流通システム変革が進む2014年、効果が見えてきた流通BMS ー 2014年度 流通4団体合同「流通BMS活用推進説明会」

 流通システムの変革が進む中、流通BMSの普及率は確実に伸び、成果をあげる企業も増えてきた。その一方で、ネットスーパーの普及や消費税の軽減税率対応など、業界を取り巻く環境は絶えず変化している。出荷開始型メッセージの標準化や納品明細書の標準化など、新たな対応も求められている。そこで日本スーパーマーケット協会、オール日本スーパーマーケット協会、新日本スーパーマーケット協会、日本ボランタリーチェーン協会の流通4団体は2014年9月5日、「流通BMS活用推進説明会」を東京都港区のSCSK青山ビルで開催。最近の動向や事例を紹介しながら、流通全体で対応すべき課題を共有した。

 

 

価格表示、軽減税率など新たな課題に直面するスーパーマーケット業界

 説明会の口火を切り、日本スーパーマーケット協会の江口法生事務局長が業界を取り巻く課題と展望を紹介した。
 まず現状について「日本スーパーマーケット協会の統計調査では、既存店の販売実績および総売上高が昨年度から軒並み増加傾向を示し、業界全体が好調の波に乗っているものの個別で見ると首都圏は好調の一方で地方は厳しい。また、生鮮と比べて加工食品は消費税の影響を受けやすいようだ」と分析した。

 さらに江口氏は、ネットスーパーの成長とそれに伴う電子マネーへの対応、消費税増税に対する価格表示のあり方、食品表示基準の変更など、スーパーマーケット業界が直面する喫緊の問題を取り上げ、それぞれの課題について協議を重ねていることを強調した。

 業界を挙げた標準化については物流クレートの標準化・共通化を進め、業界全体でコスト削減に取り組んだ。その結果、標準物流クレートが14年で日量14万枚を突破した実績を紹介。それに続けて「流通コスト削減のためには、流通4団体が一体となって流通BMSの普及をさらに進め、コスト削減に貢献していくことが重要だ」と述べた。

 

 続いて、一般財団法人流通システム開発センターの坂本尚登理事が「流通BMSの最新動向」について解説。普及状況は、小売・卸・メーカーとも順調に増加し、業界に浸透している認識を示した。新たなトピックとして、標準化の範囲が拡大していることを紹介。「電話・FAX発注の出荷データについて、卸業界から標準化の要請が寄せられている。そこで電話・FAX発注から始まるモデルを追加し、出荷データの標準項目を作成している」と説明した。

 納品明細書についても同様に卸業界から要請が寄せられていることから、標準化済みの物流帳票に納品明細書を追加し、2種類の納品明細書を用意していると語った。流通BMSについては、生鮮分野への拡大を本格化させる動きが活発化しており「生鮮取引電子化推進協議会(農林水産省補助事業)の活動において説明会やセミナーを活発化していくとともに、流通システム開発センターでも自主研究としてWeb-EDIの標準化を研究していく」と語った。

 

 

ルートセールス型の流通BMSに対応したご当地スーパー「ファミリーストアさとう」

 流通BMSの導入事例として、飛騨高山のご当地スーパー「ファミリーストアさとう」の佐藤祐介社長が、同店において受注伝票の入力を9割削減し、業務を効率化させたことを紹介した。

 「ファミリーストアさとう」は岐阜県高山市内に5店舗を展開し、売上高は13年9月の実績で60億円、従業員176人の地元密着型の食品スーパーだ。それまで一部でEDI化を進めていたものの、小規模な取引先が多いため、受注・発注・仕入れ確定のほとんどを紙の伝票で行ってきた。

 しかし、5店舗目の店舗を出店した12年についに手書伝票処理が1万枚を超え、2人の事務員では限界を迎えたことから、流通BMSへの切り替えを決断。約120社ある取引先を「レガシー」「Web-EDI」「流通BMS」「ルートセールス」の4グループに分けて翌年11月から段階的に流通BMSへの対応を進め、14年3月に導入を終えた。導入効果について佐藤氏は「個別オペレーションの排除が実現したほか、伝票入力業務が9割削減され、締め処理の短縮につながった。空いたスタッフは近年急速に伸びているネットスーパーへの業務にシフトしている」と語った。

 

 同社の流通BMS対応で特に大きかったのが、地元メーカーを中心としたルートセールス型のEDI化だった。ルートセールスとは、地場のお豆腐屋さんや漬物屋さんなど地場の問屋がスーパー内に棚を確保し、自ら決めた数量を独自に搬入して商品を陳列していく納品スタイルだ。「地元の取引先との共存共栄を目指すルートセールス型の流通BMSを導入するにあたり、タブレット型端末(iPad)を採用し、問屋に店舗内でデータ入力が行えるようにした」と佐藤氏は説明する。これにより従来の業務フローを変えることなくデータ化を実現。紙の伝票を削減するとともに、仕入れ確定までの期間を短縮した。

