日経MJフォーラム BtoB 取引の新機軸 デジタル化がもたらす新たなビジネス基盤「BtoB EC」

 受発注の効率化を狙って「BtoB EC(企業間電子商取引)」を導入する企業が増えている。カギを握るのがデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みだ。日本経済新聞社は10 月上旬、BtoB EC の市場動向などを考えるフォーラムを都内で開催。第一線の担当者が豊富な事例をもとにデジタル化がもたらす新たなビジネスの波を紹介した。

 

オープニングセッション

DXレポート作成の背景と政策展開
~ビジネス基盤のデジタル化動向を踏まえて~

経済産業省 商務情報政策局情報産業課ソフトウェア
産業戦略企画官
和泉 憲明 氏

「2025年の崖」に向けた戦略を

 経済産業省では昨年9月、「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」のレポートとして「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服と本格的な展開~」をまとめた。海外企業がデジタル化にシフトする中、日本企業はDXにかじを切らなければ競争に負ける恐れがある。

 

 レポートでは、DXとは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義した。

 

 デジタル化で競争力を持った外資のディスラプター(侵略者)は技術論よりも顧客価値向上に力点を置いている。対抗していくためには、DXによる改革は不可欠だ。

 

 だが、日本企業のIT投資は現行ビジネスの維持・運営に80%が割かれている。戦略的なIT投資に資金も人材も振り向けていない。IT投資の重点は、日本では業務効率化・コスト削減だが、米企業はITによる製品・サービス開発に重点を置く。顧客価値の最大化を競争のゴールとしている。

 

 レポートで「2025年の崖」と表現した。複雑化・ブラックボックス化した既存システムを仕分けし、データをフルに活用したビジネスモデルの変革を目指さなければならない。このころには老朽化したシステムが、無策ならば60%を占めると予想。21~25年を「DXファースト期間」とし、デジタル起点の経営戦略の再構築、システム刷新を進めなければ日本企業の競争力は失われるという意味を「崖」という言葉に込めた。


 DXで顧客価値、企業の社会価値を向上させるため、経営者の決断がより重要になる。DXを巡る経営幹部と事業部門の認識が一致しているかどうかも課題の一つだ。18年12月に「DX推進ガイドライン」を、19年7月に「DX推進指標」を公開した。企業内で評価ツールとして活用できるよう今後も事例を集めベンチマークを充実させていく。

 

 

セッション1

これからBtoB ECを始めたい方必見!
導入・定着・拡大における3つのポイント大公開

Dai
取締役 B2BソリューションDivマネージャー
鵜飼 智史 氏

 

BtoB EC はDX化の入り口

 DX化とともに、その入り口として「BtoB EC」が注目されている。先進的な企業では10~20年前から取り組んでいる例もあるが、クラウド利用で導入しやすくなってきた。


 「BtoB EC(消費者向け電子商取引)」の市場規模は約18兆円だが、BtoB EC市場は約340兆円という。しかもEC化率は30%超で、まだEC化されていない約800兆円は電話やFAXでの受発注が占める。さらに昨年1年間で約26兆円規模の取引がEC化され、BtoBでのEC化は急速に進んでいる。


 BtoB ECを始める理由は業務効率化や営業体制強化、利益率向上、働き方改革など様々。始め方としては自社でシステムを構築するか、サービスを利用する選択肢がある。当社がクラウドで提供する「Bカート」はBtoB ECで必要な機能をカバーし、月額9800円~最短3日で始められる。導入企業は500社、受注企業が30万社という規模でサービスを提供している。


 API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を公開しているので、システムとのデータ連携も自在に行える。毎月無料のアップデートがあるので、消費増税に伴う軽減税率への対応なども済んでおり、常に最新システムを利用できる。


 BtoB ECを導入しようという企業は多い。定着させるコツは、課題の可視化をして導入目的を明確にすること、システム構成図や業務フロー図を作り社内コンセンサスを得ることなどだ。


 使われるシステムにするために、当社では30日間の無料トライアルも実施している。画面構成や操作性などについて社内で周知したり、取引先に事前に説明し対応してもらうことも重要だ。


 忘れてはいけないことは、BtoB取引のEC化が最終ゴールではないという点だ。デジタル化を通じて、業務効率化や営業体制強化といった目的を達成するとともに、BtoB ECからDX化を進め、社内改革、業務改革につなげていくことが重要だ。

