パルコの執行役がオムニチャネルの最先端を紹介 GS1標準で実現するオムニチャネル

 流通業界で加速するオムニチャネル。リアルとバーチャルの送客が業界全体の課題となる中、18年3月15日に流通システム開発センターの主催によるセミナー「GS1標準によるオムニチャネル環境の業務革新2018」が明治記念館で開催された。

 セミナーでは、パルコの林直孝執行役が同社のオムニチャネル戦略の歩みと未来を紹介。続けて、流通システム開発センターの研究員がオムニチャネルにおけるGS1標準化と実証実験について解説し、国内のサービス事業者であるTDNインターナショルの渡辺吉明社長がQRコードを使ったGS1の利用事例を紹介した。

 

テクノロジーで接客を拡張したパルコのオムニチャネル戦略

 

 プログラムの最初は、株式会社パルコの執行役、林直孝氏が同社のオムニチャネル事例を紹介した。全国25拠点で店舗を展開するパルコは、BtoCの店舗売上げとBtoBのテナント売上げのハイブリッド構成を取るが、テナントスタッフの接客結果による顧客満足度が売上げに大きく影響する。そこでパルコは、テクノロジーで接客を拡張することに取り組んできた。

 まず、13年に接客の拡張として「Web接客」を定義し、接客は来店前から始まっていることを社内で共有した。第1ステップとして、Webサイトをスマートフォンに対応させてショップごとのブログを開設し、テナント主体の情報発信を可能とした。その結果、ブログ経由でユーザーからの問い合わせが増えていく。

 

 そこで第2ステップとしてブログで紹介した商品をWebで購入でき、さらには店舗での取り置き予約や試着・購入も可能なオムニチャネルプラットフォーム「カエルパルコ」を開設した。その結果、場所や時間といった店舗の制約を超えた接客が可能となった。広島のカエルパルコでは広島以外の都道府県からの注文が約9割に達したこともあったという。

 

 第3ステップでは、15年3月からスマートフォンアプリ「POCKET PARCO」の提供を開始した。すると店舗スタッフの行動にも変化が現れ、スタッフや個人がSNSで情報を積極的に発信するようになり、商品タグや告知アドレスを拡散して店舗に誘導する動きが自然発生的に増えていく。

 

 これらの成果を受け、次に実施したのがアプリのデータを活用した顧客行動分析とパーソナライズだ。来店前、来店中、来店後の3つのフェーズに対して顧客満足度を高めるための施策を実施した。

 

 「来店前」については、ブログ記事の「お気に入り」情報を人工知能(AI)で分析したところ、「いいね」が付いていると来店頻度が高まることがわかったという。「例えば、ブログで商品に興味を持った顧客の35%が1週間以内に店舗で購入していることなどが取得できる」と林氏はいう。さらに、利用者の位置情報に応じてお得な情報を配信する「ジオフェンス」を導入して、顧客が最寄りの店舗の近くを通った際にバーゲン情報を通知したり、降雨センサーを使って降雨情報をいち早く察知することで「雨の日特典」を通知したりするなどして来店率を高めている。

 

 「来店中」の施策としては、一定の期間内に合計1万円以上購買すると500円のクーポンを配布するキャンペーンで「購買金額が1万円に満たないお客様」を対象に、購買直後のタイミングでキャンペーンの告知をプッシュ通知で配信した。その結果、プッシュ通知を受け取った顧客の半数が、平均して約3回の購買を行ったという結果を得た。17年10月には東京・上野店で来店客の年齢と性別が判定できるセンサーを設置して、来店客の属性に合わせて販売計画を検討したり、来客の多い時間帯に合わせてテナントの販売員を増強したりしている。また、東京・調布と埼玉・浦和の2店舗ではスマートフォンの歩数計と連動して、店舗内を500歩歩いた顧客に対して「コイン」と呼ばれるポイントを付与し、店舗内の回遊率を高める取り組みも進めている。

 

 「来店後」の顧客にはショップの評価をしてもらうことでロイヤリティを高めている。「評価の高い顧客の場合、来店率が11%高まることがわかり、5段階評価のうち、最高評価の「5」を付けた顧客は、50%が4カ月以内にそのショップへ来店することがわかった」と林氏は語っている。

 

 次のステップでは、テクノロジーの進化に合わせて人の進化を促す施策に取り組んでいる。その1つがVR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)のショッピングの活用だ。17年3月にはVRでパルコ店内を回遊しながらショッピングが楽しめるWebサイト「VR PARCO(ブイアールパルコ)」の実証実験を実施した。VR PARCOでは、店内を撮影した360度のパノラマ画像で店内を見渡し、視点を変えながら商品を吟味して「カエルパルコ」で購入できるようにした。18年3月にはVRショッピングコンテンツを開発してアメリカのショーに出店して注目を集め、5月には東京・渋谷SR6で凱旋イベントを実施する。

 

 ロボットの活用も見据えており、一部の店舗に接客ロボットを導入して来店者の案内を代行する実験を実施した。また、日本ユニシスと08ワークスと共同で自走式案内ロボットを開発し、東京・池袋の店舗で来店客向けの店舗案内と従業員向けの在庫確認業務を行う実証実験も実施している。ロボットによって、店舗内の接客接点を増やして顧客満足度を高めると共に、人手不足に対応することが狙いだ。

 

