EDI導入における投資減税説明会 -最先端のEDIシステム導入で税額控除5%または即時償却の優遇措置を適用-

 「アベノミクス」の本丸となる「成長戦略」の施策が実行されている中、イノベーションを促進する産業競争力強化法と関連の高い、経済活性化のための税制「生産性向上設備投資促進税制」が施行された。これは中小企業が特定の条件下でシステムやソフトウェアを導入すると税額控除または即時償却が実現するというもので、流通BMSをはじめとするEDI関連のシステムにも適用が進んでいる。
 そこで、2014年10月27日にEDI導入における「生産性向上設備投資促進税制」適用のための説明会が、東京港区の流通システム開発センターにて開催された。今回は、一般社団法人 情報サービス産業協会(JISA)の田中岳彦氏によるポイント解説をレポートする。

 

 

生産性向上設備投資促進税制がシステムやソフトウェアまで拡張

 最初に一般財団法人 流通システム開発センターの流通BMS協議会 事務局の坂本尚登氏が挨拶。「中小企業の流通BMS促進に向けて、協議会では政府に対して財政援助を呼びかけている。その甲斐があって今回の生産性向上設備投資促進税制がシステムやソフトウェアまで拡張された。すでに流通BMS関連へのシステム導入の支援実績もあることから、中小の流通事業者に活用していただきたいと思い、今回の説明会を開催した」と目的を説明した。

 さらに、現在の流通BMSが置かれている課題について「モデムを使ったJSA手順からの切り替え期限を明確にすることが迫られている」と語り、電話回線の交換機が25年ごろまでに寿命を迎えることから、NTTが20年ころまでにIPネットワークへの切り替えを検討していることを明らかにした。切り替えに向けた具体的な進め方が14年度中に明らかにされることを受けて、流通BMS協議会では15年2月に東京、大阪、名古屋の3カ所で説明会を開催する予定で「これを機会に是非とも流通BMSへの移行を検討して欲しい」と呼びかけた。

 

 

即時償却より税額控除にメリット

 続いて、国内の主要なシステムインテグレーターやソフトウェアメーカーで構成される一般社団法人 情報サービス産業協会(JISA)の企画調査部 企画課長の田中岳彦氏が「生産性向上設備投資促進税制」の概要を説明した。

 

優遇措置は以下の通りとなっている。
【適用期間】14年1月20日~16年3月末日まで
【優遇内容】即時償却 または 税額控除5%

【適用期間】16年4月1日~17年3月末日まで
【優遇内容】特別償却50% または 税額控除4%

 今回の「生産性向上設備投資促進税制」と今までの税制の違いについて田中氏は「優遇措置に、税金がそのまま引かれる税額控除が盛り込まれた点が大きい。即時償却は、初年度こそ税額ゼロだが、前倒しして費用が落ちただけに過ぎないので、5年間全体で比べたら普通償却と変わらない」と即時償却より税額控除にメリットがあることを強調した。

 

 ただし「生産性向上設備投資促進税制」には2つのスキームがあり、ソフト開発会社経由で申請する「先端設備(A類型)」と、導入する事業者が投資計画書を自ら作成して申請する「生産ラインやオペレーションの改善に関する設備(B類型)」に分けられる。今回は中小の流通事業者でも手間をかけることなく手軽に申請できる「先端設備(A類型)」に絞って説明が展開された。

 

 「先端設備(A類型)」の対象となるのは、ソフトウェア開発やパッケージ導入を検討している資本金1億円以下の中小企業だ。実際は「ソフトの中身をよく知っている」ソフト開発会社が前面に立って中小企業が導入を検討しているシステムやソフトウェアなどをJISA事務局に申請する。JISAが申請書類を確認して要件を満たしていると判断できれば「証明書」が発行され、システムやソフトを導入する中小企業がソフト会社から証明書を受け取り、所轄の税務署に申請すれば優遇措置を受けることができる。

 

 対象となるソフトはパッケージなら過去5年以内に販売が開始されたもの、スクラッチなら取得年度または取得前年度に販売されたもので、いずれも単品で30万円以上かつ合計額が70万円以上であることが条件だ。ただし、どんなシステムでもいいというわけでなく「生産」「販売」「在庫」「顧客」のいずれか1つ以上の情報収集機能を実装し、収集した情報に基づく分析機能と指示機能を有していることが条件とされている。

 

