ドラッグストア業界が流通BMSの導入に本腰を アジア最大級のドラッグストアショーで特別セミナーを開催

 小売業の中でも流通BMSの導入が遅れていると言われるドラッグストア業界。2025年の電話回線の廃止に向けて危機感を抱いている日本チェーンドラッグストア協会(以下、JACDS)は、ついに普及に向けて本腰を入れ始めた。15年3月13日に千葉県の幕張メッセで開催されたアジア最大級のドラッグストア業界の展示会「第15回JAPANドラッグストアショー」では「標準EDI(流通BMS)推進特別セミナー」を開催した。 セミナーではドラッグストアやメーカー、卸、IT(情報技術)ベンダーの4者が集結し、2時間にわたって現状の課題や成功事例を紹介。導入手順の標準化の必要性をアピールした。

 

 

ドラッグストアチェーンが生き残るために必要な流通BMS -業界標準化推進委員会委員長挨拶 -

 

 まずJACDS副会長で、JACDSの業界標準化推進委員会 委員長を務めるクスリのマルエ会長の江黒純一氏が登壇し、本セミナーの開催目的を説明した。

 まずは「小売り、メーカー、卸それぞれにメリットのある流通BMSだが、ドラッグストア業界はなかなか普及が進んでいない。しかし、中には大幅なコストダウンを実現している企業もある」と紹介した。それを踏まえた上で、「流通BMSは、各社が同じ運用ルール、同じメッセージを使うことでコスト削減を実現できる。いち早く導入することでメリットが得られる。導入方法が分からない企業にはJACDSが相談に乗り、関連部署で全力を挙げて支援したい」と呼びかけた。

 

 

菓子卸の導入事例 -山星屋の流通BMSへの取り組み-

 

 続けて、菓子食品の卸を専業とする山星屋の古田健太郎氏が同社の状況を紹介した。同社は07年から流通BMSの利用を開始し、15年1月時点で取引先は75社に達している。しかし、ドラッグストア業界はそのうち2社にとどまっていると語り、「少ないからこそ今後、流通BMSが増える余地がある」と期待を寄せた。また、同社の流通BMSの割合は社数比で全体の30%で、そのうち70%がJCA手順であることから、今後の普及拡大に向けて意欲を見せた。

 導入によって得られた効果については、インターネットの利用による通信速度の高速化と、通信の安定性向上を紹介。さらに標準メッセージの利用による保守開発・管理維持の省力化を挙げ、「取引先ごとに行っていたシステムの仕様確認、個別確認などの時間短縮で、システム導入までの工数を40%削減できた」と説明した。

 

 また現状の課題としては標準外利用があることを指摘し、「未使用の任意項目のタグ生成が一部の小売業で発生しているほか、本来は同じコードで設定されている取引先コードが発注と請求で異なる場合がある」と紹介。さらに「オフライン発注に対する出荷メッセージや納品帳票が異なる場合がある」と語った。

 

 最後に古田氏は「流通BMSは小売業と卸売業の双方にメリットがあり、卸売業にとっては導入する取引先が増えるほど効果は最大化する。効果を出すための最大のポイントは普及拡大にあるので、多くの企業が積極的に取り組んでほしい」と強調した。

 

 

日用品・雑貨・化粧品メーカーの導入事例 -花王における流通BMSの取り組み状況と課題-

 

 日用品メーカーの取り組みとして、花王製品の販売を手がける花王カスタマーマーケティングの松山義政氏が、花王グループの状況を説明した。

 同グループは07年から流通BMSの導入を開始。15年までに254社まで拡大を予定しているが、松山氏は「現状は当初の理想の半分以下に過ぎず、不満を感じている」と語った。本来、流通BMSは日本の流通の「知恵」の集まりで、業界の全体最適化を目指してしたものだ。流通インフラを標準化し、従来の競争領域へ開発資源を投下する流通BMSの概念を実現させるためには、小売り、卸・メーカー、ITベンダーの3者が一体となって推進する必要がある。しかし、「現実的には普及が進んでいないことが悩ましい」と同氏は残念がる。

 

 その3者に対しては「小売り企業は直接的効果を求めすぎる傾向がある。小売り業にとって流通BMS導入は責務だと思ってほしい。卸・メーカーは小売り業からの要請を迅速に受け入れておらず、積極的に標準化を進める本気度があるかどうかが疑問だ。流通BMSの導入コストは中小からすれば依然高く、費用も不明瞭で小売り側は不満に思っている。ITベンダーは導入を加速するためにも流通BMSへの理解を深め、価格を下げる努力をしてほしい。さらに、小売りからの標準外利用の要請には断る勇気を持って欲しい」と苦言を呈した。

 

 流通BMSの展望については、12年から流通BMS適用範囲拡大に向けて、金融EDI(電子データ交換)との連携が進んでいることを取り上げ、EDIの情報欄を通して振り込み依頼や入金通知が流通側と金融機関側で交換できることを紹介。「流通業界の枠を超えてインフラ統合が進めば、さらなる効率化が進むだろう」と語った。そして最後に「流通のステージを上げていくためのエンジンが流通BMSであると確信している」と訴えた。

 

 

ドラッグストアの導入事例-1 -マツモトキヨシホールディングスにおける流通BMSの普及と結果-


 次にドラッグストアの事例として、マツモトキヨシホールディングス(HD)における事例が紹介された。同HDは13年から自社システムで流通BMSに対応してきたが、普及を加速させるために小口の取引先を対象にASPサービスを採用し、14年10月から自社システムとASPの2本立てで対応している。その結果、1カ月半で74%(伝票金額ベース)の加入率を実現し、新規取引社数は95社となった。

