コメリグループ
株式会社ビット・エイ
統括部長
小林 禎氏
スーパー業界、百貨店業界、チェーンドラッグストア業界に続いて流通システムの標準化を検討したホームセンター業界。新潟県に本社を構えるコメリは、経済産業省が主導する共同実証事業に2008年から参画し、業界の先陣を切って流通BMSへの切り替えを開始。13年3月現在、約550社の取引先と流通BMSによるEDIデータの交換を行っている。同社は、流通BMSの導入によって通信コスト削減、データ交換速度の向上といったメリットを得ると同時に、取引先の卸・メーカー向けに安価でユーザビリティを兼ね備えたクライアントソフトを用意。さらに流通BMSのインフラを活用した情報分析システムによる販売情報や在庫情報の提供を通して、コメリグループと取引先とでWin-Winの関係を構築している。
ホームセンターとして唯一、流通BMS共同実証事業に参画
1962年設立のコメリは、DIY用品や園芸用品を核商品とする大手ホームセンター。現在、一般的なホームセンターのほか、郊外型の小型店「ハード&グリーン」、次世代大型店舗「パワー」の3形態で、全国各地に1115店舗(2013年2月現在)を展開している。同社では、商品をタイムリーかつ安定してお客様に届けるため、「物流システム」「情報システム」「MDシステム」を独自に構築しているが、その中でPOSシステムを軸とした情報システムの開発・構築・運用を担っているのが100%子会社のビット・エイだ。流通BMSの導入についても同社がコメリの先頭に立ち、推進役を担った。
コメリが流通BMSの本格的な検討に入ったのは、ホームセンター業界で共同実証事業が始まった08年からだが、それ以前にもJCA手順の限界を感じていたという。ビット・エイの小林統括部長は「取引先の卸・メーカーからは、ホームセンターごとに異なる個別仕様を何とかして欲しいという要望が寄せられていました。そこでWeb-EDIを先行して導入したり、複数のホームセンターのデータ交換を束ねる自動巡回ソフトを一部の取引先に提供したりしていましたが、根本的な解決までには至りません。こうした中で共同実証の声がかかり、渡りに船の思いで参加を決めました」と語る。
コメリは、小さなメーカーでも卸を通さず直接取引をする方針を掲げていることから、取引先の数は全部で約3200社にも上る。そのうち日常的に取引する「得意先」は約1700社。取引のほとんどがFAXとJCA手順によるEDIであったことから、最新技術を用いた流通BMSによるオンライン化はコメリグループの経営方針であり、念願でもあった。
共同実証事業に参加したホームセンターは、コメリ1社のみだったが「本気で使えるものにしたい」という思いで、積極的に意見を提出。ホームセンター独自で発生する販売許認可商材として「農薬」を識別する項目を追加したり、長尺ものの取引で発生する独自の発注方法に対応したりしながら標準メッセージの作成に貢献した。
そして、自社内にサーバー-サーバー型のシステムを構築し、09年から共同実証事業に参加した大手卸売業4社と流通BMS基本Ver.1.2によるデータ交換を開始する。交換メッセージは発注・出荷伝票・出荷梱包(紐付あり)・出荷梱包(紐付なし)・受領・返品・請求・支払の8種類で、10年12月には流通BMS基本Ver.1.3に対応した。
約550社、取引金額で全体の約65%に対応
その後もデータ交換先を増やし、11年5月の「製配販連携協議会」への参画を機に拡大を本格化。13年3月現在、約550社、取引金額で全体の約65%に相当する取引先が対応済みだ。導入に際しては、11年から12年までの間に、約1700の取引先に20回ほどかけて取引先説明会を実施した。
「説明会で反応がよかったのは、大手の取引先です。スーパー業界が先行していたことや、情報システムの体制がしっかりしていることもあり、説明もスムーズでした。一方、小規模の取引先や、季節商品を扱う取引先に対しては、コスト削減効果の試算表を示しながら具体的に説明し、さらに導入実績を示すことで理解を求めていきました」(小林氏)
ビット・エイは、流通BMS用のクライアントパッケージを独自に開発。コメリの取引先に低価格で提供したことも、導入を加速させる要因となった。現在も流通BMSに切り替える取引先は増えており、約1700社まで導入が進めば取引金額の80%まで達する見込みだ。また、新たに取引先を追加する場合は、流通BMSへの対応を必須要件としている。今後の対応について小林氏は「13年度からはWeb型の流通BMSも追加する予定で、既存のクライアント型とWeb型の2方向から流通BMSへの対応を呼びかけていきます。ただし、取引先の中には、花火やお盆用品といった時季限定で取引をする季節ベンダーや、従業員1人、2人の個人商店もあることから、こうした小さな取引先の対応をどうするかが検討課題です」と説明する。
コメリでは、流通BMSにより、通信時間を含めたEDIにかかる全体の処理時間の大幅な短縮を実現し、受発注業務を大幅に効率化させた。また、受発注処理が自動化されたことで、取引先の負担も軽減されている。さらに同社では流通BMSのインフラを用いた情報分析システムを独自に構築。この情報分析システムを介して販売情報、在庫情報などを取引先に公開し、販売調整や在庫調整に活用している。
「流通BMSの導入により、新たな付加価値を得ることができました。今後はこの情報分析システムの中で見積業務まで拡大する予定です。システム内で見積作成、返信、発注、受注までを完結させることで受注業務が一気に効率化されるほか、紙が不要になり、さらなるコスト削減が実現するでしょう」(小林氏)
ホームセンター業界の一致団結が流通BMS普及のカギ
ホームセンター業界で流通BMSに対応している企業は、流通BMS協議会事務局が独自に把握し、社名開示の承認を得ている数だけで4社(13年2月現在)に過ぎず、100社以上が対応済みのスーパー業界と比較しても多くはない。一方で、流通BMSの標準メッセージに準拠はしているものの、独自仕様のASPサービスを利用しているホームセンターもある。こうした状況を鑑みて小林氏はホームセンター業界全体に対して「流通BMSは、広がらなければ意味がありません。そのためには、みんなが一致団結して同じ方向を向くことが大切です。意味のないところで独自性を発揮するのではなく、共同利用できるものは共有し、本業の部分で独自性を追求していきましょう」とメッセージを送った。
流通BMSの将来については、金融業界との連携に期待。「銀行振込、決済などが全銀手順と関係なく流通BMSで行えるようになれば、利便性はさらに向上するはずなので、早急に実現してください」と語った。