流通5団体による「流通BMS普及説明会」が開催

 いよいよ普及本格化が進もうとしている流通BMS。この流れを後押しするため7月30日、流通5団体による「流通BMS普及説明会」が、東京・秋葉原UDXで開催された。経済産業省 商務流通グループ 流通政策課 係長 中村彰吾氏の挨拶を皮切りに、流通システム開発センター 流通システム標準普及推進協議会上級研究員 新宮徹也氏が「流通BMSの導入効果と利活用について」解説。次いで、日立製作所 産業・流通システム事業部主任技師 大木昇氏が「流通BMS導入のポイント」を説明した。そして説明会の最後に行われたパネルディスカッションでは、小売り・卸・ITベンダー8名が登壇して、それぞれの立場から活発な議論を展開した。

 

 

小売り・卸・ITベンダー8名によるパネルディスカッション

 

 「流通BMS普及説明会」は日本チェーンストア協会、日本スーパーマーケット協会、日本セルフ・サービス協会、オール日本スーパーマーケット協会、日本ボランタリー・チェーン協会の流通5団体と日立製作所が主催(特別協力:流通システム開発センター)。200名の定員に300名を超える事前申し込みがあり、流通業界に関わる参加者の関心の高さをうかがわせるものとなった。

 パネルディスカッションでは、「標準化の動きと中小企業が標準EDI(流通BMS)を導入することで得られる経費改善効果」をテーマに、議論が展開された。パネリストは、小売り3社(ユニー、シジシージャパン、たからや)、卸3社(国分、山星屋、サンライズ)、ITベンダーとして日立製作所、そして流通システム開発センターと、各企業・団体から8名が参加。コーディネーターは日本スーパーマーケット協会の専務理事の大塚明 氏が務めた。パネリストの発言趣旨を以下に紹介する。

 

パネリスト
ユニー株式会社 執行役員 システム物流部 部長角田吉隆 氏
株式会社シジシージャパン CS統括部システムチーム主事 草留正樹 氏
株式会社たからや 代表取締役社長 溝口浩幸 氏
国分株式会社 情報システム部EDIシステムチーム 課長福沢美二郎 氏
株式会社山星屋 情報システム部 課長 磧上末和 氏
流通システム開発センター 主任研究員 坂本真人 氏
株式会社日立製作所 主任技師 大木昇 氏

 


たからや 溝口浩幸氏


 当社は神奈川県で6社のスーパーを展開しています。私は「流通BMS」という言葉を聞いたことはあり、メリットについても耳にしていますが、本当に どれほど効果があるのか、費用対効果はどうかとなると、やや疑念があります。それだけメリットがあるのならなぜ普及しないのかといった印象もあります。

 当社は2003年にEDIを導入し、EOSによる発注、JCA手順によるEDIでの仕入れ確定、伝票レスを実現してきましたが、その際にも取引先に理解して もらうのにかなり苦労した経験があります。その時の経験から、できるだけわかりやすい説明が欠かせないと思っています。BMSもそうですが、そもそもIT 業界では、すぐに横文字を使いたがる傾向がある。しかし大企業と違って、われわれ中小スーパーにはシステムの専門家も少ないですから、現場の人たちにも理 解できる分かりやすい言葉に置き換えるとともに、導入の効果が実感できるようにしていくことが大切だと思います。

 

 また、流通業界の標準をうたう以上、普及促進のために助成金など国の支援も是非、お願いしたいですね。その上で、コストも考慮し、自社だけでなく業界にとっても良いことであれば導入を検討したいと思います。

 

 

流通システム開発センター 坂本真人氏

 過去の「標準化」の取り組みは小売業中心でしたが、今回の流通BMSは小売り、卸、メーカーの3者が協同して議論を重ね、6年かけてつくり上げてき たもので、そこに大きな意義があると考えています。そして、標準は皆さんに広く使っていただいてはじめて、大きなメリットが得られるものですから、これか ら業界全体に流通BMSを普及・浸透させるための施策を進めていこうとしています。

