出荷メッセージの標準化が2014年11月からスタート 卸売業界での流通BMSの普及が加速へ

国分
情報システム部長
高波 圭介 氏

 

 流通BMSの普及が踊り場に差し掛かっている中、新たに問題として浮上しているのが、出荷から始まる「出荷開始モデル」への対応だ。本来流通BMSでは発注データから始まるのがルールだが、現実的に行われている以上、無視ができない存在になってきた。
 そこで、食品卸業界は出荷メッセージの標準化に関するチェンジリクエストを流通BMS協議会に申請し、2014年10月に承認された。チェンジリクエスト提出から承認までの経緯を、国分株式会社の情報システム部長で昨年まで情報志向型卸売業研究会(卸研)の研究委員会座長を務めた高波圭介氏に聞いた。

 

国分ではEDI化893社中86社と流通BMSでメッセージを交換

 

 酒類・食品総合卸売業の国分は、日本スーパーマーケット協会と日本チェーンストア協会の合同による05年度の次世代EDI研究会にオブザーバーとして参加。06年には、経済産業省主導の「次世代EDI(流通BMS)共同実証プロジェクト」のメンバーに名を連ね、ダイエー(当時)とメッセージ交換の具体化を検討し、08年から本番稼働を実現している。11年5月にはメーカー、卸、小売の各社が集まって設立した「製・配・販連携協議会」に参加し、流通BMSの導入を推進する「流通BMS導入宣言書」に賛同して導入拡大計画を公表した。

 

 流通BMSの導入は、08年の2社から、09年10社、10年17社、11年30社、12年43社、13年83社と順調に推移し、14年前半で86社と、EDI化を実現している893社のうち10%の取引先と流通BMSによるメッセージ交換を行っている。高波氏は「製・配・販連携協議会で導入拡大計画を公表して以降、中堅の小売業様を中心に約2倍のペースで増えました。とはいえ、データ種別で見ると全体の10%に過ぎず、残りはJCAや全銀などのレガシーな手順が大半を占めています。ゴールから見れば入口に立ったレベルで、今以上にスピードを加速させる必要があります」と説明した。

 

 流通BMSの導入で、受注時間の短縮、メッセージフォーマットの標準化によるEDI開発工数の削減、ぺーパーレスの拡大といった効果は得られた。とはいえ、レガシーEDIと流通BMSが混在している限り、大きなメリットにはならず、残る課題のほうが大きい。そのため、流通業全体をあげて移行すべきと高波氏は訴えた。

「流通BMSへの移行でそれなりのコストはかかるのは事実です。しかし、25年までにNTTが固定電話回線網の廃止を公表している以上、従来の手順は強制的に使えなくなります。ですから、小売業様、卸売業それぞれの業務合理化を実現できる流通BMSに早急に移行しなければならないことを、流通業全体が意識するべきです」

 

 

出荷始まりのデータ作成と納品明細書の2つでチェンジリクエストを提出

 

 流通BMSの普及に関しては、卸売業界全体でも取り組んできた。中でも活動が注目されているのが、高波氏が昨年まで研究委員会の座長を務めた情報志向型卸売業研究会(卸研)だ。卸研は、85年に発表された「情報武装型卸売業ビジョン」を契機に経済産業省の指導のもとで設立されたグループで、卸売業に共通する情報化の課題を、業種を横断しながら調査研究を行っている。

 

 卸売業20社とIT関連企業21社から69名のメンバーが参加している研究委員会では、04年度から次世代EDI、流通BMSをテーマに設定して研究を続けてきた。12年度、13年度は、BCP対策、スマートデバイスの活用、ビッグデータの活用といった最新のテーマに加えて、流通BMS標準運用の普及と題して、提案と啓蒙を中心とした研究活動を行っている。

 

 その中で、卸売業から見て流通BMSの導入のハードルになっているものが、標準外運用への個別対応、標準化されていないために個別運用になっているものへの対応だった。そこで、研究委員会が卸研に参加する企業にアンケートを取ったところ、①オフライン受注分の出荷データの作成と、②納品明細書の2つに対して、小売業から標準外での対応が求められていることが明らかになる。

