【日経MJフォーラム】オムニチャネル戦略   顧客視点の新しい買い物体験を提供

 実店舗と電子商取引(EC)、交流サイト(SNS)など様々なチャネルを統合してとらえるオムニチャネル戦略。競争力強化を狙い、消費者の購買行動に合わせた取り組みが進んでいる。だが、実店舗と仮想店舗の連携やデータ統合など課題も多い。日本経済新聞社は7月4日、東京・大手町の日経カンファレンスルームでこうした問題を考えるフォーラムを開催。独自のオムニチャネル戦略を実践し、成果を上げる企業の取り組みを紹介した。

 

オープニングセッション  より良い顧客体験を目指して─ベイクルーズのオムニチャネル戦略

 

ベイクルーズ ICT統括/EC統括 上席取締役
村田 昭彦氏

スマホ通して顧客と親密に

 当社はファッションを中心にライフスタイル全般を対象に事業展開している。ECの売り上げは今期220億円の見込みで、4年で4倍に拡大した。売上高成長率は店舗が110%に対し、ECは130~140%台だ。売上高に占めるEC比率は22%で業界の平均値8~9%と比較すると非常に高い。EC売上高の内、自社ECが占める比率は45%、他社が55%で、EC比率が高いとはいえ他社に依存している面も多く、今後は自社比率を5割に高め最終的には7割を目指す。


 ユーザーの6割以上が店舗とオンラインの両方を利用している。購入金額をみると、両方をクロスユースする場合が、店舗のみ利用より3倍、オンラインのみより5倍という数字がある。クロスユースすることで、顧客との関係性も密になり、ロイヤルティーも高まる。


 当社のオムニチャネルのテーマは、「より良い顧客体験の提供」で、顧客と経営、双方からの視点が必要不可欠だ。顧客側からすると会員制度や購入プロセスの簡易化、コミュニケーションの最適化などが望まれる。経営面からは、機会損失ロスや商品のライフサイクルの短さによる値引きロスなどが問題になる。1人の顧客と長く付き合うための顧客生涯価値(ライフタイムバリュー=LTV)向上も挙げられる。


 「オムニチャネル戦略=スマートフォン(スマホ)ファースト戦略」と考え、いかにして顧客とのスマホによるつながりを最大化できるかを考えなければならない。そのためにスマホサービスの最適化、スマホによる顧客接点の拡大の2つを挙げたい。


 スマホサービスの最適化では、データ統合、サービス統合、UI/UX(ユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス)強化の3点に力を入れていく。顧客接点の最適化では、顧客基盤の拡大、コミュニケーションの統合が必要だ。オムニチャネル推進の課題として本社と子会社の組織間の壁、慢性的に不足しているデジタル人材、デジタル企業の参入による競争相手の変化などがあるだろう。

 

課題解決セッション①【シームレス】オムニチャネル×AIによるLTV向上

 

ヴィンクス
執行役員
デジタルサービス事業本部 副本部長
稲葉 将氏

シームレスにつなぐ各種ツール

 オムニチャネルのシステムをシームレスにつなぐと人にできない作業や処理が発生する。最近話題のAI(人工知能)を使ってシステムを構築する例やLTVを向上する当社の取り組みについて紹介したい。

 シームレスなシステムとは、「平均購買単価を上げる」「購買頻度を上げる」「新規顧客を増やす」「維持コストを落とす」といった一連の流れを指す。そのためには「新たな接客」「ポイントの共通化」「情報のシェア」の3つが欠かせない。「新たな接客」は、AIを使ったプッシュ接客がある。


 AIベンチャー企業と開発したファッション人工知能アプリは、蓄積された顧客情報から趣味嗜好をAIが分析し、一人ひとりにおすすめの商品をスマホにプッシュ通知し、購買客単価を上げる。


 「ポイントの共通化」では、コマースソリューション企業と提携を検討中だ。データをマーケティングオートメーションにつなげ、店舗とECのポイント共通化、スマホへのポイント統合を進めて顧客の購買頻度を上げ、顧客に有利な情報を最適なタイミングでプッシュできる環境を備える。


 「情報のシェア」では、店頭在庫がなく、ECで購入することになった場合に店舗売り上げが下がってしまう場合に対応する。オムニチャネルアクションポイント付与やアクションログが評価軸として残せる顧客ポイント総合ソリューションシステム「サティスファー」を活用し、ポイント管理に生かす。商品情報や利用シーンを従業員でシェアし、新規獲得を増やして顧客参加型コンテンツで支援する。