 

 ポイントは全国にまたがる取引先への普及とサポートにあったという。同HDは徳之島、奄美大島などの離島も含めて取引先を1社ずつ訪問し、流通BMSの重要性とシステム連携のイメージを説明してまわった。こうした普及活動の成功要因の裏には、流通BMSへの対応は「お取引先様にとって個別のIT投資ではない」ということを粘り強く理解を求めたことにあったという。

最後に、「取引先にはギリギリまで現行システムを利用したいといった声がある」ことを紹介したうえで、①取引先に対してJCA手順の廃止時期を明確に提示すること②流通BMSの移行をいつまでに終わらせるかを提示すること③社内で見解を統一してぶれずに進めること――の3つが重要であると小売り業の参加者に向けてアドバイスを送った。

 

 

ドラッグストアの導入事例-2 -スギヤマ薬品における流通BMS-


 ドラッグストアの2社目の事例として、愛知・岐阜・三重県下で、121店舗のドラッグストアを運営するスギヤマ薬品のチャレンジが紹介された。同社が流通BMSを導入した目的は、日次の発注・仕入の事務作業関連コストと、月次の請求・支払業務関連のコストの削減にあったという。そこで、多くの取引先が参加できるように、Web-EDIと流通BMSとの2つから選択できるようにした。新EDIシステムは13年3月から稼働し、15年1月現在で49社が流通BMSを採用している。

 

 流通BMSの導入で伝票レス運用が実現し、物流センター業務で必要だった伝票運用の専任要員はゼロになった。店直納品の伝票も廃止され、紛失リスクもなくなっている。さらに毎月の買掛業務の照合等で必要だった派遣要員も不要となり、現在は自社要員だけで回るようになった。

 

 もう1つは、追加伝票のデータ化による効果だ。商品コードが採番されていない注文商品についても、取引先に代表品番を入力して出荷データを作成してもらうことで正確性が向上している。

 

 これらの成果を元に試算すると毎月1000時間分のコストダウンが実現できたことになり、導入目的を達成しつつあるという認識を示している。

 

 

JACDSが進めるドラッグストアの成長戦略 -普及に向けた業界標準導入プログラムを作成-

 

 JACDSではJ設立15周年記念事業の一つとして、流通BMSの普及推進を図るための「標準EDI(流通BMS)業界標準導入プログラム」の作成に取り組んでいる。研究活動の内容をプラネットの黒岩昭雄氏が紹介した。

 黒岩氏はJACDSの業界標準導入プログラムについて「流通BMSの導入の方法を示したカタログを元に15年4月以降、業界標準化推進委員が主体となって会員企業や関連企業に普及・推進活動を実施していく」と説明した。

 プログラムは、会員企業を対象に実施したヒアリングなどによって得られた現状課題を整理して作成。「単独でなく、会員企業やITベンダーとも調整しながら実効性の高い内容に仕上げた」という。また、プログラムは関係する製配販企業やベンダーに配布し、それに沿った導入を呼びかけていく方針を示している。同氏は「具体的にはフローチャートを用いて導入の対策を視覚的に理解できるようパターン化。業界標準の進め方を提示することで、会員企業が導入の見通しを把握しやすくなるように配慮した。さらに、導入を進めていくうえで課題となるITベンダー選びを容易にするために選定基準を明記し、『具体的にいくらかかるのか』といったコストの見積もりの目安も示すようにしている」と語った。

最後に同氏は小売り、卸・メーカー、ITベンダーにそれぞれメッセージを送り、「各企業、団体の協力をお願いします」と呼びかけた。

 

 

インターネットへの移行期限が迫る -流通BMSの最新動向-

 

 最後に流通システム開発センター 流通BMS協議会の梶田瞳氏が流通BMSの最新動向を説明した。

 その中で、同氏が最も強調したのがインターネットへの移行期限が25年に迫っている点だ。従来の電話回線は20年頃から順次廃止され、25年頃には完全に廃止されてインターネットを使った回線(IP網)に移行する。つまり、現行のJCA手順、全銀手順、全銀TCP/IP手順は使えなくなる可能性が高い。同氏は「インターネット回線への移行は、NTTが10年の時点でプレスリリースを出しており、既に5年が経過している。これはアナログテレビの地デジ化に匹敵するほどのインパクトで、しかも民間主導では初の試み。あと5年で廃止が始まることを考えると、JCA手順を更新し使い続けることは考えられない。インターネット網で利用できる流通BMSへの移行は必須になるだろう」と語った。

 

 インターネットではWeb-EDIという手段もあるがこれについて、「Web-EDIはデータ仕様が個別で自動連携できない場合が多く、卸・メーカーの負担になるため小口取引先向けの導入形態だけに留め、協議会が出している基本方針にそって欲しい」と加えた。

 

 導入の最新状況の紹介に続けて、流通BMS協議会が進めている新たな取り組みにオフライン受注分の出荷メッセージの標準化と納品明細書の標準化が14年11月のチェンジリクエストで承認されたことを解説。最後に「電話回線廃止のリミットが迫る中、流通BMSのメリットを共有するためにも協力をお願いしたい」と訴えて講演を締めくくった。

 

 

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