前回は、経済産業省がまとめた「流通BMS導入による効果算定事業」報告書から、導入効果が定量的に把握できた算定モデル式を紹介した。だが、報告書には、モデル式は確立されていないものの、流通BMSの導入によって業務改善を実施し、効果を上げている例も数多く紹介されている。そこで今回は、具体的な効果を上げている企業の声を中心に紹介していこう。
報告書では、流通BMSの導入を3段階に分けて、各段階に応じた導入効果を大きく以下のように分類している
E1:「流通BMS 標準通信手順を導入することによる効果」8項目(流通BMSのEDI環境に切り替えることで得られる効果)
E2:「流通BMS標準に合わせて業務改革をすることによる効果」19項目(流通BMSの導入に伴い、社内業務や業務システムを改善することによって得られる効果)
E3:「流通BMSが普及拡大し、通信インフラとして利活用される際に期待される効果」10項目
(今後、業界としての活動や、流通BMSとての標準化を実施した後に得られる効果)
流通BMS導入によるビジネスモデルの標準化効果は他社でも容易に活用出来る
前回は、E1とE2から、モデル式が作成され、導入効果が定量的に把握できる項目を取り上げて紹介した。今回は、E2:「流通BMS標準に合わせて業務改革をすることによる効果」から、モデル式は作成されていないが、今後、流通BMSの導入を検討している企業が具体的な効果を期待できる項目について紹介する。
流通BMSは単にEDIメッセージを標準化したものではなく、発注から支払まで、受発注に関連する一連のビジネスモデルを標準化したものだ。企業は今の業務を流通BMSで定めた標準プロセスに適応し、その際に期待できる効果もすべて例示されている。また、モデル式の有無と関係なく、ある企業で導入効果が実感できたものは、他の企業でも同じように当てはめて活用できると考えられる。すでに流通BMSを導入し、具体的な効果を上げている企業の声は必ず参考になるだろう。
検品作業を自動化で年5000万円のコスト削減
まずは、E2-3「検品レスによる経費削減」。ある小売企業では、それまで納品伝票による検品を行っていたため、立ち会い検品や、受領処理のための伝票処理が発生していた。一方の卸側でも、納品伝票の作成や受領伝票処理が必要となっていた。これが流通BMSの導入で、出荷メッセージとSCMラベルを利用した処理に変わったことによって、検品作業が自動化。紙の納品伝票や受領伝票が廃止され、作業に関わっていた人手が不要となるなど、大きな成果を上げている。
コスト効果で見ると、検品レスへと移行した大手小売りでは年間4-5000万円もの削減効果を上げているケースもある。EDIによる受発注を実施している企業でも、納品確認は手作業で行っている企業は少なくない。そのため、検品レスの効果はかなり多くの企業で実感できるはずだ。
なお、検品レス化では、検品処理は小売りまたは卸の物流センターで実施して店別の仕分けを行い、店舗へ一括配送するのが主流となっている。
タイムリーな粗利確定でスピード経営が実現
E2-6「仕入れ確定の時間短縮と精度向上」では、これまで月次でしか確定できなかった粗利が、毎日確定できるようになった例がある。その企業では従来、月次の売上を計上し、伝票が揃ってから10日後にようやく粗利が出せるという状態であった。しかも、揃ったはずの伝票も後からパラパラと出ることもあるため、精度に欠けることも問題となっていた。これでは経営のスピードや的確な判断というからも問題となる。
それも、流通BMSの導入によって、発注から出荷、受領、請求、支払いという一連の取引を一貫して行うターンアラウンド型受発注へと改善したことで、伝票の再入力や誤入力訂正の手間が不要となり、正確でタイムリーな仕入れ計上、商品別の粗利確定などを実現。スピード経営に大きく貢献しているという。
流通BMSの適応が生鮮品、百貨店、物流にまで拡大
数量や価格の変動が大きいなど、取引方法に特有の事情があることから、これまでEDI化がが遅れていた生鮮品。だが、流通BMS Ver.1.3のリリースによって基本形に統合されたこともあり、流通BMSの適応を生鮮品に拡大する企業も出てきた。ある大手小売りでは、すでに導入済みのグロサリー商品と共に、青果の発注体制を従来の各店舗から地域エリア単位に変更することで、業務効率化と発注精度の向上を進めている。さらに食肉、鮮魚への拡大も図り、今年度中には流通BMS比率100%の達成を目指す計画だ。
生鮮品の発注は、前述のような取引の特殊性から知識、ノウハウを持つ店舗のバイヤーが市場と直接やり取りしている。そのため、今でもFAXや電話を使用しているケースがほとんどだ。その通信費や事後のデータ入力処理の手間もコスト高の原因となっていたが、流通BMSでEDI化すれば伝票レスも進み、これらのコスト大幅に削減できる。
また、販売時に仕入れを起こす「消化取引」といった特有の取引形態を持つ百貨店。これも、E2-7「百貨店・卸間での用語共通化による業務効率向上」では、「共通言語としてのガイドラインができたことで、卸と一緒に進めている作業の効率が上がった」「検品レスが進み、リードタイムが短縮した」などの声が寄せられている。
標準物流モデルの採用に合わせた業務改善に関する効果では、店舗別取引に対応した物流が可能となり、これまでは人気がありながら、規模が小さく、先方にEOSなどの仕組みがないために扱えなかった商品を、小売り側でサポートすることで扱えるようになった例もある。このほかにも「取引先における追加作業が軽減した」、流通BMSの導入と共に物流改革を実施することで「物流経費が削減した」、「適正在庫が実現した」などの声が上がっている。