 さらに、7万台以上の導入実績があるクラウドPOS(販売時点情報管理)システム「エニーキューブシリーズ」、顧客一人ひとりに最適なコンテンツを提供するマーケティングオートメーションツール、在庫を一元化し、店舗在庫もECで販売できる受注在庫統合サービス、店舗とECの決済を統合したオムニチャネル決済、200社以上の企業に採用されているアパレル向け基幹システムがある。

 

課題解決セッション②【オムニチャネル構築】 モバイルから進化するオムニチャネル

日本システムウエア
プロダクトソリューション事業本部 
営業統括部 第一営業部 部長
佐藤 正芳氏

総合的なマーケティングデバイス

 スマホが急速に普及し、24時間いつでも企業と顧客がつながるようになった。マーケティングにスマホを活用するケースも増え、対話アプリや交流サイトを使って顧客自らが情報を拡散するインフラを得て、企業と顧客との関係性は変化した。消費者が非常に強くなったことで、企業側のアプローチも変化している。そのような時代背景の中、オムニチャネルは生まれた。


 すべてのチャネルで共通の体験ができるのがオムニチャネルのコンセプトだ。消費者との接点が強いチャネルであり、関係性を総合的に演出するデバイスになっている。


 アプリによってチャネルとチャネルをつなげ、需要の連鎖につなぐこと、これを「モバイルオムニチャネル」と提案している。具体的な事例としては、ポイントカードのスマホアプリ化、モバイル電子チラシ、近距離無線通信ができるビーコンとアプリを連携させたタッチポイント連携、観光スポットにビーコンを置き、情報を発信するビーコンソリューションなどがある。


 課題は多い。利便性の向上やブランドの信頼維持のための会員ポイント情報の統合、デジタルプロモーションにシフトしつつあるチラシやダイレクトメール(DM)の配布、機会損失防止のためにすべてのチャネルにおいて購入条件が同じになるショールーミング対策がある。


 ビーコンを活用した動線分析による来店情報の収集、リピート購買につなげるためのゲーム要素のあるアプリの採用によるコンバージョン率の向上、マーケティングオートメーションによる優良顧客の育成なども挙げられる。


 最近ではテレビ番組データを活用した販促プロモーション、自社ポイントの他社ブランドへのポイント変換サービスの普及、画像解析技術の進化向上による顧客の行動分析、金融とIT(情報技術)を融合したフィンテックにおける仮想通貨の登場で、アプリと仮想通貨を組み合わせた店舗独自のサービスの展開なども期待される。

 

課題解決セッション③【DBマーケティング】 店舗とネットのオムニチャネルマーケティング

 

スプリームシステムコンサルティング
セールス&マーケティング部
干 一丁氏

チャネルの垣根を越える

 ユーザー視点でのオムニチャネルとは、店舗やウェブサイトなど、どのセールスチャネルからも同様のサービスを受けられることを意味する。スマホの普及で、売り手側は顧客との接点が増え、顧客は常時情報を収集できるようになったが、このメリットは売り手側にはデメリットにもなり得る。


 店舗にいても他社製品と比べることが可能なため顧客を奪われる場合もある。このような状況下では売り手側がオムニチャネルでマーケティング展開することが大事になる。どこで売るかではなく、顧客にいつどのような商品を訴求するかを考えなければならない。


 顧客に最適な情報を届けるには、オムニチャネルのマーケティングプラットフォームが必要で、顧客情報、来店情報、キャンペーン反応履歴などあらゆるデータ統合が前提になる。さらに、分析やキャンペーンのプランニング・管理機能も不可欠だ。情報発信時には情報過多にならないよう内容の厳選、通数制限も大事になる。


 顧客はスマホ、タブレット、パソコンなど複数のデバイスからアクセスしてくる。アクセスデータを統合するには、クッキーIDと顧客IDの結合が有効だ。アクセスログを管理することで顧客情報や行動履歴などの統合も可能になる。


 一方、店舗では顧客が購買に至らない場合はデータの共有化ができない。回遊履歴、来店履歴も共有されないといった課題がある。店舗でのオムニチャネルマーケティング実現にはこれらの情報が不可欠になる。課題解決には顧客の動線を軸に接客ノウハウなどのデータ化と集約が有効だ。動線情報とウェブへのアクセスログ、購買情報を統合できれば、個別のアプローチも可能になるだろう。


 わが社は顧客のデータ統合・分析・キャンペーン管理ツール「エイムスター」を開発し、販売している。店舗やウェブといった垣根を越えた顧客情報を分析できるプラットフォームだ。「エイムスター」と顧客動線分析ツール「モプター」を連動させたサービスも展開中だ。

