日本の流通のプレステージをさらに高めるためには 小売業、ITベンダー、卸・メーカーの三位一体による推進が重要

花王カスタマーマーケティング株式会社
カスタマートレードセンター
流通システムコラボグループ
グループリーダー
松山 義政 氏

 

 フェイスケア製品から、ヘアケア製品、洗剤、化粧品、飲料まで、多彩な消費財を扱う花王グループ。日本全国に物流・販売ネットワークを持つ同グループは、流通業界の鍵を握る企業のひとつだ。 流通BMSにも2006年に経済産業省の事業として行われた流通システム標準化事業の共同実証から参加し、流通BMSによるデータ交換を開始している。
 そこで、花王製品の販売を手がける花王カスタマーマーケティングの松山義政氏に、流通業界に対する本音を語ってもらった。

Web-EDIの登場に危機感を抱いて

 

 花王グループは、経済産業省の「流通サプライチェーン全体最適化促進事業」に03年から参加し、標準化に向けた議論を続けてきた。そして、06年から行われた流通システム標準化事業の共同実証に参加。07年には小売業3社と流通BMSによるデータ交換を開始している。いち早くEDIの標準化に着手した背景には、00年代に入って台頭してきたWeb-EDIに対する危機意識があった。松山氏は「EDIは発注から納品、決済に至るまでの取引業務を全て自動化・データ化することにより高効率化させてきました。それが、Web-EDIに取って替ると、人間の手を介して処理せざるを得なくなり、それは今まで築いてきた流通の進化を後退させる可能性があります。それが危機感となり、花王グループは積極的に標準化活動に取り組んできました」と語る。Web-EDIが登場し始めた頃は、ITベンダーからも度々採用を求められることもあったが、「極力断る方針で臨んできた」という。

 

 その本気度が見えるのが、社内における標準化活動の推進だ。社内の営業部門に対して流通BMSの勉強会を実施して、標準化の重要性や得意先との協働を訴えた。2012年に実施した社内勉強会には、花王カスタマーマーケティングや関連会社のカネボウ化粧品販売の営業担当者が参加して、流通BMSの現状やデータ交換の実態などを学んでいる。「営業担当者には流通BMSが業務を効率化させるものでは無い。流通BMSをトリガーに業務をBPRしていく、それが業務改革に繋がるのだ。また、Web‐EDIを否定してはいけない。メリットもある。Web‐EDIのみで卸へ求めることが良くないのだ、と訴えました」と松山氏は振り返る。

 

 花王では現在、VANを介して取引先とのデータ交換をしているが、流通BMS稼働初期はXMLデータベースをVAN側に置き、基幹システムとのシームレスな連携を図ることで展開してきた。10年代に入ってからは、より標準に則した対応ができるようXMLデータベースを花王の基幹システム側に取り込み、メッセージ項目の高度な活用を目指した基幹システム機能へとブラッシュアップを行っている。現在は花王フォーマットに一旦変換しているが、将来的には変換することなく、標準化されたメッセージ項目が直接取り込めるようにし、必要なフル機能連携をしたいと考えている。

 

 15年11月現在で、花王グループの取引先における流通BMSの導入対応状況は、準備中も含めて25%。Web-EDI対応の小売業者9%を含めると34%となる。これから66%の得意先のIP網への対応が必要なのである。


 流通BMS対応のデータ交換先は、製・配・販連携協議会が発足した2011年以降、急激なペースで伸びている。「しかし、全体としては当初の想定の半分以下で、決して満足いくレベルには達していません」と松山氏は語る。

 

 ただ、Web-EDIの取引先数はここ数年横ばい状況で、流通システム開発センターを中心に進める普及推進活動の中で、「小売は卸に流通BMSとWeb‐EDIを選択させるもの」といった啓発が増加を抑える成果として出ている、と実感しているようだ。

 

 

NTT PSTN(公衆交換電話網)マイグレーションを起爆剤に

 

 とはいえ、NTTが2010年に広告したPSTNマイグレーション(IP網への移行)の詳細が少しずつ明らかとなり、20年以降、現在のPSTNを利用した取引データ交換の継続は不可能となる可能性が高いことが分かってきた。特に、多くの流通事業者が利用するINS回線のサービスは20年度廃止が決定されている。受発注を含め、取引に係る様々なデータ交換を20年までにIP網へ切り替えていかなければならないのである。松山氏はこの状況を「流通業界全体で、流通BMS普及の起爆剤にしなければいけない」と呼びかける一方で、「IP網への切り替えだからと、土壇場になってWeb-EDIのみでの取引データ交換要請とならないよう、各種流通団体、協会等の啓発活動が大きなポイントとなる」と話している。

