「小売業の23年/24年問題」の解決に向け卸売業界が緊急提言 ~流通BMS対応要請座談会を開催~

 19年度は消費税率10%への引き上げにともなう「軽減税率制度」が実施され、流通業界は対応に追われた。一息つく暇もなく、23年10月には「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」への対応が迫られ、24年のISDN廃止も近づいている。
 これらの対応に向け、流通BMSの普及が課題となっているが、中小の事業者を中心に導入が進まない現実もある。そこで、大手の卸売業者で構成される情報志向型卸売業研究会(卸研)から流通BMSの対応・普及をテーマに検討を行っているグループメンバーを招き、現在の取り組み状況や小売業への要望などについて、ざっくばらんにディスカッションをしてもらった。

 

 

参加メンバー(五十音順)


旭食品株式会社
ロジスティクス本部 情報システム部 システム開発課 主任
(卸研 2020年度 Bグループ 副リーダー)
別所 康司 氏


花王グループカスタマーマーケティング株式会社
カスタマートレードセンター
流通システムコラボグループ マネジャー
(卸研 2016年度~2017年度 座長)
川口 和海 

 

フジモトHD株式会社
執行役員
情報システム室長 兼 企画・管理担当 部長
(卸研 2014年度~2015年度 座長)
松本 寿一 氏

フジモトHD株式会社
情報システム室
企画・管理担当
(卸研 2020年度 Bグループ リーダー)
松浦 由和 氏

 

三菱食品株式会社
情報システム本部 システム運用グループマネージャー
兼 システム運用ユニットリーダー
兼 MILAI企業間EDI構築オフィス
(卸研 2020年度 座長)
杉本 智彦 氏

 

ヤマエ久野株式会社
情報システム部 IT企画課 課長代理
(卸研 2019年度 Bグループ リーダー)
信原 圭介 氏

 

モデレーター
GS1 Japan (一般財団法人流通システム開発センター)
流通標準システム普及推進協議会(流通BMS協議会)
事務局長
坂本 真人 氏
(以下、敬称略)

 


卸研の活動内容

坂本氏

 まずは、卸研の活動内容について、座長を務める杉本さんからご紹介いただけますか。

 

杉本氏

 卸研は、各業種の卸売業に共通する情報化の課題を中心に研究し、情報志向型卸売業への発展を図ることによって、卸売業の合理化と近代化を促進することを目的に、85年8月に通商産業省(現:経済産業省)の指導によって設立されました。現在は正会員、準会員、賛助会員あわせて51社。20年の研究委員会にはそのうち42社から83名が参加して、月1回の検討会を開催しています。昨年までは集合形式でしたが20年は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、Web会議で対応しています。

 

川口氏

 卸売業やITベンダーなどさまざまな業種が集まって活動するため、実態に沿った調査が可能で、個社で対応できないことが実現できるのが強みです。最近は20代、30代の若手や女性の参加者も増え、業界内のコミュニケーションが活発になっています。

 

坂本氏

 参加者からみて、卸研の印象はいかがですか。

 

別所氏

 私は今年からの参加ですが、自社で持っていないデータや情報の活用方法など、貴重な話を聞くことができて助かっています。

 

信原氏

 参加企業と話してみると、抱えている悩みはどこも一緒ということがわかり、愚痴をいい合いながら交流が深められるのもいいことだと思います。

 

坂本氏

 ありがとうございます。次に、流通BMSの普及を検討しているBグループの活動について、20年度のリーダーを務めている松浦さんから紹介をお願いします。

 

松浦氏
 卸研では毎年、卸会社へ流通BMSの現状調査アンケートを実施しています。今年度はアンケートの質問内容をブラッシュアップして、卸研の参加企業に配布しました。昨年度は流通BMS未導入小売業に対して、普及を促すためのパンフレットを作成しましたが、今年度はこちらもブラッシュアップして、参加企業に配信しようと考えています。


坂本氏

 それでは、昨年度、19年度の活動内容を信原さんから説明いただけますか。

 

信原氏

 19年度のBグループは流通BMSの普及推進がテーマで、松浦さんから説明があったとおり、普及促進パンフレットを作成して活動してきました。特に昨年は大きなイベントとして消費税の軽減税率対応があり、10月開始の前後ではどの卸売業者のIT部門も大変な状況にありました。<※できればパンフイメージを掲載したい※>

 

