世田谷自然食品の担当者が日本の通販事業者が抱える課題を赤裸々に告白  オムニチャネルにはGS1標準の実現が待ったなし

 インターネット人口が飛躍的に増加したことによって拡大を続けるeコマース業界。それに対して日本のeコマース事業者は、コードやシステムの標準化が遅れ、世界の小売事業者に置いて行かれかねない事態を招いている。
 19年3月11日に流通システム開発センターの主催で開催されたセミナー「GS1標準によるオムニチャネル環境の業務革新2019」では、通販事業者の株式会社世田谷自然食品の広報渉外担当部長が同社の情報戦略と現状の課題を紹介。続けて流通システム開発センターの研究員が、世界におけるGS1標準の活用の現状を報告した。

 

 

グルコサミンの世田谷自然食品が進める広告・マーケティング戦略とは

 最初のセッションは、株式会社世田谷自然食品の広報渉外担当部長 池田昌弘氏が「世田谷自然食品の取り組みと標準化への期待」と題して講演した。世田谷自然食品は、グルコサミンや青汁などの健康食品、フリーズドライのみそ汁などの自然派食品、美容液やシャンプーなどの自然派化粧品の販売を手がける通販事業者だ。近年はタレントを使ったテレビCMも積極的に展開し、知名度を高めている。

 

 01年の創業以来、18年以上にわたり「単品リピート通販型」のビジネスモデルで成長を続けてきた。単品リピート通販とは、顧客に一定の商品を繰り返し注文してもらうスタイルのこと。健康食品や化粧品などの消耗品は、一度気に入ったら同じ商品を繰り返し購入する割合が高い。そのため広告も商品の購入やサービスの申し込みに直結するレスポンス型が主体となる。「大抵は連続購入を見込んだ広告を打つ。媒体は、新聞やチラシなどの紙、テレビなどの電波、インターネットに3つです。中でも紙媒体が圧倒的に多く、新聞の折り込みチラシを月に2~3回、延べ1億世帯に配ります。購入者にはダイレクトメール(DM)を郵送で送り、届ける商品の中にもチラシを同梱してリピート購入につなげている」と池田氏は語る。

 リピート購入につなげる施策はそれだけでない。同社で最初のヒット商品となったグルコサミンは、サービス価格による初回注文を「1家族3個まで購入可」とすることで割安感を打ち出した。また、「あきらめない姿勢」を持ち続けることで地道な広告施策を打ち続けている。池田氏は「あきらめないために、ひたすらA/Bテストを繰り返す。テストは、同梱物やDMの内容、セールストークの会話まで含めて多岐にわたる」と説明する。特にこだわるのがDMの内容だ。かつて在籍していた伝説の販売員は、手書きのDMで親しみやすさを打ち出し、顧客との距離を近づけた。DMは「地方に住む70歳のおばあちゃんがわかるもの」を常に念頭に置いて制作している。

 

 一方、社内では徹底的に「数字」にこだわる。注意するのはDM配布数やリピート数などの実数でなく、相対的な数値、例えば1人あたりの顧客獲得単価(CPO)や採算性などの数字だ。「小さな数字を追うことで、結果的に大きな壁が超えられる」と池田氏は強調する。反対に未来については、かけ算で考え、中長期的な視点で効果を積算している。目先の1%の成長より、20年先を見据えて数%の成長を得るという考え方だ。データ分析についても、特定の分析担当者は置かず、全社員60名が顧客分析システムにアクセスし、いつでも見られるようにしている。「まずはPCのスイッチを入れて、自分でキーボードを叩いてみることが大事」と池田氏はいう。

 

 

通販事業者が生き残るためには商品コードとシステムの標準化が必須

 続けて池田氏は、通販業界全体の課題について言及した。近年、広告規制は年々厳しくなる傾向にあり、適正な表現が従来以上に求められている。さらに大きいのが、物流業界の人手不足による配送費の値上げだ。これらの課題が顕在化するにつれて通販業界全体はコストを抑制する方向にあり、顧客管理や顧客分析(CRM)に今までで以上に注力するようになってきた。池田氏は「本来重視すべきは小手先のテクニックではなく、商品情報のはず。ところが通販業界は各社がいまだに独自の商品コードを使い、システムも標準化が進んでいない。JANコードですべてを管理するように改めなければ、先を行くSPA(製造小売)企業には追いつくことができず、蛸壺状態から抜け出せない」と危機感を口にする。

 