 

 花王グループでは、INS回線が廃止される20年に向けて流通BMSの対応を加速させるため、15年に全国の営業担当者に対して再度PSTNのIP化と流通BMSを関係付けた勉強会を開催した。現在は、営業担当者はパンフレットを持って取引先を回り、電話網の廃止を認知していない小売業者には、専門家を派遣して詳しく説明する取り組みを、NTTと連携して進めているという。また、IP化に対応していない約66%の小売業者からの流通BMS対応の要請に備えて開発部隊の要員も増強し、年間で100社以上の小売業からの切り替えに対応できるように準備を進めている。

 

 

小売業、ITベンダー、卸・メーカーの3者の意識改革が必須

 

 流通業界全体で、流通BMSの導入が思うように進まない理由はどこにあるのか。松山氏は「小売、卸・メーカー、ITベンダーの3者の連携が必要だ」と言う。流通BMSは本来、日本の流通にとって必然的に創出された「知恵」の集まりだ。流通業界のEDI化には歴史があり、80年代にEOSで社内最適を実現し、90年代にはEDIで企業間の全体最適を図った。そして00年代に入り、流通業界の全体最適化を目指して流通BMSが登場した。流通BMSは、通信やメッセージ項目の内容を標準化し、協調領域・共有インフラ化することによりコストを抑え、本来のサービス面で企業同士が差別化を図るために導入されたものだ。その理念を実現させるためには、小売、卸・メーカー、ITベンダーの3者が一体となって推進する必要がある。ところが、現実的には思ったほどの連携が取れていない。

 


 松山氏は「小売業者は自チェーンにとって最適なシステムの構築を考えていると思います。しかし得意先と打合せをする中で初めて標準外であることを知り、ITベンダーへ改修を指示する小売業者も少なくはありません。標準外対応を要請された卸・メーカーは、個別処理により開発コストが膨らむ中で、対応している事もあると聞いています。多くのITベンダーは流通BMS協議会に携わってきました。流通BMS、標準化について十分理解されていますので、標準化のメリットを共有するなど普及に向けて積極的に取り組んで欲しいですね」とITベンダーに対する想いを松山氏は語る。

 小売業に対しても、「競争領域を協調領域に変えることによる効果は将来に向かって大きなものとなります。システム開発コストは低下し、共有インフラ化されることにより、さらなる業務効率化に繋がっていきます。流通BMSの導入をトリガーに業務改革(BPR)を進め、業務効率を推進していただきたいと思います。ASP等の導入形態により、少ない投資でも導入ができます。流通BMSは流通全体の発展に欠かせないものです」と訴える。また、卸・メーカーに対しても「流通BMSの普及・拡大に向けて、一緒に取組んでいきましょう」と協力を求めた。

 

 こうした流通業界への提案の意図について松山氏は「日本の流通を強くして流通全体のプレステージをさらに上げていきたい。そのために流通BMSの導入は重要である」と強く松山氏は訴える。

 

 実際、花王グループは小売業者やITベンダーからの標準外利用の要請については基本的にお断りし、標準利用を訴えかけてきた。また、小売業に対しては、流通BMS導入のパイロット先になると積極的に手を挙げ、最初の接続の段階から標準環境が整備できるように支援している。花王と接続した小売業者は、それ以降の接続はすべて標準をベースに進んでいくことになり、後に続く卸・メーカーは個別対応を取らずに済む。そのため、花王グループでは、月間取引額が小規模な小売業者についても流通BMSの対応を断ることなく、すべてに門戸を開いているという。

 

 標準外利用を低減するため、花王グループは流通システム標準普及推進協議会(以下協議会)が設置した標準外利用に関するタスクチームに参加し、小売や卸の業界団体とともに、運用におけるチェンジリクエストの作成を行っている。チェンジリクエストで申請を予定している内容は、小売業者が新規で流通BMSを導入する際は、開発に入る前の段階でマッピングシートを協議会に設けられた審査機関に提出する。提出されたマッピングシートは審査機関でチェックし、適格とされた企業は協議会のホームページに公開されるというものだ。「協議会が中心となることで卸・メーカーは個別で小売業者に標準維持をお願いすることもなくなり、また社名が公開されることから小売側も標準を意識することとなり、あわせてITベンダーの開発にも良い環境となる」と松山氏は狙いを語る。

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