坂本氏

 その前の年にも軽減税率対応などの素案検討やインボイスに関する検討をしていただいたと思います。川口さんから簡単に紹介してください。

 

川口氏

 過去には出荷始まりや納品明細書の標準化などを卸研で検討してきました。軽減税率対応やインボイス対応でも卸研から案を出し、18年度は日食協と共同で「1伝票・単一税率」の運用対応や「請求鑑メッセージ」の追加のチェンジリクエストを作成し、流通BMS協議会に申請して新たな運用ルールを追加しました。

 

 

各社の流通BMSの対応状況と流通BMSに対する印象

坂本氏

 ありがとうございます。続いて、各社さんの流通BMSの対応状況を教えていてだけますか。

 

松浦氏

 フジモトHDは、EDI取引企業389社のうち、6割弱の224社が流通BMS対応済みです。現在は23社が対応中で、決まってないのが115社。対応していない中でもWeb-EDIにするから、流通BMSは導入しないと言っている取引先も30社くらいはあります。サービス数は800くらいで、約7割が流通BMSです。

 

杉本氏

 三菱食品は、サービス数で8000サービス程度ありますが、流通BMSの対応済は3000サービス程度です。今後、軽減税率対応時のような駆け込み要請があると、間に合わないのではないかということを危惧しています。

 

別所氏

 旭食品は、受注ベースで995サービスあり、企業体の数は543+αあります。流通BMSへの移行済みの取引先は189社、Web-EDIは91社、Webからのダウンロードといった特殊対応は65社あります。レガシーの残件は全体の36%に相当する168社です。

 

信原氏

 ヤマエ久野は、2019年度の加工食品・チルド・お酒・生鮮の売上ベースで45%を流通BMSの対応企業で占めています。ただし、出荷始まり(手書伝票)も残っていて、そのボリュームは得意先によって大きく異なります。

 

川口氏

 花王はEOS実施企業約900社のうち、流通BMS対応は約500社。残りはWeb-EDIが約100社、JCA手順が約300社です。受注金額の構成比でみると、流通BMSは70%、Web-EDIが10%、JCA手順が20%という状況です。

 

坂本氏

 わかりました。では実際の流通BMSの印象はいかがですか。対応してきて大変だったところ、流通BMSだからこそ実現できたこと、今まで対応してきて素晴らしいと思うところがあればお聞かせください。

 

川口氏

 花王は標準維持を推進してきたので、取引先に修正等を対応してもらうのが大変でした。「先行して対応した食品卸さんが標準外対応している場合は、花王さんは対応してくれないのか」といわれたり苦労しました。良かったことは、軽減税率制度への対応の時に流通BMS対応企業は特に何もしなくて済んだことですね。

 

杉本氏

 川口さんが言われた標準外対応ですが、加工食品業界は、音響カプラでのJCA手順時代からデータ受注に腐心してきた経緯もあり、EDI化率を高めるために得意先からの要望に対して「やります」と数十年前から応えてきた積み重ねが今の状況になっています。今でもかなりの高い割合でEDIで受注しているものの、それでも手入力がかなりの件数あり、それに対応するために日本全国で数百名が電話、FAX、メールでの受注に対応しているのが実態です。

 

 当社における流通BMS対応ですが、流通BMSの中には得意先ごとにマッピングがあるため、完全に1つの型で標準になっているわけではありません。とはいえ、JCA手順のレイアウトと比べたら圧倒的に標準的です。20年くらい前は私たちもJCA手順の開発が得意でしたから、開発スピードではJCA手順が圧倒的に速かったものの、10年くらい前から開発スピードは標準化されている流通BMSが速くなっています。

流通BMSで苦労しているところでいえば、得意先ごとに多少のマッピングの違いが生じているところです。とはいえ、どこまでいっても全企業が同じマッピング形式にはならないので、そこは許容範囲だと捉えています。

 

信原氏

 私たちが苦労してきたことも、標準外の仕様にどう対応するかです。取引先から「他社さんにもこれでやってもらっているから、同じように標準外対応して欲しい」というリクエストが多く、そこはいつも悩むところです。基本は「標準外の対応はしません」と答えて、そのデータを送ってもらわないようにしています。

 また、今までJCA手順で発注していたお客さまが、返品などの新しいメッセージを使うようになった時、運用方法が固まっていなくてどうしたらいいか、と聞かれたりすることもあり、小売側でも流通BMSに変えてどうすればいいか運用が固まっていない場合もあります。私たちから「こうしてください」と運用を固めてあげるのもおかしな話ですが、そういう調整が特に中小のお客さまを中心に出てきています。

