流通業界と金融業界がEDIで連携 売掛入金管理が益々便利に ――全銀EDIシステムを利用した金融EDIの活用に関する説明会――

 企業間送金にかかる総合振込等の電文を従来の固定長からXML電文に移行し、送金電文に商流情報の添付を可能にする金融EDIの高度化の取組みが進み、18年12月から支払企業と受取企業を結ぶ全銀EDIシステムが始まろうとしている。これによって商取引が大きく変わり、企業にも大きく影響が出てくることが予想されている。そこで、17年10月24日、東京都千代田区で「全銀EDIシステムを利用した金融EDIの活用に関する説明会」が一般社団法人全国銀行協会の主催で開催され、各業界の取組みが説明された。

 

XML電文に対応した新金融EDIによりバックオフィス業務の効率化と生産性の向上が実現

 最初に一般社団法人全国銀行協会 事務・決済システム部 次長の高倉裕一氏が金融EDIの利活用について説明した。

 従来の金融EDIにおけるEDI情報項目は固定長の20桁に限られるため情報量が圧倒的に少なく、商取引データの商流と支払・決済データの金流情報を紐付けることができなかった。そのような中、2015年12月、金融審議会「決済業務等の高度化に関するワーキング・グループ報告」は、20年までに企業間の国内送金指図について固定長電文を廃止し、情報量や情報の互換性に優れ、国際標準である「XML電文」に移行することの提言がなされた。

 高倉氏は「XML電文の採用による商流と金流情報を紐付けるEDI情報内容の拡充により、受取企業は受掛金の消込作業が効率化され、支払企業側としても入金照合に関する受取企業からの問い合わせ対応の削減が期待できる。消込作業が効率化することにより、この作業に従事していた人的リソースを営業活動など他の業務にシフトすることが可能になるなど、バックオフィス業務の効率化や、生産性の向上につながる取組み」とメリットを強調した。

 

 一方で金融EDI情報の新たな活用の可能性として、金融機関による新たなサービスやビジネスへの活用が期待されており、企業間の取引情報の把握によるコンサルタント機能や提案活動、受発注情報にもとづくビジネスの将来予測、金融EDI情報を活用した小口融資などが想定されている。高倉氏は「18年の全銀EDIシステムの稼働、20年の対象業務のXML電文一斉移行に向けて官と民、金融界と産業界が連携して周知・広報を図っていきたい」と語った。

 

 

中小企業の生産性向上はFintechの活用がカギ

 続いて、日本商工会議所 中小企業振興部長の加藤正敏氏が「中小企業の生産性向上に向けたFintechの活用について」講演した。

 中小企業は構造的な人手不足の影響を大きく受けており、業務効率化に向けIT化は必須の状況となっている。そこで一部の中小企業では新しいFintech(ITを活用した革新的な金融サービス)の動きをチャンスと捉え、クラウド会計等を活用した生産性向上に取り組んでいる。加藤氏は「Fintechによって中小企業金融で重要な資金管理、決済、資金調達の利便性が向上する」と強調した。

 ただし、Fintechを活用するうえで、中小企業にとってビジネスアプリケーションの活用による業務フロー全体のデータ連携やネットバンキングの利用、キャッシュレス決済の対応など取り組むべき課題が多い。加藤氏は「商工会議所では、支援体制を構築し、情報発信、合同支援、個別支援を通じて支援していきたい」と語った。

 

 

流通業界とは14年に実証実験を実施し、一定の効果を確認


 続いて花王グループカスタマーマーケティング株式会社 カスタマートレードセンター 物流開発グループ 部長の斎藤和志氏が、流通業界と銀行界の連携について説明した。

 流通業界では03年からEDIの標準化活動に取り組んでおり、現在は「流通BMS」として普及が進んでいる。その普及活動に向けた一環として12年から金融EDIとの連携を模索し、14年には共同実証を行った。

共同実証は決済(入金処理)の効率化を目的とし、①売掛金消込処理、②販売条件・リベート入金管理、③経費消込業務の3つを実施した。検証の結果、①売掛金消込処理については、EDI情報欄に法人コードを含む内訳を付加したことにより、支払データ確認後に手作業で法人ごとに売掛金振替を行っていた仕分作業が自動化され、年1,680時間(月140時間)の削減が可能になった。②販売条件・リベート入金管理については、EDI情報欄に契約番号を含む内訳を付加したことで、年間61%の作業工数の削減が可能になった。③経費消込業務については、EDI情報欄に請求書番号を含む内訳を付加した結果、月に約4000件(1社分)、90%以上の消込処理の自動化が可能になったという。

 

 検証の結果を受けて斎藤氏は「流通BMSを含む商流EDIと金融EDIの連携、支払企業と受取企業の連携、小売と卸の連携を実現するインフラを広く活用してもらえることを期待している」と語った。

 

 