 課題解決には、商品力を強化することにあるが、広告費に依存する通販事業者はどうしても原価率に目が行き、顧客分析に頼ってしまう。組織的にも通販事業者は商品担当者やバイヤーが力を持つ他の小売事業者とも異なる。池田氏は「こうした現状を改めるために通販業界は、コードとシステムを標準化していく必要がある」と訴えて講演を終えた。

 

 

世界が採用するGS1標準に対応しなければ日本の小売業は取り残される

 次のセッションでは「オムニチャネルにおけるGS1標準とGS1 Forumの報告」と題して、流通システム開発センター ソリューション第2部の主任研究員の市原栄樹氏が解説した。

 日本は流通BMSなどでEDIの標準化が進んでおり、すでに標準化の領域は少ないと思われがちだが、コードの標準化は進んでいない。世界に目を向ければ商品コードは、GS1標準の「GTIN(日本ではJANコード)」の利用が一般化し、小売だけでなくeコマース事業者にも利用されている。市原氏は「日本は早急にネットも含めてコードを標準化しなければ世界から取り残される」と訴える。実際、Amazon、Google、eBay、Alibabaといったeコマース事業者はGS1のボードメンバーに名を連ねて標準化活動に参加している。GS1の標準化フレームワークを提供する国際基準化組織「GS1」は77年に設立され、07年よりB2C向けの標準化活動を開始した。加盟組織は現在111、150カ国にわたり、全世界で2,000名余りのスタッフがサポートする。中でもアジアでは中国やインドが存在感を発揮しつつあるという。

 GS1が扱う標準化は、商品コードが単品レベル(GTIN13)、集合包装レベル(GTIN14)、出荷単位レベル(SSCC)の3種類がある。商品情報データベースを標準化し、業界別にサービスを運用している。企業間メッセージも発注、物流、決済で標準メッセージを採用し、商品分類も国内、国外と分けている。GS1の示すデータ管理の概念は、識別、データ取得、共有の3つでまとめられており、人、モノ、物流、資産の認識がすべてコードでできる。独自のコード化が進んでいる日本の通販事業者に対して市原氏は「外に目を向け、グローバル標準に合わせて欲しい」と強調する。

 

 20年に向けたGS1戦略では、オムニチャネル化に向けたデジタル化がキーになり、各種のプロジェクトが進められている。モバイルへの対応については、データ入力手段として「GS1QRコード」が標準化され、Webとの連動を実現する「GGS1 Smart Search」の導入ガイドラインを公開している。GS1QRコードで作成した2次元バーコードを製品に貼り付けておけば、スマートフォンのカメラで読み取ることでWebサイト上に登録した商品の情報を表示することも可能になる。Web通販で必須となる商品画像についても、Web検索を最適化するGGS1 Smart Searchが効果的だ。市原氏はこれらを紹介したうえで「足下をきちんと見て、デジタル化を推進して欲しい」と訴えた。

 

 

GS1コードの世界の潮流を知ることが大事

 続けて市原氏は、19年2月18日から22日まで、GS1本部があるベルギー・ブリュッセルで開催された「GS1 Global Forum」について報告した。GS1 Global Forumは、GS1の加盟組織が一堂に会して標準化の動向や事例を共有するイベントだ。19年は99組織から907人が参加した。その中で象徴的に繰り返し打ち出されたメッセージは、悪意があるブローカーの介在を排除するため「GCP、GLN、GTINの標準コードを遵守して欲しい」というものだったという。

 

 GS1 Global Forumで議論された重要なトピックスの1つめは、商品コードをはじめとするコードのユニーク性を確保する「GS1 Cloud」に注目して欲しいというものだ。GS1 Cloudは信頼できる商品情報を横串で蓄積、一元管理して小売業者やeコマース事業者に提供するサービスだ。これによって小売事業者は同じ土俵に乗ることが可能になる。2つめはモバイル関係のアウトプットだ。スマートフォンで表示する商品画像の標準化や、ネットコンテンツと商品コードを1対1または1対多で紐付ける「デジタルリンク」を紹介した。3つめはEU地域の標準郵便用ラベルとGS1標準の小包番号の標準化を取り上げた。その他にもトレーサビリティのガイドラインの策定、ブロックチェーンも議論の遡上に乗ったという。

 

 最後に市原氏は議論のまとめとして、ネットの世界でも利用可能な標準商品コードの活用とユニーク性の担保、Web空間と共通商品コードの結びつき、2次元コードの利用拡大について注意を喚起。「標準化を突き詰めないと日本の小売業が海外に伍することは難しい。そのためにも業務担当者は自らGS1について学びを深めて自分の業務とどう関係しているかを考え、最新情報を追い続けて欲しい」と呼びかけた。

 

関連記事