電子インボイス 仕様の標準化と業界EDI・会計ソフトとの関係について ~特別座談会を開催~

電子インボイス推進協議会 代表幹事
弥生株式会社 代表取締役社長
岡本 浩一郎氏

内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室
参事官補佐
加藤 博之氏

一般財団法人流通システム開発センター
流通システム標準普及推進協議会
事務局長
坂本 真人氏

 

 2023年10月に導入されるインボイス制度に向けて、電子インボイス推進協議会が2020年7月に発足。電子インボイスの普及・活用に向けて事業者が利用しやすい仕組み作りを進めている。
 同協議会では電子インボイスの仕様の標準化について検討が行われているが、流通BMSのような業界標準EDIや会計ソフトとの関係はどうなるのか。今回は電子インボイス推進協議会 代表幹事 岡本浩一郎氏、内閣官房情報通信技術(IT)戦略室 加藤博之氏、流通標準システム普及推進協議会(流通BMS協議会)事務局長 坂本真人氏を招き、そのポイント語ってもらった。


※文中における意見、主張等に関する部分については、質問者及び回答者の個人的な見解に基づくものであり、所属した・所属する組織の公式な見解等ではありません。

 


「デジタル化」による「圧倒的な業務効率化」の実現を目指す

 

坂本氏
 岡本代表幹事におかれては、昨年夏から、「電子インボイス推進協議会(EIPA)」において、積極的な活動をなされていると承知しています。そこで、まずお伺いしたいのですが、「電子インボイス推進協議会(EIPA)」が目指すものは何でしょうか。

 

岡本氏
 EIPAの目指すところ、それはバックオフィス業務のデジタル化による圧倒的な業務効率化の実現です。これまで、「紙」を前提とし、その一部を「電子化」(Digitization)する取組が進められてきました。しかしながら、今後は、さらなる業務の効率化のため、業務そのもののあり方も見直す「デジタル化」(Digitalization)を目指すことが必要だと考えています。なおかつ、デジタル化によるメリットを大企業だけでなく、中小企業も実感できることが重要だと考えています。

坂本氏
 事業者にとって、「紙」ベースで何となくワークしている業務のあり方を「ゼロ」から見直してみよう、ということですね。なかなかチャレンジングな話だと思います。

 

加藤氏
 確かにチャレンジングな話だと思います。ただ、例えば、2023年10月に導入される消費税「インボイス制度」を見据えたとき、これまでの「紙」を前提とした業務のあり方を見直す好機なのではないでしょうか。インボイス制度への対応を単なる「法令対応」に終わらせるのではなく、それを契機に業務のあり方そのものを効率化していく、そういう発想も重要だと思っています。

 

坂本氏
 「流通BMS」においても、インボイス制度への対応は重要な事項です。ユーザーに極力負担のかからない形で、業務の効率化に資するような対応を模索しているところです。そういう意味でも、「圧倒的な業務効率化」の実現を目指すというEIPAの発想は、賛同できるものです。

 

 

「Peppol」をベースとした電子インボイスの仕様の標準化

 

坂本氏
 具体的な内容についてお伺いしたいと思います。EIPAにおいては、電子インボイスの仕様の標準化の検討が行われていると承知しています。その理解で間違いないでしょうか。

 

岡本氏
 そのとおりです。EIPAにおいては、まずは、消費税「インボイス制度」への対応をベースにおき、業界や事業者ごとの差異がそれほど大きくないであろう「請求に係るデータ(電子インボイス)」の仕様を標準化していくことを当面の目標としています。もちろん、「受発注」の部分についての標準化を否定するつもりはありませんが、それは中長期的な課題と認識しています。


加藤氏

 少し補足します。これまで、事業者間取引において、「電子化」「標準化」というと、例えば「紙の伝票をペーパレスにする」「送り状を電子通知に変える」など、「受発注」のプロセスに着目した話が多かったと感じています。当然、「受発注」のプロセスは取引の「始め」の部分であり、ある意味で「金(カネ)」が生まれる最初のプロセスですので、そこの業務プロセスを効率化しようというモチベーションは高かったのかもしれません。しかしながら、その「受発注」については、業界や事業者ごとに盛り込むべき事項が多様化しており、個性が強く出てしまう部分でもありますので、「標準化」することがなかなか難しいというのが現実だと思っています。それ故に、例えば、業界や事業者ごとに「標準化」された「EDI」が乱立している現状となっているのだと思っています。今回、EIPAにおいては、2023年10月というインボイス制度の導入時期を意識し、限られた時間で「まずはできるところから」という観点を重視し、「請求に係るデータ(電子インボイス)」の標準化を進めていく判断をされたということだと思っています。

