「2020問題」を契機にスマクラを導入 目指すは、85%のEDI化!

株式会社アマノ
専務取締役
天野 良喜氏

 

 秋田県下に、店舗面積3,000坪を超えるスーパーセンター3店舗を構える株式会社アマノ。約15万の商品を揃える大型の小売店だが、受発注のやりとりは、VAN会社を介してEOS、FAX、電話の3種類で行っており、大量の出荷伝票を処理する作業に追われていた。
 そこで、NTT東西のINSネットディジタル通信モードのサービス停止が予定されている「2020年問題」を契機に流通BMSに移行し、2015年10月からEDIへの切り替えを開始している。計画通りに進めば2018年までに85%がEDI化され、業務の効率化やコスト削減が進む見込みだ。そこで導入プロジェクトについて、同社専務取締役の天野良喜氏に聞いた。

 


伝票入力の山で、ミスも多発。大量の訂正伝票が発生

 

 株式会社アマノは町の金物店からスタートし、84年に店舗面積約150坪の「ホームプラザアマノ」に転換して設立された。その後、店舗を300坪に拡大し、97年にスーパーセンターに業態を転換している。その後も拡大を続け、現在、秋田県男鹿市、南秋田郡井川町、秋田市御所野で運営している3つの店舗は、いずれもワンフロアが3,000坪超の大型スーパーセンターだ。店舗では、生鮮食品から一般食品、衣料品、家具、雑貨など、日常生活に必要なものをワンストップで揃え、地域の生活を支えている。天野氏は「商品は専門性が高いものではなく、地域のお客様のニーズ、ウオンツに沿うベーシックなアイテムに絞りこみ、多品種・多品目の圧倒的な品揃えと、安さを打ち出しています」と説明する。

 

 店舗作りもユニークだ。全店舗がバリアフリーで、通路幅を広く取るなど、高齢者、障害のある方、お子様連れのお客様がゆっくり買い物できるよう配慮している。特筆すべきは、商圏内の高齢化率が高い井川店と男鹿店に設けられた高齢者サロン「ふれあい茶の間」だ。ここは60歳以上で会員になった方なら誰でも自由に利用ができ、無料でお茶やコーヒーを飲むことができる。

「地域のコミュニティの場として作りました。会員数は500名ほどで、ひんぱんに来店される方も多く、ここでお友達になった方もいらっしゃいます」(天野氏)

 

 「ワンフロア・オールインワン・ディスカウントショッピング」をコンセプトに、15万SKUの商品を揃えるアマノの取引先は、約500社にのぼる。従来の発注はVAN会社を介して発注データを取引先に配信し、ターンアラウンド伝票を使って運用するEOSのほか、FAX、電話、時には営業担当の口頭による伝達もあり、業務は煩雑を極めていた。取引先から受け取った出荷伝票のデータ入力は、各店舗で事務スタッフが2~3人が行っていたものの、伝票が机の上に山積みになっており、スタッフは1日中、入力作業に追われている状態だったという。

 

 さらに、問屋側の欠品によって発注数と納品数に差異があったり、納品伝票の記載間違いがあったりで、店舗では修正したものを手打ちしなければならなかった。「この訂正伝票が大量に発生する要因は、品揃えが多いゆえに、納品する商品を取引先が在庫しなければならないという事情もありますが、欠品はアマノにとって致命的な問題になりかねません」と天野氏は言う。

 

 

電話回線が廃止になる「2020年問題」への危機感も

 

 流通BMSを検討する背景には、さらにもう一つ大きな問題があった。それは、EOSで使用していたVAN会社に発注データを流しても、そこでデータが止まってしまい、問屋に届かないことがひんぱんにあったからだ。「システム側のトラブルが主な原因ですが、私どもにとっては問屋からの問い合わせを受けてからようやくデータが届いていないことを知ることがありました。そのため、取引先には多大なご迷惑をおかけしており、大きな不安を抱えていました」と天野氏は振り返る。

 

 さらに、大手の問屋からEDI化の要請があったことも流通BMSに切り替えることを後押しした。取引先の問屋からは、EDI化を図って業務改善を実現している量販店やスーパーマーケットの事例を紹介され、従来のJCA、FAXだけでなく、流通BMSやWeb-EDIなども選択できるようにして欲しいという声が強まっていたという。

 

