流通BMSフォーラム&ソリューションEXPO 2012 フォーラムレポート①

 今年で4回目を迎えた流通BMSフォーラム。年々関心が高まるなか、今回は「活かそう流通BMS」と題して、製配販それぞれの企業が流通BMSへの取り組みを紹介した。フォーラムでは、冒頭のあいさつに続き、流通BMS協議会事務局が今年度の活動内容を報告。アパレルメーカーのワコールと食品卸の旭食品が導入事例の講演を行った。後半では、生活用品メーカーの花王と、総合スーパー(GMS)の西友が自社の導入事例を講演した。

 

 

流通システム標準普及協議会 活動報告

 

 流通システム標準普及推進協議会の活動報告では、流通BMSの標準外利用への対応策(坂本尚登事務局長)と、商品マスターデータの運用ガイドラインの改定(栗田和則上級研究員)について報告された。

 標準外利用については、流通BMSの普及が進むにつれて、標準仕様外の使い方をする小売業が目立ってきたことに言及。「個別対応が増えることで、卸・メーカーの負担増になる恐れがある」と語った。

 同協議会では、2011年度に流通BMSの導入実態調査を実施。その結果、「伝票作成を要求される」「納品明細書を要求される」「手書き発注に対して出荷データが要求される」などの小売毎に個別で要求している利用例があることを突き止める。それに基づき、今年度は普及推進部会に参加する支援会員の有識者でタスクチームを編成し、さらなる実態調査を継続。重複する事例を整理し23項目ついて調査を実施して分析を行ったところ、標準外利用の件数は12件、継続調査が13件あったことを確認した。

 

 タスクチームでは今後の対応策を検討しており、「ITベンダーへの標準順守意識の強化、協議会ホームページへの標準外利用事例の掲載、流通BMSセミナーや会報を利用した注意喚起の3つを通して意識を高めていく」と述べた。また、卸・メーカーに対する第2回目の調査を実施するほか、協議会ホームページに設置した「標準外利用投書箱」を通して情報収集を続けていく予定だ。

 続いて、商品マスターデータ部会の活動を報告。検討部会では昨年度に公開した運用ガイドラインの「アパレル商材編」に加えて、日用品、化粧品、一般医薬品などの「グロサリー商材編」のガイドラインをまとめることを検討。「グロサリーの商品マスター交換モデルについて、ワーキンググループですべての項目を精査した結果、最低限必要とされるものとして、15項目グループの70項目および受発注情報項目グループを選定した」と報告した。

 

 

 

ワコールの取組みと業界動向

 

 アパレルメーカー大手のワコールは、主要ブランドのひとつである「ウイング」の基幹系業務システムの刷新に合わせて流通BMS対応の通信環境を構築。08年から大手スーパーマーケットや百貨店などと流通BMSによるデータ交換を行っている。

 執行役員で情報システム部部長の尾内啓男氏は、流通BMSによる標準化の意義を改めて振り返り「インフラコストは、商品価格の上乗せとなって最終的に消費者に跳ね返ります。それを避けるためにも、インフラは共同で活用していくことが不可欠。商品力、品質、売場改善などで競争していくべきです」と強調した。

 ワコールで長年にわたりEDIの標準化を推進してきた尾内氏は、自身が感じた標準化のターニングポイントを「20数年前のJAN標準化と、07年から本格的に取り組んだ流通BMSの2つ」と振り返った。特に、流通BMS導入に当たって参加した標準化ワーキンググループで、大手GMSの担当者が真剣に議論している姿を見た時、「これは行ける」と直感的に判断。「小売業側の姿勢が、流通BMSの導入を進める原動力になり、流通BMSの将来に夢と希望を持つことができました」と語った。

 