 

坂本氏
 限られた時間の中で、少しでも前に進んでいくための選択をしたということですね。そのスタンスは、日本の電子インボイスの仕様について「Peppol(ペポル)」という国際標準仕様の規格をベースに考えていくというEIPAの方針にも表れているのかなと思っています。この「Peppol」について、少し説明いただけませんか。

 

岡本氏
 「Peppol」は、欧州を中心に既に30か国以上で採用されている、ネットワークも備えた包括的な電子文書の国際標準規格です。「Peppol」を採用するということは、既存のネットワークや仕組みを「標準化」していくのではなく、それらが「Peppol」に乗り入れていく、接続していくことで「標準化」が実現されていくというのが的確なイメージです。既存のEDIベンダーや会計・業務ソフトベンダーが、「Peppol」のネットワークでやり取り可能な規格の「電子インボイス」に対応すれば、そのユーザーは自ずと「Peppol」対応ができるというイメージです。重要なことは、中小企業も含め、ユーザーが既存の業務の中で、いかに自然に「Peppol」に対応してもらうかということだと思います。

 

坂本氏
 お話を伺う限り、個々のユーザーに「Peppol」対応が求められるというわけではなく、個々のユーザーが利用しているEDIや業務・会計ソフトを提供する側に対応が求められる、そういうことなのかなと思いました。ところで、EDIなどでやり取りされる「電子インボイス」について、どこかのプロセスで、「Peppol」のネットワークでやり取り可能な規格に変換される必要があると思いますが、それは「Peppol」側で対応可能ということなのでしょうか。

岡本氏
 基本的には、既存のEDIや業務・会計ソフトで「Peppol」のネットワークで送信できる規格に変換していくことが想定されます。そのため、既存のEDIや業務・会計ソフトベンダーには、各社の事業上の判断だと思いますが、ソフトウェア開発など一定の初期投資が求められることがあります。既に採用している国の事例を見ていると、「Peppol」対応は、既存の業務パッケージソフトの拡張として提供されることも多く、ベンダー、ユーザーともにそのコスト負担はそれほど大きくなっていない様子です。

 

加藤氏
 シンプルに言えば、既存のEDIなどのネットワークでやり取りするだけの「電子インボイス」については「Peppol」対応が求められないということです。あくまでも、それらの「電子インボイス」を「Peppol」のネットワークを通じてやり取りするときにのみ、「Peppol」の規格に変換することが必要になるということだと理解しています。

 

坂本氏
 シンプルな話ですね。すべての「電子インボイス」を「Peppol」対応するということではないわけですね。現状の業界や事業者ごとのEDI等の利用状況を見ていると、「Peppol」対応の必要性というのも見極めが必要になる印象です。ちなみに、「デジタル化」を進めるという観点から見たときに、この「Peppol」をベースに電子インボイスの仕様を標準化していくということはどのような意義があるのでしょうか。

 

加藤氏

 ユーザーが増えることでネットワークの価値も高まります。ユーザーに多様な選択肢を提供するという意味でも、既存のEDI等はぜひ積極的に「Peppol」対応してもらいたいと思っています。また、「Peppol」の文書仕様である「Peppol BIS(Business Interoperability Specifications)」のベースはUBL(Universal Business Language)です。これは、XMLの国際規格ですので、そもそも「Peppol」そのものが、私たちが目指す「デジタル化」を前提とした仕組みと言えます。したがって、この「Peppol」をベースとした仕様で「電子インボイス」をやり取りするということは、すなわり「デジタル化」推進の最初のステージだと思っています。

 

 

 

標準仕様はできる限りシンプルに、そして「使い分け」を

 

坂本氏
 ところで、「Peppol」は欧州の標準規格であり、それそのものを日本で用いることは難しいと思っています。これから作成される標準仕様が広く利用されるためには、日本の法令は当然のこととして、商習慣等にもある程度対応する必要があると考えますが、どういうイメージでしょうか。

 

