【ユニー】いよいよ普及が本格化する流通BMS

ユニー株式会社
執行役員 業務本部 システム物流部部長
角田吉隆 氏

 

 2007年4月に、流通業界の次世代EDIの標準規格として次世代EDI標準化ワーキング・グループ(WG)によって取りまとめられた「流通ビジネスメッセージ標準(流通BMS)Ver1.0」。これを機に、WGのメンバー各社を中心に導入が進み、業界全体での普及もいよいよ本格化しようとしている。今回は、次世代EDI 標準化ワーキンググループ(WG)で共同座長を務めたユニーの執行役員で業務本部 システム物流部 部長 角田吉隆氏に、流通BMSを策定までの経緯、そこに込められた理念を聞いた。


業界側の自主的な取り組みからスタート 業界に未来はないという危機感で各社が一致

 2005年、国内流通業に大きな変革が訪れた。それはXMLをベースとしたEDI標準の策定を目指す組織や団体が集結し、小売、卸、メーカー間で共同利用するための次世代のEDI標準化に共同事業として取り組むことを決めたことだ。きっかけは、2004年に日本チェーンストア協会(JCA)の情報システム委員会で、消費税の総額表示に対応するために小売各社の情報システム部長が一堂に会する機会であった。情報交換を行う中、各社の共通課題として浮かび上がってきたのが、1980年に策定され、四半世紀にわたって流通業界で利用されてきたJCA手順の陳腐化という問題である。

 

 角田氏は、「新しい標準を策定しなければ、国内流通業界に未来はない」という強い危機感で各社の思いが一致したという。この点については日本スーパーマーケット協会も同じ認識を持っていたことから、両協会で合同の情報システム委員会を開催。その後、それまでサプライチェーンの全体最適化を目指して取り組んできた流通SCM事業を引き継ぐ形で経済産業省の委託事業となり、次世代のEDI標準化のタスクがスタートしたのである。
「重要な点は、行政主導によって標準化が進んだのではなく、業界側の自主的な取り組みからスタートし、その働きかけで経済産業省の委託事業になったことです」(角田氏)と強調する。

 

 

本音かつオープンな議論を徹底という危機感で各社が一致

 「流通ビジネスメッセージ標準(流通BMS)」の策定にあたったのは、2005年8月に代表企業12社からなる任意団体としてスタート(06年に18社に拡大)した次世代EDI標準化ワーキング・グループ(次世代EDI WG)だ。メンバーはユニーをはじめ、イオン、イトーヨーカ堂、ダイエー、といった大手小売業の情報システム部長らで構成。この次世代EDI WGで共同座長を務めたのが角田氏だ。「サプライチェーンの柱は、企業間で交換する情報の垣根をいかに低くするかという点です。流通BMSはそのベースであり、利用企業が拡大すればするほど、流通業界の全体最適化が進みます。その実現のためにも、情報を決して隠さず、本音かつオープンな議論を徹底しました」と語る。

 

 

地道で根気のいる作業を続け 2,100項目を172にまで絞り込む

 次世代EDI WGによる活動は、2005年10月から約半年間にわたって続いた。WGでは業務での使用頻度が高い発注、出荷(伝票、梱包)、受領、返品、請求、支払の6業務におけるメッセージの標準化から取り組みをスタート。具体的には、各社が実際に使用しているデータ項目をすべて明らかにして、そこから絞り込むという手法をとった。各社のすべてのデータ項目をExcelのシートに書き出すと2,100項目にも達した。そこから、各社に共通する項目は何かを精査して意味の同じものを名寄せし、最終的に172項目にまで絞り込むという地道で根気のいる作業を進めて行ったのである。

 

 

標準化はあくまで手段 多くの企業が導入できることを優先

 そのためには、これまで各社が行ってきた投資が無駄になるようでは問題。また、自社のシステムがこうだから、こうして欲しいといった意見を認めてしまうと、意見がまとまらず、公平性も保たれなくなってしまう。これまでにも小売業界では規格統一や標準化の動きが何度かあったが、各社が自社の都合を持ち出すなどした結果、対立して頓挫したという苦い経験をしている。

 「今回の流通BMSは、競合する小売各社が集結して、エゴを捨てて本気で取り組んだところに大きな意義があります」と角田氏は力説する。

 また、流通BMSの導入を目指す各企業にとっては、そのメリットも重要な動機となる。この点でも、単にネットワークが高速化して通信コストが削減されるだけではない。標準があれば新規の取引先とも簡単に受発注を開始でき、伝票レスが前提のため、運用・管理コストが大幅に削減できる。