 

 導入時は、IT(情報技術)に不慣れな地元の問屋でもスムーズにタブレット端末を用いた納品に移行できるように一斉説明会を開催した。そのほかにも「サポートスタッフを創設して、取引先の不安感の払拭を図った」という。ルートセールス型の流通BMSでご当地スーパーの個性を生かしながら業務の効率化を実現させた佐藤氏は今後について「残っている15・3%の生鮮分をEDI化し、伝票削減とデータ活用に取り組んでいく」と展望を述べて講演を終えた。

 

 その後、日本スーパーマーケット協会流通推進部の篠原豊氏が「流通BMS普及活動とスマクラの生鮮の取り組み」について解説した。生鮮発注については「原価や産地が当日確定」「産地の複数変更」「店舗作業の集計負荷」「FAX発注によるミス」などさまざまな課題がある。こうした声を受けて、スーパーマーケット業界4団体が推奨する流通BMSサービス「スマクラ」では店舗・本部向けの生鮮ダイナミック発注機能と、取引先向けの生鮮受注機能、生鮮出荷機能を用意している。そのメリットについて篠原氏は「店舗・本部はExcel発注、発注の自動計算、店舗検品を実現し、取引先はFAX発注の集計や請求照合の解消が実現する」と説明した。

 

生鮮取引先への対応と出荷開始型メッセージが流通BMS普及のカギ

 埼玉を中心に関東圏で133店舗の食品スーパーマーケットを展開するヤオコーの営業企画部情報システム部長担当部長の神藤信弘氏は「流通BMS導入メリットと将来の活用戦略」について講演した。

 ヤオコーでは「スマクラ」を用いて12年に流通BMSを導入し、同年9月に加工食品・日用雑貨の取引先19社とデータ交換を開始。その後、生鮮・チルドの取引先への導入を進め、14年6月時点で取引先の大部分が流通BMSへの移行を終えている。「現在、加工食品、日用雑貨、生鮮、チルドを含めて流通BMS系の接続が360社で、取引先全体の93%が流通BMSを利用している状況」と神藤氏は話す。

 特に生鮮食料品については、「取引先に流通BMSのインフラがない」「システム投資コストをかけることなく流通BMSを利用したい」「流通BMSに準拠した標準レイアウトに統一したい」といった声が多く聞かれたため、取引先の状況に応じて対応できるように流通BMSと流通BMS(Web版)の2つを準備して負担を軽減した。「導入実績やASN・請求データの有無などにもよるが、流通BMSで約6カ月、Web版なら約4カ月で導入が可能」と神藤氏は説明した。

 

 今後の取り組みとしては、卸・メーカーとの相互連携を実現するために、①出荷始まりメッセージへの対応②適用取引先の拡大③卸・メーカーへの請求データの配信――の3つを挙げている。最後に神藤氏は流通業界全体に向けて「業務標準の流通BMSを導入することで業務変革、コスト削減など大きな効果が得られることは他の事例を見ても実証されている。流通業界を取り巻く環境の変化に対応していくためにも、早くから標準化に取り組むことが重要だ」とメッセージを送った。

 

 続いて、国分情報システム部長で、情報志向型卸売業研究会(卸研)の研究委員会座長を務める高波圭介氏が「加工食品卸の流通BMS普及への取り組み」について語った。05年のEDI標準策定から流通BMSに取り組んでいる卸業界において、国分は08年から流通BMSの導入を開始。14年時点でEDI化を実現している893社のうち10%にあたる86社が流通BMSに切り替え済みだ。

 導入効果として、受注時間の短縮、メッセージの標準化によるEDI開発工数の削減、納品伝票の廃止によるペーパレス化などがあるが、「標準外利用への個別対応および標準化の取り決めがない運用への個別対応が新たな課題になっている」と語った。

 そこで新たな「出荷開始型」モデルを流通BMSのガイドラインに追加し、出荷メッセージから始めることを現在のテーマに掲げている。さらに、スーパー業界標準の物流ラベル運用ガイドラインの策定も行われ、納品明細書の標準化を進められていることを紹介した。納品明細書では小売独自の明細書が氾濫することを防止するため、14明細のAタイプと32明細のBタイプの2種類で運用するチェンジリクエストを送っている。

 

 最後に高波氏は、流通BMSのさらなる普及に向けた卸業界の取り組みを説明。「取引先と接する営業社員に向けて流通BMSの啓蒙活動を行っているほか、業界団体の日本加工食品卸協会の情報システム研究会において情報を交換し、カバーし合いながら取引先への導入を働きかけていく。そして卸とメーカーが30年以上かけて築いてきた密接な関係を、小売業にも拡大して連携を深め、業界インフラの成長を支援していきたい」と参加者に呼びかけて講演を締めくくった。

 

 

 

 

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