 

坂本氏

 卸売業者からある程度、返品など面倒な運用の方法が統一できれば、それはメリットになるということはないですかね。

 

信原氏

 おっしゃるとおりです。そこがお客さまによってばらばらだと、私たちが苦労することになります。ある程度、運用方法を業界で決めてくれればメリットになると思います。

 

別所氏

 私が大変だと思うところは、流通BMSのデータを弊社のフォーマットに置き換えて処理するところです。規格外のマッピングシートで対応して欲しいというリクエストが小売側からあり、そこで苦労しています。例えば、備考欄に勝手にコードを追加されていて、それを納品リストに出して欲しいとか、他にデータ上で出荷データを返して欲しいと言われた時、フォーマットがないために個別の対応になっています。

 

 流通BMSが素晴らしいと思うことは、処理が短時間で終わることです。JCA手順では支払データ件数が2,000件、1万件と大量にあった際に、それを取りにいくと何時間もかかっていました。流通BMSなら、支払データの取得処理も数分で終わります。加えて、標準化されることで1つのプログラムで稼働できるので、開発コストも圧倒的に減りました。

 

松本氏

 フジモトHDでも、標準化によって生産性が5割から6割くらい上がっています。大手の取引先だと2時間くらい受信でかかっていた時間が、20分くらいで済むので物流スタートが早くなり、短いリードタイムを求められる得意先にも対応ができています。

 

坂本氏

 先ほど、Web-EDIで対応している場合もあるという話がありましたが、Web-EDIで苦労していることはありますか。

 

松本氏

 Web-EDIの欠点は、自動化できないことですね。人が手作業でデータをダウンロードしないといけないのがネックになっています。

 

坂本氏

 自動化できない理由は、Webブラウザーがバージョンアップされたり、仕様が変わったりと、さまざまな要因があるようですね。現在、Web-EDIで使っているパターンが30~50はあると聞いていますが、各社さんは自社でそれぞれ対応されているのでしょうか。

 

川口氏

 花王の場合、スーパーやドラッグストアから、新規でWeb-EDIに対応して欲しいという要請は年に1、2件程度です。ただし、取引が多様化しているため空港の免税店やEC事業などと新規で取引すると、相手側が流通BMSを知らないことが多く、結果としてWeb-EDIになってしまいます。しかも一般的なWeb-EDIソフトを使わず、自社で開発することになるため、多額のシステム開発費がかかることもあります。

 

松本氏
 フジモトHDの中でWeb-EDIが残っているのは昔からWeb化しているところですね。専用端末やインターネット回線に切り替える以前から対応している取引先はなかなか変えられません。数にすれば10社もいきませんが、オペレーターが手動で対応することになるため、作業負荷がかかります。


坂本氏

 人が介在すると、担当者が作業をやり忘れたら、情報が取れなくなるリスクも生じやすくなりますね。

 

川口氏

 特に出荷報告が困ります。全国の出荷拠点でどの店舗のどの商品が欠品したのかを確認して、Webに入力する必要があります。全国的に店舗数が多い場合は、担当者が1人で入力するため大変です。

 

松本氏

 週に1、2回しか受注しないところでも、1回の処理で3時間くらいかかります。そのためだけに専任の担当者を用意して作業をしないといけない。

 

坂本氏

 以前、私が聞いたホームセンターでは特殊商品のように月1回の発注しかないものは、EDI化するのが難しいと言っていました。そうなると伝票やWeb-EDIで対応せざるを得ないと思いますが、人を介在させずにできるようにすることは必要と思います。

 

杉本氏

 特に日本は、台風や地震が多く、災害時や非常時のタイミングで人間が介在するのは弱点になります。やはり受注・発注は人が介在せずに自動で対応するべきですね。

 


受発注請求支払関連システムを取り巻く環境変化

坂本氏

 続いて、受発注請求支払関連システムを取り巻く環境変化についてうかがいます。まず、21年1月から公衆交換電話網(PSTN)からIP網に切り替わる「PSTNマイグレーション」が始まります。通信事業者間とのIP網の接続が開始されると、データの通信速度が低下し、受発注の遅延が起きる可能性があります。一般的に、JCA手順で2時間かかっていた通信が3時間くらいなる可能性があるようです。PSTNマイグレーションに関して、各社の思いや課題を聞かせていただけますか。

