軽減税率対応、IP化対応、インボイス対応などのイベントには 業界標準の流通BMSの利用が最適

花王グループカスタマーマーケティング
カスタマートレードセンター
流通システムコラボグループ マネジャー
川口 和海 氏

 06年から行われた流通システム標準化事業の共同実証に参加し、いち早く流通BMSの導入に取り組んできた花王グループ。流通BMSによるEDI化率は高いが、EOS実施の取引先企業が1,000社にのぼる同グループは、現在も小規模企業への対策や、軽減税率対応などの課題に追われている。そこで花王グループのIT環境の整備を手がける花王グループカスタマーマーケティングの川口和海氏に現状を聞いた。

 

 

23年がEDIへの切り替えの本格的なリミット

 

 フェイスケア製品から、ヘアケア製品、洗剤、化粧品、食品まで、多彩な消費財を扱う花王グループ。花王グループカスタマーマーケティングは、グループの販売部門としてマーケティング、物流、販売のプロセスを担っている。カスタマーとの間の情報システム環境の整備もミッションのひとつだ。

 

 花王グループは、06年に流通システム標準化事業の共同実証に参加し、07年から流通BMSによるデータ交換を開始した。以降、順調に導入企業を増やしている。19年7月現在の取引先における流通BMSの導入状況は、EOS実施企業約1,000社のうち約400社。残りはWeb-EDIが約100社で、約500社がJCA手順などとなっている。EOS受注金額の構成比で見ると、流通BMSは60%、Web-EDIが15%、JCA手順などが25%だ。19年は軽減税率の開始に向けて流通BMSへの駆け込み対応が50社近くあり、年内で合わせて約100社の導入を見込む。

 

 それでもまだ400社近くがEDIに未対応な状況だ。今後、21年1月からIP網の切り替えが始まり、24年1月にはINSネット(ディジタル通信モード)が終了する。軽減税率対応でも23年10月から「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」が始まることから、「23年がEDIへの切り替えの本格的なリミットになる」と川口氏は見ている。

 

 

流通BMS導入メリットの拡大

 

 19年10月からの軽減税率対応については、流通BMSを導入済みの400社は、日本加工食品卸協会(日食協)が18年10月に申請して認められたチェンジリクエストにより、既存システムの改修なしに「区分記載請求書等保存方式」への対応が可能になった。流通BMS導入メリットがひとつ増えたことになる。

 

 一方、流通BMS以外のJCA手順等で対応している取引先については、花王が発行する請求書で対応するか、発注データや請求データ、支払データ等に税率等の項目追加対応が必要になるためプログラムの改修が発生する。データ変更しない場合は紙の請求書での対応に後退してしまうことも考えられる。紙の請求書で対応した場合は、人手による業務量の増加やミスの増加、確定日の遅延、保管場所の確保による業務利用スペースの縮小、人件費や廃棄費用、貸倉庫費用の増加などが発生し、卸、小売業ともに負担が大きくなる。

 

 花王グループでは現在、EOS実施企業約1,000社に対して軽減税率開始時の対応を確認して随時対応しているが、まだ対応方法を確認できていない企業やデータフォーマットが確定していない企業も約半数あるという。


「税区分や税率をデータに追加するにあたり個別開発が伴う場合は、数百社の対応が短期間に集中した場合、開発が遅れ10月に間に合わない可能性も考えられます。今回は準備期間が非常に短いため、なるべく早く対応方法を共有させていただきたいと思います。

 

 今回の区分記載請求書等保存方式の対応は、8%と10%の2つの税率を入れるデータ修正だけで対応ができますが、23年10月のインボイス対応は、事業者登録番号や税率毎の消費税額、返品の元取引年月日など複数の項目追加が必要となるためJCA手順では対応が困難になると想定されます。インボイスは流通BMSで対応する企業も増えると考えられるため、20年以降インボイスに対応できるよう早期にチェンジリクエストを提案し標準対応を策定することが業界全体のために必要です」(川口氏)

インボイスの標準対応に向けてチェンジリクエストの申請を検討


 23年10月のインボイス対応に向けては、新たな準備が必要になる。1つは請求レスの場合の事業者登録番号の扱い。もう1つは返還インボイスへの対応だ。返還インボイスの場合、返品伝票、値引伝票等も税率ごとに取引番号を分け、返品商品の仕入年月日の記載も必要になる。この2つには既存のメッセージに手を加えて対応するパターンか、新しいメッセージを作成して新旧システムを並行稼働させるパターンの2通りが考えられる。

 

 「どちらの方法も一長一短があります。既存のメッセージに手を加える場合、すでに流通BMSを導入している企業は、すべて対応しなければなりません。新規でメッセージを作る場合はできるところから徐々に変えていくことができます。どちらがよいか、私たちが所属する情報志向型卸売業研究会(卸研)と日食協とで共同研究していけたらと思っています」(川口氏)

 

 卸研では卸売業が求めるインボイスの標準対応に向けて、16年度より調査、検討してきた。卸にアンケート調査を実施して業界団体と内容を調整し、チェンジリクエストに向けた提案を実施する流れだ。20年以降はインボイス対応が始まる23年に向けて、各業界に衆知して流通BMSへの早期切り替えを促していくことになるという。

 

 

標準を守ることが変化に対応へのカギ

 

 残された課題は、小規模な小売事業者への対応だ。これらの中には、24年1月でINSネットが終了になることや、23年10月からインボイス対応が始まることを認知していない、あるいはその対応について、まだ詳しく理解できていない事業者も多いと思われる。こうした中で流通BMSの必要性や導入メリットなど認知度を高めていくことが今後のカギとなる。

 

 とはいえ、小売事業者にとって初期投資のハードルは高いのも確かだ。これらを解決する手段として小規模事業者専用の対応策が検討されている。具体的には、特定のベンダーやVAN会社が複数の小売業者の発注データを集約し、流通BMSフォーマットで発注メッセージを卸売業やメーカーにまとめて送信する。出荷メッセージもベンダーやVAN会社が集約して出荷データを小売業に返すというスキームだ。

 

 「これによって小売側は初期投資を抑えながらEOS継続が可能になり、ハンディターミナル1本で発注作業ができるようになります。卸売業やメーカー側も一括受注によって通信におけるランニングコストの削減が実現します。小売業、卸売業、システム会社などが連携してこうしたスキームを整備し、中小の小売業にもっと認知を拡大していくことでかなりの課題は解決されることになると思います」(川口氏)

 

 もう1つの課題は、流通BMSの標準遵守、標準外利用の抑止だ。標準外利用は、システムの硬直化を招き、変化への対応を阻害する。流通BMSの標準化は細部まで決められているが、そうしたデメリットを知らずに非標準の対応をするケースが散見されるようだ。

 

 この問題を解決するためには、小売業、システム会社、卸売業・メーカーの3社が連携して標準を維持していく必要がある。川口氏は「そのためには小売業やシステム会社の協力が不可欠です。マッピングシートチェックの利用やTips集などを参考に、業界全体で標準化を維持する意識が高くなることが大切です。今後、インボイス対応に向けて、何らかのシステム開発や改修が必要になると思いますので、これを機会に標準化につて検討していただければ、将来のさまざまなイベントや変化にも柔軟に対応ができるようになり、デジタルトランスフォーメーションの推進にもつながっていくはずです」と話している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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