 

課題解決セッション④【オムニチャネルアプリ】 200社以上のアプリからみた最新オムニチャネル事例

 

ファストメディア
マーケティング マネージャー
佐藤 裕子氏

開封率の高いプッシュ通知

 オムニチャネル戦略に力を入れる企業がアプリ強化にも乗り出している。複数の流通大手が店頭でアプリのプロモーションを行ったり、AIを活用したアプリを発表して話題になっている。今までオムニチャネルというと、顧客情報の連携、在庫連動などのバックヤードが中心だった。これからは、第二フェーズとして、複数のチャネルをシームレスに連携していくことについて考えていく必要がある。このシームレス化を実現できるのが、アプリの役割だ。


 アプリにはホーム画面へのアイコン設置、ストレスフリーな操作感、プッシュ通知という3つの優れた特徴がある。ホーム画面へのアイコン設置は、スマホ使用時に常にブランドロゴが目に入るためブランド認知につながる。ストレスフリーな操作感は、閲覧時間や回遊率を上げる利点がある。プッシュ通知は、待ち受け画面に届くため開封率が高く、メールマガジンの3倍の効果があるというデータも出ている。リアルタイムな情報発信が可能で、ブランドのセール通知などの集客に役立っている。


 既にアプリを活用しているアパレル企業では、アプリ上で店頭スタッフとチャットができる機能や店頭のコーディネート画像が掲載される日替わりコンテンツの導入でプッシュ通知の開封率は5割以上、クーポン配信でも半数近い顧客が利用している。ポイント利用頻度の向上や複数チャネル統一などの目的でアプリを導入し、集客アップにつなげた企業もある。


 アプリの活用には、アプリのダウンロードを促す店舗スタッフの声がけが欠かせない。見たいと思わせるコンテンツの工夫も大事になる。当社が提供する法人向けクラウド型アプリ開発プラットフォーム「ヤプリ」は高品質で簡単に運用できるのが特徴だ。プッシュ通知を効果的に使い、顧客を商品購入に導くこともできる。スマホアプリはオムニチャネル戦略の一つのツールではあるが、モバイル時代のビジネスを加速させる可能性を秘めている。ヤプリの提供だけにとどまらず、運営支援や分析といったマーケティングプラットフォームとしての側面も強化していきたい。

 

クロージングセッション  TSIのモバイルファーストとオムニチャネル戦略

 

TSIホールディングス 執行役員/TSI ECストラテジー 社長
柏木 又浩氏

モバイルアプリは顧客接点

 当社がオムニチャネルを推進した大きな理由は経営統合を経てTSIホールディングスが生まれた点にある。ターゲットが異なるだけでなく、店舗数も会員数も多いブランドごとに複数のシステムが存在、さらにポイントカードなどの付与ルールも個々に違っていたこともあり、ブランドごとに最適なオムニチャネル化に踏み切った。2014年に一部のパイロットブランドでテストマーケティングを開始。リアル店舗とオンラインの売り上げを分析、リアルとオンラインともに利用する顧客売り上げが1チャネルのみ利用する顧客売り上げの3倍程度になることが判明した。


 このテスト結果を基に、16ブランドのオムニチャネルECサイトを1年間でローンチした。そして、今年度さらなるオムニチャネル化を推進するために、ポイント機能付きのモバイル・ブランドアプリを順次加速度的にリリースしていく予定だ。


 リアルとオンラインともに利用する顧客を増やすにはリアル店舗のスタッフがオムニチャネルを理解することが大事になる。店舗単位の売り上げ目標から顧客単位の売り上げ目標に共通認識を変える必要がある。また、より多くの顧客にブランドアプリをダウンロードしてもらうためには、「商品購入前にダウンロードで5%オフ」のようなキャンペーンも必要になる。


 米国では00年以降に成人したミレニアル世代の80%以上がモバイルで検索するというデータもある。彼らを引き付けるにはIPA(迅速、パーソナライズ、信頼性)に優れたコンテンツが不可欠になる。ソーシャルを通じて信用できる人から情報を得ることに価値を見いだす傾向も強い。


 売り手側はこの特徴を認識し情報を厳選して客に提供することが大事だ。企業側が取得すべき情報も個人情報よりも行動履歴を優先すべき時代が来ている。マイクロモーメントといわれる時代の変化を前提にすれば必然的にモバイルファーストになり、さらにデバイスを介さないAIファーストへとつながっていく。将来の展開を理解して戦略を練る必要がある。

 




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