NTT東日本/西日本がISDN(INSネットディジタル通信モード)の終了を予定 流通業界が取るべき方策とは?

東日本電信電話株式会社
ビジネス開発本部
第一部門
ネットワークサービス担当
担当課長
山内 健雅 氏

 

 流通各社が流通BMSへの移行を進める中、NTT東日本およびNTT西日本では2025年までに現在の公衆回線網(PSTN)のIP化を予定している。これに伴って、2020年後半にはISDNサービス「INSネット」のディジタル通信モードを終了することを予定しており、INSネットを利用している流通事業者はPOSシステムや基幹システムのIP対応が必要になっている。
 そこで、NTTはINSネットの終了をどのようなスケジュールで進めようとしているのか。具体的な方針をNTT東日本の山内健雅氏に伺うとともに、流通事業者の対応策を探った。

 

POSシステムはIP化が必要な場合も

 

 既存の電話網(PSTN)からインターネット網(IP)への移行は、10年11月にNTT東日本およびNTT西日本から公表された。その中では、20年頃から電話網を利用したサービスを順次廃止し、交換機が寿命を迎える25年頃にはすべて廃止するという見通しを示している。その背景には、固定電話を取り巻く環境の変化があるという。山内氏は次のように説明する

 

 「電話網を利用した固定電話の契約数は年々減少し、13年にはIP電話に抜かれました。同時に携帯電話が急速に普及し、今や国民1人が1台以上の携帯電話やスマートフォンを持っている時代です。こうした社会状況に合わせて、NTT東日本/西日本でもインターネット技術を利用したIP網へ移行させていただく予定です。」

 

 そして、ISDN回線を利用した「INSネット64」および「INSネット1500」の「ディジタル通信モード」を20年後半に終了することを予定し、15年7月以降、企業ユーザに対して順次アナウンスを開始している。INSネットとは、1本で2回線が同時に利用できるサービスのこと。電話とパソコン、電話とFAX、電話とPOSシステムなどの組み合わせで利用しているユーザは今も多いだろう。今回終了を予定しているのは、INSネットの中のデータ通信を行う「ディジタル通信モード」のみで、INSネットの音声通話については検討中だ。通話回線を利用したFAX(G4FAXを除く)も影響を受けることはないようにしていきたいという。もちろん、アナログ電話やアナログFAXについても、同様に検討をおこなっていく予定だ。

 

 「ディジタル通信モードが廃止されて影響を受けると予想されるのは、INSネットを利用したPOSシステムです。元々POSシステムはINSネットの利用を前提したものが多く、現在も多くの小売事業者様が利用しています。その他にも、クレジットカードを利用する際にカード会社にその有効性を確認するためのCAT端末や、警備会社と通信するための警備端末が利用できなくなる可能性があります。FAXの中でも大企業で採用されているG4FAXも、今回影響を受けると想定しています」(山内氏)

 

 


POSシステムや基幹システムのリプレースに合わせて切り替えるのが得策


 現在、NTT東日本/西日本は、INSネットの廃止とIP網への切り替えに向けて、企業に対して周知活動を進めている状況だ。具体的にはNTT東日本/西日本の営業担当者が企業を訪問。対応部署(総務部や情報システム部門など)の担当者に直接面会し、切り替えを提案している。

15年7月から企業への訪問を開始したばかりのため、周知が行き渡っているわけではないが、大口の利用者から順次、切り替えを呼びかけていく計画だ。山内氏は「周知だけでなく、移行のために必要なものは何か、どうすればいいか、といったコンサルティング活動も合わせて実施しています」と付け加えた。

 


 INSネットの代替策としては、フレッツ光への移行が最右翼となる。フレッツ光への切り替えは申し込みから最短で約1週間程度で完了するため、さほど時間はかからない。回線に接続する機器が多少変わるが、レンタルでも提供されているので利用者の負担が大きくなることはないという。ただし、切り替えには、初期の工事費が必要になる。月額の通信料金は今までのINSネットより若干上がるものの、通信速度が64kbpsのINSネットに対して、フレッツ光はギガbpsクラスと桁違いに高速化する。「コストは多少上がりますが、通信速度がはるかに早くなるため、通信時間は大幅に短縮され、価格差以上の付加価値が得られると思います」と山内氏。

