マーケティングの向上もたらす物流DX 求められるEC需要拡大への対応

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け電子商取引(EC)需要が急速に拡大するなど、BtoCサプライチェーンを取り巻く環境が大きく変化している。その中でロジスティクスにどのような新しい課題が生まれているのか、どう対応していけばいいのか、物流分野に幅広い見識を持つ小野塚征志氏に聞いた。

 


ローランド・ベルガー パートナー
小野塚 征志氏(おのづか・まさし)
 慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士総合研究所、みずほ情報総研を経て現職。ロジスティクス/サプライチェーン分野を中心に、長期ビジョン、経営計画、成長戦略、新規事業開発、M&A戦略、構造改革、リスクマネジメントをはじめとする多様なコンサルティングサービスを展開。近著に『サプライウェブ』(日経BP)、『ロジスティクス4.0』(日本経済新聞出版社)、など。

 

 

BtoCサプライチェーンの課題

 BtoCのサプライチェーンが抱えるロジスティクスの課題として真っ先に上がるのは、輸配送人員の慢性的な不足です。特に長距離トラックのドライバーは大型免許保有者という制限上、絶対数が少ないうえ、輸送工程が2、3日に及ぶワークスタイルを好まない人が増えていることも人手不足の要因となっています。また、ラストワンマイルのドライバー確保も、EC需要の拡大に追いついていない状況です。さらには、働き方改革関連法によりドライバーの時間外労働の上限が規制されることで生じる「2024年問題」も懸念され、配送全体の効率化や自動運転車の導入など、スピーディーな職場環境改善が求められるでしょう。

 

 2つ目の課題は、消費財などの物流費が原則発荷主払いであるがゆえの効率の悪さです。前日発注・翌日配送、定時到着、小ロット配送、誤配の最小化など、物流品質を高い水準に保つために過剰対応にならざるを得ませんでしたが、海外の事例などを参考に、商習慣を見直す必要があると考えています。

 

 3つ目は、在庫が見えないことによる非効率です。過剰在庫やそれに伴う廃棄ロス、欠品による機会損失などが生じています。特に食品など、サプライチェーンの川上と川下間で情報共有が十分になされていないと、例えばメーカーの工場近くにある小売店でも、距離の離れた卸センターを通して配送されるという非効率はなかなか改善されません。最近は小売りや消費者への直送を図るD2C(消費者直接取引)の動きも活発になってきています。

 

 

EC参入の注意ポイント

 ECの国内市場はこの10年で大きく成長しました。経済産業省の調べによると、物販・BtoCのみの市場規模で2013年の6兆円から2020年には12・2兆円にまで拡大しています。商品別でも「家電・AV機器」「衣類・雑貨」「食品・飲料」「雑貨・家具」等が2兆円超で、コロナ禍以降はその成長がさらに加速しています。特に「食品・飲料」は他の商品に比べてEC化率が3・3%と極めて低いため、それだけ大きなポテンシャルを秘めているとみられ、今後一気に拡大するものと予想されます(左ページグラフ参照)。

 

 では、これからメーカーや小売りがECに参入する際、どのような点に注意すればいいでしょうか。

 メーカーは、BtoCをダイレクトにつなぐことで価格を下げることができますが、ただ安くするのではなく小売りと比した妥当なプライシングが重要です。さらに差別化のためにオリジナル商品投入などを併せて考える必要があるでしょう。オペレーションサイドの問題としては、小口や個人出荷への対応、例えば出荷や決済、あるいはコンタクトセンター、返品処理などの機能の整備も必要になると思います。メーカーにとってECは顧客との貴重な接点でもあるので、その機会をより価値あるものにしたいものです。

 

 小売りは、送料を抑えるためのスキームとして、店舗からの出荷と在庫型物流センター(DC)からの直送との組み合わせや、店舗、DC、顧客間の位置関係に合わせた出荷場所の最適化、店舗在庫のリアルタイムでの把握、DCと店舗での配送車両の共用などによって効率化を図ることが大事です。最近はメガDCをつくり、自動化を推進することでECの物流コストを大幅削減する例も増えています。

 

 

急がれる物流DXの推進

 冷凍食品人気の高まりやワクチン輸送などで重要性が高まっているのが低温物流です。冷凍倉庫や冷凍車両等の確保は常温の設備より費用がかかるため、一気に拡大とはいかないものの、今後徐々に増えていくものと思われます。特に医薬品の適正流通(GDP)についてはラストワンマイルに力が注がれており、物流管理全般を代行するビジネスモデルも生まれています。冷凍製品は店舗やユーザーへのスピーディーな搬入が求められるので、専門ドライバーの教育を徹底することも大事です。

 

 昨年6月に閣議決定した総合物流施策大綱で、今後の物流が目指すべき方向性の一つに、物流デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が挙げられました。BtoCのサプライチェーンの様々な課題に対しては、倉庫のロボット化や自動運転トラックの普及による人手不足の解消、物流管理の最適化、さらには食品ロスの解消によるサーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現、配送のシェアリングや効率化による脱炭素の進展などが挙げられます。さらに、川上から川下までデジタルでつながることによるマーケティングの向上も大きなポイントです。例えば、店舗のオペレーションをロボットに任せた場合、誰が何を買ったか、あるいは手に取ったけれど結局買わなかったといった情報がリアルタイムにわかるようになり、その情報により在庫管理やプロモーションの仕方などを随時変えていくことができるようになるわけです。そうなるとデマンドチェーン型のプラットフォームも増え、より一層マーケティングの向上が図れるようになるはずです。

 

 インターネットは元年とされる1995年から10年かけて成熟しました。ロジスティクスの核がサプライチェーンからサプライウェブ(網)に変わりつつある今はまさにサプライウェブ元年。これから10年かけて、どのように成熟していくか、未来に向けて投資の期間になると考えています。

 

 

<企画協力>

オートストアシステム   https://ja.autostoresystem.com/

ニチレイロジグループ本社 https://www.nichirei-logi.co.jp/

全国通運連盟       http://www.t-renmei.or.jp/

丸和運輸機関       https://www.momotaro.co.jp/

イーソーコ        http://e-sohko.jp/

                        (順不同)