インボイス制度におけるシステム対応はどうすれば良いか  ~国税庁のキーマンに訊く~(パート2)

国税庁
消費税室 軽減税率制度対応室
総括課長補佐
加藤 博之 氏

一般財団法人流通システム開発センター
ソリューション第2部
部長
坂本 真人 氏

 

 2019年10月より消費税の税率が10%に引き上げられ、これに合わせて酒類と外食を除く飲食料品の税率を8%に据え置く軽減税率が導入された。次に控えているのが、4年後の2023年10月に導入される適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)への対応だ。
 前回、インボイス制度におけるシステム対応の基礎から注意すべきポイントを紹介したが、あれから1年半を経て新たな疑問が寄せられている。そこで、インボイス制度の説明会で全国を行脚し、流通業界への周知徹底に努めてきた国税庁消費税室の加藤博之氏に再度登場いただき、流通システム開発センターの坂本真人氏と共にシステム対応のポイントを語ってもらった。

 

(注)本文中での意見等に関する部分は、各人の所属した・所属する組織の公式な見解等ではありません。

 

何をインボイスとするか~どの書類等に「消費税額」を記載するか~

 

坂本氏
 まずは、前回のおさらいから始めましょう。前回の対談の中で、インボイス制度への対応を進めるに当たっては、「何をインボイスにするのか」ということについて取引実態を踏まえて考える必要があるとの説明があったと記憶しております。その後、説明会等において、様々な事業者の方のご意見等を聞かれたと思いますが、その点について何か補足すべき事項はありますか。

 


加藤氏
 前回の対談では、流通業界の実務を意識し、「納品書」と「月締め請求書」を例に、どのようにしてインボイスの記載事項を満たしていくことがシンプルなのか、説明しました。

 とりわけ、インボイス対応においては、端数処理の関係もあり、どの書類等に「消費税額」を記載するかということが悩ましい課題であると認識しています。その観点から、流通業界の実務も考慮すれば、「月締め請求書」に「消費税額」を記載するのがシンプルな対応ではないかと説明しました。

 この私の考え方について、今も変化はありません。この点については、説明会等でもたびたび言及してきましたが、多くの事業者の方に違和感なく受け入れていただいた印象です。

 

坂本氏
 私自身もその対応に特段の違和感はありません。一方で、中には、納品を請求単位として、「納品書」に「消費税額」を記載するという事業者の方もいると聞いています。

 ひとまず、今回は、「月締め請求書」に「消費税額」を記載する対応を前提にした場合に生じ得るいくつかの実務的な疑問について、お伺いしていきたいと思います。

 

 

「交付したインボイスの写し」の保存義務について

 

坂本氏
 まず、インボイス制度において新たに対応が必要となる「交付したインボイスの写しの保存」に関する疑問です。インボイス制度においては、「売り手」は交付したインボイスの「写し」を保存する義務が新たに生じることとなります。その点、実は、事業者の方の中ではちょっとした疑問が出てきています。端的に言えば「物理的にインボイスを交付できなかった場合にどう考えればよいのか」といったことです。

 

加藤氏
 私も同じような問題意識の質問を受けたことがあります。売上税額の積上げ計算を行うことが多い小売業界の事業者の方からの質問でしたが、「インボイスの記載事項を満たしたレシートをお客さんに交付しようとしたが、受取りを拒否された場合、『交付した』と考え、その写しの保存で積上げ計算を行って構わないか」といった趣旨の質問でした。

 

 この点ですが、基本的には、物理的な「交付」が行われた場合に限らず、販売事業者の方が(物理的には交付できなかった)そのインボイスの「写し」を保存しているのであれば、「交付したインボイスの写し」の保存があるものとして考えることとなります。その旨、国税庁が公表している「Q&A」においても明らかにされているところです(国税庁公表「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A(令和元年7月改訂版)」(以下、インボイスQ&A)問78参照)。

 

坂本氏
 確かに、インボイスQ&Aを読んでみるとクリアに考え方が示されています。私共が普及推進している流通BMSは、企業間の電子的な情報交換標準ですので、お互いに電子データを送受信し保管することが一般的です。したがって、その場合に「受け取りを拒否する」ということはありません。一方で、紙ベースでやりとりすることの多い事業者の方の場合は、このような考え方が必要ということですね。非常に興味深いですね。

