2019年10月から始まる消費税の軽減税率制度(複数税率)。システムで対応しておかなければならないことは何か? ――JAPANドラッグストアショーで「標準EDI(流通BMS)推進特別セミナー」を開催――

 消費税の増税と、軽減税率制度(複数税率)の導入が数カ月先に迫り、待ったなしの状況に追い込まれてきた。それに伴うシステム対応では、流通BMSの切り替えが推奨されている。
 2019年3月に千葉県幕張メッセ国際展示場で開催された「JAPANドラッグストアショー」では、日本チェーンドラッグストア協会の主催による「標準EDI(流通BMS)推進特別セミナー」が開催され、消費税の軽減税率制度や、金融EDI、キャッシュレス支払などについて議論した。講演の模様をレポートする。

 

 

標準EDI(流通BMS)の導入を加速させたい


 最初に日本チェーンドラッグストア協会副会長で、業界標準化推進委員会 委員長の江黒純一氏(株式会社クスリのマルエ 取締役会長)があいさつした。業界標準化を目標に立ち上げた流通BMSも10年以上が経ち、大手を中心に形となりつつあるものの、中小の個店での導入は進んでいない。江黒氏は、ISDN回線の停止、キャッシュレス決済の増加、RFID、電子タグ、金融EDIなど、近年の小売業界を取り巻く環境の変化に言及しながら、「業界や日本の発展のために力を合わせていこう」と訴えた。

 

 続けて、経済産業省 商務情報政策局 商務・サービスグループ 消費・流通政策課 課長補佐の田村真丈氏があいさつ。最初に消費税率の引上げ対策として導入を予定しているキャッシュレス・消費者還元事業に触れ、ポータルサイト(https://cashless.go.jp/)からの情報収集を呼びかけた。
経済産業省は、流通BMSを始めとする流通と物流の可視化に早くから取り組んできたが、近年は金融を加えた、商・物・金の三位一体による可視化を進めている。金融ではBtoCをキャッシュレス、BtoBを金融EDIによって可視化を実現しようという目論みだ。田村氏は「製・配・販の中で商・物・金の3つを有機的に連携することで省力化につながる。結果として、人手不足の対応に貢献し、データ活用の価値も生まれてくる」と説明した。

 その中でも流通BMSはキーの要素であることを強調。日本チェーンドラッグストア協会でも、11年に立ち上げた製・配・販連携協議会の中で導入を推奨してきたが、導入に至っていない企業も多いことに触れ「消費税対応も含めて今がチャンス。検討しているなら是非導入して欲しい。経済産業省も中小企業庁経由で、中小事業者向けにEDI導入の補助金制度を用意している。19年度も継続実施する方針が決まっているので、全国拡大に向けて今後も協力をお願いしたい」と語った。

 

 

18年12月25日に「全銀EDIシステム(愛称:ZEDI)」が稼働を開始

 全日本銀行協会 事務・決済システムの浅田寿人氏は、18年12月25日に稼働を開始した「全銀EDIシステム(愛称:ZEDI)」を紹介した。ZEDIとは、企業間の金融取引における次世代の国際標準である「XML電文」に移行し、EDI情報の拡充に対応するためのシステムのこと。ZEDIを利用することで支払企業から受取企業に振込を実行する際、支払通知番号や請求書番号などのEDI情報が添付可能になる。

 期待効果としては業務の効率化と生産性の向上が挙げられ、支払企業も受取企業ともにメリットが得られる。その他にも、電子領収書としての利用や、取引金融機関により新たなサービスの提供など、EDI情報を活用した新たな効果が生まれる可能性を秘めている。

 ZEDIの利用には現在、振込にファームバンキングやインターネットバンキングを利用している場合はZEDI対応の通信ソフトや会計ソフトのバージョンアップが必要となる。ATM・銀行窓口・FAXを使って振込している場合は、ZEDIに参加している金融機関が提供するファームバンキングやインターネットバンキングを導入することになる。浅田氏は「ZEDIに参加する金融機関は増えているので、取引先の銀行に問い合わせて参加して欲しい」と訴えた。

 

 

