景況などの外部環境に左右されず売れ続ける店舗がある一方で、素晴らしい立地やレイアウト、商品やサービスを誇る店舗でも撤退を余儀なくされる例もある。繁盛店であり続けるためには何が必要なのか。多くの店長研修などを担当し、コンサルティングに定評があるFamilySmile代表の成田直人氏に、繁盛店をつくるために店長が心得るべきことを聞いた。
スタッフ教育が鍵
多くの店長を見て思うことは、店の売り上げは店長の覚悟の度合いで決まるということです。今売れている店長も最初から成功していたわけではありません。覚悟を決めて毎月必死に目標を目指してきたからこそ、予算達成の常連になれたのです。
条件がどうであれ、予算は達成すべきもの。それにもかかわらず予算を達成できなかったとき、スタッフを責めたり、外部環境のせいにしたりするのではなく、全責任は自分にあるとどこまで本気で思えるか。スタッフの生活を双肩に担う店長としての器が問われます。
「売れない」のではなく「選ばれていない」のだと意識を変えることも大切です。お客様はどこかで何かを買っているので、決して売れないわけではありません。自分たちの店が買い物先として選ばれていないだけだと捉えると、その原因を探る意識が生まれます。
店長の覚悟が決まると、どうしたら予算を達成できるか常に考えて行動するようになります。その際には、店長の一存で変えられることと変えられないことに分け、自分の裁量で改善できることに集中するのがポイントです。店舗の立地や品ぞろえ、価格など店長が変更できない要素にとらわれても仕方ありません。
店長がコントロールできることを集約していくと、スタッフ教育が鍵を握ることが分かります。売りやすく・買いやすい売り場をつくるのも、接客するのも「人」です。店頭で働くスタッフの力を最大限引き出していくことが予算達成の最良策なのです。
人間関係に尽きる
スタッフ教育で最も大切なことは、まず承認と尊重に基づく人間関係を築くことです。現在は時給の高さや仕事のやりがいより職場の人間関係を重視するスタッフが増えているからです。もし店長が、十分な人間関係ができていない状態で厳しく叱ったりすれば、スタッフの心は離れ、耐えられなくて辞めてしまうかもしれません。
私は靴の小売店に勤めていたとき、店に骨をうずめてもいいと本気で思っていました。それは店長のことが大好きだったからです。素晴らしい人柄の店長で、感情的に怒るようなことはなく、いつも縁の下の力持ちで、スタッフ全員が気持ちよく働けるようにサポートしてくれました。
店長はスタッフを呼び捨てにしてはいけません。仕事を頼むときは「何々しておいて!」という命令形ではなく、「何々してもらえる?」と依頼形にしましょう。そしてプライベートな相談をしてもらえるようになったら信頼関係ができた証し。厳しく叱っても問題ありません。スタッフをお客様以上に大切に考えてそれぞれの持ち味を引き出し、お客様に最大限の価値を提供できる環境をつくるのが店長の仕事です。
以前、私がコンサルタントとして担当した店の店長は、スタッフを呼び捨てにしたり、笑顔が少ないと「笑顔で働け!」、売れていないと「売れ!」と一喝したりするタイプの人でした。そこで「今日は木曜日ですが、木曜日にスタッフが笑顔で働けない理由を教えてください」と聞きました。正解は「入荷が多いから」。検品作業に追われてしまい、笑顔で接客する余裕がなかったのです。
懸命に考え、そのことに気付いた店長は、オペレーションを改善しました。ハンディーターミナルの持ち方やバーコードの読み取り方などを工夫することで、それまでの3分の1の時間で検品作業が終わるようになりました。店長の意識が変わり、作業の効率化により負担が減ったことで、スタッフたちに笑顔が増えて動きがよくなりました。
このようにちょっとした気付きと改革で、離職率が高かった店でも長く働いてくれるようになります。店長のことが好きになり、自分の働く店が好きになり、本社を好きになっていくのです。
現場主義で
スタッフが店長や自分の働く店を好きになると、自然に努力するようになります。お客様をレジに案内する際に商品を預かるなど、ちょっとした接客の工夫さえ、前向きな気持ちがなければできません。良好な人間関係が従業員満足度を高め、それが顧客満足(CS)につながっていくのです。
靴の小売店でなかなか成果が出ず、販売員の仕事に向いていないのではないかと悩んでいたとき、店長が「それはきょうまでの話。あしたどうなるかなんて分からない。だからあしたも元気な顔で来いよ!」と励ましてくれました。結果の出ない私を信じ続けてくれたのです。皆さんにもそういう店長になってほしいと思います。
地域ナンバーワンやCSナンバーワンを掲げる小売店は多くありますが、お客様を笑顔にするためにはスタッフが笑顔でなければいけません。だから本社や本部も現場を大切にしてください。本部が現場に寄り添えば、店長が前向きになります。店長が変わればスタッフの動きがよくなり、お客様の笑顔につながります。 どこでも買える時代だからこそ、お客様は誰から買うかを大切にしています。現場にスポットライトを当てる現場主義経営が、今後ますます求められるでしょう。
《繁盛する小売店づくりのポイント》
①店長は覚悟を決めること
予算達成の全責任は店長にある。店長の覚悟が決まると、どうしたら予算を達成できるか常に考えて行動するようになる。
②自分で変えられることに集中する
店舗の立地や品ぞろえ、価格など店長の一存で変えられないことにとらわれるのではなく、自分の裁量で改善できることに集中する。
③スタッフをお客様以上に大切に考える
職場の人間関係を重視するスタッフが増えている。スタッフをお客様以上に大切に考えて持ち味を引き出し、お客様に最大限の価値を提供できる環境をつくるのが店長の仕事。
④本社・本部は現場に寄り添う
スタッフが笑顔でなければ、お客様を笑顔にすることはできない。現場にスポットライトを当てる現場主義経営が求められる。
成田 直人(なりた・なおと)
19歳で靴の小売りチェーン店のアルバイト個人売り上げ日本一を獲得。その後PC販売店に入社し、7カ月で個人売り上げ1億円を達成した。2007年コンサルティング会社FamilySmileを設立。上場企業を中心に年間1万人以上の接客研修を担当し、多くの店舗で前年度比120%を達成している。著書多数。
ホームページ▶ http://service-consultant.com/