 もう1つは環境要因として、NTT東西のINSネットディジタル通信モードのサービス停止が予定されている 「2020年問題」もあった。同社のシステム担当者はこの問題を把握していたものの、経営層の天野氏のところまでは情報が届いておらず、15年の半ばに初めて「2020年問題」を知る状況だったという。「これを機によくよく調べてみると、電話回線の問題だけでなく、16年には、JCA手順に必要なモデムなどの専用機器の生産や保守が中止になることがわかりました。さらに17年には、複数税率の導入が予定されていますが、現状のJCA手順のままでは対応できません。JCA手順を使い続けるリスクを回避するなら、流通BMSへの切り替えは必須だと感じました」と天野氏は語る。時期を同じくして、基幹システムの保守期間の終了が迫っていることもきっかけとなり、従来のEOS、FAX、電話の3手段から、流通BMSに切り替えることを決断した。

 

 

サービス型の「スマクラ」の採用で、手間を要することなく導入が完了

 

 アマノでは、流通BMSへの切り替えに際し、クラウドサービスであるSCSKのスマクラ(流通BMS、Web-EDI、JCA)を採用した。スマクラを選定した理由は、流通4団体推奨サービスであることと、長年の実績で必要な機能をほぼ揃えていること、東北地方のスーパーで採用実績が多いことなどを挙げている。特に、大手ベンダーの手が届きにくい地域において、SCSKの営業範囲の広さは心強いものだったという。

 

 切り替えに際しては、アマノ側が統括・業務責任者の天野氏を筆頭に、システム担当者と契約担当者の3名体制で臨み、SCSKからは3名のスタッフがサポート。さらに基幹システム会社の寺岡システム秋田支店と、寺岡精工の担当者を加えた陣容で、スムーズに切り替えが進められた。

 

「手間もコストも、思った以上にかかりませんでした。初期費用は、自社でシステムを構築する場合の数十分の1程度で済み、当社の規模のスーパーセンターでも大きな負担にはなっていません」(天野氏)

 

 

 約500社の取引先に対しては、まずEOSでの受発注を行っていた企業に対して、流通BMSへの切り替えを依頼した。当初は一気にEDI化したかったが、それまでのVAN会社とEOS契約をしていた企業は、契約が5年縛りとなっており、途中で解約すると違約金が発生することがわかった。そこで、契約が切れたタイミングでの切り替えを依頼し、15年3月から受け付けを開始した。早い取引先とは9月からテストを実施して、15年10月から運用を始めている。その後も順次切り替えを進め、16年1月の段階では26社まで進んでいる。

 

 一方、それまでFAXで取引していた企業については、約300社の中から伝票枚数の多い企業や、規模の大きい企業など約100社をピックアップ。15年8月に説明会を開催して流通BMSへの切り替えを依頼した。「EDIをご存じない小さな規模の取引先もいらしたと思いますが、SCSKさんにわかりやすく説明していただきました。その結果、約3割の企業様が快諾して下さいました」と天野氏は語る。

FAXから流通BMSへの切り替えは、16年の年明けから開始し、2月末までに30数社のEDI化が完了した。16年2月末現在、アマノにおけるEDI化は、EOSからとFAXからの2つを合わせて計62社となり、全取引量の約20%に達している。

 

 

 

欠品率の把握が可能になり、問屋との交渉がスムーズに

 

 流通BMS導入による効果としては、EDI化率が上がることで、ペーパーレス化と業務の効率化、受発注の精度向上などが期待される。その中でも現時点で大きな効果を感じているのは欠品率の低下だ。

 

 「基幹サーバーをバージョンアップする際に、欠品率が一目でわかるようにシステムを改修しました。これにより、問屋ごとの欠品率が可視化され、現状把握ができるようになっています。また、それまではできなかった問屋との交渉が、今は客観的な数字を元にできるようになり、納品精度が向上しています。」(天野氏)

 

 問屋側においても、ピッキングの優先順位が付けやすくなり、今後は店舗の売上に好影響を及ぼすことが期待されるという。

 


 アマノでは今後もEDI化率を高めていく方針で、VAN会社を通している企業については契約満了のタイミングで、スマクラへの切り替えを進めていく予定だ。一方、FAX専用の取引先については、取引が週に1~2回と少なかったり、あるいは季節限定やスポットであったりすることもあり、200社以上は今後もFAXでの受発注を継続していくことになる。「目下の大きな課題は、伝票枚数が多い生鮮の部分で、早い時期にEDI化できればと思っています」と天野氏は展望を語る。

