流通4団体の合同による「流通BMS普及推進説明会」

 昨年流通小売業各社は「流通BMS導入宣言書」を発表した。導入・拡大計画を具体化したことから、2012年は流通BMSの導入が本格化する年と期待されている。こうした背景を受けて、日本スーパーマーケット協会、オール日本スーパーマーケット協会、(社)新日本スーパーマーケット協会、(社)日本ボランタリーチェーン協会の流通4団体は1月25日、「流通BMS普及推進説明会」を東京・港区のSCSK青山ビルで開催した。
 説明会では流通BMSの概要や普及状況、普及促進の取り組みを紹介すると共に、導入事例の講演や経済産業省の担当者による特別講演などが行われた。そこで今回は注目の講演をレポートする。

 

 

基幹システムの再構築と並行してEDIの標準化を実行

 

 流通BMSを導入した小売事業者の事例として、サミット情報システム部 マネジャーの長尾建氏が講演を行った。サミットは、東京、埼玉、千葉、神奈川で102店舗のスーパーマーケットを構え、食料品を中心とした品揃えで地域住民の生活を支えている。近年、少子高齢化で食生活が変化し、時代に即した店舗作りが求められている。2015年までに150店舗の出店を目指すサミットにとって、出店を支える体制の整備が急務となっていた。

 長尾氏は「解決策のキーワードは標準化です。まず11年3月に基幹システムをSAP ERPに刷新し、さらにそれと連携する営業系システムを再構築することで、業務の標準化をはかっています。これらのシステムとスムーズにデータ交換を行うためには、EDIの標準化が必須と考え、流通BMSの導入を決定しました」と語った。

 

 サミットでは15年前に導入したEDIシステムで、JCA手順によって取引先とデータ交換を行ってきた。伝票レスなどは実現していたものの、将来にわたって使い続けるには不安があったという。流通BMS導入の目的を長尾氏は「将来を見据えたインフラ基盤を構築し、取引先との連携を強化していくため」と説明した。


 流通BMS導入に際しサミットは、外部のシステムをサービスとして利用するクラウド型のEDIシステムを採用。11年11月から大手を中心とした取引先12社と、発注、受領、返品、支払、出荷のデータ交換を行っている。導入のポイントを長尾氏は次のように語った。 「クラウド型のサービスを利用することでコストを最小限に抑え、導入期間を短縮することができます。ただし、すべての取引先を対象とするとリスクが高いので、当社の場合は200社以上ある取引先の中から12社に絞り、順次拡大していく段階稼働の方針としました。段階稼働の中でテスト計画や連絡体制を確立し、情報システムのオペレーション体制を整えることが重要です」


 サミットの成功ポイントは、基幹システムや営業系システムの再構築に合わせて流通BMSの導入に踏み切ったことにある。長尾氏は「基幹システムからEDIシステムまでを有機的に連携させることで、取引先との関係はより強固になり、Win-Winの関係を構築することができました。流通BMSの導入では、自社システムの見直しと並行し、全体最適の視点で取り組むと、より高い効果が得られると思います」とアドバイスを送った。

 

 

大手小売業者のノウハウが凝縮された流通BMS

 

 導入事例の2社目として、ヤオコー 営業企画部 システム管理担当部長の神藤信弘氏が講演を行った。ヤオコーは、埼玉県を中心とする関東圏で食品を中心としたスーパーマーケットを116店舗展開している。中期テーマに生産性向上を掲げるヤオコーでは、業務の標準化が経営課題となっていた。

 11年の「製・配・販連携協議会」に参加し、「流通BMS導入宣言書」に賛同したヤオコーはいち早く流通BMSの導入を決定し、12年からの本格的な運用に向けて準備を進めている。神藤氏は流通BMS導入の目的を「流通業界全体の効率化への貢献、取引先の負担軽減、MD業務のサポートなど」をあげ、次のように語った。 「当社はリーマン・ショック以降、MD戦略を変更した結果、品揃えが少量多品種となり、取引先数、品目数ともに増加しています。少量多品種化によって増加した取引先への負担を軽減するためにも、データ提供手段の標準化が必須であると考えました」

