INSネットの終了アナウンスで流通BMSの導入企業数が再び増加 地方企業の取引先説明会など支援体制も強化へ

一般財団法人流通システム開発センター
ソリューションサービス本部
ソリューション第2部 新規事業グループ
グループ長
主任研究員
坂本 真人 氏

 流通業界の統一の通信手順として業務の効率化に貢献している流通BMS。制定以来、順調に導入企業数を増やしてきたが、ここ1、2年は緩やかな増加に留まっていた。しかしここに来て再び増加傾向にあり、流通事業者の注目が高まっているという。その背景には、NTT東日本/西日本の「INSネット」の提供終了や、軽減税率対応などがあると見られている。そこで流通BMSの普及推進の旗振り役である流通システム開発センターの坂本真人氏に最近の動向を聞いた。

 

 

INSネット終了直前の対応では間に合わない

 

 流通システム標準普及推進協議会は半年に1度、卸・メーカーの流通BMS導入企業数をが、最新の16年12月には導入企業数がついに1万社を突破し、半年間で450社近くが増加したという。その背景には、NTT東日本/西日本の「INSネット(ディジタル通信モード)」が、20年度後半で終了予定であることがホームページ上で公表されたことにある。ISDN回線を利用したINSネットの終了と公衆回線のバックボーンである交換機がIP化されることによって、JCA手順での利用ができなくなると確定しているわけではないが、これからのEDI取引に大きな影響が出る可能性は否定できない。

 

 こうした流れを受けて、流通9団体(オール日本スーパーマーケット協会、一般社団法人新日本スーパーマーケット協会、一般社団法人日本スーパーマーケット協会、日本チェーンストア協会、日本チェーンドラッグストア協会、一般社団法人日本ボランタリーチェーン協会、全国菓子卸商業組合連合会、一般社団法人日本加工食品卸協会、食肉流通標準化システム協議会)は、16年11月にニュースリリースを配信。傘下の会員企業と情報共有を図り、取引先や関係業界も含めて流通BMSの普及啓発活動に取り組むこと、新規のEDI導入時は流通BMSを標準として推奨すること、各団体が相互に連携して現実的で取り組みやすい導入手法を提案することなどを宣言した。坂本氏は「20年の直前に対応しようとしても、取引先が多い企業は対策が間に合わないことも懸念されます。直前の駆け込み対応が増えるとITベンダーも大手企業に人手を取られてしまい、中堅・中小まで手が届きません。そのためには早い段階で情報共有を図り、流通BMSへの対応を進める必要があります」と語る。

 

 こうした流れを受けて、流通BMSを支えるシステムに関しても、地方の中堅ITベンダーを中心にASPサービスを充実させている傾向にあり、中堅・中小の流通事業者のハードルが下がってきたことも導入の増加に拍車をかけているようだ。

 

 

金融業界でのXML化が本格化し、インフラを流通業界と共通化

 

 一方、流通業界で標準化が進んでいるように、金融業界でもXML化が本格化し、流通BMSを活用した金融業界との連携も検討されている。現在、流通業界が金融業界と情報交換を行う際には、金融業界の独自仕様や紙ベースで情報交換を行わなければならないが、インターネットを使用したデータ伝送や、XML言語を活用することで情報連携の効率化と高度化が実現する。

 

「金融業界と流通業界の間の情報交換をインターネット網とXMLメッセージを利用する取り組みを12年から検討しています。その裏には電子証明書が使われていない現実があるからです。JCA手順の場合、IDとパスワードを利用したベーシック認証が基本のため、セキュリティーは十分といえません。そこに電子認証を使うことでセキュリティーを強化し、金融機関との情報連携が可能にすることによる業務効率化の狙いがあります」(坂本氏)

 

 金融機関とEDIで情報交換が実現すれば、それまで流通と金融で別々のインフラを用意していたものが1つに統合でき、振込や入金通知などのメッセージを既存のシステムにマッピングするだけで対応ができる。既存のインフラはそのまま利用しながら、それぞれの処理を変更するだけで済むため、業務の効率化が進み、ランニングコストも軽減される。

