EC事例2022 ~実践企業に学ぶ課題解決法~  効果的施策で競争力高める

 コロナ禍は電子商取引(EC)の利用拡大を促した。競争が激しさを増すEC市場で優位性を確立し、売り上げを伸ばしていくには、効果的な施策を戦略的に実施する必要がある。6月30日に開催したMJフォーラム「EC事例2022」では、ECの事情に詳しい専門家が先進的な取り組み事例を紹介。これからのEC事業者に求められる施策のヒントや課題解決のアイデアを発信した。

 


「好み」に応える

基調講演

資生堂ジャパン
EC事業部
ブランド施策推進グループ
グループマネージャー
山本 雅文氏

 資生堂の総合美容サイト「ワタシプラス」はメディア、EC、店頭送客、顧客情報管理(CRM)の機能を備えたデジタルプラットフォームだ。年間100を超えるブランド・商品に関連するコンテンツを発信。ブランドと顧客を結ぶ役割を担っている。

 ECにおける「買う」という行動は、顧客体験中の1つの点でしかない。購入前後にどんな価値を提供できるかが重要だ。そのためには、顧客が「どんな買い方をしたいのか」まできめ細かく理解する必要がある。

 そこで「ワタシプラス」では、サイト内のどんなコンテンツを見て商品を買っているかという導線ごとに顧客をセグメント化。それぞれの好み(プリファレンス)に合わせてコンテンツを出し分けている。

 体験強化のためには、コンテンツを継続的に更新する運用・制作体制も欠かせない。業務の集約や定型化、自動化によるコスト削減や効率化もポイントといえる。

 

 

戦略的に使い分け

セッション1

いつも
執行役員
DX戦略グループ
立川 哲夫氏

 物販系EC市場は13兆円を超える規模にまで成長した。メーカーやブランドが顧客に直接販売するD2Cモデルも増えており、自社ECサイトやモールなど複数チャネルの戦略的な使い分けが進む。消費者の買い物プロセスが変化する中、新規顧客との接点をいかに確保するか、デジタル商品棚の一等地をいかに獲得するかが重要だ。

 大手メーカーの花王は、ECを通じてブランドの価値を伝えながら売り上げの拡大を図っている。自社ECサイトのほか、複数のモールに出店。自社ECサイトでは限定商品を展開するなどリピートファンをつくり、LTV(顧客生涯価値)を伸ばしている。モールではそこに集まる客層に素早く商品を売るとともに、新しい技術を使った商品をテスト販売するなど、新市場の創出にも活用している。

 当社はこうしたチャネル別の成功ノウハウを蓄積しているので気軽に相談してほしい。

 


手軽にアプリ活用

セッション2

ヤプリ
新規事業開発室
和田 理美氏

 スマートフォンが普及した現在、EC事業者ではアプリの利用が当たり前になりつつある。自社ECサイトへの集客や購入頻度を高める取り組みに有効だからだ。アプリはウェブサイトに比べ購入率や再訪率が高い傾向があり、売り上げを支えるコアファンの育成に使われることが多い。
 
 こうしたアプリを簡単につくれるのが、当社のノーコードアプリプラットフォーム「Yappli(ヤプリ)」だ。今年1月に累計ダウンロード数が1億件を超えた。


 短期間で導入、アプリストアの公開ができ、ブログを更新する感覚で運用できる。新機能を随時追加しており、高度なデータ分析も可能だ。専門のサポートチームによる運用支援も利用できる。

 

 昨年10月に立ち上げた「YappliCRM」と組み合わせれば、会員ランクや閲覧ページに応じたプッシュ通知・特典付与など、より顧客行動に合わせたアプローチが可能になる。

 

 

ユーザーを味方に

セッション3

visumo
取締役
常務執行役員
井上 純氏

 当社のビジュアルマーケティングプラットフォームは、写真や動画などユーザーが作成したコンテンツ(UGC)を自社サイトに取り込んで活用できるようにする。この仕組みでECサイトのコンテンツ充実を図り、コンバージョン率(CVR)を高めているのが作業服大手のワークマンだ。

 同社は多方面の専門家を公式アンバサダーに任命。アンバサダーは自身の交流サイト(SNS)などで製品に対する意見や感想を自由に発信する。宣伝色が出ないように無報酬で任命しているのがポイントだ。

 

 そうしたレビューコンテンツを自社ECサイトの製品ページなどに掲載。訴求力を高めると同時に、一般の顧客がまねて投稿・拡散する好循環も狙う。

 

 アンバサダーは製品開発に協力することもある。そのストーリーを収めた動画コンテンツをまとめて紹介し、購入を促す動画コマースとしても活用している。

 


「かご落ち」防ぐ

セッション4

ショーケース
SaaS 事業本部
カスタマーサクセス部部長
兼 マーケティンググループ
マネージャー
長澤 瑠伊氏

 当社の分析では、約7割のユーザーが商品をカートに入れながら購入せずに離脱している。こうした「かご落ち」の主な要因は「分かりにくさ」や「手間」にある。送料や配送日など必要な情報が分かりにくい、会員登録や個人情報の入力が面倒といった理由で、離脱するケースが多い。
 
