日経MJフォーラム ECソリューションピッチ2022 ~課題攻略と競争力強化の突破口 ~ デジタルで競争力高める

 コロナ禍を契機に様々な分野でデジタルシフトが進み 、消費財販売では電子商取引(EC)が主戦場になりつつある。自社の強みを生かしながら競争力を高めるにはどうすればいいか。先ごろ開催したMJフォーラム「ECソリューションピッチ2022」( 主催:日本経済新聞社)では、多くのEC事業者が悩むポイントを踏まえて先進のソリューションや取り組み事例を紹介。EC市場を勝ち抜いていくためのヒントを提供した。

 

 

再購買促し生涯顧客化

<オープニングセッション>
ユナイテッドアローズ 執行役員
CDO(チーフ デジタル オフィサー)
マーケティング本部 本部長
藤原 義昭氏

 ECは単なる売り場ではなく、顧客とのコミュニケーション基盤だ。当社はECと店舗のIDを統合してポイントも共通化。すべてのチャネルで行動・購買データを蓄積している。店舗とECを併用している「オムニ会員」ほど、顧客生涯価値(LTV)は高い。
 当社はお客様の生涯顧客化を目指して、LTVの向上を重要目標達成指標(KGI)としている。LTVを高めるキードライバーとして年1回以上購入している稼働会員数を重要業績評価指標(KPI)に設定。維持率や新規会員数のほか、2回目の購入に至ったF2転換率に注目している。F2転換した顧客のデータを分析し、リピートにつながりやすい購買行動を割り出して施策に生かす。

 顧客満足度を高めて何度も購入していただくには、お客様の声を聞くことも大切だ。そこで、店舗での顧客体験(CX)に関するアンケートを実施。接客満足度が良好だと90日以内の再購買率が過半数に達する、接客では商品知識やコーディネート提案力が再購買率を高めるなど、様々な知見が得られている

 

 

「したいこと」軸に変革

<ソリューションピッチ1>
いつも
執行役員
DX 戦略グループ
立川 哲夫氏

 自社公式ECは、10年後を見据えた見直しの時期にある。「何を売るか」というところから、サステナビリティー(持続可能性)をキーワードにしたファンの獲得やデータの統合、ライブコマースの活用など、「何をしたいか」を軸に変革を図ることが求められている。
 短期的な売り上げやシェアを伸ばすにはモールが有効だ。楽天市場ではシェア獲得戦略が重要になる。検索上位表示は必須。丁寧な商品説明で売る、世界観を前面に出したブランディングでファンをつくる、購入率に直結するレビューを増やすキャンペーンを打つなど様々な施策がある。

 アマゾンではメーカーなどが直接販売する「セラー」の活用が盛んだ。食品・日用品がよく売れるようになり、定期購入も増加。自然流入時にブランドストアを表示する、広告流入でストアページを回遊させるなどの工夫が求められる。

 自社公式ECとモールを支えるバックヤードの整備も不可欠だ。効率的に収益を確保できる仕組みを整えたい。当社は独自のノウハウで総合的にECを支援する。

 

 

コンテンツ拡充容易に

<ソリューションピッチ2>
visumo
取締役
井上 純氏

 複雑・多様化するカスタマージャーニーの中で、ブランドサイトやECサイトは重要なタッチポイントだ。機会損失を防ぎ、成約率(CVR)を高めるには、コンテンツの充実によるデジタル接客力の強化が求められる。
 こうした施策を手軽に可能にするのが、当社が提供するビジュアルマーケティングプラットフォーム「visumo」だ。写真投稿アプリや動画配信サイトなどに投稿されたUGC(ユーザー作成コンテンツ)を自社ECサイトやオウンドメディアなどに取り込んで活用できるようにする。
 例えば商品詳細ページに顧客が商品を使用している写真を加えることで、レビューをビジュアライズしたようなコンテンツが実現可能。衣類や家具のコーディネート提案も増えている。動画による商品解説なども多い。

 スタッフによる写真などの投稿も容易だ。「映える」コンテンツが入ることで顧客の視線が集まり、訴求力を高められる。

 visumoは500社を超える企業が採用。サイトの滞在時間を延ばし、売り上げの向上に貢献している。

 

 

アプリを手軽に運用

<ソリューションピッチ3>
ヤプリ
マーケティング本部
神田 静麻氏

 スマートフォンのアプリを活用して売り上げを伸ばすポイントは3つある。1つ目は、アプリ体験を左右するUI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザーエクスペリエンス)のデザインだ。ユーザー層を意識して見やすさや使いやすさを改善することで、アクティブユーザー数やアプリ経由でのEC売り上げが伸びた例は多い。
 2つ目は、高速でPDCAを回すことだ。施策の効果を見ながら、顧客の反応を踏まえてアプリを改修していく。3つ目は、パーソナライズ化だ。顧客の属性や購買履歴などに応じて適切な情報をタイミングよく出し分ける必要がある。
 こうしたアプリの開発・運用を可能にするのが当社のノーコードアプリプラットフォーム「Yappli(ヤプリ)」だ。短期間で導入、アプリストアへの公開ができ、ブログを更新する感覚で運用できる。「YappliCRM」と組み合わせれば、会員ランクに応じた特典付与など、より顧客に寄り添ったアプローチも可能だ。専門のサポートチームによる伴走型支援も利用できる