 そのほかにも、Amazon Echo(アマゾン・エコー)のようなスマートスピーカーの活用や、さらには無人化店舗のAmazon Go(アマゾン・ゴー)の研究も進めている。林氏は「最新のテクノロジーを使って接客を拡張しながら『24時間パルコ』を目指していく」と将来展望を語って林氏は講演を終えた。

 

オムニチャネルを成功に導くためには、世界が採用するGS1標準への対応が必須

 

 続いて、「オムニチャネルにおけるGS1標準とGS1 SmartSearch実証実験の報告」と題して、流通システム開発センター ソリューション第2部の主任研究員の市原栄樹氏と、研究員の根岸大介氏が解説した。

 現在世界の流通業界では 商品コードにGS1標準の「GTIN(日本ではJANコード)」の利用が一般化し、Amazon、Google、eBayといったeコマース事業者や、ウォルマート、テスコといった小売業、P&G、ユニリーバ、ネスレといったメーカーと共に、国際的な情報システムの標準化を進めている。全世界で共通で利用できるGDSNと呼ばれるマスターサービスも約2,500万件の登録があるが、日本では利用されていない。

 

 世界的潮流となっているGS1標準に対して、対応が遅れている日本はどう対処するべきか。市原氏は「GS1に対応して国際的な対応を図るか、完全に自社コードで囲い込んで内向きの鎖国戦略を取るかどうかだ」と指摘する。しかし、20年に向けてオムニチャネル取引の拡大し、Amazon EchoやAmazon Goが登場してデジタル化が進む中、競争力を高めていくためにはGS1標準への対応は避けて通ることはできない。

 

 20年に向けたGS1戦略では、オムニチャネル化に向けたモバイル対応がキーになるという。GS1ではデータ入力手段として「GS1QRコード」と「GS1データマトリックス」を12年に標準化。さらにWebとの連動を実現する「GGS1 SmartSearch」の仕様とガイドラインを公開している。市原氏は「標準化がビジネスのカギになる。GS1ではモバイル対応のGS1QRや、商品識別のベースとなるGTINを知っていただき、ネットと合わせて対応して欲しい。そしてそのフィードバックを共有しながら、一緒にオムニチャネルにおける標準化の動向を追いかけていきましょう」と訴えた。

 

 

 続けて、根岸氏が流通システム開発センターの研究グループが実施した「GS1 SmartSearch」の実証実験について報告した。実証実験は、Webサイトの構造化データの有無に応じて、GoogleやBingといった検索エンジンの最適化にどれだけの影響を与えるかを検証したもので、国内の流通業者やメーカーによる検討会を構成して実施した。

 すると、GS1ジャパンが作成したテストサイトについては、GoogleとBingの両方で60%以上の割合で構造化データ有の商品ページで高い評価を受けるが、PV数への影響は少ないことがわかった。企業サイトについては、構造化データの有無による影響は見られず、PV数への影響も少なかったという。根岸氏は検証結果を総括して「テストサイトではSEO効果が確認でき、正しくGS1標準を利用することでユーザー企業にメリットが出ることはわかった。しかし、導入方法によっては効果が出ない場合もあり、使い方には注意が必要」という認識を示した。さらに今後に向けて、「構造化データが検索エンジン以外にも、価格比較サイト、ECサイト、スマホアプリなどに拡大していくことと、Web上に表示する項目としてGS1標準が広まることで業務の効率化につながることを期待している」と語って解説を終えた。

 

リコール対応やインバウンド対応を支援するGS1QRの活用事例

 

 続いて、GS1QRの利用事例としてTDNインターナショル株式会社 社長の渡辺吉明氏が、同社の開発したGS1QRコードを利用した製品ユーザー自動認識システム「Scodt(Safety Check On-Demand Technology)」を紹介した。

 Scodt(スコドット)は、GS1QRコードで作成した2次元バーコードを製品に貼り付けて、スマートフォンのカメラで読み取ることで、Webサイト上に登録した商品の情報を表示するシステムのことだ。製品提供者にとってはユーザーに対してさまざまなサービスが提供できるだけでなく、製品に伴うリスクの解消に役立てることができる。

 

 例えば、製品リコールの場合、マスコミや店頭表示を通じて呼びかけなければならないが、どれだけ媒体で呼びかけても限界がある。GS1QRコードを製品に貼り付けて、製品情報に誘導してリコール製品であることが確認できるようにしておけば、メーカーの負担が軽減される可能性が高い。

 

 また、インバウンドで海外の観光客が日本製品を購入するケースが増えているが、各言語に対応した説明書を印刷して用意するのは簡単ではない。Scodtなら、Web上に多言語対応の商品案内や取扱説明書をアップしておくだけで済む。観光客は店頭でスマートフォンをかざしてGS1QRコードを読み取るだけで商品情報がわかるため、店頭で言語がわかるスタッフを配置する必要もなく、商品に対する理解も深まるため購入にも結びきつきやすい。

 

 商品のトレーサビリティにもつながり、スマートフォン情報と連動させることで、商品提供者は商品利用者をトラッキングしやすくなる。流通に紛れ込む類似品や粗悪品などもScodtで管理されているものならすべてGS1QRで確認が可能でリスク管理につながる。

 

 渡辺氏は「メーカーや流通事業者にとってはさまざまな使い方が考えられ、かつ簡単に導入できる。GS1の標準を理解してぜひ使って欲しい」と呼びかけて講演を締めくくった。

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