 

「オフライン受注分の出荷データについては、本来流通BMSでは発注データから始まるのがルールですが、現実には特売や追加発注などで、店舗からの電話、FAXによる発注が残っています。小売業様からはオフライン分に対してデータによる返信が求められ、しかも個別対応が求められていました。納品明細書については、流通BMSでペーパーレス化が実現しているにも関わらず、小売業様からは検品用や仕入計上の控えとして必要、卸売業は受領の証憑として必要という理由から納品明細書を2枚以上出力し、1枚を納品時に添付、受領印が押された1枚を卸側に戻すという運用が行われていました」(高波氏)

 


 卸研では1年かけてその実態を調査・研究し、その成果を受けて日本加工食品卸協会は「出荷開始型モデルの出荷メッセージの標準化」と、「納品明細書の標準化」の2つに対してチェンジリクエストを提出するための共同検討を開始。日本スーパーマーケット協会、日本チェーンストア協会、全国化粧品日用品卸連声会、食肉流通標準化システム協議会など流通団体の意見集約と調整を経たうえで、13年12月に流通BMS協議会にチェンジリクエストを提出した。

「本来、発注始まりが流通BMSの標準ルールとされているところを、出荷始まりでも可能であると卸売業側が正式に認めてしまうと、小売業様からの電話やFAXによる注文が現状以上に横行しかねないと危惧する声も聞こえました。確かに厳密化されたルールを壊すことは危ない橋かもしれませんが、オフライン発注が現実にあり、標準外の運用が行われている以上、そこで躊躇しても始まりません。標準外利用があることを認めたうえで、正しく標準化するべきだという意見にまとまりました」(高波氏)

 

 

普及を加速させるためには卸売業の営業担当者への啓蒙が必要

 

 チェンジリクエストに基づいて作成された運用ガイドラインは、14年2月に流通BMS協議会のメッセージメンテナンス部会で討議された。そして、何回かのフィードバックを経て、14年10月に最終承認され、その内容を反映したガイドラインの改訂版が11月に公開されている。

 

 今後は「出荷開始型モデル」の追加バリエーションの1つとして、オフライン発注に対して出荷からでも受発注モデルと同様に出荷メッセージを返し、受領メッセージへデータ項目の引継ぎが行われるようになる。納品明細書については用紙サイズをA4とし、最大14明細のAタイプと、最大32明細のBタイプの2種類から用途に応じて適宜選択することになる。いずれも運用に関わる定義の変更であるため、現在稼働している業務システムに変更を加える必要はなく、運用ガイドラインに修正を加えるだけで済む。

 

 チェンジリクエストの承認で一定の目的は果たせたが、高波氏は私見としながら流通BMSの普及に対する卸売業側の考えを次のように明らかにした。

「今後は卸売業の内部での啓蒙が必要で、営業担当者に対して流通BMSとは何か、メリットは何かということをきちんと意識させていくことが重要です。実際、小売業様と現場で相対するのは卸売業の営業担当者です。小売業様から『流通BMSに切り替えたらどうなりますか?』と質問された時、正しく導入メリットを説明したり、『切り替えましょう』と提案したりしていかなければ、導入はなかなか進みません。卸売業から小売業様に向けて仕掛けていくためにも、標準化に沿った営業向けマニュアルを作るなどして、積極的な啓蒙を図っていく必要があります」

 

 一方で、業界をあげて流通BMSの普及をバックアップしていくインフラも必要だ。高波氏は最後に「入口のEDIの部分だけでなく、中小の小売業様が利用できる債権債務の仕組みまでパッケージ化やアウトソーシング化することで、今以上に流通BMSのメリットを小売業様に実感してもらえるかもしれません。そのためにも官民一体となって新たなスキームを作り、小売業様の負担軽減に貢献していくことも解決策の1つです」と提言を行った。

 

 

 

 

 

 

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