 

 

サイトの改善を支援

<ソリューションピッチ4>
フューチャーショップ
取締役
セールス・マーケティング部
統括マネージャー
安原 貴之氏

 EC事業ではサイト更新を含む日々の運営が極めて重要だ。例えばコロナ禍を受けて新規の訪問者は増えたもののCVRは低下。その原因として初心者の訪問が増えたのではと仮説を立て、送料や返品の説明を必ず目に入るカートボタンの下に変更してCVRの改善に成功した例がある。このように仮説と検証を繰り返すことがEC事業成長の鍵だ。
 当社がクラウドで提供するSaaS(サース)型サイト構築プラットフォームでは、こうしたサイトの更新・改修が容易にできる。リポート機能も備えており、EC運営の課題を可視化することが可能。業界平均と比べたF2転換率なども割り出すことができ、目標の設定にも役立つ。具体的な改善施策について学ぶラニングプログラムも用意している。

 あらゆる顧客接点でのコミュニケーション設計や、実店舗とECの顧客統合ソリューションなども提供。店舗スタッフと顧客が直接交流できるサービスとの連携も始めた。ECで注文し、店舗で受け取るBOPISにも対応している。

 

 

ウェブ接客を強化

<ソリューションピッチ5>
プレイド
Communication Director
川久保 岳彦氏

 ECサイト訪問者の多くが何も購入せずに離脱しているとされる。ECでの売り上げを最大化するには、集客に加えて適切なウェブ接客が必要だ。それによりCVRが向上したとの調査もある。
 顧客接点が拡大・多様化する中、顧客一人ひとりに合わせた接客を実現するには、店舗やECにある購買履歴などのデータを顧客IDごとに統合する必要がある。そして最適なチャネル、タイミング、手段でコミュニケーションを図り、「場」をまたいでも最適なCXを提供できるようにすることがポイントだ。
 当社が提供するCXプラットフォーム「KARTE(カルテ)」は、データを顧客軸で可視化し、様々な接点で活用することが可能。サイトやアプリの訪問者の行動をリアルタイムに解析でき、顧客の行動に応じたアクションでCXの向上や売り上げの改善につなげられる。

 主要な広告媒体へもデータ連携し、サイト内外で一貫した体験を実現。カスタマーサポートやローコードでのECサイト更新・改善サービスなども提供している。

 

 

「つまずき」なくす

<ソリューションピッチ6>
Sprocket
代表取締役
深田 浩嗣氏

 EC支援ツールを導入しても、効果が出るまで時間がかかる。途中で利用をやめてしまう例も少なくない。そこで当社は、自ら効果検証のABテストを5万回以上実施。組織的に仮説・検証を繰り返し、複数のサイトで成功した150以上のシナリオを蓄積している。

 ABテストで得られた知見の一つは、顧客は思いがけないところで離脱しているということだ。コンテンツを用意しても、それに到達できないことがある。こうしたつまずきをなくすことが重要だ。顧客の先回りをして解決策を提示するアプローチが求められる。

 そこで大切になるのはタイミングだ。顧客が困っていそうな場面で適切な提案ができるようにしなければならない。

 当社が提供するCRO(コンバージョン率最適化)プラットフォームは、顧客一人ひとりの行動から最適なタイミングでポップアップやチャットなどを使った「声かけ(ウェブ接客)」を実現する。顧客データと連携したパーソナライゼーションも可能。専任のコンサルタントによる運用代行も提供している。

 

 

アプリを核にCX戦略を加速

<クロージングセッション>
オルビス CRM統括部 部長
松枝 奏輔氏

 すべてのものがデジタルでつながるOMO時代には、店舗やECのどこで購入するかに関係なく、一連のブランド体験を提供することが求められる。そこで当社はアプリを活用。ORBISアプリは460万ダウンロードを突破し、月間アクティブユーザー数は60万人を超える。
 アプリにはEC機能・店舗ポイント機能に加えて、スマホのカメラで自分の顔を撮影するだけで人工知能(AI)が解析して似合うカラーを診断できる「パーソナルAIメイクアドバイザー」などの診断系コンテンツを拡充。商品以外の体験価値でもお客様との関係を深めている。手軽に読める美容に関する記事コンテンツも多数配信しており、記事を読む人ほど購入率などが高いことが分かっている。ライブコマースやライブチャット、オンラインカウンセリングなどデジタル上に人が介在するサービスも重視している。デジタルトランスフォーメーション(DX)の意義は顧客体験価値の創出にこそある。自走できる体制づくりなどを含め、今後もアプリを核としたCX戦略を進化させていく。