 しかし、自社に流通BMSを導入する段になると、経営層に対して投資効果を具体的に説明するのに苦労を強いられる。そこで、基幹系業務システムのリプレースと合わせる形で新EDIシステムを構築し、効果を目に見えるようにした。「導入に不安を抱いていた社内のEDI担当者に対しても、GMS担当者が参加している会議に1人ずつ出席させるなどして、小売業側の本気度を確認させ、モチベーションを高めました」と尾内氏は説明する。12年現在、ワコールは大手GMSのほとんどと流通BMSによるメッセージ交換を行っているほか、百貨店についても対応先が拡大しつつある状況だ。

 

 続いて尾内氏は、流通BMSの導入効果について語った。導入効果のひとつがEDIシステムの開発工数の削減だ。データフォーマットの標準化により、取引先1社当たりの調整工数は3人日から1人日へと削減。個社単位のプログラム開発も不要になり、取引先1社当たりの開発工数が10.0人日から1.5人日(2社目以降)へと削減された。その他、通信速度の向上により、最もデータ受信件数の多い月曜朝の受注処理時間が、従来の1時間から1分へと短縮されている。さらに、主力の婦人肌着以外の商材に対する業務支援も可能になり、全社的な業務改善に結びつく効果が得られたという。

 

 今後について尾内氏は、標準化を維持し続けることが重要と強調。多くのITベンダーの参入によって選択肢が増加し、自社にマッチしたベンダーのサービスが選べるようになっていることを挙げ、「流通BMSの標準化を維持していくためには、参加企業の拡大が重要で、製配販の枠を超えて協力することが大切です」と語った。最後に日中国交正常化に貢献した岡崎嘉平太の 「信は縦糸 愛は横糸 織り成せ人の世、美しく」の言葉を借り、「サプライチェーンを縦糸、業界を横糸に協力体制を築きながら、流通BMSの普及を促進していきましょう」と呼びかけた。

 


旭食品の取組みと次期システム構築

 

 食料品、塩干魚類の卸問屋として1923年(大正12年)に設立し、現在は一般加工食品・冷凍食品などの卸売業を展開する旭食品は、四国を中心に、中国、近畿、中京、関東、九州、の31拠点に営業エリアを拡大している。同社は、99年に支店・支社に分散していた販売管理系システムや受発注システムなどをホストコンピューターに集約し、統合システムを稼働させた。

 それから数年にわたって運用を続けてきたが、業務の拡大によって統合システムの処理能力不足、ディスク容量不足が懸念された。そこで、07年にEDI部分をホストコンピューターから切り離し、EDI専用のサーバーシステムでオープン化。「新集配信システム」として稼働させ、流通BMS対応とWeb-EDIの自動化対応を行った。情報システム本部部長の竹内恒夫氏は「取引先の拡大が見込まれたことから、このままではシステムの能力不足が問題になることは明らかでした。そこで、得意先変換と商品変換の処理を外部化し、ピーク時にかかるホストコンピューターの処理負荷軽減を図りました」と説明する。

 

 12年現在、流通BMSに対応している取引先は30社。流通BMSの導入によって、従来取引先ごとに行っていたフォーマット変換処理の開発が不要となり、共用フォーマットが利用できるようになった。取引先追加時の導入日数は、JCA手順による個別開発が平均で10日かかるのに対し、流通BMSは平均4日と6日間の短縮に成功。回線の高速化によって1000明細の受信にかかる時間も大幅に短縮されている。

 

 現在、旭食品では、09年から5カ年計画で進めている中期経営計画の下、次期基幹システムの導入プロジェクトを進めている。新集配信システムについても仮想化技術を利用してハードウエアを集約するほか、全社統合データベースを構築する予定だ。竹内氏は「システムのオープン化に合わせて、流通BMS項目のさらなる有効利用を図るほか、プッシュ通信によるリアルタイム連携を目指します」と語った。

 

