VAN会社を含めた中小のドラッグストアの対応がカギ

日本チェーンドラッグストア協会
副会長 兼 業界標準化推進委員長
江黒 純一 氏

 

 スーパーマーケット業界と比べると、流通BMSの導入が遅れ気味だったドラッグストア業界だが、ここに来て導入企業が増えている。それは2020年度に予定されているNTT東西のINSネットディジタル通信モードのサービス停止や、19年に実施される予定の軽減税率対応がきっかけのようだ。しかし、中小規模のドラッグストアまでは浸透しにくく、その対応が急務となっている。 そこで日本チェーンドラッグストア協会 副会長の江黒純一氏に現状を聞いた。

2020年問題で駆け込み対応が増加、システムエンジニア不足も懸念

 

 ドラッグストアチェーンの小売業団体として1999年に設立された日本チェーンドラッグストア協会(通称:JACDS)。ドラッグストア業界の発展に向け、セルフメディケーションの推進と、需要創造とマーケット拡大、ドラッグストア業界の事業基盤強化のための活動を展開している。現在(2016年6月1日現在)は、正会員(ドラッグストア、他小売業)141社、賛助会員(メーカー、卸、ストアサポート企業他)217社、個人会員25名、学校会員29校という構成だ。

 

 会員企業141社における流通BMSの導入企業数は半数にも満たないと、江黒氏は予測する。

「マツモトキヨシやクスリのマルエ、最近ではウエルシア薬局、スギ薬局、カワチ薬品、ゴダイなど、多くのドラッグストア企業が導入もしくは導入を予定しています。流通BMSだけで対応するとコストが高くなるため、大手企業は基幹システムの更新を機に検討するケースが多いようです。切り替えた企業は1年で数千万単位のコストダウンを実現しているところもあります。対応が遅れているのは中小や地方のドラッグストアが中心で、予算の都合でなかなか手が回らない企業もあります」(江黒氏)

 

 やはり、導入のハードルになるのがコストのようだ。経営者にとっては、流通BMSの導入でメリットが得られるのは理解できても多額の初期投資をかけるのは躊躇する。システム担当者としても、手間のかかる面倒なことは可能なかぎりしたくないのが本音だ。中小企業の場合、そもそもシステム担当者がいないという人的な問題や、取引のあるVAN会社が対応できていない問題がある。それが結果的に先送りになり、対応が遅れる原因となっていると江黒氏は読む。しかし、対応を先送りしていると20年度のINSネットディジタル通信モードのサービス停止や、19年の軽減税率の実施に伴う複数税率対応に間に合わない可能性も指摘されている。

 

「20年度に向けて、間違いなく駆け込み対応が増えていきます。そうなると、直前になって切り替えようと思っても、すぐに対応ができません。すでにシステムエンジニアが足りない状況も起こっているという話も聞きます。また、対応期限が決まっているので、先に延ばせばコスト削減の交渉もできず、高い買い物をしなければならなくなる。結果としてコスト高になります」(江黒氏)

 

 中小企業の導入を進めるため、JACDSでは一部のVAN会社にアプローチをかけて標準を維持した流通BMSへの対応を依頼している。また、システムベンダーに対しては中小企業への対応強化や補助金の活用などを依頼中で、導入しやすい環境は徐々にではあるが整いつつある。また、ドラッグストアからの流通BMSの導入に関する問い合わせを受けた際には、流通BMS協議会の認証を受けたシステムベンダーやVAN会社を紹介しているという。

 

 

ドラッグストアショーで経営者やシステム担当者に対応を呼びかけ

 

