流通業界の新たな幕開け 流通の効率化・高度化を推進する「製配連携協会」を設立

 財団法人流通経済研究所と一般財団法人流通システム開発センターは2011年5月19日、消費財分野におけるメーカー、中間流通・卸、小売の「製・配・販」が業界の垣根を超えて連携し、流通の全体最適化を目指す「第1回製・配・販連携フォーラム」を開催した。
 フォーラムでは、発起人会社15社で構成したワーキンググループが、「配送最適化」「返品削減」「流通BMS導入推進」の3テーマに関する成果報告を行うとともに、15社の経営トップによるパネルディスカッションを実施。最後に「製配販連携協議会」の設立声明を発表した。
 そこで今回は、フォーラムの模様を交えながら、製・配・販連携の意義と今後の流通業のあり方について紹介する。

 

 

消費者への貢献を最終目標に、製・配・販の3者が相互に連携

 

 フォーラムの開始に際し、一般財団法人流通システム開発センターの井上毅会長があいさつ。製・配・販が連携するに至った経緯と、その意義について説明した。

 経緯については、1年前の10年5月、経済産業省の積極的な支援のもと、日本を代表する製造業、卸売業、小売業15社の経営トップが集結。各社が抱えている流通課題を議論し、製・配・販の3者でサプライチェーンの全体最適化を推進することを確認する。その後、15社の実務担当者が参加したワーキンググループで、「配送最適化」「返品削減」「流通BMS導入推進」の3テーマについて検討を重ねてきたという。


 こうした取り組みについて井上会長は「製・配・販の経営層が業種業態の垣根を越えて一体となって流通構造の抜本的な改革を目指すのは、日本の流通政策においても40年ぶりとなる画期的なできごとです。しかも、国に依存するのではなく、経営層が主体となって取り組むことに意義があります」と力を込める。そして今回のフォーラムについても「ワーキンググループが1年間かけて取り組んできた成果を公表すると同時に、継続して問題解決をはかるための製配販連携協議会を設立することが目的です」と説明した。

 

 製配販連携協議会が検討すべき課題は、サプライチェーンの最適化から、透明で合理的な取り組みの実現、環境問題への対応、消費者の安全ニーズへの対応など多岐にわたる。井上会長は「こうした活動を通じて、製・配・販が相互にWin-Winの関係を構築することで、最終的には消費者にメリットがもたらされることを確信しています」と語った。


 続いて、来賓あいさつとして、海江田経済産業大臣のメッセージを大臣官房審議官が代読。2011年3月に発生した東日本大震災をきっかけに、食品や日用雑貨のサプライチェーンが社会の重要な社会インフラとして認識されていることを強調し、製・配・販の連携により、強靱なサプライチェーンが誕生することを期待していると語った。


 さらに、欧米諸国がITをフルに活用し、取引の標準化や生産・発送の効率化を進めている事実に触れ「日本の強みである高度な接客術と、清潔・安全のイメージを維持向上しながら流通の最適化を推進することこそが、グローバル競争を勝ち抜くカギ」と指摘。そのためにも経済産業省はIT基盤の向上などを通じてサポートしていくことを約束した。

 

 

「流通BMS導入宣言書」を公開し、サプライチェーンの全体最適化を支援

 


 続いて「配送最適化」「返品削減」「流通BMSの推進」の3テーマについて、各ワーキンググループが約1年間にわたって議論してきた成果を報告した。

 流通BMSの導入推進は、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン株式会社 セクションマネージャーの山下啓介氏が発表。製配販連携協議会が掲げるビジョンを実現するためには、情報連携強化によるサプライチェーンの全体最適化が重要であることを強調した。

 日本における流通BMSへの取り組みは、平成18年度(06年度)に官民一体で実施した共同実証までさかのぼる。以来、流通BMSの導入は着実に進み、サプライチェーンの効率化を具現化している企業も多い。しかし、製・配・販の企業数全体に占める、流通BMS導入企業の割合は低いことも事実だ。そこで山下氏は「更なる流通BMSの普及こそが、その効果を最大化する」と指摘し、次のように訴えた。

 

 「個別でEDIを導入している企業は、流通BMSの導入によって標準化への対応を実現し、EDI対応未実施の企業は流通BMSへの対応を積極的に推進していく必要があります。すでに流通BMSを導入している企業も、新たなビジネスモデルを構築してさらなる効率化を進めていかなければなりません。各標準化団体で議論が進んでいるメーカーと卸間のEDI取引についても、製・配・販のタイムリーな連携はなくてはなりません」