 ただ、これまではターゲットの一つである中小流 通業の現場に対する施策だけでは、導入の狙いやメリットがきちんと伝わっていなかったことも事実です。そこで、昨年度に「効果の見える化」として、効果算 定のための数式も公表しました。また、お手元にお配りした概説「流通BMS」の作成などを通じて、現場の方々により分かりやすい施策の展開を図ろうとして いる最中です。さらに、今回のような普及説明会をはじめ、地方の方々にも流通BMSに対する理解を高めていただくためのセミナーを全国7-8カ所で開催す ると共に、ITベンダーさんを通じた啓蒙活動も行っていく予定です。

 

 

ユニー 角田吉隆氏


 私はトップに対して流通BMSの必要性を説明する際に、EDIとかの言葉は一切使いませんでした。ただ、小売業は今後、少子高齢化を迎える中で、さ らに厳しい状況になると考えていましたし、そうした中でビジネスを成長させていくには、お客様の期待値にどれだけ応えられるかが小売業としての原点だと力 説しました。

 日配のチルドセンターを立ち上げた際には、物流の改革で業務効率が上が ることは当たり前ですので、それ以上にメリットを訴えたのは、お客様に人気がありながら、規模が小さかったり、先方にEOSなどの仕組みがないために扱え なかった商品を、われわれの側でサポートして扱えるようになる。つまり、顧客満足を高めるために、店頭での競争力を高め、売りにつなげる手段が流通BMS だと説明しました。

 

 誤解が多いようですが、流通BMSは決してEDIメッセージの標準ではなく、ビジネスモデルを標 準化したものです。現状業務がちゃんと動くことが前提で、そのため流通BMSを今の業務に適応すればこれだけ効果があるということもすべてマニュアル化さ れています。実際、当社における効果としては、当日発注、当日納品が可能となり、業務の大幅な効率化を達成しています。さらに、今秋からは本格的に流通 BMSの展開を加速させる計画です。

 

 

シジシージャパン 草溜正樹氏

 経営者は略語を嫌うというお話は私も同感です。当社では、あくまでこれまで取り組んできたEDIの効果をより高めるための手段が流通BMSだと説明しました。シジシーは中堅・中小規模のスーパーの集合体で、加盟224社の企業規模は、年商100億以下の企業が53%と過半数を占め、年商300億以下の企業となると全体の80%を占めます。

 シジシーでは、グループの物流の協同配送とEDIの取り組みを行っており、既に21年前にグループ内で活用できるEDIを構築してきました。この流れの延長として、流通BMSの共同実証がスタートする際に、グループの次の標準として流通BMSを採用しました。流通BMSは、大手流通業、流通業界のメソッドが詰め込まれたものです。われわれの経験から標準化は必要であるという前提に立った時に、流通BMSに代わる標準は有り得ないと考えました。最大の目的はEDI比率の向上であり、その結果、生産性の向上につながるものと考えています。現状の活動としては、グループのインフラ整備の一環として捉えており、同時にマスターの整備を進めています。

 

 ただ一方、流通BMSの普及が思い通りに進まない理由としては、EDIの導入から間もなく、流通BMSまでは手を付けられない、知識があるシステム人員がいない、といった事情があるようです。こうした問題に対しては、シジシーの本部システムで対応するようにしています。また、既に効果を上げている企業には先導役として、啓蒙活動を行ってもらうといった取り組みを進めています。

 

 

サンライズ 福寺誠一氏


 私どもは、主にアイスクリームや冷凍食品などの卸売業を行っています。冷凍食品市場も厳しい価格競争にさらされており、業務効率化を進めていますが、そろそろ1社の努力だけでは限界が来ているのではないかと思います。

 インフラは共有せよというお話がありましたが、私もインフラでの競争はすべきではないと思います。むしろ業界全体として抱えている無理なことや無駄なことを排除することで、製・配・販のそれぞれがWin-Winの関係を築いて、利益改善につなげていけることもあるのではないでしょうか。そこで大切なのは、双方の利益となる仕組みができることであり、片方だけの利益を優先させるべきではありません。もし、そうした関係になってしまうと決して長続きはしないと思います。