 その一方で、現在の流通BMSで大きな課題となっているのが個別対応、標準外対応だ。電話発注に対する事前出荷情報の送信が求められているほか、鑑、納品明細、欠品明細の作成、罫線、バーコード印字などの個別納品明細書の作成が要求されるケースがあるという。竹内氏は「個別対応の削減に向けて、合理化策を社内で検討すると同時に、社内の営業教育を徹底することで取引先に対して標準運用の説明を徹底し、理解を求めていきます」と改善策を進める考えを明らかにした。今後の流通BMS普及拡大に対しては、「取り扱いメッセージ種の拡大、仕入れ先やメーカーとの連携強化、中小取引先拡大に向けた環境整備などを通してさらに推進していきます」と語り、標準化領域の一層の拡大と普及促進に期待を寄せた。

 

 

花王の取り組み状況と今後の展望

 

 化粧品やスキンケアなどの「ビューティケア事業」、サニタリー製品などの「ヒューマンヘルスケア事業」、衣料用洗剤などの「ファブリック&ホームケア事業」の3分野でコンシューマービジネスを展開している花王グループ。3事業の販売・流通業務を一手に担当しているのが花王カスタマーマーケティングだ。

 企業間のデータ交換基盤の標準普及が重要と認識していた花王グループは、早くから標準化活動を積極的に行ってきた。経済産業省が2004年に開始した流通サプライチェーン全体最適化促進事業にも当初から参画しているほか、製配販事業や、消費材卸の課題を共有する研究会にも参加。その中で、06年に経産省の事業として行われた流通システム標準化事業の共同実証にも手を挙げ、参加した小売業2社と流通BMSによるデータ交換を07年から開始している。同社カスタマートレードセンター、流通システムグループグループリーダーの松山義政氏はこうした地道な取り組みが、流通BMSの定着と安定運用につながっていると分析し、「流通BMSはユーザー主体のボトムアップで構築した画期的な仕組みで、小売、卸・メーカーの総意によって“みんながつながる”ようになったことが最大の成果です」と強調した。

 

 同社内では、流通BMSの勉強会を継続的に開催してきた。営業向けに実施している社内勉強会には約940名が参加した実績があるほか、関連会社のカネボウ化粧品販売からも893名が参加している。こうした意欲の高さが得意先との協働につながり、流通業界全体の意識を高めることにつながったと松山氏は見る。

 

 花王では、流通BMS導入当初からVAN型のサービスを利用しているが、初期は受注データベースをVAN側に置き、既存機能とのシームレスな連携を図ってきた。10年代に入ってからは、受注データベースを花王の基幹システム側に取り込み、標準化の考え方をシステムに組み込んで高度な運用を行っている。今年9月現在の流通BMS対応数は58社で、売上構成比では約22%に相当。今年度中には100社近くに達する見込みで、売上構成比も25%程度に上昇するという。

 

 今後の展望について松山氏は「流通BMSによって企業間の全体最適は実現しましたが、真の業務効率を求めるためには、業界という高い壁を乗り越え、流通業界全体で最適化を図っていく必要があります」と指摘。その壁のひとつとなっている標準外使用、相対による調整とされている事項に懸念を示した。「企業間取引での差別化は不要。特殊化を排除し、協調領域を拡大していくことが大切です。そのためには小売業、卸・メーカーともに社内への意識付けを進めていく必要があります。流通BMSで真の全体最適を実現するために、共に壁を乗り越えていきましょう」と呼びかけた。

 

 

西友の導入状況と今後の拡大計画

 

 西友は、02年に米国最大のスーパーマーケットチェーンであるウォルマートと提携。スケールメリットを生かしたビジネスを展開し、現在は日本全国に370店舗を展開している。情報システム本部バイス・プレジデントの平林浩美氏は、同社の企業理念である「Saving people money so they can live better」について「お客様に低価格な商品を提供することで、より豊かな生活の実現を支えていくことが私たちの信念です」と説明。その理念を実現するビジネスモデルが「Every Day Low Price(EDLP)」であり、それを推進するのが「Every Day Low Cost(EDLC)」であると語った。