岡本氏
 おっしゃるとおりです。これから作成していく「標準仕様」については、日本の消費税制度で求められる内容だけに対応したものではなく、日本の事業者の商習慣にもある程度対応したものでなければなりません。ただ、この点、政府側と少し「温度差」があるように感じますが・・・。

 

加藤氏
 「温度差」はありません。岡本さんのおっしゃるとおり、「制度対応」のみの「標準仕様」では普及しないという考えには全くもって賛同します。

 

坂本氏
 両者ともに「制度」対応のみならず、「商習慣」対応も含めたものとするべきというお考えと理解しました。どこに「温度差」があるのでしょうか。

 

加藤氏
 例えば、商習慣について、「標準仕様」の中で「どの程度カバーするのか」という点について、若干「温度差」があるかなと思っています。個人的には、せっかく国際的な標準規格をベースにするのであれば、独自の拡張が多くなりすぎないよう、そのカバーすべき範囲は必要最小限にとどめるべきだと思っています。とりあえず、最低限必要なものを実装し、工夫してやってみることが重要だと思っています。


岡本氏

 「最低限必要なものを実装して、とりあえずやってみる」というスタンスはそのとおりだと思います。重要なのは、その「最低限必要なもの」が何かということなのだと思っています。例えば、日本の商慣習上は月締め請求への対応は必須だと考えています。そういった点については、まさにEIPA、民間サイドが責任をもって整理し、政府にインプットして理解を促すことが重要だと思っています。もちろん、民間サイドからインプットすることすべてが「標準仕様」に取り込まれれば、それに越したことはないが、仮に取り込まれないとしても、「こうすれば対応できる」というソリューションを考えておくことも重要だと思っています。

 

加藤氏
 ソリューションという意味では、先ほども少し話をしましたが、既存のEDI等との「使い分け」が重要になってくると思っています。最近、事業者の方から「既存のEDIで完結する電子インボイスのやり取りについても『Peppol』対応する必要があるのか」という質問をよく受けます。私の個人的な考えですが、それはマストではないと思っています。業界固有の慣行等については、既存のEDIでしっかり対応してもらうということも重要だと思います。その上で、「Peppol」の根本的な思想は「業界横断的にやり取りされる文書のやり取りをどのように効率化していくか」ということだと理解しています。したがって、極端なことを言えば、既存のEDI等では、「電子インボイス」のやり取りができない場合に「Peppol」のネットワークを活用するということでも良いと思っています。

 

坂本氏

 なるほど。昨年末に「Peppol」のイメージが打ち出されたとき、私も事業者の方から「既存のEDI等との関係はどうなるのか」という問い合わせを受けました。要すれば、「Peppol」をベースとして「電子インボイス」の仕様が標準化されるとしても、既存のEDI等のサービスとの「使い分け」をしっかりと意識する必要があるというわけですね。既に流通BMSを利用している事業者の方であっても、商品の取引とは別の各種経費関連の取引などについては、流通BMSも含めEDI対応されていない場合がほとんどではないかと考えています。そのような場合への対応も含め、まずは、流通BMSとPeppolとの連携が可能な仕組みを構築・提供することと、インボイス対応要件を満たすための運用方法の整理・サポートが重要だということかもしれません。

 

2021年夏を目途に「標準仕様Ver.1」策定を目指す

 

坂本氏
 最後に、「標準仕様」の策定に向けたスケジュール感を教えてください。

 

岡本氏 
 当面は、できるだけ早いタイミングで「標準仕様Ver.1」を策定できればと思っています。既に、検討を開始しており、早ければ本年半ばには公表できるようにしたいと思っています。

 また、2023年10月のインボイス制度導入のタイミングを考えた場合、その時点では、既に事業者の業務に浸透している必要があると考えています。したがって、2022年秋の段階で運用を開始できるよう、準備を進めていきたいと考えています。

 そのためにも、EIPAとしては、業界EDIのベンダーや関係団体の皆さまにも、EIPAと連携していただき、必要な情報収集を早めに行っていただきたいと思っています。

 

加藤氏
 非常にチャレンジングなスケジュールですが、政府サイドも民間サイドの動きに遅れることなく、必要な施策をしっかりと行っていきたいと思っています。

 

坂本氏
 「デジタル化」による事務の効率化は喫緊の課題だと思いますし、社会全体で実現していかなければならない課題でもあります。引き続き、官民一体となって取り組んでもらいたいと思っています。

本日はありがとうございました。

 

 

 

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