 

川口氏

 21年からPSTNマイグレーションが始まることは、多くの小売業者は知らないようです。ひょっとすると、ITベンダーも知らない可能性もあります。

 

坂本氏

 NTT東西が詳細を明確に公開してない影響もあるかもしれません。どれだけの影響が出るかもはっきりしておらず、回線がクリアな状態で全銀手順なら最大で4倍、JCA手順で最大1.5倍遅くなると一般的に言われています。実際には負荷によって変わってきます。NTT東西は、ISDNに変わると遅くなるという言い方はしていますが、「21年1月」は表だって出してきません。すでに「24年1月から公衆回線網が終了する」というキーワードは市場に多く出回っているので、24年までは大丈夫と勘違いしている人が多いのではないでしょうか。

 

松浦氏

 そこは意外な盲点ですね。ところで、24年になると、JCA手順はまったくつながらなくなるのでしょうか。

 

坂本氏

 つながらないことはないものの、NTT東西では「非常に時間がかかる」「接続時間が長くなる」という言い方をしています。

 

松本氏

 とはいえ、JCA手順の通信に3分しかかかっていない小さな取引先の場合、通信時間が4倍遅くなっても12分で終わるなら問題ないのではという意見もあります。ただし、機器の維持が大変で、モデムを作っているメーカーも今はありません。モデムが壊れたらどうするかという心配もあるので、できるだけ早く流通BMSに切り替えたほうがいいのは明らかです。

 

杉本氏

 卸売業者も小売業者も、正確に理解していない所が多い様な気がしています。卸研としても正しい情報を積極的に発信する必要があると感じています。

 

松本氏

 現場の危機感が薄いのもあると思います。お客さまの前面に立っている物流現場や営業担当からプッシュしてもらう活動も必要ではないかと思います。

 

坂本氏

 もう1つの問題は、軽減税率制度への対応です。みなさんは、昨年10月に区分方式に対応されたと思いますが、そこでの苦労や23年のインボイス対応に向けて懸念や課題がありましたらお聞かせください。

 

松本氏

 フジモトHDでは、19年10月の軽減税率対応で駆け込み対応の依頼がかなりありました。社内では1月くらいから営業本部長や業務や物流のメンバーを呼んだりして啓蒙活動をしてきました。その際、8月には締め切ると言い切ったものの、8月以降もポツポツと対応依頼が出てきました。

 

坂本氏

 その前に、取引先には通達を出しましたか。

 

松本氏

 はい、3月くらいから営業を通して対応が間に合わなくなるという話はしてもらっていました。それでも、大手小売の中には8月に回答するというところもありました。

 

川口氏

 花王の場合は、対応を受け付けないというより、間に合わないから本番日が後ろにずれますという説明をしました。9月に入ってから4割くらいの要請はありましたが、10月1日以降の本番切替で対応する結果になりました。

 

杉本氏

 三菱食品も同じです。6月末までに詳細仕様が提出されなければそれ以降は間に合わないという話をしましたが、7月以降も当然のように出てきました。できる限りの対応を行い、影響が軽微な場合、10月には間に合わなくても11月に伸ばすなど、やりくりしました。経営層も当然、重大な課題であることは意識して頂いており、役員会や取締役会で社長より営業サイドにハッパをかけて頂いておりました。

23年のインボイス対応では同じ轍を踏みたくありません。幸い、今回の軽減税率対応で苦い経験をした人も多いので、インボイス対応は早めに打ち出したいと思います。

 

川口氏

 花王の場合、EOS化していない取引先も含めて、ほぼすべて軽減税率対応は終わっています。あとはEDIのところをどうするか。JCA手順やWeb-EDIの要請が減れば、作っても3カ月しかかかりません。

 

坂本氏

 現状、紙でやっている取引先や伝票で対応している取引先も、フォーマットがインボイス対応になると、システム改修が入るわけですよね。

 

川口氏

 開発は必要ですが、請求書を出しているところは請求書を一気に変えてしまえば対応ができます。紙の支払明細をもらっているところは時間がかかりますが、標準の請求書の範囲内であれば問題はありません。

