流通BMSの認知度は確実に高まり、導入も順調に進んでいるが「標準外利用」という新たな課題も見えてきた。そこで、流通BMS協議会では、2014年1月31日の東京を皮切りに、名古屋、大阪の3都市において、流通BMS普及推進説明会を開催。「標準順守を推進し、新たな標準化へ」と題して、流通BMSの最新普及状況の報告、標準順守のための事例解説、標準運用に向けた変更要求(チェンジリクエスト)提出の3つに関する講演が行われた(以下は、東京開催の講演を元に作成)。
小売業・卸・メーカーともに導入済みが増加 -流通BMSの普及状況について-
開会のあいさつに続き、2013年度の流通BMSの普及状況について、流通BMS協議会の坂本尚登事務局長が説明した。流通BMS協議会では09年から2年に1回の頻度で、小売業・卸・メーカーで構成する正会員団体に対して導入実態調査を行っている。今回は13年7月から9月にかけて実施した3回目のアンケート調査の結果が報告された。
まず、基本となる流通BMSの導入状況を見ると、小売業は「導入済み」の企業が2年前(11年)から10ポイント増えて26%となった。卸・メーカーも、「対応済み」が前回より17ポイント増えて43%となっている。この結果から坂本氏は「流通BMSへの対応は確実に進んでいると見ていい。ただし、企業の規模別で見ると、小売業も卸・メーカーともに売上高の高い企業ほど導入実績は高く、中小規模になるほど実績は低くなる」と解説した。
今回は、過去2回の調査になかった項目として、小売業のEDI(EOS)の実施状況を調査している。その結果、19%の小売業がEOSのみ(発注のみの電子送信)で取引きしていることが判明した。売上高で見ると、年商200億円未満の企業ではEOSのみが38%であるのに対して、1,000億円以上ではEOSのみでの取引きは7%と、大企業ほどEDIへの移行が進んでいる。この結果に対して坂本氏は「流通BMS普及のカギは、中小の小売業のEDI化が握っている」と強調した。
流通BMSの導入形態には自社構築型と外部委託があるが、アンケートの結果を見ると小売業の65%が外部委託(アウトソーシング)を選択しており、「東日本大震災の影響で11年以降は、事業継続性を重視した企業がアウトソーシングを採用するケースが増えてきた」と坂本氏は見る。一方、卸・メーカーの導入形態には大きな変化は見られず、自社構築の比率が47%と依然として高い。
次に流通BMSの導入効果については、インターネット利用による効果として、小売、卸・メーカーともに「通信時間の短縮」と「通信コストの削減」の2つが多くを占めた。また、標準のメッセージの利用による効果としては、小売業では「伝票レス」「システム導入期間の短縮」「請求・支払照合の効率化」、卸・メーカーでは「伝票レス」「システム対応の共通化」を挙げている。
さらに小売業に対して、流通BMSを導入した理由を質問したアンケートでは、「基幹システムの更新時期がきたから」「JCA手順の機器が更新できなくなったから」といった回答が増えており、機器・システムの更新を機に移行するケースが増えている。
一方、流通BMSを導入していない小売業に、その理由を尋ねたところ、「投資対効果が見えない」という回答が前回に続いて多かった。ただし、前回の調査で多かった「対応できる取引先が少ない」「取引先からの要請がない」という理由は共に減少していることから、「卸・メーカーはこれからも小売業に向けて、流通BMSの導入を働きかけて欲しい」と坂本氏は訴えた。
流通業界の全体最適化のために -標準順守のための事例解説-
続けて、流通BMS協議会事務局の栗田和則上級研究員が、標準順守の意義を確認し、標準順守のための事例を紹介、ポイントを解説した。流通BMSの目的は、メッセージを標準化することで流通業界全体を最適化し、適正な利潤確保と消費者の利益を最大化することにある。このためにメッセージの標準化が行われ、今までよりも少ない手間で準備でき将来の管理負荷も軽減できるようにすることを目指した。この結果、共通のフォーマットとすることができ小売業別に異なる部分も明確になっている。流通BMSに対する評価は、大きすぎる期待と、過度な警戒の両極端にふれる傾向があると言う。栗田氏は「すべての小売業でEDI仕様が完全に同じになって運用が同一になるといったバラ色の未来を想像する企業がある一方で、導入したとしても負担が減ることなどありえないという拒否反応を示す企業もある。現実的には、多くの事例で流通BMSは正しく使われていて、流通BMS登場以前に比べ整理されている。しかし、各小売業がそれぞれに実装するものなので、中には失敗例があるのも事実だ。こうした現実を見ながら、改善を図っていくことが重要ではないか」と語った。
そこで流通BMS協議会では、標準順守の現実を知るため、卸・メーカーに対して情報提供を呼びかけ、その情報をもとに小売業やITベンダーに個別に調査を実施した。その結果に基づき、栗田氏は標準順守の観点で、代表的な事例を挙げて説明していく。
