地方の中小の小売事業者の流通BMS普及状況は? 宮崎県を拠点にEDI事業を展開する「ひむか流通ネットワーク」が解説

株式会社ひむか流通ネットワーク
代表取締役副社長
井口 博之 氏

 

 新型コロナウイルス感染症の終息が見通せない状況が続く中、流通業界ではさまざまなイベントが控えている。19年10月の消費税軽減税率対応は記憶に新しいが、23年10月に導入されるインボイス制度への対応が迫ってきた。21年1月からは25年1月のISDN廃止に備えた公衆交換電話網のIP網への移行が始まる。
 流通BMSへの移行は急務と言われているが、地域の中小の小売業者の腰が重いという指摘がされてきた。実態はどうなのか。宮崎県に拠点を置き、流通に特化したシステム開発事業やEDIセンター事業を手がけるひむか流通ネットワークの井口博之副社長に聞いた。

 

中小の食品スーパーには業務改善を優先して提案

 

 ひむか流通ネットワークは、88年3月に卸売業20社と地域金融機関の共同出資によって設立され、同年8月に宮崎県内のスーパーマーケットチェーンとその取引先30社によるEOSを稼働した。以来、一貫して地域の小売企業・卸売業者・生産者の業務効率化向上に注力し、店舗システムや自動発注システムの開発、小売業向けの共同利用型EDIサービス、小売業向け店舗本部基幹ASPサービスなど幅広く展開している。

 

 流通BMSには08年に対応し、情報志向型卸売業研究会(卸研)、流通BMS協議会、インターネットEDI普及推進協議会の活動にも参加している。一方で、EDI事業者として流通BMSを前面に立てた導入提案はしておらず、EDIの拡大や自動発注導入による業務改善を優先して提案し、その実現方法として流通BMSを紹介するスタンスで取り組んできた。

 

 「特に地方の中小小売業者になると、通信時間が短くなるといっても取引量が大手小売業者ほど多くないため、なかなかピンと来ません。それより業務改善を進めるために自動発注や業務改善のシステムを導入し、その際に切り替えましょう、流通BMSはこんなメリットがあります、とセットで提案したほうがわかりやすく、お客様が納得しやすいからです」

 

 こうした業務改善を支援する姿勢もあり、ボランタリーチェーンでの口コミや紹介などを通して受託するケースが多く、中小の小売業者を中心に流通BMSの導入支援をおこなっている。2020年10月時点の小売業者数は70社程度で、そのほとんどが九州域内の食品スーパーだ。店の規模でいえば、大半が1店舗から10店舗の中小の小売業者だという。

 

 

課題はWeb-EDIの選択事業者の多さと標準外対応

 

 九州圏内で活動する同社によると、取引先の流通BMSの普及状況については、確実に進んでいると見ている。情報システムの体制が確立している大手卸売業者はメリットをよく理解しており、小売業者からの依頼にも素早く対応することが多い。一方で情報システムの体制がぜい弱な中小の卸売業者ほど理解は不十分で、Web-EDIを選択するケースが依然として見られるという。

 

 「その理由は、恐らく卸売業者が小売業者から十分な導入期間を与えられず、スケジュールに間に合わせるために投資コストのかからないWeb-EDIを選択せざるを得ないというのが実態ではないでしょうか。EDIが実現できるなら、小売業側からすれば流通BMSでもWeb-EDIでもどちらでもよく、結果として卸売業はコスト負担がかからないWeb-EDIを選択してしまうこともあるようです。また、流通BMSへの理解も中小の事業者ほど浅く、そのメリットを実感していません。やはりわかりやすい言葉での説明を重ねて理解を得ることに加えて、行政や専門機関からお墨付きを与えることも必要だと考えます」

 

 流通BMS導入時の課題点としては、個別対応が残ってしまうことも大きい。標準化が原則の流通BMSなら、ほとんどのやり取りで標準は維持できるものの、必ずしもゼロではない。根幹の部分でデータのキャッチボールはできているが、中には変化球が混じっていることもあるという。

 

「小売業者の独特の要件が標準外対応になることがほとんどです。問題になりやすいのが受領メッセージの部分で、例えば今まで伝票に“-(マイナス)”と書いていたものは流通BMSでは返品伝票で対応する必要がありますが、受領メッセージにフラグを立てて対応して欲しいという依頼もあります。些細な問題であるものの、大量の取引先を抱える卸売業者にとっては無視できず、せっかくのメリットが活かせないという問題につながります」

 

 もう1つの課題点は、大手主導で導入が進んだ結果として、流通BMSの対応社数は多いものの、推薦されて導入したソフトを活かせていない事業者が多いことだ。その原因は複数考えられるが、基幹系システムと連携させる際に、十分に時間をかけることが出来なかったり、ソフトベンダーとのコミュニケーション不足だったりで、実業務で使いやすいものになっていない可能性が高いという。

 

 

流通BMSのメリットを中小の流通事業者にわかりやすく伝えていく

 

 中小事業者の流通BMSに対する認知度は、19年10月の軽減税率対応のタイミングで上がったことは間違いない。大手卸売業者からの働きかけもあり、相当数の小売業者が対応をおこなったと見ている。軽減税率対応を乗り越えた経験をした小売業者が増加したことで、EDIの重要性に対する認知度は一段と上がったと井口氏は見ている。

 

 一方で、業務全体の最適化、23年のインボイス対応、24年のISDNのディジタル通信モード終了(PSTN廃止)に対しても流通BMSが有効な手段であることは、深く浸透していないのではないかというのが井口氏の見立てだ。

 

 「PSTNの廃止についてはレガシー手順を使用しているお客様も認識されており、今後は進んでいくことを期待しています。インボイス対応についてはまだ対応策がぼんやりとしている印象です。今後関心が高まり、具体的な対応方法などが共通認識として広まっていくと、1つの大きなきっかけになり得ると思います。弊社としてはお客様に対して、返品のインボイスなどについて卸研や流通BMS協議会などで議論が深まり、方向性が見えてきた段階で対応していくのがいいのではないかと説明しています」

 

 今後の普及に向けて同社は、あくまでも流通BMSの導入ありきでなく、EDIを業務改善に活かすという以前からのスタンスを崩すことなく提案し、受入体制を整えながら1社1社にアプローチしていく考えだ。現在、小売業者は新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止対策や、レジ袋の有料化などで、現場での負担は増加している。売上増加のためにEC対応が求められるなど、やるべきことは多い。

 

 23年のインボイス対応も重要だが、21年3月には「消費税転嫁対策特別措置法」が終了する。そのため4月1日からは消費税を含めた総額で表示しなければならず、その対応も迫っている。同社はさまざまな業務支援を続けながら、流通BMSへの対応も並行していく考えだ。最後に井口氏は流通業界全体に対して、次のようなメッセージを送ってくれた。

 

 「流通BMSは、業界の方々の協力もあり、EDIの標準化という社会インフラの拡大において重要な役割を担ってきました。今後は企業間のEDIやデータ共有になじみのない方々が利用者の対象に入ってくると思います。特に地方の中小の現場はまだまだ理解度が低く、わかりやすくメリットを伝えていかないと伝わりません。私たちとしてはEDI事業者の責任として、小さな取引先も置いてけぼりにしないよう、EDIを知らないお客様がより効率的で楽しく働けるようにお手伝いをしていければと考えています」

 

 

 

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