 

 ところで、物理的な交付がなかったインボイスの「写し」であっても、「交付したインボイスの写し」と考えられるのであれば、例えば、「売り手」は、お客さんに交付した/交付しようとしたインボイスそのものの写しの保存を厳格に求められていないということでしょうか。

 

加藤氏
 原理原則を申し上げれば、文字どおり「売り手」は「交付した」インボイスそのものの写しの保存が求められます。

 

 他方、現行の実務も考慮し、この「交付したインボイスの写し」には、交付したインボイスそのものの写しのほか、そのインボイスの記載事項が確認できる程度の記載がされているものを含んでも特段の支障がないと考えています。例えば、「レジのジャーナル」や複数のインボイスの記載事項に係る「一覧表」や「明細書」などがそれに当たり、それらを保存していれば「交付したインボイスの写し」の保存が行われているものと考える旨、インボイスQ&Aでも示しているところです(インボイスQ&A 問51参照)。

 

 要すれば、重要なのは、一つの取引について、「売り手」と「買い手」で適用税率や消費税額の認識がズレることのないよう、「売り手」も自らが「交付したインボイスの写し」やその記載事項について確認できるようなものをしっかりと保存しておくということです。

 

 

何がインボイスなのか、「売り手」と「買い手」の認識を一致させる必要性

 

坂本氏
 話を伺う限り、事業者の方は、現行の実務の延長線でインボイス対応を進められるのではないかと感じます。

 さらに細かい点を伺いたいと思います。「売り手」に求められる「交付したインボイスの写し」の保存について、比較的柔軟に考えることができるということであれば、例えば、複数の書類で記載事項を満たすようなケースでは「売り手」が保存している「交付したインボイスの写し」と「買い手」が保存している「交付されたインボイス」の記載事項について、両者の認識に「ズレ」が生じてしまうということはないのでしょうか。

加藤氏
 「現行の実務の延長線」という認識はまさにそうだと思います。繰り返しになりますが、「交付したインボイスの写し」の保存義務の文脈においては、「交付したインボイス」の記載事項を確認できる程度のものであればその保存でも構わないとしている点に留意する必要があります。つまり、「売り手」と「買い手」で一つの取引に関する適用税率や消費税額の認識がズレるといったようなことは、厳に避ける必要があり、そのようなことが起きないよう、例えば、取引当事者間で事前に認識共有を行うなど、事業者の方には十分に意識してもらいたいと思っています。

 

 その意識が希薄だと、あくまでも理屈上の話ではありますが、「売り手」と「買い手」の認識がズレてしまいかねないおそれもあり得ます。

 

坂本氏
 例えば、どんな場合に認識がズレてしまうのでしょうか。もう少し具体的に教えてください。

 

加藤氏
 先ほどの「納品書」と「月締め請求書」の例で少し説明します。一般的には、インボイスの記載事項の「消費税額」について、「納品書」と「月締め請求書」のいずれにも記載されることは想定されません。多くの事業者の方は「月締め請求書」のみに記載するイメージだと思いますが、冒頭、坂本さんにご紹介いただいたとおり、事業者の方によっては、納品を請求の単位と考え、「納品書」においてそれを明記するといったこともあり得ない話ではありません。

 

 その場合、「納品書」にインボイスの記載事項としての「消費税額」を記載していることから、「月締め請求書」にこれを記載する必要はないですし、また、「買い手」に無用な混乱を生じさせぬため、「月締め請求書」には「消費税額」を記載しないのが通常ではないでしょうか。仮に、「消費税額」を明記するとしても、あくまでも請求金額の確認として、「納品書」に記載した「消費税額」を足し合わせたもの(インボイスの記載事項としての「消費税額」ではない)を記載するといった対応が行われると考えられますので、特段の問題はないというのが実態だと思います。

 

