沸き上がる日本ブームで訪日外国人が急増。15兆円のビジネスチャンスが到来!  ――流通システム標準普及推進協議会 2016年度通常総会――

 2016年度の流通システム標準普及推進協議会の年度総会が、5月12日に明治記念館(東京・港区)にて開催された。通常総会に続く記念講演会では、一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会(JSTO)専務理事・事務局長で、株式会社USPジャパンの代表取締役社長を務める新津研一氏が登壇。「訪日外国人市場15兆円時代 私たちが今すべきこと」と題して、小売業界におけるインバウンドの位置付けや、ショッピングツーリズムに対する関心の高まりについて語った。日本ブームの中、訪日外国人向けのビジネスは大きなチャンスとなっている。商品情報や多言語対応など、早期に対応することで新たな価値を生み出すことができるという有意義な話が多数飛び出した。

 

増え続けるショッピングツーリズムに対して日本は団体戦でPRすべき

 

 日本ブームや東京五輪の決定などで外国人観光客が急増し、15年の訪日外国人市場は3.5兆円に迫っている。そのうちの約半分の1.5兆円がショッピングによるものだ。新津氏は「日本政府は30年に15兆円の市場を目指すとしており、ショッピングなら市場は7.5兆円となる見込みだ。15年の段階でショッピング市場が1.5兆円なら、これから15年間で6兆円もの上積みのチャンスがある」と指摘する。

 

 「訪日外国人ブームはいつまで続くのか?」と訝る声もあるが、心配することはない。ツーリズム市場は世界規模で成長を続けており、今後も年率3%の勢いで伸びていく。つまり世界中で海外旅行者が増え続けることになるわけだ。日本政府も観光立国政策を加速させるため、13年に訪日ビザの要件を緩和して後押しをしている。その結果、年間の訪日客は13年に1,036万人となり、消費額1.4兆円、買い物額は4,500億円となった。14年には円安の進行と消費税免税制度でさらに増加。15年は政府の動きに民間も追随した効果もあり、訪日客は1,974万人、消費額は3.5兆円、買い物額は1.5兆円となった。

 

 ただ、買い物額が増えたと喜んでばかりはいられない。上位5カ国(韓国・台湾・中国・米国・香港)の訪日ゲストが購入している物品を分析してみると、菓子類、食品類、飲料、酒類が多くを占める。「こうした現状があるのにも関わらず、日本は情報発信に遅れている」と新津氏は指摘する。例えば、日本を代表する観光地・京都は、米国の旅行雑誌「コンデ・ナスト・トラベラー」の観光都市ランキングでアジア第1位に選ばれているが、「買い物」の項目だけに絞ってみると、京都はアジアで9位と下位に甘んじている。その理由として新津氏は「情報発信不足」を挙げた。京都は寺社や自然のPRには熱心だが、お店情報は発信していない。つまり、情報発信をしていないということは、日本にお店が存在していないと同じことなのだ。

 

 一方で、世界各国は20年以上前からショッピングツーリズムに積極的で、シンガポール、マレーシア、ドバイ、タイ、韓国などは外国人観光客に向けて積極的にキャンペーンを打ってきた。特に世界でトップクラスのドバイは、国内にわずか30カ所程度のショッピングセンターしかないにも関わらず、日本全国津々浦々のお店の1カ月分の売上をたった1日であげてしまう。「その意味でも日本はまだまだ世界の後進国。これからはショッピングの魅力を世界にPRしていく必要がある」と新津氏は力をこめる。

 

 そもそも日本の観光産業は、歴史的に旅行会社などの観光業が先頭を走り、14年頃から小売業、ソリューション企業、製造業が追随し始めている状況だ。ようやく16年から飲食業や小売業が規模を拡大している段階で、まだインバウンド対応が遅れている。しかも、急激な観光客の増加に、事業者側も追いついていない。訪日客の増加で参入事業者は増えたものの、現在は小売店間で訪日客を奪い合うような個別戦に突入しているのがいい例だ。

 

 「今後15年間で6兆円の市場があるのなら、国内で競合しあうのは無駄。日本のショッピングの魅力を団体戦で海外にPRし、エンターテインメント性の強化やノウハウの共有・連携に強化を図っていくべきだ」(新津氏)。

 

 

訪日外国人は、消費行動でなく、日本人の魅力の体験、日本の体験を求めている

 

 これらの現状分析を経て新津氏は、日本が進むべき方向のヒントについて話を進めた。しかし、その答えは意外に簡単で、「インバウンド戦略は、普通のマーケティング活動をするだけでいい」と新津氏。今までは、商圏、男女別、年代別、職業別といったセグメントで考えていたが、それはあくまでも日本人が対象だった。そこに訪日客のセグメントを追加するだけでいいというのだ。日本は少子高齢化が進んで人口へ必然的に減っているが、アジア各国では人口増が続いている。この流れが変わらないのであれば、訪日客をターゲットにせざるを得ない。そのためには、まずは多言語対応からスタートし、従来どおりのマーケティング活動をすることだ。

