2015年度 流通4団体合同「流通BMS活用推進説明会」 アナログ回線の廃止で2020年までの対応が必須、待ったなしの流通BMS

 流通BMSの普及が進み、小売業者や卸業者が移行を加速させているが、JCA手順を続けている事業者もいまだに多い。その中で、5年後の2020年を目処にアナログ回線やINS回線を廃止することがNTTからアナウンスされており、対応が必須の状況だ。それにも関わらず、事業者の腰は重い。そこで、日本スーパーマーケット協会、オール日本スーパーマーケット協会、新日本スーパーマーケット協会、日本ボランタリーチェーン協会の流通4団体は、2015年度の「流通BMS活用推進説明会」を8月28日、東京都千代田区のTKP東京駅大手町カンファレンスセンターで開催。生鮮物流の効率化を実現した事例が発表されたほか、NTTからIP網への移行についても改めて説明された。

 

 

2017年頃までには、何らかの手を打つことが必要

 トップバッターとして、日本スーパーマーケット協会の江口法生事務局長が登壇。業界を取り巻く課題と展望を紹介した。まず、流通4団体の取り組みについて、「小売間の競争力を高めるためには、業界全体で標準化を進め、効率化することが大切だ。そのために、物流と情報システムの2つの標準化を進める必要がある」と説明した。

 日本スーパーマーケット協会では、11年に今後10年の課題と展望をまとめた「シナリオ2020」を発表したが、新たに東京オリンピックや、さらなる経済・社会・人口情勢の変化の要素を付加した「シナリオ2025」を策定している。江口氏は「流通BMSは、製配販の全体のコストを下げ、業務の効率化を実現するものだ。その流れを加速するために、今後も標準化の重要性を訴え、業界発展のために尽くしていく」と強調した。

 

 また、NTTのアナログ回線が20年頃を目処に廃止されることに触れ、「いずれはJCA手順からの切り替えが必要になる。そのためにもいち早く流通BMSに移行し、万全の環境を整えて欲しい」と訴えた。

 

 続いて、流通システム開発センターの坂本真人氏が流通BMSの最新動向と適用拡大について解説した。坂本氏は江口氏と同様にNTTのアナログ回線の廃止の話に言及し、「小売業者のシステム更新のサイクルを考えると、2017年頃までには、何らかの手を打っておかなければならない。今後、基幹系システムを更新あるいは新規導入する際は、通信回線の対応も考慮して検討して欲しい」と語った。

 加えて、流通BMSは国際標準に則った通信手順が採用されていることを説明し、流通以外の業界でも同様の仕組みを採用することで互いの投資コストが最適化されると指摘した。その具体例として、金融業界と流通業界の間でインターネット網を利用して情報を交換する共同実証が行われたことに触れ、「大手卸売業の売掛消込業務で年間1,680時間、大手小売業の販売条件・リベートの入金管理業務で年間9,250時間、約60%の経費削減が実現するという結果が得られた」と解説した。

 

 

流通BMSで生鮮物流を効率化させた「与野フードセンター」

 続いて、流通BMSの導入事例として、埼玉県内で18の食品スーパーマーケットチェーンを展開する与野フードセンターの企画室 兼 商品部 物流担当 主任の宗行利雄氏が講演した。同社は、新生鮮センターの稼働を機に、情報システムや物流体制を見直し、流通BMSの導入を決めた。そして、13年4月に鮮魚・惣菜部門で流通BMSを稼働させ、翌14年4月にグロサリー部門の流通BMSを稼働させている。

 同社は流通BMS導入前、生鮮センターにおいて欠品、修正報告書のパンチング作業や物品受領書の仕分作業が発生していた。追加発注・手書き発注に対しても、伝票や紙でのリスト仕分や伝票処理作業を行わざるを得なかったと言う。流通BMS導入後は、専任のキーパンチャーが不要になり、出荷開始型モデルを採用したことで、追加発注に対しても仕分効率と精度が向上している。

 

 宗行氏は自社の効果に置き換えた時、流通BMSの伝票レス、通信速度の向上といった効果は「もやもや」しがちであると、現場での実感から指摘。「経営側に流通BMSの効果を認識させるためには、社内と社外を俯瞰的に見られるプロジェクト体制が必要。さらに、流通BMSの導入で『何が変わるか』より、流通BMSで『どの業務を変えるか』の発想が重要だ」と語った。

 

 その後、日本スーパーマーケット協会流通推進部の篠原豊氏が「流通BMSの普及に向けたスマクラの機能拡充のご案内」と題して講演を行った。流通4団体では、業界共通で利用できる流通BMSサービス「スマクラ」を11年9月から提供しているが、サービス開始後も利用者のニーズや業界を取り巻く環境に合わせて機能を追加してきた。特に生鮮発注については店舗・本部向けの「生鮮ダイナミック発注機能」や「EOS機能」を追加し、生鮮発注ならではの問題を解消している。篠原氏は「スマクラでは基本的には生鮮もすべてEDIのアプローチができる。今後も機能強化を進めていくので、改善の要望は随時寄せて欲しい」と呼びかけた。