 ITの普及と活用は、流通業界のみならず産業全体の生産性向上に寄与することは紛れもない事実。流通BMSの導入による標準化の推進は、業務の効率化・高度化だけでなく、社会的に求められている安全・安心ニーズへの対応など、新たな付加価値の創造に貢献を果たす。これを受けてワーキンググループでは、発起人15社と賛同企業の計49社が情報連携の強化によって流通BMSの導入拡大計画を促進し、積極的な情報公開によって普及に努めることを宣言。山下氏は「流通BMSの導入とは、少なくとも1社以上と、標準通信プロトコルと標準メッセージを利用して取引することを指し、まずはサプライヤー(メーカー・卸)と小売間の取引から始めることが目標です。流通BMSの未導入企業は今後の導入計画もしくは検討状況、導入済みの企業は今後の拡大計画を、平成23年9月末を目処に公表するものとし、推進を加速していきます」と改めて決意を表明した。

 


製・配・販3者の業務を相互に理解し公平性を保つことが成功のカギ

 

 配送の最適化については、株式会社イトーヨーカ堂 物流企画開発部統括マネージャーの飯原正浩氏が発表。製・配・販連携の意義について「取引企業が双方向で業務実態を理解することが重要」と強調した。

 ワーキンググループでは、大前提となる「基本手順書」をまとめ、具体的な取り組み事例の蓄積を通してベタープラクティスを3者で共有していくアプローチを採用した。取り組み体制に関して飯原氏は「配送には情報システムが必ず関わることから、情報担当のメンバーも欠かせません」と指摘した。

 

 検証効果として、ワーキンググループ参加13社の事例を紹介し、今後の検討課題について飯原氏は「リードタイム・納品時間の見直しと、情報共有・連携の推進の2点により、配送の最適化を進めていきます」と語った。

 

 返品削減の取り組みについては、株式会社Paltac 業務改革部の久宗圭一氏が発表。返品は最終的に消費者の不利益につながることを指摘したうえで「日本を代表する有力企業が一堂に会して製・配・販の利害を超えて返品の実態解明に取り組んだことは画期的」と強調した。

 ワーキンググループでは、返品の実態を明らかにするにあたり、返品に関する一連のワークフローを作成。さらに加工食品と日用雑貨の返品状況を詳細に調査し、返品の直接的な原因を特定した。久宗氏は「直接的な原因以外にも、販売政策、需要予測、在庫計画といった、根本的な原因にもアプローチする必要があります」と語った。

 

 さらに久宗氏は今後の計画について「製・配・販の関係者で正確な情報を共有し、3者共同の仕組みを構築することで返品の削減につなげていきます」と説明した。

 

 

豊かな国民生活の実現を目指し製配販連携協議会を設立

 

 ワーキンググループの成果発表に続き、発起人15社の経営トップによるパネルディスカッションを開催。流通業界の全体最適化をはかるためには、製・配・販が一致団結することが重要であることをすべてのトップが言及し、参加企業全体の共通認識であることを印象付けた。利害関係が異なり、ライバル関係にもある製・配・販3者が集うことは決して容易ではない。その結果、過度な競争や合理化で個別最適化が進み、消費者に付加価値が提供できなくなっているのも事実。このような状況だからこそ、問題意識を共有し、相互に理解を深めることが重要であることが指摘された。また、東日本大震災によって改めて浮き彫りになったサプライチェーンの重要性についてもそれぞれのトップが口にすると共に、グローバル社会を見据えて「オールジャパン」で海外との競争に立ち向かうことの重要性を指摘。そのためにも情報の共有化が一層重要であることを再確認した。

 

 流通BMSに対しては、株式会社ライフコーポレーションの岩崎高治氏が、ワーキンググループの取り組みを評価。さらに、イオンリテール株式会社の家坂有朋氏が、流通BMSによる取引先数はすでに260社に達していることを明らかにし、今後もさらなる拡大を目指していくことを語った。

 パネルディスカッション終了後の製配販連携協議会設立式には、株式会社ヤオコーの川野幸夫会長が登壇。40社の参加企業によって船出を果たした製配販連携協議会が、日本の流通構造改革をリードしていくことを高らかに宣言し、フォーラムは幕を閉じた。

 

 

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