 

 ただ、データ項目をオープンにすることは、小売各社のノウハウなど手の内をさらけ出すことでもある。実際、以前はデータフォーマットの違いが他社との差別化点でもあった。しかしWGの議論では、今やそんな点で差別化する時代ではないと小売側が共通の認識を持ったという。基盤部分は標準化してSCM全体の最適化を優先し、それ以外の部分で各社独自にサービスを向上させるべきだと考えた。

「小売側の取り組みを見て、卸側も小売は本気だと確信したようです」と角田氏。

 

 

百貨店やアパレルなど各流通業界へと拡大

 流通BMSは、WGに参加した企業を中心として、共同実証から既に実運用へと発展している。流通BMSの効率化を高めるために、出荷メッセージと連携した物流ラベルや納品時付帯帳票の標準化検討も20年度事業の中で実施され、対象商材の拡大に向けた活動も続く。20年度はスーパーとグロサリーや生鮮業界、百貨店とアパレル、チェーンドラッグストア業界の取引に必要なメッセージの検討が行われており、年度内を目処に確定の予定だ。

 

 角田氏は、「20年度で流通システム標準化事業は終了しますが、今後も標準仕様のメンテナンスと開発、普及推進活動を行う組織(仮称:流通システム標準普及推進協議会)の設立が予定されています。もはや流通BMSの普及に後戻りはありません」と力強く語った。

 

 

標準技術の採用にこだわったシステム構築

 日々、厳しい競争を繰り広げている小売業界。ユニーは、かつてメインフレームで基幹システムを構築していたが、高品質・低価格な商品をタイムリーに提供していくことが求められる中で、次第に顧客へのサービス向上や業務効率化やSCM改革にシステムが対応できなくなってきた。そこで、2001年よりMD(マーチャンダイジング)改革に着手した。2005年8月にカットオーバーした第三次MDシステムでは、すでに「ebXML」などの次世代標準のプロトコルを採用して、低温度帯のチルド食品向け物流センターを運用するなど、取引先企業との連携強化やオペレーションの効率化を実現してきた。

 

 「当社の成長には取引先との協業が不可欠です。そこで、業界標準技術の採用にこだわってシステム構築を進めてきました。そうすればユニーのネットワークに取引先が容易に参加できますし、当社と取引先の双方に効率化のメリットが生まれます。これにより、お客さまに最適な商品・サービスの提供が可能となり、同時に、取引先との連携強化も図る『協業型MD』の実現を目指しました」と角田氏は語る。

 

 

日用雑貨品の40%、一般食品の30%、菓子の70%が流通BMSで稼動

 こうした業界標準技術の採用による業務効率化の一貫として、ユニーでは2006年12月に経済産業省の「次世代EDI共同実証プロジェクト」に参画、流通BMSの導入をいち早く進めた。共同実証では、卸4社と共に、返品データを除くメッセージの交換を行っている。

 

 「現在は8社との間で流通BMSによるデータ交換をおこなっており、日用雑貨品の40%、一般食品の30%、菓子の70%がすでに流通BMSで稼動しています。他の取引先の準備ができ次第、すぐにでも流通BMSでデータ交換できる社内体制は整っていますが、当社では多業態の小売を展開していることもあり、現在はあえてそこで留めています。もう間もなく、生鮮業界、アパレル、ホームセンター、チェーンドラッグストア業界などとの取引に必要なメッセージの検討確定する予定なので、そこに合わせて本格的に拡大を図る計画です」と角田氏は展望を語る。

時間短縮、業務効率化と共に需要への迅速な対応が実現

 ユニーでは、この数年SCM改革を目的にデータ活用型物流センター構築を進め、ASN(事前出荷明細通知)データ化を図り伝票レス・検品レスの環境を構築した。角田氏は、流通BMSの効果として、まず、物流センターにおけるタイムロスの減少を挙げる。これまでは、店舗が卸・メーカーへの発注を当日の午前12時に行うと、取引先に受け渡しを行うのが午後2時過ぎになっていたが、現在は午後1時に完了する。

 

 「1時間以上の時間短縮は、今後、日付管理が厳しい食品などを扱う際に、特に大きな効果になると考えています。これらの商品は日によって売上げ幅が大きく、メーカーの生産ラインの稼動にも影響します。卸・メーカーに早くデータを渡せば、業務の効率化が図れるだけでなく、お客様の需要に迅速にお応えすることができます」

