「流通システム標準普及推進協議会」総会が開催 記念講演~業務改革と新しいIT活用の流れ~

フューチャーアーキテクト株式会社
シニアフェロー
碓井誠 氏

 

 流通BMSの維持管理と普及・推進を目的に昨年4月28日に設立された流通システム標準普及推進協議会の平成22年度総会が、去る4月26日にホテルフロラシオン青山(東京都港区)で開催された。
 総会では、第1部として事業報告、事業計画等の審議・承認と平成21年度経済産業省事業の報告が行われた。続く第2部では、協議会の支援会員でもあるフューチャーアーキテクトのシニアフェロー碓井誠氏が「業務改革と新しいIT活用の流れ」と題した記念講演を行った。碓井氏は「小売業の置かれた大変な状況を逆にチャンスに変えるには、流通BMSというインフラの活用も含めて考えるべき」と強調する。その講演内容について紹介する。

 


情報を徹底活用する小売業のあるべき姿

 

 碓井氏は、セブン‐イレブン・ジャパンで取締役情報システム部長、常務取締役情報システム本部長を歴任し、25年間に渡って業務改革およびシステム革新を推進すると共に、先進的なシステム構築にかかわってきた。


 まず講演の冒頭では、「ITの活用は今でも不十分である」と前置きし、IT化が進むことで、その取り組み方によって企業間、業界間、地域間、国際間の格差が拡大していると語り、現在の流通業の環境の変化とイノベーションの課題を、1978年から2009年までのセブン‐イレブンの一店舗の売上高と在庫の関係から解説した。


 従来、売り手が主体の市場となっていた小売業のビジネス環境が、バブル崩壊後の92~93年を境に、買い手市場へとシフト。そして在庫が減少すると売り上げが増加するという新しい方程式が生まれた。「これは全産業に共通の非常に大きな課題です」と強調した。碓井氏は、売り上げが上がることで在庫が減るのではなく、在庫が減ると売り上げが上がるということが重要で、在庫が減るということは、なぜ売れるのか、なぜ売れないのかを含めて、一品一品の商品の動きが把握できることであると解説。


 「こうしたマネジメントの実現で、商品ライフサイクルが短命化する現代にあって、無駄を出さずに適切な商品展開を行いながら、売り上げを高めることができます」とも強調した。この事から、情報を徹底活用する小売業のあるべき姿が見えてくるという。


 セブン‐イレブンはこの15年で売り上げを13%落としたが、チェーンストア業界全体は半分にまで落ち込んだ(いずれも平米あたりの売上高)。そして、百貨店の平米当たりの年間売り上げは110万円とセブン‐イレブンの190万円と大きな開きがある。これが今の小売業の姿という。


 「時代背景と業態の趨勢という問題もある一方、うまくいっている元気な小売業もあることを、しっかりと意識する必要がある。先進国の中でGDPが伸びていないのは日本だけであり、その問題の根はすごく深い。この大変な状況を逆にチャンスに変えるには、流通BMSというせっかくのインフラの活用も含めて考えていきたい」と語り、バブル崩壊以降も安定的に収益を上げ続けてきたセブン-イレブンの取り組みを例に解説した。

 

 

売り手社会から買い手社会そして価値共創社会へ

 

 市場環境の変化に伴い、企業の在り方は常に変化を求められている。碓井氏はその流れを次のように解説した。


 バブル崩壊以前を「売り手社会」とするとそれ以降は「買い手社会」へと変わった。売り手社会では、生産すれば高度成長期でどんどん売れた。売り手社会の時代はマーケットの需要が強いので、在庫をうまくコントロールして削減し、売り上げを伸ばすという非常に理想的なことが売り手のイニシアチブで可能だった。しかし、買い手市場になってからは、顧客が物に対して充足し、情報も多様化している。そのため、サプライヤーだけが情報を握っている時代から、顧客がサプライヤーと同様の情報を手に入れられるようになり、さらには顧客同士が情報を持ち寄って交換し、ネットの価格情報を参考に店頭で価格交渉するといった時代になった。


