているので導入は比較的たやすいが、使いこなすことにこそ意味がある。本来やるべきことをやるために、情報システムをツールとしてどう使うのが最善なのかを判断していく。

 

 また、経営者が強いリーダーシップを持ち、情報システムも含めて全体の最適化を長期的に図ることが重要となる。流通・小売業はイレギュラーなことが多く、情報システム化しにくい部分があるのも事実。また、社内の多様な部門、また社外の関連会社、外注と協調してソリューションを進めることが得意な業種ではない。それらを解決するためには経営者が主体的に入り込まないとならない。流通構造全体を高度化するために経営者同士が連携を推進していくべきだ。

 

 先んじてコンビニ業界の情報システムが進化したのは、先進企業が情報システム化を進めて成功したことが大きい。ほかの業種にも成功事例が必要だ。当社の試みが少しでも役に立てば幸いだ。情報システムを過信してはいけないが、経営改革の重要な支援ツールであることは間違いない。受発注領域に関しては流通BMSが優れている。その導入を軸に統一を図ることで、小売業全体の発展、ひいては流通ビジネス全体にプラスになることを望んでいる。

 

 

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