 


 14年度に流通業界が金融業界と実施した共同実証では、XMLメッセージの総合振込と入金通知を使用してデータ交換を行っているが、その結果、以前から金融機関とのやり取りで苦労が多かった卸売業における売掛と消込や、小売業における販売条件・リベートに関する入金管理などが効率化された。「以前は明細情報まで得ることはできませんでしたが、XMLでメッセージを作ることで金融機関からの入金情報に詳細情報を付加することが可能になり、消込が効率化されることが確認できました。経理部門は紙ベースで行ってきた月締め作業が大幅にシステム化可能で、大幅に業務が軽減されます」と坂本氏は メリットを強調した。

 現在は、全国銀行協会が関係各所の意見集約を行ない、共同実証結果を考慮して、18年度の実稼働に向けてASPサービスの開発を進めている。20年には現在の全銀固定長によるメッセージ交換を廃止して、XMLでメッセージ交換を開始する計画となっている。

 

 

マッピングシートのチェックで「標準外利用」を回避

 

 導入企業数が増えている流通BMSだが、ここ1年は今まで比較的少なかったドラッグストア業界が導入に積極的になっているという。すでに導入済みのマツモトキヨシホールディングスが再度取引先向けの説明会を実施したり、スギ薬局が調剤部門のEDIを変更して流通BMSを利用した新システムの稼働を開始したりと、大手を中心に目立った動きが見られる。

 

 流通システム開発センターでは、2カ月に1度のペースで東京と大阪の2カ所で流通BMS入門講座を開講しているが、最近は地方企業の取引先説明会支援対応にも着手。主に小売業及び小売業のシステム構築を支援するシステム会社向けに、標準仕様を遵守しながら流通BMSを効果的に導入する要点を解説するe-learning講座も開講している。「ここ最近は地方からの問い合わせも多いため、地場のITベンダーさんに流通BMSの標準を理解してもらい、しっかり対応していただく目的でe-learning講座を始めました」と坂本氏は説明する。

 

 とはいえ、流通BMSの導入が普及していくと、「標準外利用」と思われる事例も増加する。個別対応を強いる標準外利用は卸売業やメーカーに大きな負担となり、普及の拡大を阻む原因となってしまう。小売側としても意識的に標準外利用を考えていなくても、自社の仕様が標準に適しているかどうかを判断するのは難しいことも多く、結果として標準外利用になってしまっているケースも少なくない。

 

 こうした事態を回避するため、流通BMS協議会は16年4月よりマッピングシートのチェックを開始した。これは小売事業者のマッピングシートが標準に沿っているかを客観的にチェックするもので、標準に準拠しているものなら企業名とメッセージ名を協議会のホームページ上に公開し、さらに標準に沿っているマッピングシートや配布資料には流通BMSのロゴマークの使用許諾を与えるというもの。審査の結果、標準外利用部分に対しては修正を依頼する。卸売業やメーカーは、取引先の小売業が流通BMSの標準に沿っているかを確認する客観的な判断になり、標準外利用の是正を促すことが可能になる。

 

 「審査は流通BMS導入済みの卸売業やメーカーのシステム担当者が担当し、約1週間から4週間で審査を実施します。チェック申請は任意ですが、すでに開始から半年で10社の申請を受け付けており、3社がホームページ上で公開済みです」(坂本氏)

 

 流通事業者は今後、19年10月に再延期された消費税増税に伴う軽減税率の適用に向けて、複数税率やインボイス方式への対応も迫られる。INSネットの廃止と、複数税率への対応が迫られる中、その両方の課題を一気に解消するとしたら流通BMSの導入しか選択肢はない。坂本氏は「世の中が変わっていく中で、時代に合わせて最新のインフラを選ぶのはごく一般的な流れです。流通BMSはその一歩となるものなので、まずは流通業界標準のインフラを使って業務を効率化してください」と呼びかけている。

 

 

 

 

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