 一番の問題はEDI対応で、特に固定長の変更は回避したいことです。流通BMSなら何もしなくても問題ありませんが、それ以外は何かしら対応が必要となってきます。次回のインボイス対応で私たちから政府にお願いしたいのは、やらなくていいことを明確に打ち出して欲しいということです。区分方式では伝票への税率の印字が必須と思っていた小売が多く、印字の対応行った企業が多かったのですが、実際は必ずしも伝票に税率を印字する必要はありません。次回は、今回のツテを踏まないように明確な説明および周知をして欲しいと思っています。

 

 

小売業に対するリクエスト

坂本氏

 次に、小売業に対して、流通BMSに早めにして欲しい、こういうスケジュールでやって欲しいなど、お願いしたいことはありますか。

 

松本氏

 卸は取引のある小売に段階的に対応し導入期間がかかるので、その認識は持って欲しいと思います。ぎりぎりまで待つとタイトなスケジュールになり、直前の依頼には対応できない場合があります。

 

坂本氏

 流通BMS協議会で小売業から申請いただければマッピングシートチェックを行っていますが、小売業へ「マッピングシートを受けていますか」みたいな話をしたことはありませんか。

 

川口氏

 説明会やその後にマッピングシートを入手できるので、その際には自分でチェックしています。そのタイミングで、小売業からチェックを受けますと言われても遅すぎますね。小売側もITベンダー側も余裕を持ってチェックを受けているところは少ないと思います。

 

杉本氏

 卸売業から小売業に対して「チェックを受けてください」とは言いにくい面もありますね。

 

信原氏

 最近、ヤマエ久野で続いた問題が、マッピングシートどおりに作ったものの、実際は違っていたというパターンです。取引先に対して「マッピングシートと違っています」と指摘したところ、すでに他社と取引を始めているので、それで対応して欲しいといわれたことがあります。最終的にマッピングシートどおりに直してもらうようにお願いはしましたが、今年になってその手のトラブルが続きました。

 

川口氏

 マッピングシートから外れるパターンはいろいろありますね。テストデータの時と実運用で違うデータを使ったり、コードの発注が違うところに入っていたりして改めてマッピングが必要になるなど、得意先によって千差万別です。

 

別所氏

 実際、マッピングシートを受け取れば私たちでもチェックはしますが、卸売業の側から小売業に対して提案できないのが実情です。テストで実施したマッピングシートどおりのデータが来ると想定して、弊社もプログラムを準備しているものの、テスト完了後に実際のデータと違うことが判明したりすることがあります。

 

坂本氏

 説明会前の仕様を固める段階でマッピングシートチェックを受けていただくことと、マッピングシート通りに進めてもらうことが、スムーズな流通BMS対応につながるということですね。

 

 

流通BMSの重要性、標準化の意義、卸売業の役割

坂本氏

 ありがとうございます。ここまでお聞きして、今までになかった課題があることを実感しました。最後にまとめとして、流通BMSの重要性、標準化の意義、卸売業の役割の3つについて改めて意見を聞かせていただけますか。

 

杉本氏

 卸売業界は今、変化の中に居ると感じています。個々のシステムで個別優位性を築いていた時代は終わり、これからは個々の会社だけでは生き残れない時代になってきます。これからは協働する時代です。非競争領域においてプラットフォーム化されたシステムを共同構築、共同利用する。その核となるべきなのが、卸各社の連携であり、卸研でも卸各社の連携の一端を担うべきと感じています。今から10年、15年前ならEDIでデータ交換することで優位性が手に入りましたが、現在はどの企業でも同じように対応できるので、競争領域でも何でもありません。

 システムについても個々に作るのでなく、1つのシステムで共同利用していくタイミングにあると思います。それらを検討し、情報を連携する場が卸研です。標準化や共通化は個々の会社ではできません。卸研において継続的に取り組み、各社で意見を戦わせて結論を導き出し、それを突破口にする。流通BMSの普及はもちろんですが、その裏には人の連携やデータの連携があり、プラットフォーム化がそれらを包含しているということではないでしょうか。

 

信原氏

 私は日常業務を通して、流通BMSの重要性を普段から認識していましたが、昨年の軽減税率制度への対応という大きなイベントを通して、改めて実感しました。軽減税率制度への対応に乗じて、流通BMSに乗ってくれた取引先もあれば、JCA手順のままで対応している取引先もあります。レガシー対応の取引先も、共通化や標準化を拒否しているわけではなく、どうやって対応していいかわからない、コストがどれくらいかかるかわからない、というように、道標がないからできていないだけではないかと思います。

 