 こうした課題はサイト内施策で改善できる。①必要な情報がファーストビューで得られるか②次の導線へ最短距離でアクセスできるか③見やすく、入力しやすいフォームになっているかなどが改善のポイントだ。

 

 当社のEFO(入力フォーム最適化)ツール「フォームアシスト」は、こうした改善施策の実施を支援する。タグを挿入するだけで、既存サイトの入力フォームを適切なものに改修できるほか、専任担当者による伴走型支援を提供する。

 当社のサイトではフォーム離脱の危険性診断を実施しているので、試してみてほしい。

 

 

MAツールで体験改善

セッション5

スプリームシステム
セールス&カスタマーサクセス本部
エンタープライズセールス部
シニアアカウントエグゼクティブ
沖野 聖史氏

 海外ブランド・ファッション通販「BUYMA(バイマ)」は、会員数の増加に伴いユーザーの属性が多様化。OnetoOneマーケティングによるパーソナライズした顧客体験の提供が課題となった。必要なシナリオの開発や改善をスピーディーに行うため、マーケティングオートメーション(MA)ツールの導入を決めた。
 

 当社のMAツール「aimstar」を活用し、メールやプッシュ通知など4つのチャネルで施策を展開。カート離脱者へのアプローチ方法の改善や休眠顧客の復活施策、誕生日や購買履歴に基づくクーポン施策の見直しなどにより、売り上げ増やコスト削減につなげている。
 

 MAの導入目的が明確で自社に合ったツールを選定したこと、分析に基づく仮説を深掘りして施策の優先順位を明確にしていること、スピーディーにシナリオを改善し続けていることなどが成功の要因だと考えられる。

 

 

自動出荷を実現

セッション6

ロジレス
代表取締役CEO
足立 直之氏

 商品の配送が遅れる、顧客ごとにカスタマイズした出荷対応が難しい。毎日数時間かけて受注・出荷指示に対応している。ECカート・モールごとに受注処理が異なり非効率。在庫状況をリアルタイムに管理できず過受注が発生しがち。近距離配送など物流の最適化ができない。こういったECの受注・出荷にまつわる課題は多い。

 こうした課題を解決できるのがEC自動出荷システム「LOGILESS(ロジレス)」だ。OMS(受注管理システム)とWMS(倉庫管理システム)を一体型にしたのが特徴で、9割以上の注文について自動出荷を実現している。

 

 独自のRPA機能があり、特定の注文におまけをつけたり、商品サイズにより配送方法を変更する等の複雑なオペレーションにも対応もできる。複数倉庫への出荷指示も可能で、配送先に近い倉庫からの出荷なども自動化。顧客満足の向上だけでなく配送コストの削減にもつながる仕組みだ。

 

 

縦型動画で即購入

セッション7

Loop Now Technologies
Director,
Sales & Partnership
栁瀬 敦氏

 アパレルブランド「クロコダイル」を運営するヤマトインターナショナルは、動画から即購入できるショッパブル動画やライブコマースを実現するプラットフォーム「Firework(ファイヤーワーク)」を導入した。エモーショナルな(感情を揺さぶる)ブランド体験を提供している。
 
 例えばスマホ経由の売り上げが多いことから、没入感の高い縦型動画でスタイリング提案を実施。ショート動画上に表示される「商品カード」をタップすると、コーディネートに使われている商品が表示され、気に入ればそのまま購入できる。店頭でもデジタルサイネージ(電子看板)で同様の縦型動画を流し、入店と購買促進につなげている。

 

 今後、事業者は、SNS慣れした顧客に自社アセット上でシームレスな体験を提供できるかが差別化の鍵となる。動画内で製品訴求から購買まで完結する仕組みが、新時代の消費者にとって当たり前になるだろう。

 

 

無駄足踏ませず

特別講演

シップス
販売促進部 部長
萩原 千春氏

 当社は全国に約80店舗を展開している。顧客にとって最もネガティブな体験は「欲しいものがあるのに在庫がなくて買えない」ことだろう。そうした事態を防ぐため在庫・販売スキームを整備し、条件がそろえば全国どこに在庫があっても販売できる仕組みを構築した。

 例えばECサイトから店舗の在庫の取り置きを依頼したり、倉庫の在庫を希望の店舗に取り寄せたりすることが可能。来店した店舗に商品がなくてもECの仕組みで注文を済ませ、決済は店頭レジで完結し、商品を自宅に配送できる。顧客に無駄足を踏ませない、効率的な買い物体験を提供している。

 

 情報発信とECの機能を備えた公式サイトは、商品だけでなくコーディネート例や特集記事、スタッフ、店舗、ニュースなどあらゆる情報を「お気に入り」に登録できるように改修。顧客の興味、関心に応じた情報提供が可能になり、CVR向上につながっている。

 

 

 

 

 

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