QRコードを活用したスマホ決済サービス「J-Coin Pay」とは

 続けて、昨今話題のQRコードを使ったキャッシュレス決済について、みずほ銀行 デジタルイノベーション部 副部長の柿原愼一郎氏が紹介した。同行ではQRコードを活用したスマホ決済サービス「J-Coin Pay」を19年3月1日より開始している。J-Coin Payとは「送る」「送ってもらう」「支払う」行為がスマホ上で完結することに加え、金融機関の預金口座との入出金も、スマホ上のアプリを使ってできるサービスのこと。柿原氏は「現金と同様、『いつでも・どこでも』『誰でも』『誰とでも』利用できるデジタルプラットフォームを通してキャッシュレス社会の実現につなげる」と説明した。

 現在、約60の金融機関と協働してプラットフォームを構築中で、今後もネットワークの拡大を目指す。加盟店もドラッグストアではウエルシア薬局が連携済みで、小売店、食品。外食、サービスなど、多業種の企業が検討中だ。加盟店のメリットについて柿原氏は「加盟店手数料がクレジットカードより安価で、導入費用も専用端末が必要なクレジットカードやSuicaなどの電子マネーと比べて大幅に安い。さらに金融機関と紐付いているため顧客基盤はそのまま利用でき、海外決済サービスとも連携しているので訪日外国人も自国のサービスが利用できる」と強調する。

 

 他社のチャージ型スマホ決済サービスとの比較では、銀行口座との入出金が他社は口座への戻入が有料だったり、対応していなかったりするが、J-Coin Payなら無料で対応。60の金融機関の5,000万人の個人ユーザーにアクセスするポテンシャルを持つことも強みとなる。

 

 今後もネットワークを拡大しながら随時機能を拡張していく予定で、消費税増税の前のタイミングで企業向けの経費精算入金サービスの導入も検討しているという。最後に柿原氏は「キャッシュレスによって現金の管理負担が軽減し、生産性の向上につながる。20年に向けてインバウンド需要が高まる中、日本経済の発展にも貢献できる。消費税増税による景気の後退に対抗するためにも関心を持って欲しい」と呼びかけた。

 

 

流通BMS軽減税率対応チェンジリクエストの対応が実現

 国分グループ本社株式会社 情報システム部 物流システム二課の平田幸則氏は、流通BMSの軽減税率対応に向けたチェンジリクエスト(CR)について説明した。卸売業の情報化課題を研究する情報志向型卸売業研究会(卸研)は、日本加工食品卸協会(日食協)の軽減税率システム専門部会と共同で、流通BMSによる一括対応で解決を図ることを構想。18年10月に流通BMS協議会へCRを申請し、対応が認められている。平田氏は「運用中の流通BMSの追加・変更要件は限りなく抑え、最初は19年10月1日から始まる区分記載請求書等保存方式(インボイス制度経過措置)への対応を目指す方針とした」と説明する。

CRの内容は、①発注・出荷・受領・返品は「運用対応策」とすること、②請求要件のみを「請求鑑メッセージ新規追加」とすることの2つだ。

 

 ①では、現在の流通BMSメッセージは、1伝票内に異なる税率の商品が混在できない。そこで発注・出荷・受領・返品の業務プロセスは、軽減税率の8%発注分と、標準税率の10%発注分で伝票を切り分け、「1伝票・単一税率」の運用で対応する。

 

 ②では、現在の流通BMSの請求メッセージでは、税率別の請求金額合計を持つことができない。そこで税率別の請求金額の合計を表現するために、税額については請求メッセージに必要な要件項目を追加した「請求鑑メッセージ」で対応する。

 

 残されている課題はまだある。1つは、1伝票番号・単一税率で発注メッセージを受けた際、買手側に意図しない税率間違いがあった場合は、出荷側(売手側)に発見・修正対応を取り決めておく必要があることだ。さらに、23年10月から始まる「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」対応に向けても流通BMSのCRが必要になる。平田氏は「さらなる進化に向けて継続的に検討を進めていく」と語った。

 

 

財務省が軽減税率の口頭確認、リベートの考え方、切り替え時の注意点を解説

 続いて、軽減税率制度とインボイス制度でドラッグストア業界に求められる事前の準備について、財務省 主税局税制第二課 課長補佐の加藤博之氏が、経済産業省 経済産業政策局 企業行動課 係長の小倉啓太郎氏のインタビューに答える形で解説した。