 

 もう1つ避けて通れないのは、経済成長が著しい中国への対応だ。新津氏は「爆買いという表現はやめるべき」と訴えた。「爆買い」という言葉の中には、中国人を揶揄する意味が若干含まれている。マスコミが取り上げる分には構わないが、いつまでも「爆買い客」という意識で見ているうちは有効なマーケティング活動はできない。中国人観光客に対する日本人の見方にも依然として誤解がある。確かに日本側の視点でみると、全訪日外国人の多くは中国人だが、中国側から見ると日本を訪れるのは全渡航者のわずか3%に過ぎないという。「積極的に海外に出かけるようになった中国人の中で、日本を旅行先に選ぶのは40人のうちの1人。つまりそれは日本に期待していないと同じこと。こうした中で、中国人は来なくていいと日本人が拒否したり、爆買いは迷惑だと言っていたりして本当にいいのでしょうか」と新津氏は問いかける。

 

 日本が進むべき方向のヒントの2つめは、日本らしさをアピールする商品施策だ。観光庁が日本をPRするときのプロモーション方針は、日本を旅行することでしか得られない3つの価値、すなわち、「神秘的で不思議な気質」、「細部までこだわり抜いた作品」、「普段の生活体験」を提供することと定めている。これを小売りに応用するなら、販売、商品、品揃えの3つとなる。つまり、日本の「ショッピングツーリズム」とは、物欲を満たすだけの消費行動ではなく、日本人の魅力の体験、日本ならではの体験を提供すること、日本の魅力が凝縮された「ショッピング・エクスペリエンス」を提供することだ。観光地に足を運んだり、ものを手に入れたりする以上に、日本を感じること、日本人らしさを体験することに価値がある。ショッピング体験を提供というと、都会でのショッピングや量販店をイメージしてしまうが、農村でも漁村でも山村でもどこでもいいということになる。

 

 

商品情報を武器としたインバウンド対応を進める

 

 商品情報を武器としたインバウンド対応について新津氏は、言語対応の重要性を訴えた。訪日外国人向けのショッピングが増えた要因には、消費税免税制度の開始、民間の参入などがあるが、大きいのは日本の商品情報が急激に海外に流れるようになったことがある。これは中国人留学生が個人で並行輸入するようになったこと、つまり勝手に宣伝してくれるようになったことも影響している。

 

 「それゆえ日用品や化粧品は爆発的に売れた。しかし、若い中国人留学生手の届かない商品や、店頭での撮影が禁止されているような商品は売れない。また、多言語対応HPがない店は売れず、あればどんな小さな店で売れるというのが現実」(新津氏)

 

 では商品情報をどのように出していくか? まずは「マイナスをゼロにする情報提供」から始めるのがいいという。それは商品名、原材料、アレルギー表示などだ。特にイスラムのハラール(戒律で食べることが許されている食材や料理)表示などは読めることが重要だ。また、外国人が理解できないひらがな・カタカナ表記を英語や漢字表記を追記するだけでも情報が伝わりやすくなる。その次に来るのが商品の特徴や商品の背景、セールスポイントなど、「プラスの情報提供」になる。

 

 最後に新津氏は訪日外国人のマーケティングを行っている当事者ならではの実感を語ってくれた。それはインバウンドに取り組んだ人のほとんどが、ハッピーになったということだ。特に地方の生産者やメーカーの関係者にその成功体験が多い。生産者は、売上げが増えること以上に、隣近所と結束が高まり仲良くなったことを喜んでいる。また、外国人観光客が農産物や商品を見て素直に喜んでくれることで自分たちの魅力を改めて見直し、褒められることで誇りや自信を取り戻しているようだ。

 

 現在、外国人観光客に人気ナンバーワンという「飛騨里山サイクリングツアー」は2時間かけて飛騨の農村地区を自転車で回るだけだが、そこには地元の老人たちとの交流があり、そこでのコミュニケーションが感動を生む。そして最後に訪れた地元のスーパーマーケットで買い物をすれば、そこにストーリーが付加され、極上の体験となるというわけだ。新津氏は「そこのおじいちゃん、おばあちゃんたちは英語をしゃべれるわけでもなく、身振りで会話を楽しんでいます。つまり、訪日外国人の対応の第一歩は笑顔からということです。そして笑顔の対応は多言語対応からと考えていただければと思います」と語って講演を終えた。

 

 

 

 

 

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