【日経MJフォーラム2015】オムニチャネル戦略 推進課題解決セミナー ~EC最適化とチャネル統合で実現する競争力強化~

 実店舗とインターネット通販を連携させる「オムニチャネル戦略」が急速な広がりをみせている。だが、ネット通販を拡充すれば、実店舗の売上高が落ちるのではないかという不安もある。成功するオムニチャネル戦略の条件とは何か。日経MJフォーラム2015「オムニチャネル戦略推進課題解決セミナー」の模様をリポートする。

 

【基調講演】 経営戦略としての「オムニチャネル・リテイリング」 

 

野村総合研究所
主席研究員
藤野 直明氏

 日本でも「オムニチャネル・リテイリング」の概念が紹介され、取り組み始めた企業も多い。その一方で、初歩的な誤解とそれに起因した課題を抱えた企業も少なくない。誤解とはオムニチャネル戦略を店舗への誘客のための広告施策と捉えたり、逆にウェブ通販事業の拡大だけを考慮したIT(情報技術)整備で十分と考えたりすることである。

 今、消費者は店舗やウェブ、交流サイト(SNS)など、あらゆる情報源に触れて商品に関する情報を収集する。その全てのタッチポイントが小売業のブランドを形成しているのである。顧客から見た小売りの概念は「店舗」から「チャネル横断のブランド」へと移行している。
 
 オムニチャネル戦略とは、このパラダイムシフトに適応するための経営戦略である。マルチタッチポイントの顧客は商品の検討に時間を多くかけるが、購買確率が高く、購買額も大きい。このようなロイヤルティーの高い重点顧客を囲い込むためには、あらゆるチャネルを総合的に活用し、リアルタイムかつパーソナライズされたサービスで高い顧客満足を獲得する必要がある。カギとなるのはチャネル横断型の顧客管理、商品管理、販促管理の実現だ。
 
 課題は2つ。1つはシステム構造である。業務やチャネルごとに独立したシステム・データベースが乱立しているのが現状だが、これらを統合的に管理して、リテールのIT構造を変えていこうという動きは5年前から起きている。
 
 もう1つは組織構造だ。チャネル別組織になっている場合、販売段階の競合だけでなく、マーケティングの連携も希薄になる。ネットの組織のノウハウを移転し、マーケティング統括組織として共有する仕掛けを作っていくべきだろう。
 
 オムニチャネル戦略は「サービス業としての小売業」の経営戦略であり、中期経営戦略やIT計画には欠かせない視点だ。経営直下にタスクフォースを設け、早期に実行ロードマップを構築すべきである。

 

【課題解決セッション①】 リアル系流通業のデジタル化 〜店舗システムなくして、オムニチャネルにあらず〜

 

ヴィンクス 執行役員
デジタルリテール事業本部
副本部長
稲葉 将氏

 ヴィンクスは、大手流通系の情報システム会社が統合して誕生した、富士ソフトのグループ会社である。流通に特化したIT企業として、ハードに依存しないPOSソフトウエアや顧客管理システム、商品管理システムなどを開発。長年の豊富な経験を基に、流通やサービス業の現場に寄り添ったトータルなソリューションを提供している。

 ネット系のビジネスとしては、大手流通小売企業のECサイトのシステム構築やアプリケーションの保守を担当。また、中国のパートナー企業とともに、日本企業の中国へのEC進出のワンストップサービスを行っている。先日も大手化粧品会社のECサイトを開設したばかりだ。
 
 今、業界ではオムニチャネルが大きな話題になっているが、実際に小売りの現場を見ると、まずはECの事業をきちんと立ち上げ、運営できるようにすることが先決だと感じる。モールに出店し、自社のECサイトを立ち上げたが、売り上げが伸びない。ECの経験がないため、何が問題かがよくわからず悩んでいる企業も多い。
 
 われわれが具体的に提案したいのは2つ。1つは調査・戦略立案だ。商圏内のネット利用動向や競合動向、業界における強みや弱みを調査し、ネット販売の強みを明確にして、デジタル戦略を提案する。具体的には、ネット販売のアイテム構成や価格設定、販売体制の構築などが挙げられる。
 