 

 タイムスケジュールとしては、18年10月までに少なくとも150社の切り替えを済ませ、180社になった段階でJCA手順を廃止する計画で、その通りに進めば、18年には商品の85%がEDIでの受発注になる。「その際は、伝票入力業務を本部に一元化し、店舗の負担を減らすことも考えています」と天野氏は大きな期待を寄せている。

 

 

「スマクラ for Web」の機能強化で流通BMSへの切り替えが加速

 

 今回のアマノにおけるEDI化のポイントは、通常の流通BMSである「スマクラ」のほかに、インターネットにつながるパソコンさえあれば対応できるWeb-EDI「スマクラ for Web」を採用していることにある。スマクラ for Webとは、本格的な流通BMS対応が難しい小規模な取引先向けの補完サービスだ。

 

 スマクラ for Webは「流通BMSにおけるWeb-EDI基本方針について(2011年3月8日 流通システム標準普及推進協議会/Web-EDI検討部会公開)」に準拠しており、流通BMSで定義されている受発注の標準業務プロセスはもちろん、生鮮やアパレルなどの部門特有な業務プロセスにも対応した機能を備えている。また、流通BMSの補完となるよう、取引先の規模、特性に合わせた機能も備えているため、取引先側での導入ハードルがとても低くなり、従来型のEOSやFAXからの受け皿として最良の選択肢となっている。具体的には、自社で専用のシステムを持っているような大きい取引先向けのCSVファイルのダウンロード・アップロード機能や、ピッキング方式(摘み取り式、種まき式)や納品形態(店直納品、センター納品)に合わせた数種類の標準帳票出力機能、部門や納品日をまたいでデータ受信可能な一括ダウンロード機能などを備えている。

 


 スマクラ for Webが、初めてリリースされたのは12年のことだ。その後も機能面を拡充し、流通BMSへの切り替えにおいて重要な役割を担うようになってきた。13年には生鮮機能やデータ受信機能を追加。14年には保有機能が多くの小売の要件を満たすようになり、カスタマイズなしで導入する実績が増えた。SCSKの流通システム事業部門 流通システム第二事業本部 クラウドサービス部基盤サービス課の大森雄太は「導入実績が豊富で、発注予定機能、相場品や集計表に対応した手書機能、出荷梱包に対応したSCMラベル機能など他社のサービスにはあまり見られない機能まで網羅しているので、どのような小売業でも、ほぼ標準機能だけで導入ができます。SCSKでは各小売様の意見をヒアリングする機会も多く、自社で蓄積したさまざまなノウハウは、即座にシステムにフィードバックしています」と語る。

 

 15年には、1つのWebサイトで複数の小売に対する「マルチテナント化」に対応したことで大きな飛躍を遂げることになった。マルチテナントは取引先・小売にとって様々なメリットがある。取引先にとっては、今まで複数小売との取引において多種多様なWeb-EDIを使い分ける必要があったが、マルチテナントでは、1つのURLにアクセスすれば、複数小売の取引が行える様になる。サイト管理が簡略化されるだけでなく、同一サイトであるためにシステムの操作性・データ項目(CSVレイアウト等)が統一され、システム導入をスムーズに進められる。結果、導入時の小売負担も軽減される事となる。また、マルチテナントは都度機能・性能のバージョンアップを行うため、導入後の長期利用が見込める事も大きなメリットである。小売は「税率が変更される」「最新のブラウザで動作しない」等、世の中が変化する度にシステム改修費用を投じる必要がなくなっていく。また、スマクラ for Webは、機能面の改善だけでなく、システムの使いやすさを日々向上させ、セキュリティレベルの強化を図っている。バックエンドでは小売本部向け機能やシステム運用者向け機能の充実を図りながら、安価なシステムを実現するための努力も怠らない。

 


 大森氏は「12年のリリースから4年間で市販のパッケージ以上の機能を網羅するようになり、システムとしての完成度も高まりました。16年は軽減税率の対応や、タブレットなど新たな端末への対応、新たなWebブラウザへの対応など、業界の動向に即したWebサイトを構築します。また、店舗や物流センターの業務負荷軽減・精度向上となる機能の更なる拡充にも対応することで、スマクラ for Webの優位性を高めていきます」とこれからの展望を明らかにしている。