 流通BMSの普及促進を図るためJACDSでは、毎年3月に幕張メッセで開催されるJAPANドラッグストアショーで特別セミナーを開催し、日本全国から訪れる経営者やシステム担当者に向けて流通BMSの導入事例や最新情報を発信し、切り替えを呼びかけてきた。17年3月に開催する第17回JAPANドラッグストアショーにおいてもNTTの担当者が自ら2020年問題に関する最新情報を報告したり、中小企業基盤整備機構から軽減税率補助金申請の仕方についての解説をする予定だという。ドラッグストアショー以外でも、東京、大阪、名古屋、九州で開催されるJACDSブロック総会で、経営者を中心に流通BMSへの対応を呼びかけている。

 

 NTT東西の2020年問題については、INSネットのディジタル通信モードの終了予定を受けて、16年1月に日本チェーンドラッグストア協会が単独で記者会見を開催して流通BMSへの移行を推奨すると発表を行った。また、16年11月には流通9団体(オール日本スーパーマーケット協会、一般社団法人新日本スーパーマーケット協会、一般社団法人日本スーパーマーケット協会、日本チェーンストア協会、日本チェーンドラッグストア協会、一般社団法人日本ボランタリーチェーン協会、全国菓子卸商業組合連合会、一般社団法人日本加工食品卸協会、食肉流通標準化システム協議会)が合同でニュースリリースを発表して流通BMSの切り替えを呼びかけた。「それぞれの団体がINSネットの終了を案内したものの、その危機感がなかなか浸透しなかったことから、業界全体に警鐘を鳴らす意味で9団体合同のリリースを発表しました。早い段階での発表を模索していたものの、各団体との調整や検証に時間を要し、予定より1年以上遅れての発表となりました」と江黒氏は説明する。


 2020年問題についてはNTT東西から有料で救済措置を実施するとの発表もあったが、これはあくまでも救済措置で、江黒氏は「誤解のないように、“まだ大丈夫”から“取り組まないと間に合わない”という認識に変わるように継続した案内を続けていきます」と述べている。

 

 

複数税率対応レジの導入での補助金を活用する手も

 

 軽減税率に伴う複数税率については、少なくともJCA手順では対応ができなくなるため、流通BMSへの切り替えは必須となる。ただし、財務省が用意している資料だけではシステムに落とし込むのが難しく、現在は経済産業省を通じて質問と要望を提出している段階だという。

 

「複数税率にシステムで対応するなら流通BMSの導入は不可欠です。特にシステムの世界で進んでいる請求レスを後退させないようにしなければなりません。そこでJACDSでは現在、その対応に向けた準備を進めています。特に適格請求書等保存方式(インボイス方式)の導入では2段階の変更が予定されており、結果として2重投資が懸念されますので、コストがかからないように対応していきます」(江黒氏)

 

 ドラッグストア業界独自の問題としては、医療用医薬品への対応もある。医療用医薬品の場合、データ交換は流通BMSと互換性のない独自のシステムを用いているため、現状はOTC医薬品と医療用医薬品は別々に対応せざるを得ないが、医療用医薬品を扱う卸企業などが流通BMSに対応することで一本化が進むことが期待されている。

 

 医薬品においてはレジ対応も課題となっている。特にドラッグストアは、副作用や薬の飲み合わせなど、レジで提供する情報がスーパーマーケットと比べて格段に多い。

 

 また、17年1月には医療用から一般用に切り替えたスイッチOTC薬が対象のセルフメディケーション税制制度が開始され、レシートに対象の医薬品にマークをつけるか、領収書の発行をする対応などがあり、システムの重要性は高まっているという。

 

 「複数税率への対応や、インボイス方式への対応で、政府から複数税率対応レジの導入や電子的受発注システムの改修に補助金が出ることが発表されているため、これを活用して流通BMSに切り替える手もあります」(江黒氏)

 

 JACDSでは流通事業者全体の最適化に向けて、今後も他団体との連携しながら流通BMSの普及推進活動を続けていく考えだ。「標準化されてメリットが出るのは卸だけ、小売だけということではなく、流通業界全体のインフラとして標準EDIが確立できれば全体のコスト削減が実現しますので、是非とも協力をお願いします」と江黒氏は呼びかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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