流通BMSを活用し、スーパーマーケット本来のイノベーションを促進

日本スーパーマーケット協会
専務理事
大塚明 氏

 

 経済状況の急速な変化や少子高齢化により、更なる業務革新を迫られているスーパー業界。消費者が多様化する時代、各スーパーがオリジナリティーを発揮しなければ、激しい消耗戦を生き残ることができない。そのためにも、流通BMSで業務の標準化をいち早く図り、本業のイノベーションを推進することが求められている。
 今回は、日本スーパーマーケット協会の専務理事 大塚明氏に、流通BMSの課題、現状、展望などを聞いた。

多様なスーパーマーケットで構成される業界団体

 

 日本スーパーマーケット協会(以下、JSA)は、食品スーパーマーケットを中心に構成される業界団体だ。「スーパーマーケットの健全な発展の普及を図ることにより、食品流通の近代化・合理化を推進するとともに、より豊かな国民生活の実現に寄与すること」を目的に1999年に設立された。

 

 現在の会員企業数は102社(2010年12月)で、食料品売上構成比が50%以上かつ、10店舗以上または年商10億円以上のスーパーマーケットから構成されている。102社の会員構成は、年商300億円以上の大規模スーパーが約30%、300億円以下が約70%で、大規模小売業から中小小売業までを広くカバーしている業界団体となっている。

 

 

会員企業での流通BMS導入が急速に拡大中

 

 JSAにおいて流通BMSを導入している会員企業は、予定も含めて19社(2010年10月1日現在)。会員全体の約20%に相当する。導入状況について大塚氏は次のように分析する。 「食品スーパーは、年商規模によって抱えている課題が異なります。年商が2000億円、4000億円を超える大規模スーパーの場合、すでにEDIを導入しており、流通BMSと同等のメリットを享受しているケースが多くあります。通信手順を別とすれば、流通BMSの特徴である「事前出荷情報の活用」や「検品レス」といったことはすでに実現済みです。発注人員の削減といった側面でも、大手スーパーはすでに2、3人の体制を実現している状況で、それ以上の人員削減には限界があります。そのため、「コスト削減」「業務の効率化」のメリットを強調するだけでは、導入に踏み切れないのが現状です。一方で、年商300億円以下の小規模・中規模スーパーは、専任のIT担当者を置いていない企業が多く見受けられます。ともすれば代表取締役自身が情報システム管理を担当しているケースもあることから、情報整備が後回しにされ、ITベンダーとの距離も縮まらないのが状況です」。

 

 とはいえ、会員の流通BMSの導入意欲は決して低くないという。導入中または今後導入予定の企業19社のほとんどは、最近半年以内で導入を進めていることから、今後は急速に普及が拡大すると大塚氏は期待する。
 「現在は、既存システムの投資回収時期に当たっている企業が大半です。そのため、早急に設備投資ができる状況にないだけで、次期システムから流通BMSに順次切り替えていくとすれば、今後加速度的に拡大していく可能性は高いでしょう。未導入の会員企業からも好意的な反応が寄せられているので、導入企業が増えていけば普及は着実に進むはずです」

 

 会員企業のほとんどの小売業者は、総論で流通BMSに賛成だが、各論では不安があるのも確かだ。コストと効果の関係が依然として明確でなかったり、システム投資に対するアウトプットが少なかったりすることが、導入に不安を抱かせている原因と大塚氏は分析する。また、仕入れ先の規模や発注方法も千差万別であることから、一足飛びにシステム化することは難しい。
 「食品スーパーの取引先は、街のお豆腐屋さんのような、小さな相手がほとんどです。仕入れ先が小規模の場合、電話やFAXといった受注方法からシステムに切り替えるとしてもかなりの負荷がかかります。こういった小さな取引先が大半を占めるスーパーでは、既存環境からの切り替えはそう簡単に進みません。まずは加工食品メーカーのようなお取引先様からスタートし、徐々に拡大していくことになるのではないかと思います」と大塚氏は語った。

 

 

会員企業の導入事例や委員会活動を通してノウハウや情報を収集

 

 JSAでは、常任の「情報システム委員会」の活動を通じ、流通BMSの普及を推進している。委員会活動を通して、流通BMSの意義やメリットをアピールすると共に、会員同士が情報交換を行い、不安や疑問にを解消することで、流通BMSの拡大を進めていく方針だ。
 「まずは導入していただくことが大前提ですから、目の前のハードルを下げることが私たちの役目です。例えば、導入コストで悩んでいる会員企業があれば、複数社でコストをシェアするプランを提案する場合もあります。ITベンダーとの接点がない会員企業に対しては、ベンダーとのマッチングを通して技術的な課題をクリアにするお手伝いをします」と、さまざまな施策を進めていることを明らかにした。


 会員同士が流通BMSに関する情報やノウハウを交換しあえるのは、業界団体ならでのメリットだ。流通BMS未導入の会員企業は、先行して導入した企業の事例を通して具体的な知識を習得したり、事務局などから法制度の変更に関する情報を獲得したりしながら準備を進めることができる。

 

 

流通BMSをツールとして活用し、イノベーションの創出を加速させることが重要

 

 しかし、急速に変化する経済状況や社会情勢では、各スーパーマーケットが将来に向けたビジョンを描くことが何よりも重要となる。大塚氏は「流通BMSは有効な手段ですが、あくまでも道具のひとつに過ぎません。この道具を活用したイノベーションこそが、現在のスーパーに求められています。スーパーマーケットと呼ばれる小売形態がアメリカから日本に導入されてから約60年。日本はアメリカのモデルを模倣しながら成長を遂げてきました。日本国内では長期間にわたって共存共栄の姿勢で生き延びてきた一方、オーバーストア(カンパニー)のために今や消耗戦となっていることも確かです。コモディティ商品の乱売によって、他社との差別化が難しくなった現在、スーパーが生き残っていくためには、他社のモノマネではなく、それぞれのオリジナリティーを発揮していくことが求められています。それを考えるなら、インフラやオペレーションで他社と差別化を図ることに大きな意味はありません。標準化された流通BMSを活用してプラットフォームは他社と共有し、イノベーションや新たなビジネスモデルの創出に自社のリソースを投入していくことが重要です」と強調した。


 この60年間で、日本は「もの不足」の時代から「もの余り」の時代を経て「もの離れ」へと突入している。国内では少子高齢化が進み、業界内のサバイバル競争も激しさを増す一方だ。「多様化する顧客の嗜好に合わせて、スピーディーに対応しなければ生き残ることはできません。顧客から『この商品が欲しい』と言われた場合、以前なら調達に2カ月かかっても『ありがとう』と言われた時代がありました。しかし現代は『欲しい』と言われたらその日の夕方や翌日に提供するスピードが求められる時代。スピードに対応し、生産性を高めるためには、スーパーはもちろん、メーカーも卸業者も一体となって情報の共有化を図らなければなりません」と大塚氏。


 大塚氏は最後に「JSAは日本の豊かな食文化を守り、育てることを使命としている以上、食品スーパーである会員企業に対し、イノベーションの重要性を訴えていく義務があります。そのためにも流通BMSがそのきっかけとなることを期待しています」と語った。

 

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