製・配・販連携協議会 総会/フォーラム

 消費財のメーカー、卸売業、小売業の各社が参画し、サプライチェーンの最適化を目指す「製・配・販連携協議会」。2011年5月の設立以来、企業トップのイニシアチブの下、流通活動の効率化・高度化を目指してきた。7月12日、明治記念館(東京・港)で開催されたフォーラムでは、加盟43社で構成したワーキンググループが、12年度のテーマに定めた「サプライチェーンのための情報連携」「返品の削減に向けた取り組み」「日付情報等のバーコード化」に関する成果を報告。さらにアマゾンジャパン社長のジャスパー・チャン氏が特別講演を行った。

 

主催者挨拶 経済産業省商務流通保安審議官 寺澤達也氏

 

 日本経済の60%を支える流通業界で、製・配・販の3者が集う連携協議会はユニークであり、ワーキンググループの活動も高く評価している。その中の1つである返品削減のワーキンググループは、日本人の美徳である「もったいない」の精神に基づく取り組みであり、非常に興味深い。

 今回は2回目の総会。3年目となる13年度の活動は今まで以上に重要になるだろう。経済産業省でもあらゆる施策やプロジェクトは「3年目が勝負」と認識して活動している。製・配・販連携協議会でも3年目の今年、大きな成果を出してほしい。参加43社の取り組みを全国的に拡大し、流通の効率化によって新たな価値創造につながることを期待している。

 

 

2012年度の製・配・販連携協議会の活動概要報告 流通経済研究所理事長 上原征彦氏

 

変化が激しい流通業界では、流通の全体的な流れと、新しい潮流の2つを知る必要がある。日本の流通課程は、個人商店、百貨店、GMS、スーパーマーケット、コンビニエンスストアと発展し、安定的な流通をもたらした。しかし今では宅配やダイレクト販売といった顧客に近づく業態が成長していることに注目してほしい。新しい流れとしてはSPA型、商品開発型、地域特産型といった流通が台頭している。流通の新旧交代が始まり、顧客との距離が近づく流通、ものを創造する流通、サプライチェーンを作る流通に変わっていく中では、全体のシステムとして消費者への対応が必要となる。

 その中でも重要な位置を占めるのがICTだ。ICTの進化によって流通の面積は大きくなった。従来は情報を専有し、モジュールを個別化することで個性を競ってきたが、ICT化が進むと標準化をベースとして差別化を図ることを求められる。製・配・販の連携も、こうした新しい流通の流れの中で取り組んでいかなければならない。

 

返品削減ワーキンググループ 報告  イトーヨーカ堂執行役員 物流部長 飯原正浩氏「返品削減に向けた取組みの進捗について」

 

返品削減は、製・配・販連携協議会の初年度から取り組んでいる継続的テーマだ。11年度は加工食品・日用雑貨の返品実態を把握すると同時に、返品削減の施策として「加工食品の納品期限の見直し」「商品入れ替えプロセスの見直し」 「返品にかかる取引条件・取引計画の明確化」に関して具体的な提言を行った。それを踏まえて本年度は返品削減の実行フェーズとして、製・配・販各社が返品削減実施計画の作成・共有を行い、パイロットプロジェクトを開始した。

 加工食品・日用雑貨の返品実態を調査してみると、加工食品では小売業から卸売業への返品は少なく、卸売業からメーカーへの返品が多いことがわかった。日用雑貨に関しては小売業から卸売業、卸売業からメーカーへの返品はいずれも多い。調査結果から業界全体の返品額・返品処理費用を推計すると加工食品・日用雑貨合計で、小売業から卸売業への返品は約1100億円、卸売業からメーカーへの返品は約1800億円に達していると見られる。返品の主な理由は加工食品の場合、納品期限切れと定番カット、日用雑貨では年2回の棚替え・終売という調査結果が出た。

 

 そこで12年度は、製・配・販連携協議会のビジョンに則り、11年度のワーキンググループで提言した返品削減に基づく「返品削減実施計画」の提出を参加各社に求めた。実施計画では、返品削減目標を定量的に明らかにするとともに、具体的な削減方法まで求めている。

 

 現在は、返品発生の要因となっている納品期限や商品入れ替えプロセスなど、6つのテーマに対する緩和策を検証するパイロットプロジェクトを行っている。例えば、加工食品の納品期限の見直しとして、飲料・菓子の小売店への納品期限を現行の「3分の2残し」から、「2分の1残し」に緩和し、それに伴う返品、廃棄などの発生状況を測定するプロジェクトを13年8月頃から半年程度のスケジュールで実施する予定だ。

