事例で学ぼう! 使い方・活かし方  流通BMS導入事例セミナー

 流通BMSの導入が急ピッチで進む2012年。新規導入を検討する小売業や卸・メーカーから、先行企業の事例紹介を求める声が多く寄せられている。
 流通BMS協議会は12年3月15日、「事例で学ぼう! 使い方・活(い)かし方」と題したセミナーを東京・千代田のベルサール神田で開催。今回はセミナーで講演した伊藤忠食品、マツヤ、山星屋、サミットの4社の事例を紹介する。

流通BMSの概要と普及状況

 講演に先立ち、流通BMS協議会普及推進部会長の中村伸一郎氏が、流通BMSの普及状況について説明した。12年2月現在、協議会が独自に集計して把握している流通BMSの導入企業数は、小売業で110社、卸・メーカーで170社におよぶ。一方、ITメーカーの協力を得て調査した卸・メーカーの実質導入数は、12年1月時点で約3900社に達していると推定している。

 導入の機運が高まっている背景には、11年に経済産業省の支援を受け設立した「製・配・販連携協議会」の中で、流通事業者が「流通BMS導入宣言書」を発表したことが挙げられる。その中で署名企業50社が導入推進を明らかにしていることから、「12年は今まで以上のペースで進むだろう」と中村氏は予測。イオンリテール、イトーヨーカドー、ユニーなどの大手総合スーパー(GMS)が積極的に移行姿勢を示しているとし「今後は中堅のスーパーや卸・メーカーに拡大することは間違いない」と語った。

 

 流通BMSの導入メリットについて中村氏は、企業の規模や形態に関係なくすべての業態が共通の言語で意思疎通できることを挙げ、「流通BMSには先人たちがチェーンストアを拡大する過程で考案したノウハウがすべて盛り込まれている」と強調した。

 

 

導入事例(1):伊藤忠食品(食品卸)

 導入事例として、酒類・食品の卸売を主要事業とする伊藤忠食品情報システム本部の竹腰雅一氏が講演した。同社の流通BMSへの取り組みは、07年までさかのぼる。同社は小売4社と卸9社で行った共同実証に参加。サーバ-サーバ型のEDIシステムを自社内に構築し、小売3社と流通BMSによるデータ交換を開始した。

 導入効果について竹腰氏は「取引先それぞれに対応していた個別プログラムの数が従来比で50分の1以下に削減できた」と語り、プログラムの開発期間も約3分の2に短縮されたことを明らかにした。業務面では、1万件の発注データの受信時間が、従来の50分から2分へ大幅に短縮できたという。さらに、プッシュ型通信によって取引先の小売店の発注データがすぐに受信できるようになり、納品リードタイムの短縮につながったと明かす。


 現在は流通BMSでデータ交換を行う取引先数も増え、交換メッセージ数も15種類まで増加している。竹腰氏は流通BMSの導入メリットを効率性、有効性、経済性の3つを挙げ「より早い普及の拡大が、効果回収のポイントになる」と語った。

 

 

導入事例(2):マツヤ(食品スーパー)


 続いてマツヤ財務部事務管理グループの中澤孝夫氏が同社の事例を紹介した。 長野県内で32店舗(12年4月現在)の食品スーパー、業務スーパーを展開する同社は、11年3月に流通BMSを導入。2012年1月現在、全取引先の11%にあたる24社とデータ交換を行っている。

 同社は09年に自社構築して運用してきた基幹システム・情報システムの更新を検討。システムの検討過程において、受発注のデータ交換方式を流通BMSに移行することを決断した。中澤氏は「従来のJCA手順は今後の業界標準になり得ないと判断し、基幹システムの刷新に合わせて流通BMSの導入を決めました」と語る。新たな基幹システムにはクラウド型サービスを選定し、6カ月の短期間で導入を終えた。EDIについては、全取引先に対する説明会を10年11月に行い、約3カ月後の11年3月1日からは流通BMSによるデータ交換を開始している。導入時の苦労について中澤氏は「取引先説明会は、グロッサリーと食品あわせて1日で済んだものの、流通BMSにすぐに対応できない取引先も多く、調整と準備に追われた」と振り返った。また、マスター整備では、自社コードから標準JANコードへの変換に負担がかかったという。