 対象ソフトについて田中氏は「情報の範囲は幅広く捉えて構わない。ただし、本税制は設備投資促進税制なので、ソフトが設備の稼働状況等に係るデータを収集して、そのデータを分析し、分析結果から次のアクションを促す何らかの仕様が機能として実装されていることが必要だ。その機能要件を満たすうえで、『自動化』あるいは『予知・予測』の2つがキーとなる」と語った。

EDIシステムでよく見られるミドルウェアについても、申請書類で上記の機能要件を満たすことが合理的に説明され、それをJISAの事務局が確認できれば証明書の発行対象となることを明らかにした。

 

 田中氏は「税制優遇のための証明書は、プライバシーマークやISMSのように審査員が企業を訪問して厳密に審査をするものではない。あくまでも、提出された申請書類が要件に合っているかを業界団体事務局が確認するだけだ。とはいえ、ソフトのパンフレットから抜き出したような簡単な説明だけでは、そのソフトが要件に合っているかどうかが判断できず、証明書を発行することは難しい。つまり、証明書が発行されるかどうかは、ソフトに上記の機能があることが前提であるが、申請書類上の説明の仕方に左右される。JISA事務局としては、提出された書類に納得がいき、要件として求めているソフトの機能に関して合理的な説明がなされていると判断ができるかがポイントなので、JISAが発行している「手引き」や「機能要件の考え方」をよく読んで申請して欲しい」と述べた。

 

 

優遇措置獲得のポイントは「合理的な説明+説得力ある根拠資料」

 次に田中氏は、生産性向上設備投資促進税制がEDIにどの程度当てはまるかについて掘り下げた。流通BMS関連のシステム導入に関しても通常のシステムやソフトウェアと同様、提出した申請書類で合理的な説明がなされれば証明書を発行される可能性は高いという。ただし、単純な支払い、請求、消し込みといったデータの受け渡しだけではハードルが高いようだ。

 

 田中氏は「システムにデータを入れて、ただ伝票を出すような使い方では単なる事務処理と判断される可能性がある。事務用ソフトは本税制の対象外であり、先端性の観点からも要件を充足しているとは判断しづらい。あくまで証明書の発行要件にある『分析機能』や『指示機能』が加わることが重要だ。例えば、トランスレータの取得だけでは、単品30万円以上という価格要件をクリアすることと指示機能を充足している旨の説明が難しいと考えられるので、購買管理等の業務システムとの連携でEDIを捉えたものが本税制の対象として考えられる。なお、ソフトウェアの場合、この税制における「先端性」の判断を、『予知・予測』と『自動化』においているので、より先端的な要素として、例えば、オムニチャネル、O2O、購買予測といった業務システムと結びついていれば理想的だ」と解説した。

 


 ただし、先端性の程度は申請されるソフトウェアの分野により差があるので、最初からあきらめてしまうのも早い。申請書類の説明が合理的になされていることが大切で、パワーポイントの提案書のスタイルでデータの流れや連携を可視化するなど、わかりやすく見やすい資料を付けるだけでも証明書が発行される可能性は高くなるという。

「今までも4回目の申請で通った事例がある」と田中氏が語るように、1度目の申請で落ちたからといってあきらめる必要もなく、どれだけわかりやすい資料を揃えられるかがポイントになる。この証明書発行制度は、申請者であるソフト会社がセルフチェックして要件を充足していると判断して作成された書類をJISA事務局が第三者の立場で確認するものなので、競合製品等の類似ケースを意識する必要もない。

 

 中小の流通事業者に変わって申請を行うソフト開発会社は、ユーザーから依頼を受けてからの申請は、証明書の発行までに時間がかかってしまうし、要件を充足しないソフトウェアであると判断されて証明書が発行されない可能性もある。もし対象になりそうなパッケージソフトがあるなら、あらかじめJISA事務局に事前登録を申請して登録番号を取得しておき、ユーザーに提案するほうが効率的で現実的だ。

 

「14年10月末時点でJISA事務局に寄せられている申請総数は4,794件にのぼる。申請から証明書発行、番号取得までにはそれなりの時間がかかるので、余裕をもって申請するほうがいい」と田中氏は呼びかけた。

 

 最後に田中氏はまとめとして「JISAのホームページに『生産性向上設備投資促進税制に関するご案内』のページ(※)を用意した。そこには申請手続きのコンテンツ、説明資料、申請書類などのほか、証明書発行および事前登録番号通知までの所要日数、事前登録のリストも掲載しているので、是非とも参考にして欲しい」と語って講演を終えた。

 

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