 

 その他にも特売時の返品削減として、特売のオペレーションを見直すことによって返品発生を抑えるプロジェクトを実施。ラーメンのスポット販促商品の販促期間を従来の2週間から1週間に短縮し、専用物流センターの入出荷、在庫量を検証した。その他にも終売プロセスの見直し、商品入れ替えプロセスの見直しによる検証を進めている。

 

 今後は今回策定した返品削減実施計画をフォローアップし、各企業が計画を実施することを促していく。また、パイロットプロジェクトの実証結果を検証し、効果的な手法は水平展開していくことも重要であると考えている。さらには、返品削減の取り組みは協議会内だけにとどめるのではなく、外部にも発信していく必要がある。

 

日付情報等バーコード化ワーキンググループ報告  イオングローバルSCM取締役 営業統括部長 橘良治氏 「日付情報表示の標準化による配送効率化に向けて」  

 

 昨年度の配送最適化ワーキンググループでは、「納品トラック待機時間の実態と改善方法について」をテーマに取り上げた。その中で今後の検討課題として「棚卸し作業の効率化」があがったため、1つの具体策として段ボールに表示される賞味期限などの日付情報に関して表示方法の標準化、バーコード化を行う意義を整理し、ガイドラインを提言することにした。

 サプライチェーンでの日付管理は、食の安全という観点からも非常に重要視されているが、日付表示には標準がないため各社各様で行われているのが現状だ。実態を調査すると入荷時などに段ボールの日付表示部分を探し、並べ替えたうえで帳票との付け合わせ作業を行っている。また、日付表示位置やサイズが各社ばらばらで、誤認を生じやすいという課題も報告されている。そこで現状の解決策として、日付の表示位置、大きさを統一することで、確認時間の短縮、荷下ろし作業の効率化、作業精度の向上などが実現すると考えた。

 

 さらに、日付情報などをバーコード化することで、メーカーでは一次出荷先までのトレースが迅速かつ正確に行えるようになったり、出荷先への先入先出、ロットの逆転出荷防止などの管理精度が向上したりすることが想定された。卸売業・小売業でも入力時間の短縮による作業効率の向上、入力ミスの軽減などの効果が見込まれている。

 

 そこで、日付情報などの文字表示とバーコード化に関するガイドラインを定めることにした。短期的な取り組みとした文字表示では、文字の表示位置、文字の種類、大きさ、表示方法を策定。中長期的な取り組みとしたバーコード化では、バーコードの表示位置と規格を定めた。ガイドラインの実現に向けては、メーカーでは新商品の発売、段ボールのデザイン変更、物流システムの更新などに合わせて実施することが理想だ。小売業・卸売業に関しても物流システムや基幹システムの更新に合わせて対応可能な部分から取り組むことが望ましい。

 

 ガイドラインに関しては、広く普及すればするほど効果の拡大が見込まれることから、製・配・販連携協議会が率先して取り組むことが重要だ。今後は関連業界団体や取引企業、関連ベンダーに対しても取り組みを呼びかけながら、普及の促進につなげていきたい。

 

サプライチェーン効率化のための情報連携ワーキンググループ 報告 ユニー執行役 IT物流本部本部長兼情報システム部部長 角田吉隆氏「製・配・販による情報連携の現状と課題、方向性について」

 

製・配・販の情報連携は、協議会のビジョンにも定められている重要な改題だ。昨年度のデジタル・インフラ検討ワーキンググループでは、情報の種別を「実績情報」と「計画情報」に区分したうえで実績情報に着目。小売業からPOSデータを集め、効果検証シミュレーションを実施したところ、一定規模以上の小売業のPOSデータ、仕入データを利用すると生産・在庫・出荷管理を大きく改善できることが確認できた。そこで今年度のワーキンググループでは、返品削減、配送最適化に向けてサプライチェーン効率化のための情報連携のあり方について検討した。