 

 

セッション2

BtoB ECが解決できるよくある10の課題!
その効果と実態を、実際の導入事例を基にご紹介

アイル
BtoB EC推進統括本部
江原 智規 氏

業務効率を大幅に向上

 日本の企業間取引では、いまだに電話やFAX、メールなど人が介在するアナログ手法で行われる場合が多い。受発注の効率化やミスの撲滅を狙いにBtoB ECによるデジタル化が加速している。


 アイルは中堅中小企業中心に約5000社に業務システムを構築してきた。BtoB ECでは専用の「アラジンEC」を提供しており、その経験からBtoBに考えられる10の課題を紹介した。


 これらの課題には大きく次の3つの要素が関係している。1つ目は受注・仕入れともにアナログ業務が残り、業務負荷が大きいこと。2つ目はアナログが残っているがゆえにその業務が属人化し、組織としても効率が悪いこと。そして3つ目は新規顧客を獲得して売り上げを拡大したいが、マンパワーが足りないという営業的側面。これらの要素が絡み合い、業務効率化や売り上げ拡大への道を阻んでいると言える。


 つづいて、こうした課題を「アラジンEC」の導入によって解決し、数値的にも大きな成果を上げた導入事例を紹介した。


 「アラジンEC」を導入したサントリーマーケティング&コマースでは、電話による問い合わせを年8000件削減できたほか見積もり作成依頼も年800件削減。受注をFAXからECに移行し80%コスト削減。そして新規顧客の獲得にも効果があり、ウェブ経由での注文が約120%増えている。


 美容商品販売のコンフォートジャパンでは、99%を占めていたFAX注文が90%EC注文に移行、受注担当者4人を2人に削減。月40時間発生していた残業もゼロにできた。


 食肉卸のプレコフーズは、仕入れ先との発注業務や出荷予定の確認、検品、請求業務などをBtoB EC上で行うことで、全体で年間3000時間以上の業務削減効果を上げている。


 こうした事例からも、「アラジンEC」によるBtoB EC導入効果は大きい。アイルでは、今後も中堅中小企業向けにBtoB ECシステムの導入支援を、さらに強化していく考えである。

 

 

セッション3

先駆企業のビズネットに聞く! デジタルトランスフォーメーション
時代に向けたBtoBプラットフォーム導入事例と今後の取り組み

 

ビズネット 取締役サービスイノベーション本部本部長

森下 英治 氏
コマースニジュウイチ ECI事業部営業部部長

根津 浩二 氏

 

顧客ニーズに対応しECサービスを拡充

根津
 当社は、2016年にヤフーの子会社となり、ECシステム構築やパッケージ開発を手掛けている。業種・業態に応じた柔軟性・拡張性の高いECパッケージを開発している。今回はユーザー企業として先駆的な取り組みをしているビズネット様に導入成果を聞きたい。

 

森下
 当社は文具、事務用品メーカー、プラスの子会社。00年に大企業向けに文具などを販売するECサービスを始めた。
 当時、中小企業向けサービスはアスクルが展開していた。文具のECで受注、在庫管理、コールセンターなどの仕組みを充実させてきたので、その後、顧客ニーズに応じて、文具以外の企業の備品や帳票類などをタイムリーに提供する「ついで便預かりサービス」を開始。
 6年にはさらに顧客ニーズに対応し、様々な商品をECで扱うため、外部カタログと連携しビズネットで一元化するサービスを始めた。今年からは「マーケットカタログ」事業を始め、IT(情報技術)商材やECサイトのない企業の商品も扱うようになった。

 

根津

 「マーケットカタログ」事業では、当社のソリューションを採用している。ここまでBtoB ECを拡大してきた要因は何か。

 

森下

 よく言われることだが「小さく始める」ことだ。そして顧客の要望をよく聞き、使いたい機能を提供すること。1社の要望でもサービスを開発すると、他の企業でも同じ課題があって利用してもらえることもある。
 すべての取引を全面的にBtoB ECにするのは難しい。デジタルとアナログの連携も必要で、それぞれをバックアップできる体制を整え、小さく始めることで軌道に乗せた。「マーケットカタログ」では、コマース21のソリューション活用でシステム開発を不要とし、多くのサプライヤーに使ってもらえる仕組みを実現できた。

 

 