基幹システムの刷新を機にJCA手順を廃止した「肉のハナマサ」

 続いて、関東を中心に「ジャパンミート」「パワーマート」「肉のハナマサ」「焼肉や漫遊亭」などスーパーマーケット・外食事業を95店舗展開するジャパンミートの経営企画室 室長 関根大介氏が、流通BMSを活用した基幹システム再構築と同社の業務改革について語った。ジャパンミートグループは、首都圏で業務用スーパーの「肉のハナマサ」を運営していた花正を子会社化することをきっかけに流通BMSの導入を決断し、「肉のハナマサ」全53店舗分の店舗系システム(POS、HTなど)から、基幹システム、EDI、ネットワーク、物流センターまで、すべてを刷新した。現在は、発注(EOS)のみから、発注・出荷・受領・返品・支払のメッセージを取引先と交換している。

 導入前は手書伝票が多数で、JCA手順が63社、オートFAXが92社(2,200枚)だったが、導入後はJCA手順をすべて廃止。現在は、流通BMSが29社、流通BMSに準拠したWeb-EDIが80社。オートFAXが11社(32枚)と、約95%のEDI化が実現している。また、出荷始まりメッセージを採用し、流通BMS標準の明細書を採用。標準プロセスに合わせて業務改善を行った。

 

 その結果、生鮮用のFAX用紙および納品伝票の経費削減と、仕入れ確定の時間短縮と精度向上が実現した。また、標準メッセージに合わせた業務改善により、生鮮品の店別出荷に対応した店舗での出荷情報の確認と店舗検品が可能になるなど、効果が現れている。

 

 関根氏は「花正の基幹システムは、取引先・物流センターとの連携も含め、すべてを流通BMSで標準化した日本で初めての基幹システムだ。システム全体の入れ替えの軸に流通BMSを据えたことで、本当の意味での標準的な基幹システムが構築できた」と語った。

 

 続いて、NTT東日本 ビジネス開発本部 第一部門 ネットワークサービス担当 課長の山内健雅氏が、既存の電話網(PSTN)からIP網への円滑な移行について語った。NTTでは20年を目処に既存のアナログ回線やINS回線を使った電話網から、インターネットを使ったIP網へ移行する方針を決定しており、現在はユーザーへの周知活動を続けている。IP網への移行後も基本的な音声サービスは継続する方針だが、INSネット(フレッツ・ISDNなどのISDNサービス)やビル電話などは提供終了になる見込みだ。それを受けて山内氏は「現在、取引先との通信にISDNを使っている小売事業者の方は、早めにフレッツ・光などのサービスに移行して欲しい」と訴えた。

 

事業者へのアンケートで見えてきた卸売事業者の実態

 最後に、流通BMS協議会 運営委員 会員 兼 国分株式会社 情報システム部 部長の高波圭介氏が、卸業界の取り組みを紹介した。卸売業の情報化を研究する卸研では、13年に「出荷開始型モデルの出荷メッセージ」と「納品明細書の標準化」の2つをチェンジリクエストとして申請し、14年に認められた。

 これらの結果を受けて、15年度のテーマには、社内啓蒙の強化、情報志向型卸売業研究会(卸研)や日本加工食品卸協会(日食協)情報システム研究会での活動の深化、流通業界インフラの研究の3つを掲げて取り組んでいる。その中で、日食協の全会員卸に対する流通BMSの導入状況に関するアンケートを実施。その結果、接続口座数はレガシーが4,303口座に対して、流通BMSが1,140口座と21%の切り替え率であることがわかった。また、接続取引先数も同様にレガシーが1,893社に対して流通BMSが261社と、流通BMSの切り替え率が19%に留まっている。卸接続数についても卸1社としか接続してない取引先が102社と一番多く、次に2社と接続している取引先が46社、3社と接続している取引先が35社と続いている。

 

 高波氏は「流通BMSに移行していない卸が8割にのぼる状況は何とかしなければならない。そのために、卸業界でも流通BMS協議会のように、ロードマップを作成して計画的に移行していく必要がある」と語った。

 

 そこで、卸研でも15年7月から有志による活動を開始し、積極的に呼びかけている。普及推進タスクチームでも、標準外防止策と普及促進策を検討テーマに設定。標準外防止策ではマッピングシートの申請→チェック→協議会承認→公開のルール作りといったプロセスの作成や、標準非対応ソフトウエアへの是正要請と推奨ソフトウエアの開示をしていく方針を打ち出した。また、普及促進のため、小売・卸団体の連名による普及促進共同宣言の検討や、20年までの切り替えロードマップ作りに取り組んでいる。高波氏は「卸事業者は現在の状況を理解し、20年までに流通BMSへの移行を終えて欲しい」とメッセージを送り、講演を終えた。

 

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