 他方、万が一、「月締め請求書」において、税率ごとに区分して合計した金額から、適切な端数処理の方法により、改めて「消費税額」を算出するような対応を行ったらどうなるか。その場合、「納品書」と「月締め請求書」に記載された「消費税額」のいずれもが、インボイスの記載事項としての「消費税額」となり得てしまうこととなり、端数処理の関係上、両者に数円単位ですがズレが生じ得ることもあり得ます。

 

 そして、両者にズレが生じている中で、例えば、「売り手」は「納品書」の「消費税額」を、「買い手」は「月締め請求書」の「消費税額」をインボイスの記載事項としての「消費税額」と認識するとすれば、一つの取引に対する「消費税額」が「売り手」と「買い手」で異なってしまうこととなりかねません。

 

坂本氏
 インボイスは「売り手が買い手に適正な適用税率や税額を伝えるツールである」と認識しています。その基本的な認識とも整合性がつかない事態になり得るということですね。そのような事態とならぬよう、事業者の方はどう考えればよいのでしょうか。

 

加藤氏
 やや大げさに話をしましたが、先ほどの例は理屈上の話でしかないと考えています。

 

 なぜなら、「納品書」と「月締め請求書」に記載された「消費税額」にズレが生じるのであれば、当然に「請求金額」も変化することとなります。そして、実務的な観点からは、おそらくどちらかの金額に基づき支払いが行われますので、「売り手」も「買い手」もその金額に基づく「消費税額」をインボイスの記載事項として自ずと認識すると考えられ、認識のズレは自ずと解消されるものと思われるからです。

 

 また、そもそも必要がないものを「月締め請求書」に記載するといったことは合理的な行動とはいえませんし、事業者の方がそのようなことをあえて行う理由もないと思います。

 

 ここで重要なことは、インボイス制度への対応において、わざわざ複雑なオペレーションを採用する必要はないということです。「売り手」と「買い手」の認識のズレを防ぐという観点からも、「納品書」又は「月締め請求書」のいずれかのみにインボイスの記載事項としての「消費税額」を記載するというシンプルな実務を徹底することで、簡単に対応できることとなります。

 

坂本氏
 逆にいえば、このシンプルな実務を徹底しないと、混乱が生じてしまうということですね。取引先へ交付する書類全てに「とりあえずインボイスの記載事項を書いておけばいい」と考えている事業者の方もいらっしゃるように思いますが、どう思いますか。

 

加藤氏
 確かに、記載事項を満たしたものがインボイスですが、そのやり方だと、取引先に混乱を生じさせることにもなりかねません。何をインボイスとし、どの書類にインボイスの記載事項を記載するか、ということを明確にして、取引先との間でもその認識を共有できるような対応を、検討いただく必要があると思います。

 皆さまにおかれましても、そういった基本的な考え方をガイドライン等で示していっていただきたいと思います。

 

坂本氏
 そうですね。重要なことだと思いますので、ぜひ検討していきたいと思います。

 

 

仕入明細書による対応の留意点

 

坂本氏
 ここまで、売り手が交付するインボイスについての留意点をご説明いただきました。一方で、インボイス制度においては、買い手が作成し、相手方(売り手)の確認を受けた「仕入明細書」による対応も可能と理解しています。また、流通BMSにおいては、「仕入明細書」に該当する「支払メッセージ」において、例えば「物流フィー」などを相殺金額として入れることがあります。そのような場合、必要な記載事項について、何か留意すべき点はありますか。

 

 


加藤氏
 「仕入明細書」の場合、作成者は「買い手」ですが、必要な記載事項の一つである「登録番号」については、商品の「売り手」のものを記載する必要があります。ただ、例えば「物流フィー」を相殺する場合、商品の「売り手」と「買い手」の関係が逆になります。要すれば、商品の「買い手」が「売り手」となり、また、「売り手」が「買い手」となります。

 その場合、商品の取引については「仕入明細書」となりますが、「物流フィー」に係る取引については、「売り手」(商品の「買い手」)が「買い手」(商品の「売り手」)に交付するインボイスに他ならないこととなります。したがって、商品の「買い手」が自らの「登録番号」を記載することも必要となります。

 

 この点、意外に理解されていないところではありますが、「仕入明細書」の中で、商品の取引以外についてのインボイス対応等も併せて行うような場合には、誰の「登録番号」を書く必要があるのか、きちんと考えておくことが必要になります。