 軽減税率制度では、酒類・外食を除く飲食料品が8%になるため、マスターの変更は避けられない。難しいのが飲食料品の場合、ケータリングや食事の提供には軽減税率が適用されないことだが、加藤氏は「ドラッグストア業界では、すでに非課税の福祉用具や調剤薬品、外人向けの免税商品で、様々な消費税の取り扱いには対応しているので、軽減税率も同じようにクリアできる」と説明した。

 問題は適用税率の考え方だ。スーパー、コンビニ、ドラッグストアで飲食料を提供する場合、椅子やテーブルがあると飲食可能と見なされる。そのためには、レジでの意思確認が必要だ。ただし、貼り紙などで事前申告をお願いしておけば、購入者からの申し出がない限り、レジの判断で軽減税率に適用しても構わない。「以前、調剤薬局の待合室の椅子について質問を受けたことがある。まだ決まっていないが、調剤薬局はそもそも飲食を目的とした施設ではないため、意思確認は不要で、軽減税率の対応なる方向で検討が進められている」と加藤氏は解説した。

 

 リベートは、適用税率の判定が複雑になる。そのためには、何の目的でやり取りされるものなのかを整理することが必要だ。加藤氏は「つまり、仕入れた商品を値引きするためのものであれば、その商品の税率が適用され、何らかの役務の提供(場所や設備の使用なども含まれる)の対価としての支払いであれば標準税率が適用されるということを覚えておいて欲しい」と強調した。

 

 軽減税率に向けては税率引上げを「またぐ」取引にも注意が必要だ。

売り手と買い手で計上基準が異なるケース、例えば、売手側が8%で請求した場合に、買手側は10%で仕入税額控除ができるかという問題が出る。基本的には、買手側は旧税率の8%(売り手の税率)で仕入税額を計算することになる。税込価格で請求され、適用税率が明かでない場合は相手への確認または自己の会計処理で算出した仕入税額を基準に仕入税額を控除する。年間契約等の区分記載請求書対応についても、税率ごとに区分した合計対価額の記載が必要となるため、9月までと10月以降の対価額を表示する。加藤氏は「まずは19年10月を目指してスタートを切って欲しい」と訴えた。

 

→ 消費税「軽減税率制度」と「インボイス制度」 ~ドラッグストア、どんな準備が必要なのか~

 

 

インボイス対応のポイントは「記載事項」にあり

 最後は、流通BMS協議会の事務局で、流通システム開発センター データベース事業部兼 ソリューション第2部 上級研究員の梶田瞳氏が流通BMSの最新トピックスを解説した。

 その中で、同氏が最も強調したのが軽減税率への対応だ。企業間取引における軽減税率制度対応のポイントは「記載事項」にある。取引先が100社、200社あればそれぞれに対応が必要になるため、早期の準備が求められる。ただし、インボイス制度への対応は返還インボイスの対応などはっきりとしていない内容もあるため、「まずは、インボイス経過措置の『区分記載請求等保存方式』を目指して欲しい」と梶田氏は訴えた。

 区分記載請求等保存方式における記載事項は、軽減税率対象品目である旨と、税率ごとに合計した税込対価の額の2つだ。日本チェーンストア協会では、チェーンストア統一伝票(B様式)の対応において伝票は税率ごとに分け、様式や規格は変更せずに現行のまま。軽減税率対象品目である旨は自由使用欄のD欄またはG欄を使用し、「ケイゲンゼイリツ」とカタカナで記載する。支払案内書には、税率ごとに合計した対価額と税額の2つを記載するという方針をだしている。

 

 流通BMSの軽減税率対応についても、軽減税率対象品目である旨を税率ごとに取引番号を分けたうえで税率を示し、税率ごとに合計した対価の額は、支払メッセージに税率ごとの対価の額と、インボイス制度を見据えた消費税額を表すことになる。

 

 国分の平田氏が解説したように、流通BMSの軽減税率対応に向けたCRでも、各種ガイドラインの更新や新しいメッセージの追加がおこなわれている。梶田氏は「標準化のメリットは軽減税率対応でも受けられるので、これを機に流通BMSへの移行を考えて欲しい。流通BMS協議会では、インボイスのシステム対応などを紹介したセミナ―動画をeラーニングで公開しているので、こちらも受講してみて欲しい。何はともあれまずは自社システムにあてはめて検討してみて現状を把握し、対応していくことが今後のリスク回避につながる」と訴えて解説を終えた。

 

 

 

 

関連記事