 

 食品卸では、時間短縮により出荷作業の開始が早まったことで、年末年始などの繁忙期の対応や、夜間作業の減少による人員面のメリットに効果を期待する声が寄せられているという。

 

 従来のJCA手順では、PULL型伝送でかつデータ伝送時間もかかり、物流センターに商品が到着してもASNデータが届かないことやASNデータにエラーが発生していた。また、お取引先や物流センターで店舗名やカテゴリー名等のマスタ管理が必要であった。流通BMSはPUSH型送信が可能であり、EDIセンターに、ASNデータ受信即時エラー確認機能を持たせ、リアルタイム処理となりクリーンデータの伝送が可能となる。また伝送時間が早いので、物量把握のための物流センターへの納品帳票も削減が出来る。
さらに、流通BMSは、送受信データ内に全ての項目があるのでマスタ管理が不要になり、新商品の採用や商品改廃時に迅速かつ手間のかからない対応が可能になる。
流通BMSやEDIセンター機能により、商品到着前に正しいASNデータが受信可能となり、伝票レス・検品レスの環境が整備され、物流・店舗業務の大幅な合理化が実現した。

 

 

地域密着、地産地消で競合と差別化

― ユニーの大きな特徴の一つが「個店重視主義」だ。

 

 前述のように同社は、すでに2005年にはチルド食品向け物流センターでebXMLを採用しており、同センターを利用する取引先は100社を超える。そうした取引先の中には、従業員数人という地元企業も多く、自前でEDIのインフラを整備することが難しい。そこで、ユニーがインターネットで受発注できる仕組みを提供すれば、大きな投資せずに、センターからユニーを通じた販路を拡大できる。

 

 「地元の名店や、食材にこだわる商品など、特徴のある商品を店頭に並べて各店の特徴を打ち出すと共に、地元店とうまく共存していく仕組みをつくることこそが、大きな差別化と考えています。そのためにも流通BMSによる標準化の取り組みは不可欠なのです」と角田氏。大きな差別化と考えています。そのためにも流通BMSによる標準化の取り組みは不可欠なのです」と角田氏。
GMS業態のアピタ(日常生活向上店)とSM業態のピアゴ(日常生活便利店)の二業態で経営するユニーでは、物流センター機能もよりきめが細かく迅速な対応が求められており、流通BMSはB2B(企業間取引)の要のインフラになっている。

 

 

普及のキーワードは「ASPとツールの充実」

 経済産業省の「次世代EDI共同実証プロジェクト」として実装がスタートした流通BMSだが、大手だけでなく中堅の小売でも導入が本格化しようとしている。そこで角田氏に、今後、流通BMSが中小にまで浸透していくための課題を聞いた。

 

 そのキーワードは「ASPとツールの充実」だという。ユニーでも、システム構築のパートナーであるシステムインテグレータ(SIer)のEDIセンターを利用しているが、「特に中堅・中小規模の企業にとっては、大きな投資や人材を必要とせず、接続するだけで容易に流通BMSを導入できるASP型のサービスの充実が不可欠です」と角田氏。流通BMSに統一することで解決できることが多いのは明白ではあるが、導入に対する入り口が高ければ、絵に描いた餅にすぎない。「開発会社には中小規模の企業向けのASPを期待し、SIerに対してはラインナップを揃え導入支援を期待したい。こうして入り口を低くしておけば、アウトソーシング型や自社構築など、ビジネス拡大に合わせた段階的な移行も可能」と語る。そして「何より強調したいのは、流通BMSに”準拠”ではなく、”遵守”することが重要です。標準化は守ってこそ価値が出るもの。利用者側が安心して導入できるよう、できれば稼動までを保証するような対応製品を数多く出揃うことを望みたいですね」と強調した。

 

 角田氏は、流通BMSが経済産業省の事業から始まった規格ではなく、ユーザーから生まれた術であるが、一方で経済産業省事業が終わる2009年度からの協議会による標準化維持活動や普及活動が重要である。各企業で流通BMSの採用や検討が進み、その事が次の世代への繋ぎになること、その先に新しい考えが生まれることを期待している。

 

 最後に、ユニーとしては、流通BMSをインフラとして活用することで、将来的に各地域の同業他社とのSCM分野での協業化を進めていきたいと締めくくった。

 

 

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