まず1つは、流通BMSの標準仕様では定義されていない(範囲外とした)部分で、現在は各社が独自に行っている事例だ。こうしたケースについては「新たに標準化する必要があれば、ユーザー企業が集まってチェンジリクエストを提出し、流通BMS協議会の承認を経ることで、新たに標準仕様として適用することができる。また、流通BMSで規定されていない業務についてのデータ交換も、従前から行っているものであれば通信プロトコルだけ移行しJCA手順を廃止する方法もある」と栗田氏は説明した。
一方で、標準仕様から外れた使い方を無理矢理している「違反事例」も多いと言う。その多くは流通BMSの項目の意味を正しく理解せず、元のシステムの仕様のまま、1つの項目に複数の意味を持たせたり、別の意味を当てはめたりしてしまうケースだ。卸・メーカーからすれば、標準外利用が残っていると標準化するメリットはなく、従来どおりの個別対応が必要になってしまう。
こうした違反事例に対して栗田氏は「流通BMSはあくまでも社外とデータ連携するための仕組みであることを意識することが重要だ。自らの都合で現行のシステムを変えず、使える項目だけを探してみようという発想では対応できない。あくまでも標準仕様を踏まえて現行システムを改善する視点を持って欲しい」と強調した。
その他にも標準仕様に沿っていない例として、知識不足から項目の使い方を理解していないケースや、メッセージの構造・定義を正しく理解していないケースもあったと言う。
栗田氏は「標準外の事例を排除するためには、システム導入に関わるITベンダーの協力が不可欠です。小売業のシステムを手がけるITベンダーが襟を正し、足並みを揃えなければ正しい方向に進みません」と語った。
流通BMS協議会でも、標準順守を徹底させるために、調査に基づく事例解説資料を作成し、14年3月から流通BMS協議会のホームページで公開する予定だ。最後に栗田氏は「流通BMSは、小売業、卸・メーカー合わせて数1000社が使うインフラとなった。標準順守を意識することで流通BMSの導入効果を高め、企業と消費者のメリットを最大化していきましょう」と呼びかけた。
「出荷開始型モデルの標準化」と「納品明細書の標準化」 -流通BMSの標準運用への提案-
続いて、卸売業者とITベンダーで構成される「情報志向型卸売業研究会(卸研)」の研究委員会座長で、国分株式会社の情報システム部長を務める高波圭介氏が、卸売業から見た流通BMSの標準運用への提案を行った。
卸研の研究委員会では、毎年テーマを決めて研究活動を行っているが、13年度は「流通BMSの標準運用」をテーマに定め、提案と啓蒙を中心に研究を進めている。その背景について高波氏は「流通BMSの導入が進む中、オフライン(電話・FAX)での対応や、個別の納品帳票の出力など、標準外での利用が目立っている。個別対応は、システム開発や運用で余計なコスト増を招いてしまうため、各社の状況を調査しながら、具体的な内容を検討することにした」と説明した。
研究に先立ち、卸研に参加する17社(小売業の流通BMS対応企業延数355社)に対してアンケート調査を実施したところ、次のような結果が得られたと言う。
まず、オフライン分の受注・出荷については、小売業からの発注に対して出荷データを送り返している314社のうち、64社(20%)はオフライン分の出荷データの「作成」まで求められていた。高波氏は「流通BMSは発注からのオンライン化が前提だが、特売や追加発注などで電話やFAXによるオフライン受注は、これからも取引形態として残り続けていく。ここを効率化するためには、オフライン受注の出荷データを標準化しなければならない」という認識を示した。
一方、伝票・納品明細書の出力状況については、全体の約半数(45%)で複写紙の伝票や紙の明細書が依然として使われていた。「小売業では店舗の検品用、卸売業は受領の証憑として必要という理由から納品明細書を2枚以上出力し、1枚を納品時に添付、受領印が押された1枚を卸側に戻すという運用が行われている」と高波氏は説明する。
以上の調査結果を受けて卸研では、日本加工食品卸協会と全国化粧品日用品卸連合会とともに、①「電話・FAX発注から始まる出荷開始型モデルに対する出荷メッセージの標準化」と、②「帳票レイアウトを定義した納品明細書の標準化」に関して、チェンジリクエスト提出のための共同検討を開始。日本スーパーマーケット協会など流通団体の意見を確認したうえで、13年12月に流通BMS協議会にチェンジリクエストを共同提出した。
提案のポイントについて高波氏は「出荷開始型モデルの出荷メッセージとして新たに項目を定義することで電話・FAX発注の運用を標準化し、オンライン発注と同様に受領メッセージの運用と伝票の廃止を視野に入れることにある。伝票・納品明細書の標準化についても、個別仕様の開発・運用負荷を軽減し、コスト削減に貢献していく」と語った。
チェンジリクエストに基づいて作成された新しい運用ガイドラインは、14年2月には流通BMS協議会のメッセージメンテナンス部会で討議され、承認後に出荷開始型モデルと納品明細書の標準化が実現する見込みだ。高波氏は「是非認可されることを期待している」と語って講演を終えた。