2012年12月の完全移行まであとわずか イオングループにおける流通BMSの全国展開とは

イオンアイビス株式会社
システム開発本部
本部長
北澤 清 氏

 JCA手順から流通BMSへの移行完了期限を2012年12月末までと宣言しているイオングループ。日本全国に展開する国内大手の流通企業グループだけに、業界からの注目度も高い。
 タイムリミットが刻々と迫る中、現在の導入状況はどうなのか? 対応できない取引先はどうなってしまうのか? 数々の疑問を明らかにすると共に、流通BMSへの完全移行を急ぐイオングループの狙いを探った。

 


イオングループが先陣を切ることで流通BMSの全国展開をサポート

 

 イオングループが、12年12月末日までに流通BMSへの移行を完了すると宣言した背景には、早期サプライチェーンの全体最適化を推進する狙いがあった。イオンアイビス システム開発本部 本部長の北澤清氏は、移行完了日を定めた理由を次のように明かす。

「流通BMSはすでにサプライチェーンの標準として定着しつつあり、製配販各社はデータの送受信時間の短縮や伝票レスなどで、導入のメリットを享受しています。このような中、11年5月に開催された「製・配・販連携フォーラム」で、イオングループ10社が流通BMS導入宣言を行ったことが大きなきっかけとなりました」。

 

 導入宣言を行った49社の中で、イオングループが占める割合は高い。さらに「製・配・販連携協議会」の流通BMSワーキンググループにおいて、グループの中核企業であるイオンリテールがリーダー企業の1社として参画したこともあり、流通業界の中で率先して導入を進めていく思いがあった。

「イオングループの店舗は、北海道から沖縄まで全国におよんでおり、それぞれの企業が移行期限を明確に定めて導入を推進することで、全国の小売業の背中を後押しできると思っています。」(北澤氏)

 


 期限まで残り4カ月に迫った12年8月時点の導入実績は、約3000社の取引先のうち、本番稼働が約1300社で、移行中・テスト中も合わせると約2000社が流通BMSに対応済みだ。残り1000社のうち、期限までの移行計画を明らかにしている取引先は約600社に達し、残りの約400社は現時点で対応を明らかにしていない。ただし、現実的には大手の取引先については一部移行途上の取引先があるものの、ほぼ計画通りに進捗しており、未導入は地方の取引先や、取引量が少ない企業が大半だという。北澤氏は「導入計画を明らかにしていない取引先に対しては、導入宣言しているグループ各社の商品部を通して継続的にアプローチをかけ、期限までに対応していただくように呼びかけています」と説明する。

 では、12年12月末の期限までに対応が間に合わなかった場合はどうなるのか。事前の計画では、13年1月でJCA手順のEDIシステムを廃止し、FAX(発注)や手書請求などへの移行をお願いするとしているが、現段階でもその方針に変わりはない。

「導入が間に合わなかったといった理由で猶予することは考えていません。ただし、導入に取り組み始めたものの、期限までにテストが終わらないといった場合には、取引先に影響を与えないレベルで対応する可能性はあります」(北澤氏)

 

 

最短3カ月で流通BMSへの移行が可能

 

 イオングループでは、取引先が大きな負担を抱えることなく流通BMSに移行できるように、いくつかの方針を定めている。

 まず、流通BMSのバージョンについては、原則として最新のVer1.3とするが、Ver1.0やVer1.1に対応済みの取引先があることも考慮して、旧バージョンにも対応可能とした(生鮮Ver1.2は除く)。

 導入タイプは、サーバー型、クライアント型、Web型の3方式とし、取引先や自社システムとの連携を考慮して、自由に選べるようにした。さらに、流通BMSの運営は、3社のASPベンダーに依頼。ヘルプデスクやパッケージソフトの導入支援などを、ASPベンダーに委託することでスムーズな連携をサポートしている。

 

 また、導入時のテスト期間を短縮するために、簡易なテストデータを用意。取引先は、決められたテストをクリアするだけで移行できる。12年12月末までに移行するメッセージは、発注予定・発注・受領・返品・請求・支払・値札までとし、「出荷」に関しては必須とはしていない。「出荷」メッセージは別途に取引先と調整しながら流通BMS標準への移行を進めている。さらに、事務代行手数料の一部を従来の定額制から従量制に変更し、取引先もコスト削減効果が得られるようにした。

「導入にかかる期間は、まったくのゼロから構築する場合でも3カ月あれば間に合います。すでに流通BMSを導入しているのであれば、マッピング作業だけで済むので、さらに期間は短縮されるでしょう」(北澤氏)

 

 

流通BMSはサプライチェーン全体の生産性を高める共通インフラ

 

 JCA手順から流通BMSへの移行期限を明示している小売業はイオングループばかりではない。ヤオコーでは12年9月末をめどに加工食品とグロッサリーを対象とした取引先が流通BMSに移行すると宣言しているほか、ユニーでも14年2月を目処に800社の導入を完了させる目標を定めている。一方で、導入の後押しがないために、なかなか踏み切れない企業が存在しているのも確かだ。そこで北澤氏は、流通業界に対して次のようなメッセージを送った。

「流通BMSの導入メリットは、製配販それぞれで理解いただいていると思います。しかし、現状ではメーカーや卸売業は小売業が流通BMSに切り替えるタイミングを待ち、小売業は卸売業から対応を呼びかけられるのを待っている状態です。これからは製配販がお互いの顔色をうかがうのではなく、流通BMSがサプライチェーン全体の生産性を高める共通インフラであることを認識し、強い意志で導入していただきたいと思います」

 とはいえ、取引先の理解を得ながら導入を推進することは容易ではない。そこでイオングループでは導入にあたり、社内の推進体制を再構築。流通BMSの導入推進役は、日ごろから取引先と密接につきあいのある商品部門とし、IT部門のイオンアイビスは後方支援に専念した。11年7月から10月にかけて全国で実施した取引先説明会においても、流通BMS協議会の協力を得ながら、グループ各社の商品部が主体となって進めたという。

「取引先を最も理解している商品部が前面に立つことでスムーズに進みました。また、流通BMSがイオングループたけのオンラインシステムでなく、日本のサプライチェーン全体のシステムであることを理解していただくために、説明会の前半では流通BMS協議会の方に話をしていただきました」(北澤氏)

 

 経営層にとっても、流通BMSは業務プロセスを標準化する以外にも、様々な効果が得られることも見逃せない。従来のJCA手順では新規取引先が増えるとシステムを最初から構築する必要があったが、パッケージを導入するだけで済む流通BMSなら、ビジネススピードは確実に加速される。少子高齢化で流通業界全体の生存競争が激しくなる中で、インフラ部分を共通化し、本業に専念できるメリットは計り知れない。

 

 流通BMSは今後に向けて、さらなる効率化が進むと予測されており、現在、ネットスーパー用の商品画像の標準化に向けて動き始めているほか、商品マスターの交換にも流通BMSのインフラを活用することが検討されている。最後に北澤氏は「流通BMSへの移行は、流通全体を標準化するための第一歩。今後、流通BMSを活用してどのようなことができるかを製配販で連携しながら考えていくためにも、早期導入をお願いします」と語った。

 

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