 そのために、卸売業者がコーディネートしていくことを今後、卸研として目指していければいいと思っています。流通BMSが普及していけば、お客さまもスムーズに取引ができ、余計なところに力やお金を使わなくていい。最終的なメリットが享受できるということを広めていきたいと思います。

 

別所氏

 私も軽減税率制度への対応の際に改めて、流通BMSに対応することのメリットを実感しました。JCA手順の場合、伝票のA欄に消費税を打ち出してください、所定の場所に軽減税率を印字してくださいなど手間が多く発生し、デメリットを感じる部分が多くありました。流通BMSへの切り替えにコストはかかるかもしれませんが、利点が伝われば小売業者、ITベンダー、卸売業者の3者がハッピーになると思います。

弊社には流通BMSを導入する際のシステム担当者が7名いて、この7名でレガシーから流通BMSに切り替えています。標準化すれば数日で対応が可能ですが、個別開発が発生すると3カ月はかかると見積もっています。数日で流通BMSの導入が可能なら、年間で150件程度の対応が可能ですが、個別になると7名で動いても年間で50件くらいしか進みません。ITベンダーや卸売業者の負担軽減のためにも、標準化は重要です。

 

 ライフラインを支えている卸の役割は大きく、台風や地震で日本中に被害が発生したり、新型コロナでもスーパーの棚が空になったりしている中、卸売業者はメーカーと小売の間に立って商品を届けなければなりません。私もまだまだ未熟ですが、確固としたポリシーを持って流通BMSの普及や卸売業の業務改善に携わっていきたいと思っています。

 

松本氏

 卸売業は社会インフラであり、東日本大震災でも生活を守るために安定的に物資を供給することが求められました。フジモトHDでもおむつや生理用品などを届ける意義があります。それを実現するためには基盤の強化が必須であり、杉本さんが言ったようにプラットフォームを共通化することでインフラ基盤は強固になります。そのためには標準化の1つである流通BMSが重要になると認識しています。

 

松浦氏

 若い世代からすると、JCA手順は最初からレガシーでした。ですから、現在の流通BMSも数十年先にはレガシーになっていくと思います。未来になって流通BMSから先の最新システムに切り替える時、JCA手順で苦労してきた現在と同じようなことが起きては意味がありません。標準化は企業をまたぐ横の連携も重要ですが、時代をまたがる縦の連携でも必要になります。個別に対応してきたシステムの場合、対応できる人材がいないという問題も起こりますが、標準化されていれば誰でも簡単にできます。新しいものを入れるなら、現在の課題を繰り返さないように、先の世代を見据える意味でも流通BMSを導入していく必要があると思っています。

 

川口氏

 今回、軽減税率制度、インボイス、PSTNマイグレーションなどの切り口で語ってきましたが、そもそも流通BMS自体はそういった切り口に関係なく、普及させましょうということで09年から進めてきたものです。たまたま軽減税率制度やインボイスなどの話が出てきて卸売業やITベンダーが対応を呼びかけていますが、個別の課題に関係なく標準化は進めていくべきです。今後、デジタル化社会に移行していく中、標準化ができなければ企業活動や業務にしわ寄せがいくことは明らかです。デジタル社会やデジタルトランスフォーメーションの実現に向けて、標準化はより重要になるはずです。

 

 もう1つは、今後も新たな法律が生まれて対応が迫られる可能性が十分にあるということです。特殊なことをしてしまうと、その時にまた個別開発が発生しますが、標準化しておけば1つを直すだけで対応ができます。その点においても標準化は重要です。卸売業におけるシステム部門の役割は小売業とITベンダーの間に入り、標準化を双方に伝えていくことにあります。そのため、小売業にも標準化の意義をきちんと理解してもらうことに今後も力を入れていきたいと思います。

 

坂本氏

 ありがとうございます。標準化が大事だと以前からいわれていますが、新しい標準を作って以降、メンテナンスもせずにやってきたのが過去の歴史です。流通BMSでは、その時々の状況に応じて変えていくことも対応していくつもりです。川口さんがおっしゃったように、インボイスやPSTNマイグレーションなどの問題がなくても流通BMSを普及していこうというのが当初の目的です。その中で大手の卸売業者が集まり、中小の小売業に対して意見をしていただける卸研の役割は非常に大きいと思います。今後も流通BMS協議会として後方から支援し、効率化や高度化を一緒に進めていきますので、みなさまには引き続きご協力をお願いします。


 

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