 具体的には、ワーキンググループ参加社に対してアンケートを実施して、情報連携に対する実態と課題を確認した。実績情報のうち、小売業POSデータ、小売業在庫データ、卸売業の販売データ・在庫データの3つに着目。小売業POSデータは、多くの小売業が製品別、日別、店舗別の52週以上のデータをウェブで公開しているが、小売POSデータの開示方法やフォーマットは個社ごとに異なるため、メーカーや卸売業は複数のPOSデータを扱うことが難しく、小売業在庫データは一部小売業の開示にとどまっている。一方、卸売業やメーカーでは小売業在庫データを把握することに有効性を感じていることから、幅広いデータ共有を行っていく必要がある。次に小売業在庫データに関しては、大手小売業では重要取引先に対しての開示は進みつつあるが、現状では限定的だ。一方、卸売業やメーカーでは小売業在庫データを把握することに有効性を感じていることから、小売業は在庫情報を卸売業やメーカーに公開する方法を明らかにするとともに、情報システムのあり方を検討していくべきだ。卸売業の販売データに関してはメーカーへの開示が進み、補足率も高まっているが、在庫データは加工食品の分野で進んでいない。一方、メーカーでは在庫データの入手によって、出荷予測の精度が向上し、在庫の削減や生産計画の最適化が実現することから在庫データの共有と連携も重要な課題だ。

 

 計画情報の連携については、新商品導入時の発注情報、販売促進時の発注情報、商品カット情報の3つに着目。新商品導入時の発注情報は、確定発注を1週間以上前、発注予定を3週間以上前に通知する企業が多いが、業態や企業によって異なる。そのため、卸売業はメーカーへの発注量を確定する前、メーカーは生産数量の確定前と物流センターへの在庫配分確定前に小売業の確定発注や発注予定を把握することが重要だ。販売促進時の発注情報に関しても、卸売業のセンター発注、メーカーの在庫配置に利用できるタイミングでの情報連携が必要だ。商品カット情報についても商品カット日の4週間以上前に通知する小売業が多いが、卸売業については在庫調整・在庫調整のタイミングでの情報連携が必要となる。

 

 情報連携は、製・配・販の取引企業間が互いの業務プロセスを理解することが重要で、各企業で営業部門と物流・情報部門との連携がスムーズに行われる体制を強化することが望ましい。また、情報連携のタイミングは業態・業種の特性によって異なるため、それぞれに応じた展開方法の検討や調整が必要となる。情報連携は単に情報を共有するだけでは意味がなく、情報連携と業務連携を同時に考えることが重要だ。

 

特別講演 アマゾンジャパン社長 ジャスパー・チャン氏「Amazon 顧客第一のビジネスモデル」

 

 アマゾンでは、新入社員であろうとマネージャーであろうと、全員がリーダーだ。誰もが顧客中心という意識を強く持ち、実績を出してほしいと思っている。「一生懸命働き、楽しみながら仕事をし、一緒に歴史をつくる」ことがアマゾンの企業文化。最も重要なものは「地球上で最も豊富な品揃え」と「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」の2つの企業理念であり、それは創業当時から変わっていない。

 アマゾン・ドットコムの創業は95年で、グローバルでのアクティブユーザーは2億人。11カ国でeコマースサイトを運営しているが、43%が北米以外の売り上げだ。商品の売上構成は変化しており、05年は70%が本やDVDなどのメディア商品だったが12年は3分の2が電子機器、キッチン、ファッション、ヘルス商品などとなっている。

 

 eコマースは急速に拡大しているが、小売に占めるシェアは日本で2.8%、米国でも6%と成長の余地は多い。近年は地域も拡大し、インドとブラジルにも展開している。また、商品に特化したサイトに注力する一方で、BtoBビジネスの拡大も進めている。代表的なBtoBビジネスには、インターネット商店のフルフィルメントサービスや、アマゾンウェブサービスといったクラウドビジネスなどがある。メディアグループを通じた広告事業や、電子書籍端末を通じた個人出版もサポートしている。

 

 ここ数年、モバイルサイトに投資してきたことも日本での躍進につながっている。日本でそれ以上に重要なのがインフラ・物流面への投資だ。今年中には小田原にフルフィルメントセンター(物流センター)の開業を予定している。これは世界最大規模の20万m²を誇り、1000人の雇用を生み出すだろう。小田原のフルフィルメントセンターでは、日本の製造業のムダ対策、カイゼンの基づく運営のノウハウを生かしていく。

 

 顧客目線でサービスを改善していくことが顧客満足度を高め、関係者に意思が生まれることにつながる。理想を実現するためには多くの革新が必要だ。アマゾンでは初心を忘れず「毎日が初日」という気持ちで業務を行っている。アマゾンの各種サービスが、日本の流通業と協力することができれば、さらなる高い価値が提供できると信じている。

 

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