セッション4

BtoBで活用する自社アプリ

ヤプリ 執行役員CCO兼エバンジェリスト
金子 洋平 氏

ビジネス用アプリを簡単開発

 スマートフォン(スマホ)利用者の6割以上はビジネスでも使い、利用時間の85%はアプリ使用が占めているという。ゲームアプリよりビジネス用など非ゲームアプリのほうが多いくらいだ。


 当社はビジネス用アプリをプログラミング不要で開発できるクラウドサービス「ヤプリ」を提供。多くはBtoC向けアプリ開発に用いられ、新生銀行など金融産業のほか、学生向けアプリを青山学院大学などが採用している。


 アプリのメリットは、アイコンをタッチするだけの簡単なアクセス、見やすく操作しやすいデザイン、対話アプリ「LINE」やメッセンジャーのように目につきやすくリアルタイムで情報伝達ができることなど。こうした利便性の高さが企業のアプリ活用が増えている要因だろう。


 BtoB向けにアプリを開発する企業も増えている。ダスキンは従来4週に1回、フランチャイズチェーン(FC)オーナーを集めて説明会を開いていたが、アプリによる動画配信や資料送付に変えコスト削減を図った。


 染髪剤大手のホーユーは、業務用ヘアカラー製品の調合方法や製品パンフレットなどを美容院スタッフ向けに配信。NECはIT関連ニュースをステークホルダー向けに配信、関心を持った人をリスト化し、販促にデータを生かすなどマーケティング活動に活用している。かつては自社エンジニアが開発していたが、基本ソフト(OS)や機種対応によるアップデートの手間などから「ヤプリ」に切り替えた。


 「ヤプリ」はプログラミングが不要。約40ある機能を選び、モバイル最適化したアプリを容易に開発できる。直感的に操作できる管理画面でどこにいてもパソコンから更新できる。クラウドで最新OSなどへの対応も自動で実施。アプリのリリース後は、カスタマーサクセスというチームが運用を支援する。


 BtoCに利用する企業の場合、アプリ導入で会員数が2倍以上に増え、ECの売り上げが3倍以上に増えたケースもある。コスト削減や業績向上に優れたアプリの開発・投入効果は大きい。

 

 

クロージングセッション

アスクルが目指すBtoB EC
~カスタマーエクスペリエンスとテクノロジードリブン進化~

アスクル 執行役員 BtoBイノベーション本部本部長
宮澤 典友 氏

顧客の要望を起点にサービスが進化

 当社は1993年からプラスのアスクル事業部として本格的にスタート。当時は中小の顧客向けに「1本の鉛筆を明日必ず届ける」ことをキャッチフレーズとした。オリジナル商品の追加や対象顧客拡大、需要に対応した商品の拡充を続け、現在680万SKU(ストック・キーピング・ユニット=商品の最小管理単位)を取り扱っている。


 当日配送の導入や、大企業顧客の増加に対応した購買管理機能の追加など、サービスを拡充してきた。サプライヤー向けには需要予測サービスも提供している。


 中小企業向けサービスでスタートしたので売上高の8割以上はBtoBが占める。ほとんどがPCサイトからの注文だが、FAXによる発注も受け付けている。


 BtoB ECが拡大する中、「顧客にとって定番サービスになる」ために、商品の拡充だけでなく「仕事場で最も快適なECを提供する」ことを目指している。購買業務の生産性向上に貢献するため、仕事場で必要とする商品を15秒で注文できるECにしていく。


 商品数が増えれば、似た商品も増える。いちいち探して注文するのではなく、毎回注文する消耗品の定期配送サービスやあらゆるモノがインターネットにつながる「IoT」を活用、補充商品の残量が少なくなれば自動発注する仕組みなども導入している。商品名がわからない場合、画像で検索したり、型番のわ
からない商品でも画像から注文できるようにした。


 こうした進化の基本にあるのが顧客の声だ。カスタマーレビューのほか、全国520ブースのコールセンターに寄せられる年間100万件の意見を収集、自動分析するツールも活用している。人工知能(AI)を使ったチャットボットで回答する仕組みも実用化した。


 年1回、全社員を集めて「テクノロジーサミット」を開催。ベテランから若手まで顧客ニーズや業務改善に役立つアイデアを発表し実現を目指す。イノベーションを続けることで、「お客様のために進化するアスクル」という企業理念を実現していく。

 

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