 もう1つはログ解析。ログを取っている企業と取っていない企業は、かなりはっきりと分かれる。サイトへの流入経路はおおむね把握しているが、問題は、直帰、離脱、遷移である。例えば、離脱率はサイトの問題点を発見する指標となる。問題のある特定ページを深掘り分析して、改善策を導き出す。
 
 ECの何を改善し、店舗の仕組みとどう連動させればいいのか。現実に即した課題解決を手伝うことができればと考えている。

 

 【課題解決セッション②】 実店舗とネットのシステム連携で顧客拡大! 柔軟なECプラットフォーム「えびすマート」

 

インターファクトリー
取締役
三石 祐輔氏

 ECサイトを作る仕組みはいくつかあるが、全体の7〜8割の企業が「ASP」や「パッケージ」を利用している。 

 「ASP」はECシステムをレンタルしてECサイトを構築する仕組みだ。低価格で導入までのスピードも速く、保守も不要。ただ、デザインに制限があり、独自機能の実現や外部システムとの連携ができない。
 
 一方、パッケージソフトウエアを利用してECサイトを構築する場合、柔軟性や拡張性はあるものの、陳腐化するのが一番のデメリットだといえる。導入後、課題が顕在してくると、いちいち対応する必要があり、コストも時間もかかってしまう。

 
 この両者の強みを兼ね備えた仕組みがSaaSだ。当社の「えびすマート」はクラウド環境で提供するSaaS型のECプラットフォームである。2010年以降の導入件数は300サイト以上。小売り、流通、アパレル、金融機関など、様々なジャンルの企業が利用している。
 
 強みは拡張性と柔軟性に優れていることだ。デザインやシステムのカスタマイズが自由自在で、オムニチャネル戦略では必須となる外部システムとの連携もスムーズに行える。


 「パッケージ」との大きな違いは陳腐化しないこと。毎週システムが自動更新される。必要な機能はすぐに実装されるので、常に最新・最適の状態で使うことができる。
 
 セキュリティーについては金融機関が求める高いレベルをクリアしている。アクセスが集中した際の安定したパフォーマンスも実証済みだ。ランニングコストは従量課金で、最適な価格設定になっている。


 「えびすマート」の顧客企業は、ポイントの一元化や在庫のリアルタイム更新、EC購入商品の店舗受け取り、店舗での決済のEC化など、オムニチャネル戦略を次々と実行し、成果を上げている。企業が抱える課題に日々向き合い、役に立ちたいと考えている。

 

【課題解決セッション③】ECでのユーザー把握がオムニチャネルの命運を分ける! 知られざる検索とレコメンドの進化とは

 

ゼロスタート
社長
山崎 徳之氏

 日本のEC化率は5%未満にとどまり、欧米に比べて低い。逆にいえば、伸びしろは大きいということだ。ECを軽視していると、ECに真剣に取り組んでいる企業に対し、大きな後れを取るだろう。
 
 オムニチャネルの本質は、どのチャネルから入っても、購買体験につながることである。そのベースとなるのが検索であり、検索の強化・向上はオムニチャネルの基本戦略だといえる。
 
 ECの検索は、実店舗の接客だと考えれば分かりやすい。「○○を探しているが、在庫はありますか」とか「違う色はありますか」と話しかけるのが検索である。
 
 これには2つの意味がある。消費者がサイトに話しかける貴重な機会であり、ユーザーの需要を正確に知ることができるチャンスだという点が1つ。もう1つは消費者の購入意欲が高い絶好のタイミングだということだ。
 
 にもかかわらず、機械的に処理し、マッチするものがないときに「0件です」とだけ表示したら、不親切だし、もったいない。実店舗であれば、「別のメーカーでこういうものがあります」とか、「何日に入荷します」といったレコメンドを盛り込んだ対応がされるはずだ。消費者は「調べる」という欲求が満たされないと、商品の購入や情報収集を中断してしまうか、別の店舗やサイトへ移動する。
 
 検索条件や行動履歴はユーザーを理解する上で非常に有用だ。例えば、購入のタイミングによって、発売後すぐに欲しいタイプなのか、人気が出てからフォロワーとして買いたいタイプなのかがわかる。ECの場合、ユーザーの行動や入力情報をすべて取っておいて、あとからいくらでも使える。これこそがオムニチャネルの中で、ECが最も寄与できる部分だ。
 
