モデル式で導入効果を見える化する「導入効果算定の報告書」第2回

 前回は、経済産業省がまとめた「流通BMS導入による効果算定事業」報告書の概要を紹介した。報告書では、流通BMSの導入レベルを3段階に分け、各段階の導入効果を詳細な項目に分けて分析している。
 今回はその中から、効果算定のモデル式が作成されており、効果を見える化しやすい「標準通信手順の導入による効果」と「流通BMSに合わせて業務改革したことによる効果」の一部の項目から、活用が期待されるモデル式について紹介していこう。

 

 

報告書では、流通BMSの導入を3段階に分けて、各段階に応じた導入効果を大きく以下のように分類している

 

E1:「流通BMS 標準通信手順を導入することによる効果」8項目(流通BMSのEDI環境に切り替えることで得られる効果)
E2:「流通BMS標準に合わせて業務改革をすることによる効果」19項目(流通BMSの導入に伴い、社内業務や業務システムを改善することによって得られる効果)
E3:「流通BMSが普及拡大し、通信インフラとして利活用される際に期待される効果」10項目
(今後、業界としての活動や、流通BMSとての標準化を実施した後に得られる効果)

 

 

手作業からEDIへの切り替えで小売りは74%、卸は約93%もの人件費が削減

 

 報告書では、そのうちE1「標準通信手順を導入することによる効果」8項目中7項目とE2「標準に合わせて業務改革をすることによる効果」19項目のうち2項目について、モデル式を作成し、流通BMSの導入を検討している企業が活用できるようにしている。※報告書で使われている図表を使って解説(説明)

 

 まず、E1「標準通信手順を導入することによる効果」だが、報告書では効果の区分を「費用削減効果」と「標準採用による効果」に大別し、それぞれ4項目ずつ、計8項目の効果が提示されている。

 


 費用削減効果の中で特に大きな効果が望めるのはE1-1「手作業からEDIへの切り替えによる効果」。これは電話やFAXを使用したり、手作業で行っていた起票、入力作業といった受発注業務をEDI化することで、主に人件費を削減できるというものだ。この効果は、小売り、卸の双方にモデル式があり、それぞれ約74%削減、約93%削減という大幅な削減を見込める。実際のアンケートでも、「十数年前にパート10名程度で行っていた業務を0人にできた」(小売り)といった例や、「以前の受発注作業費を100とすると流通BMS導入後には5にまで削減できた」(卸)といった意見が寄せられている。

 


 もう一点、費用削減効果の項目で大きな効果を見込むのはE1-2「EDI通信費用の削減」。これは従来のJ手順のEDIからインターネットを利用する流通BMSに切り替えた場合のコスト削減効果。この項目も小売り、卸の双方にモデル式があり、それぞれ約90%削減、約80%削減という大幅なコスト削減を見込める。アンケートでは、「毎月100万円掛かっていたEDI通信費が10万円になった、J手順用電話回線15本のすべてを解約した」(いずれも小売り)といった意見が寄せられている。

 

 

EDI通信時間は小売り、卸ともに90%を超える大幅な削減

 

 次に、「標準採用による効果」の4項目の中で、特に大きな効果が見込めるのはE1-5「EDI処理時間短縮による余剰時間の活用」。これはインターネットに対応したEDIを利用することで、従来の電話網を使うJ手順との比較でEDI通信時間が削減されるというもの。小売り、卸の双方にモデル式があり、それぞれ約93%削減、約95%削減という大幅な削減を見込める。アンケートでは「100分の通信時間が6分に短縮」(小売り)、「40分の通信時間が2分に短縮」(卸)といった声に加え、「これまでデータ容量が大きくてできなかった業務プロセスができるようになった」(小売り)といった、副次的な効果も寄せられている。

 

 

 なお、こうした効果はE1-7「大容量の新しい情報を短時間で交換」の項目でも提示されており、POSデータや請求書支払いなどの大容量データ交換時の通信時間が、小売り、卸の双方共に約88%削減という大幅な効果を見込む。アンケートでは「時間短縮に加えて、物流ラベルを漢字で印字できるようになった」(卸)といった意見が寄せられている。

 

 

業務改革による効果でもっとも実感しやすい「請求レス」

 

 では次に、E2「流通BMS標準に合わせて業務改革をすることによる効果」の中から、効果算定のモデル式が作成されているE2-1「伝票レス(納品伝票)による経費削減」とE2-2「請求レスによる経費削減」を取り上げる。

 

 伝票レスは流通BMS導入の効果として、発注から決済までの電子的な処理によって紙の伝票が不要になるという分かりやすいものだ。これまで扱っていた伝票枚数分の処理コストが直接削減できるため、コスト削減効果も算定しやすい。

 

 一方、請求レスは、流通BMSの中でも業務改善として、伝票レス以上に効果が実感しやすい項目だ。これまでJ手順でEOSを行っていた企業の多くは、受発注のみに処理を限定しているケースも多いが、流通BMSの導入で支払い業務にまで適応範囲を拡大することで、より多くの成果を実感できるようになるという。

 


 一般に、請求・支払い案内の業務は、月単位などの取引結果を取りまとめて代金決済するため、売り手側である卸(メーカー)から請求データを送り、買い手である小売り側が照合した結果を支払い案内として、売り手側に通知するものだ。だが、その一連のプロセスにおいては膨大な量の照会処理が発生する。また、もし違算が発生すると、その原因追及をした上で、再度請求データを送るという手間が掛かってしまう。

 これも流通BMSのメッセージ交換で、発注から支払いまでをEDI化すれば、小売りでは受領情報をもとに、請求無しで支払い案内の送付が可能となる。伝票レスと同時に請求レスを実現した場合、小売りでは約75%の請求作業時間が削減できるという。また、請求作業時間の削減に加えて、自動処理による業務精度のアップも期待できる。実際、アンケートでも「5名の経理部員を3名に削減でき、残業時間も半分になった」(小売り)という声も寄せられている。

 今回、取り上げた流通BMS導入の効果については、すべて効果算定のモデル式が用意されている。ぜひ、そのモデル式を活用して、自社の流通BMS導入のプランニングや稟議書作成などに役立てて欲しい。

 

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