 そして現在では、「多様な価値観が共存する『価値共創社会』に向けて社会全体が変容していく過程にある」と碓井氏は指摘する。その中では、社会と市場の変化、ITとシステムの変化、企業経営の変化という3つが絡み合って動く時代になってきたことが大きなポイントであるとした。


 価値共創社会に向かう中で小売業は、メーカーの販売代理業から買う人に代わって望む商品をそろえる購買代理業への転換が必要となる。 「求められるのは、生活者を起点とするタイプの小売業。メーカーの作った商品をただ売るだけの小売業ではなく、顧客ニーズに対応して商品やサービスを開発する生活者起点のサービス展開です」と碓井氏。


 将来的には、例えば、少子高齢化社会を見据えた介護サービスや公共、行政などの窓口となったり、電気自動車の充電ステーションなど、顧客との接点で行う直接的なサービスや商品の提供にとどまらず、地域に密着して、生活自体を便利にしたり支援するようなサービスや、社会サービスインフラ産業への変革が挙げられる。サプライヤーと顧客、消費者である生活者が共に参加・交流し、産業や社会基盤も含めた改革につなげていくという共生・共創社会の実現だ。 「業種を問わず、すべての企業が、サービスの生産性と付加価値をどう向上させるか、その在り方を考えるべきではないか」と碓井氏は提案。その実現のために最新のIT技術を徹底活用し、業務プロセス、ITシステムを構築することの重要性を語った。

 

 

人間らしさを残して、裏は徹底してシステム化

 

 講演では、いくつもの実例が紹介されたが、その中からセブン-イレブンの改革を紹介しよう。そのポイントの第1点は、サプライチェーンの効率化、ビジネスモデル開発といったシステム戦略の核は、すべてセブン-イレブン本部が開発し、体制を整備して、戦略実現に向けてパートナー企業や各店舗をリードし、バリューチェーンを構築していったことである。第2点は、パートナーや店舗との情報連携や業務支援を行うために、徹底したIT化を推し進める一方で、セブン-イレブンの業務はあくまで対人型のサービスであるという原点を大切に、人間らしさを残して、裏は徹底してシステム化したことだ。顧客満足もサービスの質も従業員に大きく依存する。そこで効率だけではなく、ユーザーである従業員の負荷をいかに軽減するかを重視してシステムを開発したのである。


 一例として、商品のバーコードを活用したスキャン検品システムを挙げた。従来は店舗スタッフが紙伝票で行っていた仕入れ検品を、スキャンターミナルで誰もが容易かつ確実に行えるようにして伝票レス化した。これによりスタッフの作業負荷を軽減し、1店舗の1か月分の利益に当たる年間110万円のコスト削減を実現した。また、関連して本部会計業務の効率化も推進し、店舗と物流を含めた合計では年間で300億円近くものコスト削減を達成したという。


 「この取り組みはセブン-イレブンの例ですが、流通BMSという標準化によって、他社でもこうした伝票処理のやり方もすぐに活用可能になるわけです」と碓井氏は強調した。


 このほかにも、システム化でTO DO管理やルールを基にした死に筋商品の排除、自動発注も容易に可能となるという。そして売れ筋商品の拡大にもつなげていけるとした。 碓井氏は「大切なのは、ITを活用して業務の流れをきちっとシステム化して連動させていくことで、それにより顧客が求めていることをデータ自身が語ってくれるようになります。そうすれば、生活者起点のサービス展開をより効率的に実現することが可能になります」と語る。


 さらに、これまでは商品開発、CRM、店頭でのさまざまなサービスというデマンド(顧客)サイドの話が中心に語られることが多かったが、これからはサプライサイド(供給側)にもっと着目する必要がある。つまり原材料から店頭販売、その後のサービスという上流から下流に届ける”動脈”に加えて、下流から回収する”静脈”システム(リサイクル)まで含めて統合していく必要があると語った。


 碓井氏は「こうした段階になると、個々のシステムでは対応できないし、各企業がバラバラでやるべきことではないため、流通BMSによる標準化が不可欠です」として講演を締めくくった。

 

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