流通BMSフォーラム&ソリューションEXPO 2012 フォーラムレポート② イオンにおける流通BMSの導入状況と今後の拡大計画紹介

イオンアイビス株式会社
システム開発本部
本部長
北澤清氏

 フォーラムの締めくくりでは、2012年12月までに流通BMSへの移行を完了し、2013年中に既存のJCA手順を廃止すると公表しているイオングループの事例を、イオンアイビス システム開発本部 本部長の北澤 清氏が紹介した。

 

2012年末までに流通BMSへの移行を完了

 

 総合スーパー(GMS)、スーパーマーケット(SM)、ドラッグファーマシーなど10の事業を展開するイオングループ。グループの連結売上高は2011年2月期の実績で5兆695億円に達する国内最大手の流通企業グループだ。


 EDIの標準化への取り組みも早く、2004年に経済産業省が実施した実証実験から参加。標準化事業となった後も流通BMSの拡大を続けてきた。しかし、取引先への導入は思い通りに進まず、流通BMSによる取引の本格化に時間がかかっていたことも確かだ。

 

 その中で、2011年5月の「製・配・販連携フォーラム」で公表された「流通BMS導入宣言」がきっかけとなり、イオングループは流通BMSの拡大に本腰を入れ始める。フォーラム開催の1年前に、製造業、卸売業、小売業の経営トップが参画して「製・配・販連携協議会」が設立され、ワーキンググループのひとつとして「流通BMS導入推進ワーキンググループ」が設置された。イオングループの中核会社であるイオンリテールは、流通BMSのワーキンググループのリーダー企業3社のうちの1社として参画することになった。


 ワーキンググループが作成した流通BMS導入宣言書では、「流通BMSの導入・拡大計画を策定し、製・配・販連携協議会を通じて公表する」「積極的に情報公開を行い、流通BMSの普及に努める」の2つを目標に掲げている。そこでイオングループは流通BMSへの移行方針(目標)を独自に策定。2012年末までに流通BMSへの移行を完了し、さらにJCA手順のEDIシステムを2013年に停止する大方針を定めた。仮に2012年末までに間に合わなかった取引先が出てきた場合でも、翌月からFAXによる発注と手書きの請求による取引に切り替える決意だ。北澤氏は「流通BMS導入宣言に名を連ねる49社のうち、10社がイオングループの企業で占めています。その中で、製配販の15社のトップが参画して設立した製・配・販連携協議会が判断を下したからには、イオングループは率先して実行していく立場にある」と語った。

 

 イオングループが流通BMSへの対応を急ぐもうひとつの要因として、JCA手順で利用されるモデム(通信機器)の老朽化対応がある。JCA手順を保持したまま運用を続けると、モデムの手配やシステムの維持管理の負担が増大する。既存EDIに障害が発生すると多くの取引がストップしてしまい、事業継続のリスクが拡大しかねない。
 さらに、流通BMSに移行して現在のEDI取引で利用しているホストシステムを廃止できれば、ITコストの低減にも貢献可能だ。これらのことを考慮すると、イオングループにとって流通BMSに移行するメリットは計り知れない。

流通BMSのバージョンは最新の1.3で対応

 

 流通BMSの導入を本格化するにあたり、イオングループはまず要件を定めた。流通BMSのバージョンは最新のVer1.3に対応。ただし、Ver1.0とVer1.1も稼働中であることから、生鮮Ver1.2以外は旧バージョンにも対応可能として柔軟性を持たせた。
 導入タイプは、サーバ型、クライアント型、Web型の3方式で、使用する流通BMSのメッセージは、発注、出荷、出荷梱包(紐付け有)、受領、返品、請求、支払、値札の8種類とし、そのうち返品と値札の2つを除いた6つのメッセージを標準プロセスで使用する方針を定めている。

 

 イオングループ内で現在稼働している発注システムも流通BMSへの対応が求められる。そこで、従来のJCA手順とASN形式のデータの組み合わせから、流通BMSに対応するシステムに変更を図った。北澤氏は「イオングループは全国に多くの企業があり、これらを期日までに実行するためASPベンダーに協力を依頼し、流通BMSのフォーマットでデータをやり取りする体制をとりました」と説明した。また、ネットワーク回線がコストの安いインターネット回線に変わることから、回線単位の基本料金制から、発注情報のみを対象とした手数料制に変更し、取引先の負担軽減を行っている。

 

 

商品戦略部の役員をトップに導入を推進

 

 2012年12月の全面移行に向けて期間が限られる中、イオングループは2011年7月から10月にかけて、25回の取引先説明会を実施した。
 導入の体制作りにも注意を配った。北澤氏は「移行作業の生産性を高めるために、社内で議論をして万全の体制を作りました。流通BMSの導入は、IT部門だけでは進みません。そこで、グループ各社で商品組織を管轄する商品戦略部の役員を導入の責任者とし、IT部門はシステムの移行をサポートする裏方に徹しています。取引先様への説明会のご案内についても普段から付き合いのある商品部門が担当し、IT部門が説明役を務める役割分担を定めました」と振り返った。

 

 取引先説明会を実施するうえで、イオングループの商品部門の担当者にも流通BMSの理解を求める必要があるため、テレビ会議を使って100回以上の説明会を実施したという。

 また、全国にスムーズに移行するために外部のASPベンダー3社にもシステムの運営を委託。さらにASPベンダーとイオングループが適切な情報共有を行うWebシステムを構築し、流通BMSの運用・監視担当者、取引先、ASPベンダーの3者が情報共有できる仕組みを整えている。

 

 

取引先、物流の三位一体で「ユニットコントロール」を推進

 

 2011年6月現在、流通BMSの導入実績は取引先数が375社、並行テストの実施が50社に達し、導入は順調に進んでいる。今後の課題について北澤氏は「個別化されたシステムへの対応」を挙げた。同社ではグループで個別にシステムを採用していることもあり、特別対応が求められるケースも少なくない。また、取引先は地方にも拡大しているため、地域VAN業者との連携も必要だ。


 イオングループは、流通BMSに切り替えることで従来のJCA手順で実現できなかった商品の品質情報やトレーサビリティの管理までできるようになった。そこで最後に北澤氏は「こうした情報を活用して具体的なサービスに結びつけることが重要です。今後は流通BMS導入後の未来を見据えながら、生活者の満足に貢献するイオングループのビジネスモデルを構築していきます」と語った。

 

 

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