 同社では、サプライチェーンにおけるプロセスの改善による業務の効率化などにより、原価削減、価格の値下げ、売り上げ拡大のサイクルを繰り返す「プロダクティビティ・ループ」により、EDLPとEDLCを推進している。販売・仕入れ・在庫状況などを管理する店舗システムは、ウォルマートグループのスケールメリットを生かして、米国のデータセンターに構築したIT基盤を利用。03年から07年にかけて全国の店舗に「スマートシステム」と呼ぶ独自システムの導入を進めてきた。平林氏は「ウォルマートでは、データの重要性を意識して、データウエアハウス(DWH)の構築に力を入れてきました。DWHのデータを有効活用するコンセプトで作られたスマートシステムは、単品の販売・在庫情報をリアルタイムに確認して商品を発注することができます。商品の補充もすべてシステムが自動で発注するため、店舗では社員が手作業で発注することかありません」と説明する。その結果、店舗でのオペレーションレスが実現し、業務効率の向上に大きな貢献を果たした。さらに、ウォルマートが開発した、販売・在庫情報などを共有する情報管理基盤「リテールリンク」を導入。取引先のメーカーや卸業者にもすべての情報を可視化して公開することで、取引先との販売調整や在庫調整を可能とし、在庫ロスの最小化などを実現している。

 

 スマートシステムの全店舗展開を終えた08年、ウォルマートの完全子会社となった西友は、会計システムの統合も合わせて推進。現在はすべてのシステムをウォルマートのコード体系に切り替える作業を進めている。その一方で、メーカーや卸業者とデータをやり取りする受発注システムは、旧西友が構築した環境を継続して利用してきた。受発注システムは、旧西友のコード体系を適用しているため、情報共有システムのリテールリンクを利用して西友の販売情報や在庫情報を共有している取引先は、2つのコード体系を取り扱うことになり、コード変換を余儀なくされてしまう。そこで、受発注システムをウォルマートのコード体系に切り替えるとともに、流通BMSへの移行を働きかけることを決断する。平林氏はその目的について「コード体系の統合と流通BMSの導入はプロジェクトの両輪であり、両方を成功させなければ意味がありません」と語った。

 

 同社は07年に経産省主導で行った「次世代EDI標準化ワーキング・グループ」から参画し、EDIについては日本の標準規格である流通BMSを採用した。09年10月には流通BMSが生鮮メッセージを含むVer1.3に対応したことを受けて本格的な移行を決定。交換メッセージの種類は、発注、ASN、受領、支払、値札の5つに定めている。

 

 流通BMSの導入に際しては専任担当者を配置。10年から11年にかけて、取引先に対して説明会を実施し、コード統合と流通BMSへの移行を呼びかけた。そして今年11月現在、約670社の取引先のうち183社が導入を終えている。コード統合と流通BMSの同時導入を実現した企業からは「レイアウトが統一されて分かりやすくなった、リテールリンクを効果的に利用できるようになった、通信費の削減につながった」といった評価の声が聞かれる一方「導入に関し社内説得に苦労した」いった感想も寄せられたという。

 

 同社では、コード統合と流通BMSの同時導入の実現により、今までエリア単位で約50種類あった交換メッセージの種類が統合された。さらにコード変換の作業がなくなった結果、業務の大幅な簡素化が実現している。今後の展望について平林氏は、「従来のJCA手順から流通BMSへの切り替えを、すべての取引先に呼びかけていきます。そして、13年中には全取引先の7割に相当するグロサリー、住居用品、衣料品関係の取引先約450社に対して、ウォルマートコードへの統合と流通BMSの同時導入を目指していきます」と語った。さらに、14年には生鮮関係の取引先に対しても、コード統合と流通BMSの導入を拡大する予定だ。最後に平林氏は「導入や改修コストは一時的に発生しますが、この取り組みを推進することで、すべてのステークホルダーにWin-Winの関係をもたらすシステムが構築できると考えています。企業理念のSaving people money so they can live betterの実現のため、流通BMSの導入にさらなるご理解とご協力をお願いします」と呼びかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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