 

 EDIシステムは、外部のシステムをサービスとして利用するクラウド型を採用。現在、取引先に対して順次導入を進めている段階で、12年1月には取 引先3社がテスト稼働を開始している。12年9月までにはグロサリー関連の取引先の約70社が流通BMSへの移行を終え、さらに12年下期までには、生鮮 関連の取引先約100社が流通BMSに移行する予定だ。導入のポイントについて神藤氏は「取引先に対して導入期限を明確にすることです。あいまいなままに してしまうと様子見の取引先が続出し、導入の遅れは避けられません。当社の場合、2011年9月に取引先説明会を実施した際、1年後には必ず切り替えて欲 しいと期限を切って要望しました」と説明する。


 流通BMSの導入で得られるメリットについては、通信の一元化と合わせて通信速度の 短縮をあげた。「送受信合わせて1時間弱の短縮が実現し、取引先への納品時間の前倒しができるようになります。早い時間に商品が到着することで、店内作業 においてもメリットが生まれるでしょう」と神藤氏。


 ヤオコーでは、流通BMSの次のステップとして、POSデータの配信、在庫デー タの配信、商品マスターデータの配信を通して、最適な棚割の提案や在庫の削減を進めていくという。最後に神藤氏は「大手小売業者の業務内容や必要項目を踏 まえて実装した流通BMSには、大手企業のノウハウがすべて詰まっています。つまり、流通BMSを導入することでチェーン店拡大の過程で生じる問題や、業 務改善の課題が一足飛びにクリアできる可能性を秘めているのです。そのためにもいち早く流通BMSに切り替え、それぞれで成果をあげて欲しいと思います」 と語った。

 

 

流通BMSを消費財サプライチェーンの災害対策に活用

 

 特別講演として、経済産業省 商務流通グループ流通政策課 課長補佐の妹尾善多氏が、経済産業省が主導する実施中の「ライフライン物資供給網強靱化実証事業」について説明し、参加と協力を呼びかけた。まず妹尾氏は、11年3月の東日本大震災で生産必需品の不足が各地で長期間にわたって発生したことを説明。「被災地の需給バランスが速やかに把握できず、調達の遅れにつながりました。また、商品の市中在庫量や所在が不明となり、政府の被災地支援で最適な物資配置ができなかったことも事実です。店頭での在庫情報もわからず、消費者はどこにいけば商品があるか分からず混乱しました」と語った。


 経済産業省は今後の震災や首都直下型地震に備えるために、生活必需品の流通に関して円滑に配送・在庫配置を行うデジタル・インフラ基盤を整備することを決定。

 

 小売業、卸売業、メーカーから生産情報・販売情報・在庫情報を収集して管理する基幹システムを構築し、緊急時には政府・自治体が需給バランスを把握して物資を調達したり、一般消費者に商品供給情報などを公開することを目的とした事業検証を始めている。「製配販から得た販売在庫情報を位置情報とひも付けることで、生活必需品がどこに何があるかを把握し、被災地への支援物資調達の業務基盤として活用することをイメージしています」と妹尾氏はデジタル・インフラ基盤整備の全体像を明かした。


 経済産業省ではこの事業に8億円の予算を計上。12年から今後3カ年計画でスーパーマーケットなどに協力を仰ぎながら検証を実施する予定だ。基盤となるシステムと、小売業、卸売業、メーカー間のデータ連係においては、標準化された流通BMSのフォーマットに則った形式でメッセージを交換する構想を描いているという。


 緊急災害時向けの取り組みは、平常時におけるサプライチェーンマネジメント(SCM)の効率化にもつながるとし、妹尾氏は「製配販の各社が企業の枠を超えて販売データや在庫データの共有を進め、生産・在庫の適正化や、返品削減、配送効率化を達成することで、消費財流通としての収益性向上が実現するはずです。そのためにはデータフォーマットの標準化が欠かせません。効率的なサプライチェーン・マネジメントを確立するためにも、流通BMSの普及と合わせて、実証事業への参加をお願いします」と呼びかけた。

 

 

 

 

 

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