 今、求められているのは、実店舗で長年にわたって培われた接客をECで実現していくこと、ECならではの強みを他のチャネルにフィードバックしていくことである。

 

【課題解決セッション④】 キャンペーン管理×プライベートDMPで実現する「オムニチャネルOne to Oneマーケティング」

 

スプリームシステムコンサルティング
セールス&マーケティング部
マーケティングチームリーダー
石井 恵莉氏

 いつ、誰に、何を、どのチャネルでアプローチするかを分析してシナリオを作り、対象のターゲットを抽出して実行し、成果を分析して自動化する。この一連の流れをコントロールし、販促の総合的な費用対効果を把握しつつ、改善していく仕組みを持つ手法をキャンペーン管理と呼ぶ。また、これらのプロセスをチームで共有し自動化することをマーケティングオートメーションと呼ぶ。
 
 企業が持つマーケティングデータを活用して「OnetoOne」を実現するという目的については、最近話題のプライベートDMPとほぼ同じだと考えていい。
 
 現場からは、分析できる人がいない、いつも同じ優良顧客に集中してしまう、誰にどのキャンペーンを行ったか管理できていないといった話をよく聞く。
 
 一番重要なのは分析・シナリオである。まずリピート率などから優良顧客、成長顧客といったセグメントを作り、月ごとの推移を把握。その結果、「成長」から「優良」に上がってくる人数が減少しており、成長顧客は2カ月以上購入がないとリピート率が落ちることが分かったとしたら、2カ月休止している成長顧客を抽出してキャンペーンを実行する。
 
 このようにすると、優良向け、新規向けなど、たくさんのキャンペーンができる。その際、過剰なキャンペーンを防ぐため、メールやDMの回数、優先順位などの制限を設け、最適なキャンペーンを自動的に抜き出していく。

 
 あるデパートはカタログ配布のセグメントを改善することで、配布冊数を減らして売り上げを伸ばした。きめ細かなフォローを自動化して、作業工数を大幅に減らした企業もある。
 
 また、当社は店舗内の客の動きを検知して興味を抽出し、リアルタイム販促や事後販促につなげる動線分析も提供している。オムニチャネル戦略を推進する一つの強力な手段になると考える。

 

【特別講演】 丸井グループWeb戦略

 

丸井グループ
専務取締役 専務執行役員
佐藤 元彦氏

 丸井は顧客のニーズを起点にして、店舗・エポスカード・Webの三位一体型の新しいビジネスモデルの構築に取り組んでいる。
 
 現在、店舗とWebの併用客は増加しており、店舗のみ利用の顧客に比べ、併用客は利用額・利用回数ともに伸びが大きくなっている。店舗での購入額だけを見ても、併用客のほうが多い。
 
 さらに、店舗のみ利用客の平均利用額が翌年には伸び悩んでしまい下がっているのに対し、併用客の場合は逆に増加している。このことより、店舗とWebをうまく使い分けている併用客は、翌年の利用額の伸びも大きいことがわかった。
 
 Webで購入すると、その分、店舗の売り上げが減るのではないかといわれるが、実際には顧客との接点が太くなってくる。
 
 当社では、エポスカードでの精算時にWeb利用の有無を自動認識し、Webで利用できるクーポンレシートを発行するなど、積極的にWebへの誘導を図っている。
 
 Web通販の顧客のニーズに応え、店頭での試着や受け取りのサービスをいち早く開始した。Webで予約して試着し、実際に購入した人のうちかなりの方が当日、店舗で他の商品を購入。試着後、キャンセルした人が店舗で買い物をするケースも多く、店舗への売り上げ寄与効果は大きい。
 
 また、アンケート調査では、Webで下見をして店舗で購入する人の構成が高かったため、画面に取
扱店舗の在庫も表示した。店舗の在庫を照会した人のうち、10人に1人は1週間以内に店で購入している。
 
 オムニチャネル戦略では、顧客とのコミュニケーションが大事だ。当社もコミュニティーサイトを開設。そこでの意見がヒット商品の開発にもつながっている。
 
 丸井グループでは、リアルタイム在庫の統合物流・ITプラットフォームを構築している。この仕組みを取引先にも開放して、在庫の一元管理を推進していきたい。

関連記事