流通BMSの普及の課題と普及促進に向けた施策

前 経済産業省
商務情報政策局 商務流通グループ
流通・物流政策室 係長
下垣 広輝氏(取材時)

 

 いよいよ本格的な普及段階を迎えようとしている流通ビジネスメッセージ標準(流通BMS)。平成20年度まで、経済産業省のもとで進んできた流通システム標準化事業の成果は、流通システム標準普及推進協議会へと引き継がれている。

 そこで今回は、流通システム標準化事業をリードしてきた経済産業省を取材した。流通・物流政策室 係長の下垣広輝氏に、流通BMSの現状と今後の普及に向けた課題、そして流通BMSの普及促進のための、経済産業省の支援や取り組み等について聞いた。

 


官から民へうまくバトンタッチ 仕組み作りから利用拡大へと本格的な普及段階を迎える

 

― 先ごろ流通システム標準普及推進協議会(以下、「協議会」と言う。)が実施した流通BMS導入の実態調査によると、小売業全体では導入済みが約15%、これに導入を予定・検討している企業を加えると約60%が導入に前向きという結果が出ましたが、流通BMSの現状をどう見ていますか?


下垣氏 

 次世代の標準EDIを策定しようという動きは、2005年、スーパー業界の自主的な取組からスタートし、その取組を後押しする形で2006年から経産省事業としての「流通システム標準化事業」がスタートいたしました。それから、スーパー業界が中心となって標準の検討や共同実証に取り組んでいただき、2007年3月に、初めて「流通BMS」の名が冠された基本形Ver.1.0がリリースされたのは皆さまも御承知のとおりです。その後、百貨店業界やチェーンドラッグストア業界、ホームセンター業界においても同様の取組が進められ、現在では、先行しているスーパー業界だけでなく、それらの業界においても実運用の段階に入りつつあるところです。


 経産省事業が終了した昨年10月末には、基本形メッセージと生鮮版メッセージとの統合が実現した流通BMS基本形Ver.1.3が協議会からリリースされ、これで基本形についてはほぼ標準フォーマットが確定したものと考えております。これにより、仕組み作りから利用拡大へと、ようやく本格的な普及段階を迎えるところまできたと考えています。


 また、経済産業省が2006年度から2008年度まで3年間にわたって取り組んできた流通システム標準化事業の多くの成果は、民主導の組織である協議会に引き継がれ、発展していこうとしています。このように国の事業成果を民へとうまくバトンタッチできたことは、非常に理想的で喜ばしいことであり、各方面からも多くの注目を集めています。


― 一方で、導入を予定していない企業も3割弱となっていますが、普及への課題をどうお考えですか?


下垣氏

 導入済みの企業はまだ少ないものの、協議会のアンケートからも分かるように、導入を予定・検討している企業は決して少なくなく、標準化に対する潜在的なニーズは非常に大きいものがあると考えています。ただ、現在は昨年来の世界的な経済の落ち込みの影響があまりに大きく、企業の設備投資、特にシステム投資に対する優先順位は大幅に低下してきていて、その煽りをまともに受けてしまっています。この経済状況下において、限られた予算をどこに振り向けるかということになると、流通BMSなどのシステム向けの投資が大きく後回しになってしまっているのは、ある意味やむを得ない状況であると考えています。

 

 しかしながら、システム投資のような、企業経営の「背骨」とも言うべき投資については、企業がその活動を続けていく限り、必ず行っていかなければならないものであり、時代の流れに合わせて、的確なタイミングでその投資を行っていくことが、企業の持続的な成長には欠かせないものであると考えています。


 その企業の投資判断を行うのは、当然のことながらトップマネージメントということになる訳ですが、これまでの経済産業省の流通システム標準化事業、および協議会の活動において各企業から最も多く寄せられた声は、「具体的な投資対効果がよくわからない」ため、トップに投資判断のための説明をすることができないというものでした。


 つまり、流通BMSの導入に必要な投資コストに見合うだけのベネフィットが本当に得られるのか、懐疑的になっている企業が少なくないのです。これをどう解消していくかが普及に向けての大きな課題であると考えています。

 


支援策となる2つの事業 導入効果の「見える化」と新たな「付加価値」

 

― 流通BMSの普及活動は、経済産業省から協議会へと主体が変わりましたが、経済産業省では、今後、どのような支援策をお考えですか?