 

 また、何か新しい試みが始まると、やはり気になるのは現状の業務に支障をきたすのではないかということです。メーカーさんはブランドがあり、小売りさんは地域のお客様との強い繋がりを持っている。われわれ卸は、その間に立っていかに安心してトラブルなく商品をお届けするかが問われます。そこで既に流通BMSを導入された他の卸売業の方に、是非、導入に当たってそうした問題をどのように克服したのかを教えていただけると幸いです。

 

 

国分 福沢美二郎氏

 流通BMSは標準とはいっても、まったく新しい規格なので、導入に当たっては新たなシステム開発は必要です。しかし、そのコストを考慮してもそれ以上に多くのメリットを得られると考えて当社は導入に踏み切りました。流通BMSの導入メリットですが大きく3点があげられます。1つ目はフォーマットの統一によるシステムのコストダウン、2つ目がデータ通信の高速化、3つ目が帳票レスです。

 当社ではこれまでEDI部分の手直しが頻繁に発生していました。情報システム部へのシステム更改の依頼は月間で300-400件ほどあり、このうちEDI絡みが6-7割を占めています。それが流通BMSへのフォーマット統一によって取引先ごとのデータ構成の差異がなくなり、手直しが減少しました。また、対応のスピードもアップしています。通信の改善では、当社から小売りさん側にデータ取得に行く必要がなくなり、小売りさん側から送られてくるという形になりました。このため取得漏れもありません。そして帳票レスによって、伝票の付け合わせという作業がなくなりました。今後はラインプリンターも廃止する方向にもっていければと考えています。


 ただ、情報システム部としてはこうした個々の業務改善も重要ですが、お取引先様との関係でシステムの安定稼働が何より重要と考えています。流通BMSの導入は結果的に、その点でも貢献してくれています。

 

 

山星屋 磧上末和氏


 当社はお菓子を専業とする卸売業です。当社では10年前に既に伝票の98%がオンライン化していました。また、2000年頃よりWeb-EDIが立ち上がったものの、手入力の作業が残っていました。月間では4万6000回のオンライン送受信を行っており、一日当たりでは約1500回になります。これを手作業でWebで受信するということが広がってくると、負荷も大きくなってしまいます。こうした状況の中、ある有力な取引先さんに流通BMSの導入をすすめられて、2006年度にグロッサリーを対象とした流通BMSの共同実証事業に当初より参加しました。流通BMSを評価した点は、これまで各小売りさんごとに対応しなければならなかったEDIのフォーマットが統一されることです。また、小売さんだけでなく、卸側の要望も多く取り入れられたことです。

 

 その効果が実証できたことから、2007年より本番稼動に移行しました。現在では、15社の小売り様と流通BMSでの取引を行っています。メリットとしては、これまで1時間ほど掛かかっていた通信時間がわずか2、3分ですむようになったことです。通信時間の短縮によって、出荷業務にいち早く取り掛かかれるようになりました。また、システム開発コストも4割減となっています。
 今後の流通BMSについて是非、お願いしたいのはシステムを手掛がけるベンダーさんは例外(個別仕様)を作らず、標準の枠内できっちりと対応するようユーザーさんに指導して欲しいということです。

 

 

日立製作所 大木昇氏

 これまでの皆様の貴重なご意見を聞いて感じたことは、流通BMSが本当に普及していくには導入のメリットをいかにキャッチアップしていくかが不可欠の課題だということです。昨今の厳しい経営環境の中では、EDIの改善というだけではなかなか、導入に踏み切ることは難しいと考えています。現状の業務や経営の課題を解決していく上で、流通BMSが貢献できる部分は大きいのではないかと考えています。

 また、流通BMSは、小売企業、卸売企業が中心となって本当に使うために作った仕様です。こうしてせっかく確立した標準ですから、個別仕様に走っては何もならない。標準を標準で使用することの大切さ、重要さを理解することが必要と思います。そこで小売業さんにもその点を理解していただくと共に、われわれシステム・インテグレータも特に注意していかなければならないと思います。

 

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