 

 導入効果については、仕入確定が速くなったことを挙げた。「導入前は発注データを受け取った時点で仕入確定としていたが、導入後は納品日以前に出荷データが届くため、営業管理数値が日次で確認できるようになった」と中澤氏。また、複写型のターンアラウンド伝票の枚数が従来の10分の1以下に激減。その結果、事務作業が効率化され、入力精度も向上している。


 現在同社が流通BMSでデータ交換を行っている取引先は24社だが、取引金額ベースでみると全体の50%に相当する。中澤氏は今後の構想について「FAXで受発注を行っている81社の取引先にEDI対応を促進し、EDI比率100%を目指していく」として講演を終えた。

 

 

導入事例(3):山星屋(食品卸)

 事例3社目として登場したのは、菓子食品を主体とする卸を主要業務とする山星屋。1909年(明治42年)創業の同社は現在、全国49カ所にネットワークを張り巡らし、生活者に夢と安らぎを提供している。流通BMSへの取り組みも早く、07年に小売4社と卸9社で行った流通BMSの共同実証に参加。サーバ-サーバ型のEDIシステムを自社内に構築し、大手スーパー1社とデータ交換を開始した。その後も順次取引先数を増やし、12年3月現在で23社に対応しているほか、今後も6社の導入が決定済みという。情報システム部情報企画課の古田健太郎氏は「取引先数全体でみると4.03%に過ぎないが、導入済み小売店のグループ全体で換算すると34.76%となり、今後の“伸びしろ”が期待できる」と説明した。


 導入効果については、インターネット利用による、通信速度の高速化、通信の安定性向上、出荷時間の固定化、通信コスト削減の4つを挙げている。「これまで数分から数時間かかっていたデータ受信時間が、数秒から数分に短縮。2時間かかっていた取引先の場合、9分程度で受信できる見込みがたった」と語った。また、従来のJCA手順ではデータ受信中に通信が中断すると最初からやり直す必要があったが、流通BMSでは通信が切断されることがないため、受信の遅延が発生しない。「これらの結果、データ量が多くても出荷時間を遅らせることなく、常に一定の時間に出荷開始ができるようになった」と古田氏。

 

 システム面では標準化によって管理効率が向上。合わせてシステム導入工数の削減が進んでいる。業務面では、請求/支払までを流通BMSで実施できる取引先が増えた結果、照合処理の効率化が実現し、照合作業にかかる工数が従来の半分になったという。さらに、伝票レスにより、10社合計で月に5万9000枚の伝票が削減できた。古田氏は「卸にとって流通BMSを導入する取引先が増えるほどメリットが大きい。すべての取引先で流通BMSが利用されることになれば、日常業務からシステム全般における効率・効果が最大化される」と語った。

 

 

導入事例(4):サミット(食品スーパー)


 講演の最後として関東近郊に103店舗の食品スーパーマーケットを展開するサミット情報システム部マネジャーの長尾建氏が事例を紹介した。同社は時代に即した店舗作りを目指して、SAP ERPによる新基幹システムを導入し、それと同時に流通BMSへの移行に取り組んだ。EDIはクラウド型のサービスを利用することで初期構築費用を削減するとともに、4カ月の短期間で導入を終えている。

 流通BMS導入のポイントについて長尾氏は「基幹システムの改修を最小限に留め、さらにクラウド型サービスを採用することで構築費用を軽減し、経営トップ層にはコストメリットを訴求しました」と語った。さらに、200社以上ある取引先の中から最初の移行対象を12社に絞りこみ、段階稼働の中で標準化仕様を絞りこんだことが成功の要因になっているという。最後に「流通BMSは基幹システムや営業系システムの再構築に合わせて導入し、全体最適をはかることでより高い効果が得られる」と指摘して講演を締めくくった。

 

 

 

 

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