 

下垣氏

 現在では、標準の維持管理や普及促進などの標準化の活動を主導していくという役割はすでに協議会にバトンタッチしている訳ですが、今後、経済産業省としては、更なる普及に向けた側面からのサポートを中心に行っていきたいと考えています。  具体的には、今年度、大きく2つの事業に取り組んでいるところです。


 一つ目は、前述の「具体的な投資対効果がよくわからない」という企業側の声に応えるため、流通BMS導入効果を「見える化」しようという事業です。

 

 この事業では、流通BMS導入によって想定されるさまざまな効果を、直接的および間接的な側面から洗い出し、それを一つ一つできる限り定量的に算定可能なモデルを作成してみることによって、各企業のトップが投資判断を行う上での判断材料として活用してもらえるようにしたいと考えています。また、経営層が活用するだけでなく、システム担当者が投資に係る稟議を上げる際にも、この成果が大きな「武器」となることを期待しております。

 流通BMS導入効果としましては、一般に、直接的な効果として、通信時間の短縮や通信コストの削減、伝票レス、検品レスなどが想定されるところですが、それらの効果は、いわば「誰でもわかる」効果と言え、それだけでは導入のインセンティブとしては弱いのではないかと考えています。

 

 それに加えて、業務の効率化や業務プロセスの改善、さらには、基幹系システムに及ぼす効果や、サプライチェーン全体の最適化などといったような、より広義での活用による効果を考えてモデル化を図っていくようにしたいと考えておりまして、実際に流通BMSを導入いただく企業の業種・業態、規模等に合わせて、段階的に効果が確認できるようなものにしたいと考えております。

 

 この「見える化」事業の成果は、今年度末には公表させていただきたいと考えておりますので、各企業内での検討や、ITベンダー企業の営業活動、また協議会の普及活動に広く活用していただければと考えています。具体的には、協議会のホームページ等でこの算定モデルを紹介してもらい、前提となる数値を入力することで、誰もが簡単に自らの導入効果が「見える」ようになることを想定しています。


 二つ目は、流通BMSを始めとする流通システム標準の「安全・安心」分野への利活用手法の検討事業です。これは流通BMSなどの流通システム標準を単なる受発注業務の効率化を実現するためのツールとして考えるのではなく、流通サプライチェーンの情報連携を強めることによって、消費者にとっての新たな付加価値を生み出す「情報インフラ基盤」ともなり得るのではないかとの想定のもと、その利活用手法について調査研究を行おうというものです。


 具体的には、この情報インフラ基盤を活用することにより、消費者にとっての安全・安心に資するような情報を、メーカー側からサプライチェーンを通じて川下までシステム的に伝達・共有するための標準的な仕組み・ルールづくりができないかということについて調査研究を進めております。


 現状では、取引先ごとに異なったシステムであると情報伝達に余計なコストが必要となり、それが社会全体として見た場合、大きな社会的負荷になると考えられますが、流通BMSなどの標準的な情報インフラ基盤の導入・普及が進めば、社会全体として見た場合、非常に低いコストで、かつ多様な分野でのトレーサビリティの確立が実現できるのではないかと考えています。これによって、何か問題や事故が発生した際の商品回収にも有効に機能させることができ、消費者にとっての安全・安心の実現が可能になるのではないか考えています。


 このような、新たな「付加価値」を付けていくことによって、ひいてはそれが企業にとっての導入のインセンティブにもなるのではないかと考えています。 これら二つの事業が両輪となって、普及の更なる後押しになることを期待しています。

 

 

流通BMSの普及が業界全体の利益 社会貢献や社会的な責任という高い理念

 

― 最後に、流通BMSの普及に向けた期待、メッセージをお願いします。

 

下垣氏

 流通BMSという「標準」は、策定することに意味があるのではなく、その標準が広く普及して使われて初めて意味のあるものになると言えます。せっかく標準が確立した以上、できるだけ早く普及を急ぐことが重要です。それに流通BMSは、利用企業が拡大すればするほど、流通業界の全体最適化が進み、より多くの導入効果を発揮することになります。


 元々、流通BMSは、流通業界自らの、新しい標準を策定しなければという強い危機感が原点となって生まれたものです。行政がバックアップさせていただいたとはいえ、行政主導で標準化が進んだのではなく、流通業界側の強い思いがこの新たな標準作りの大きな原動力となりました。確かに、現在の経済状況を考えると、導入コストの負担は大変だとは思いますが、流通業界の各企業、団体の皆様方には、是非とも、この取組がスタートした時の原点を振り返って欲しいと思っています。


 これまでにも述べさせていただいておりますとおり、普及を進めることが業界全体の利益でもあり、社会貢献や社会的な責任を果たすことにもつながると考えています。


 われわれといたしましては、今後とも、流通BMSというインフラ基盤の普及が社会全体に与えるメリットなどの提言を積極的に行うことによって、普及の後押しを続けていきたいと思います。

 

 

 

 

 

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