 INSネットからの移行には、回線をフレッツ光に切り替えることは前提だが、POSシステムやCAT端末なども合わせて新しい回線に対応させなければならない。そのため、20年に入ってから慌てて切り替えを始めるより、今から余裕を持って準備を進めたほうが良さそうだ。

 

 「企業は減価償却の関係でシステムを3年から5年は使い続けるのが通例ですので、来年、再来年にPOSシステムや基幹システムのリプレースの計画があるなら、今から回線の切り替えと対応機器、システム等のIP化を念頭に置いていただければ、後になって慌てることはないと思われます」(山内氏)

 

 流通事業者の総務部門や情報システム部門にとっても、POSシステムなどの更新と合わせて、INSネットをフレッツ光に切り替えれば、手間も苦労も少なくて済む。フレッツ光への切り替えだけを経営層に上申して説得するのはハードルが高いが、IP網への切り替えとPOSシステムのリプレースを込みで上申すれば、経営層の承認も得られやすい。システム化に合わせて普段から付き合いのあるITベンダーにIP網への切り替えについて相談すれば、適切なアドバイスが受けられるだろう。NTT東日本/西日本では今後、ITベンダーとも連携しながら、回線の移行を訴えていく準備も進めている。

 

 

投資戦略に合わせてベストなサービスを選択


 INSネットからフレッツ光への切り替え状況については、「ようやく検討を始める企業が出てきている段階」と山内氏はいう。検討を始めている企業も、現時点ではPOSシステムや基幹システムのリプレースに向けて、どんなシステムにするかを調査、設計している段階で、次のステップでシステムのリプレース作業と回線の移行が本格化してくると見ている。

 

 「特に大企業の場合、基幹システムのリプレースは通常でも半年、1年、2年かかる大きなプロジェクトです。その中で、合わせて回線の切り替えを検討いただいているので、順次進んでいくと思われます」(山内氏)

 

 IP網への切り替えを迫られているのは流通業界ばかりではない。クレジットカードを利用する金融系の業界や、警備端末を利用するセキュリティー事業者も同じような状況だ。

 

 INSネットのディジタル通信モードが終了を予定している20年は、東京オリンピック・パラリンピックの開催年で、流通業界も今後5年間でさまざまなIT投資を進めていくだろう。また、近々でも16年のマイナンバー対応に向けた準備や、17年4月の消費税率10%への再増税や軽減税率への対応など、企業のITシステムを取り巻く環境は大きく変化している。こうしたタイミングに合わせて、基本となる通信環境を整えることは大きなチャンスだ。山内氏は「通信事業者が多様化し、選択肢も以前より増えています。NTT東日本/西日本でもフレッツ光などをサービス提供事業者に卸提供する光コラボレーションモデルの提供を開始し、NTT以外からも光回線サービスが選べるようになりました。各企業の投資戦略に合わせてベストなサービスを選択し、電話網からIP網に移行をお願いします」と語った。

 

 今回は20年後半に向けたINSネットの「ディジタル通信モード」の廃止の話が中心だが、電話網の廃止が予定されている以上、JCA手順や全銀手順、全銀TCP/IP手順などの旧来から利用しているEDIも、インターネットを利用したEDIへの移行が避けられなくなるだろう。

 

 流通事業者の中で、INSネットを使ったPOSシステムやCAT端末を利用している企業は20年に向けて回線の切り替えが必要になるが、電話網やINSネットを使って送受信しているEDIも当然利用ができなくなる可能性が高く、IP網やその他のネットワークを利用したEDIに順次乗り換えていく必要がある。移行となれば、通信機器の取り替えばかりでなく、取引先との調整や、セキュリティの担保、EDIシステムの改修や、基幹システムとの連携など、切り替えに向けて実施するべきことが多く発生するので、ITベンダーとの情報交換も必要になるだろう。

 

 流通事業者がEDIやFAXが使えなくなってしまったら、商品の供給が一斉にストップしてしまい、企業の存続が危なくなるばかりか、ユーザに商品を供給するという大切な使命を果たすことができなくなる。幸いなことに、流通業界ではインターネットを利用した業界標準のEDI「流通BMS」がすでに確立され、余分なコストをかけることなく効率的に導入できる環境が整っている。ITベンダーも移行のサービスを多く用意しているうえに、それまでに蓄積してきたノウハウもある。導入事例を見てもわかるとおり、流通BMSに先行して対応した流通事業者の多くが導入の効果を実感している。それなら、できるだけ早く流通BMSに切り替えたほうが良さそうだ。

 

 

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