 

坂本氏
 なるほど。仕入明細書の作成においては、自社と取引先の登録番号を書く必要があるかもしれない、ということですね。インボイス制度への対応として、誰と誰とのどんな取引かを踏まえた上で、交付する書類に何を記載すべきか、早めに整理しておく必要があるように思います。特に、EDI上の変更等については、テストも含めると時間がかかることも予想されるので、注意が必要ですね。

 

 

返還インボイスをめぐる「宿題返し」~より実務に配慮した柔軟な考え方~

 

坂本氏
 話題を変えます。これもまた、前回の対談で話題になったことですが、返還インボイスに関する話です。この返還インボイスについては、インボイス制度において新たに求められる対応の一つであるにもかかわらず、いまだに事業者の方の理解は不十分なように思えます。

 特に、前回の対談において言及された次の2点について、実務的な対応困難性を感じていた事業者の方が多く、それが少なからず制度理解の度合いに影響しているのではないかとも思っています。

 

 まずは1点目。前回の対談の際、「返還インボイスの内容について、『買い手』が作成する『仕入明細書』の中で記載することも認める予定」との説明がありましたが、その後どうなったのでしょうか。

 

加藤氏
 まず、返還インボイスは、「返品を受ける側」(売り手)が「返品をする側」(買い手)に対して交付することが基本です。前回の対談以降も、多くの事業者の方から様々なご意見等をいただきました。それらも踏まえて、検討を進めた結果、「買い手」が返還インボイスの記載事項を記載した返品伝票や仕入明細書を作成し、「売り手」の確認を受けることで、「売り手」による返還インボイスの交付は不要と整理したところです。また、継続的に記載していることを条件に、仕入額から返品額を控除した後の金額を記載することも認められることとなっています(インボイスQ&A 問61参照)。

 

坂本氏
 事業者の方の実務にも配慮していただきながら検討を進めていただけたとのことであり、ありがたいことだと思います。

 

 次に2点目。返還インボイスの記載事項の一つである「返品等に係る課税資産の譲渡等を行った年月日」についてです。前回の対談の際、「『売り手』の課税期間の範囲内で一定の期間、例えば、『○月売上分』などの記載も認める運用を行う予定です」との説明があったところですが、その後どうなったのでしょうか。

 

加藤氏
 「返品等に係る課税資産の譲渡等を行った年月日」についても、多くの事業者の方から様々なご意見等をいただいていました。それらも踏まえ、前回の対談でも申し上げた、「○月売上分」などの記載も認める考え方を、説明会等において早々に示したところです。

 

 その際、「『○月売上分』との記載であっても厳密なものを把握し記載することはできない」等のご意見等を数多くいただきました。それらも踏まえ、さらに検討を重ねた結果、「事業者の方が継続している合理的な方法による記載で構わない」との結論に至ったところです。具体的には、「前月末日」や「最終販売年月日」など、事業者の方が継続して用いている整理によって記載していただくことで差し支えないと整理しています(インボイスQ&A 問40参照)。

 

坂本氏
 当初の整理よりもさらに検討を深め、より実務に沿った整理としていただいたと認識しました。非常にありがたい結論だと考えます。また、合理的であれば、事業者の方が継続的に用いる整理で記載して良いということは、事実上、「記載できない」という事態もないということですね。

 

 

まとめ


坂本氏
 流通BMSでは、今回の説明内容も含め、各事業者の方が行うであろうインボイス対応のパターンを整理した上で、新たに必要となるデータ項目の追加、ガイドの整理などできる限り早い時期に対応したいと考えます。

 

 また、本年10月から求められている区分記載請求書について、「紙」で対応した事業者の方も含め、インボイス制度までにより効率的な電子的保存を前提とした対応が可能となるよう、必要な取組みをしっかりと行っていきたいと思います。

 

 

 

※国税庁公表「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A(令和元年7月改訂版)」(インボイスQ&A)は下記からご覧ください。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-01.pdf

(本文中の インボイスQ&A にもリンクが貼ってあります)

 

 

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