ERPシステムと全銀協EDIシステムの連携はEDI情報を検討中

 続いて、金融システムを開発するソフトウェアベンダーの立場から、SAPジャパン株式会社 ローカルプロダクトマネージャーの渡邊佐和子氏が全銀EDIシステムの移行に向けた同社の取組みを説明した。

 ドイツのERP(基幹系情報システム)ベンダーであるSAPは、日本法人がローカライズ要件を本社に依頼している。全銀EDIシステムのXML対応に向けては、SAPジャパンが日本ユーザーの要望を聞きながら企業側が求める要件を整理しているが、XMLファイルに入れるEDI情報が未決定であるため実際の開発はこれからだという。渡邊氏は「ユーザーによって意見が異なり、あるユーザーは支払通知を優先して欲しい、請求書部署の情報を載せたい、支払企業が規定する番号を載せたいというように、多種多様な意見があるため、現在は開発部隊とEDI情報の項目を検討しています」と現状を明かした。

 現在は、17年内にフォーマット開発を終了する予定で計画を進めているが、EDI情報の項目に関する要件が固まらない場合は18年にずれこむ可能性もある。ただし、いずれにしても、18年7月の全銀EDIシステムの試験開始に向けて実現を目指すという。

 

 

官と民、金融界と産業界が密接に連携しながら金融EDIを促進

 続けて、上記の3氏に、株式会社三菱東京UFJ銀行 トランザクションバンキング部 次長の蔵納淳一氏、経済産業省 経済産業政策局 産業資金課 課長補佐 塚本裕之氏、金融庁 総務企画局企画課 信用制度参事官室 フィンテック企画調整官 三輪純平氏の3名を加えて「全銀EDIシステムへの期待」と題したパネルディスカッションが行われた。

 まず、「金融EDIの課題」に対して花王の斎藤氏は「商品売買以外の分野においても、例えば経費支払などの効率化も課題である」と述べた。SAPの渡邊氏は「XML化されるEDI情報項目の内容の共通化がどこまで図ることができるかがカギになる」と語った。日本商工会議所の加藤氏は「わが国企業の85%が、従業員数が小売・サービス業で5人以下、製造業等で20人以下の小規模企業が占める。その中で、IT化が進んでいない企業が多く、ITに詳しい人材がいない、IT投資の予算がない、アドバイザーもいないことが課題となっている」と語った。

 

 続いて金融業界の取組みについて三菱東京UFJ銀行の蔵納氏が説明。「国際標準であるXML電文は、外資系企業からの採用要望が強く、最近は国内企業も海外決済が多くなる状況にあり、XML化は必然的な流れとなっている。XML化によって一歩先行している流通業界とも連携が可能になり、サプライチェーン全体の効率化に貢献できる」と語った。

 

 官民一体の取組みについては経済産業省の塚本氏が「経済産業省は、企業の生産性向上、収益向上、キャッシュマネジメント力強化といった観点から、商流EDI、金融EDIの取組みを後押ししてきた。今年度の政府の成長戦略である未来投資戦略2017の中で、FinTechが政府の戦略分野の一つとなっているが、FinTechの導入と企業のIT活用は生産性の課題を解決するものだ。現在、EDIを活用したことがない中小企業における利用を拡大していくことが重要である。」と語った。

 

 金融庁の三輪氏も「17年6月に閣議決定された未来投資戦略2017においても、『全銀EDIシステムを18年に稼動し、20年までにXML電文に全面的に移行する。2020年までに商流情報の標準化項目の普及、業種を超えた企業間のEDI連携を更に推進する。』としている。フィンテック等を活用した企業の成長戦略強化においても、決済・送金にかかるXML電文化は本丸として実現したい項目であり、同時並行で全銀システムの24時間365日対応化・法人ネットバンキング利用の促進を通して業務の効率化に貢献したい」と話した。

 

 今後の各社の取組みについて、花王の斎藤氏は「SAPシステムの対応を目指す」と語り、SAPの渡邊氏は「金融EDI情報の項目についてドイツ本社の開発者とも検討しながら、ユーザーグループに対しても広く案内して要望を吸い上げたい」と語った。三菱東京UFJ銀行の蔵納氏は「18年12月の全銀EDI開始に向け、全国の銀行に対して参加を呼びかけていきたい。三菱東京UFJ銀行としてもシステム稼働当初からの参加を表明し、率先して準備を進めていく」と語った。

 最後に金融EDI、全銀EDIに対する期待をそれぞれ次のように語った。


「企業が生産性を高めるためには、バックオフィス業務等の効率化が重要であるとの認識のもと、未来投資戦略2017ではKPIとして、クラウドサービス等を活用してバックオフィス業務を効率化する中小企業等の割合を4割、現在の4倍にする目標を掲げている。こうした取組みと併せて、金融EDIの活用が進んでいくことを期待している。企業の生産性向上に繋がるよう、商流EDIとの連携などを通して取組みを進めていきたい」(経済産業省 塚本氏)

 

 

 

 

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