日経MJフォーラム 「DX時代の次世代コンタクトセンター戦略 ~CX向上を実現させる業務改革とデジタルシフト~」

顧客接点として進化
 重要な顧客接点であるコンタクトセンターは、顧客体験(CX)向上の鍵を握る。人工知能(AI)の活用などにより、顧客からの問い合わせに迅速・柔軟に対応できる仕組みづくりが加速。業務効率化や在宅化なども進みつつある。先ごろ開催した日経MJフォーラムでは、こうした先進的な事例やソリューションを紹介。進化する次世代コンタクトセンターの姿を展望した。

 


<基調講演>

デロイト トーマツ コンサルティング カスタマー&マーケティング 執行役員
住川 誠史氏

一人ひとりに 最適な対応を
 当社は2013年から隔年で「グローバルコンタクトセンターサーベイ」を実施している。21年の調査では、日本企業・海外企業ともにCX向上を最重要戦略に挙げた。CX向上のための重要業績指標(KPI)については、日本企業は「応答率」、海外企業は「顧客ロイヤルティー指標(NPS)」を重視する傾向が強い。

 

 業務面では、メールやチャットなどノンボイスチャネルの構成比が拡大。チャネルごとに利用を促すべきターゲット顧客や用件を定義し、最適な問い合わせ導線を設計することが大切だ。

 

 人材面では在宅化が進んでいる。海外では拠点集約や完全在宅化を目指す企業が一定割合存在し、クラウドソーシングの利用意向も高い。優秀な人材を確保するために、日本企業でも完全在宅化の仕組みづくりが求められるだろう。

 

 IT(情報技術)面では、日本企業の約7割が今後2年以内にクラウド型のコンタクトセンターシステムを利用する見込みだ。基盤システムもクラウド化が進んでいる。

 

 コンタクトセンターは全社CX戦略の要だ。ターゲット顧客や改善の方向性はトップダウンで、施策の立案・実行はボトムアップでCX高度化を推進。データに基づいて取り組みを改善する。一人ひとりの顧客に合わせたパーソナライズドサービス、顧客の不満や潜在ニーズに対する即時フォローアップ、顧客対応に集中できる環境の整備などが焦点だ。クラウド基盤を活用し、変化に即応しながら継続的にオペレーションを進化させてほしい。

 


<セッション1>

ジェネシスクラウドサービス マーケティング本部長
斉藤 哲也氏

フローの改善 AI活用が鍵
 コロナ禍によりコンタクトセンターは転換期を迎えた。在宅化やデジタルシフトが加速し、非対面のコミュニケーションチャネルとして存在感が増している。

 コンタクトセンター管理者は、先行き不透明な中での運営を余儀なくされている。限られた人員でサービスレベルと顧客満足を高めるには、自動化を徹底し、人間でなければできない業務にオペレーターを集中させることが鍵になる。

 

 そのためには、AIによる顧客対応フローの改善が有効だ。当社のクラウド型プラットフォームでは、ウェブサイトを訪問する顧客の動きを分析し、顧客の意図を踏まえた対応を自動的に提案。得意・不得意のあるボットも企業ごとに最適な組み合わせで利用できる。ボットで解決できない場合は有人チャットに引き継ぐといったフロー設計も可能だ。

 

 最適なオペレーターを自動的に割り当てる仕組みもある。年齢や話し方などスキルで測れない要素も加味し、問題解決率が高まる顧客とのマッチングを支援する。会話の内容をテキスト化して推奨回答を提示することも可能。テキスト分析によりサービス品質を管理する仕組みも年内に提供予定だ。

 

 一連の顧客対応フローが改善されることで、オペレーターの生産性は向上し、競争力のある顧客サービスが可能になる。セキュリティーを理由に在宅化に踏み切れない、人員配置などを特定の担当者の勘に頼っている、チャットなどのチャネル対応が進んでいないといった課題があれば、気軽に相談してほしい。

 


<セッション2>

Nota マーケティング部 マーケティングマネージャー
落合 純平氏

検索精度高め 自己解決促す
 コロナ禍を背景に、顧客接点はオンラインへの移行が加速している。それに伴い、コンタクトセンターにはオンラインにまつわる問い合わせが急増。人手に頼ったサポートは限界に達しつつある。コンタクトセンターに電話がつながらない、複数の担当者をたらい回しにされるといった状況を放置すれば、顧客離れを招きかねない。

 

 こうした課題を解決するには、テクノロジーを活用した効率的なコンタクトセンター運用が不可欠だ。チャットボットやFAQシステムを導入し、顧客が自ら問題を解決できるようにする。

 

 しかし、従来型のFAQでは問題を解決できず、電話などでの問い合わせが減らないケースがよく見られる。キーワード検索の精度が低く、目当てのページにたどり着けないことが主な要因だ。

 

 多くのFAQシステムは全文検索を採用している。「故障」と検索すると該当ページが出てきても、「動かない」といった曖昧な言葉ではヒットしないこともある。わずかなタイプミスがあるだけで必要な情報を引き出せないことも珍しくない。

 

 これに対し、当社の疑問解決エンジン「Helpfeel」は、独自技術の「意図予測検索」を採用。検索キーワードから質問を予測してFAQページを提示するアプローチで、検索ヒット率98%を実現した。ほぼどんな言葉でも適切な回答ページを案内することができ、顧客の自己解決率を高められる。ツールだけでなく伴走支援も提供し、効率的なコンタクトセンター運用を実現する。

 


<セッション3>

RightTouch Business Development
太田 幸希氏

つまずき検知、解決へ導く
 カスタマーサポートに寄せられる顧客の声は、全体のわずか数%に過ぎないといわれる。それは、疑問を解消しないまま離脱していく「サイレントカスタマー」が少なくないことを意味している。問い合わせにより疑問が解消できたとしても、必要な情報を得るまでの手間や負担感を軽減しなければ、顧客満足の向上は難しい。

 問い合わせプロセスをどのように改善するか。顧客が何に困り、どんな情報を求めているのか、問い合わせ前に把握できれば最適なチャネルに誘導できる。サイレントカスタマーを救済し、機会損失を減らせるはずだ。

 

 そこで当社は、問い合わせ前の顧客の困りごと(IoC)を蓄積。顧客の悩みに沿ったアプローチで自己解決を促す「KARTE RightSupport(カルテ ライトサポート)」ベータ版の提供を始める。

 

 具体的には、サイトを訪れている顧客の動きを解析し、つまずきや迷い、エラー情報などを捕捉。問い合わせにつながりやすい「負」を検知する。こうして蓄積したIoCを可視化。問い合わせ前の顧客の行動が明らかとなり、プロセス改善につなげられる。課題に合った情報・チャネルに誘導することで、自己解決を促すことが可能だ。施策効果を定量・定性の両面から計測し、施策改善や課題発見につなげる機能も備える。

 

 実証実験に協力いただいた企業では、問い合わせ件数の削減に成功。適時適切な方法で情報を案内し、自己解決率の向上とCXの改善につなげた。

 


<セッション4>

ナイスジャパン ソリューション・コンサルタント
ミューニャ・エドウィン氏

スマートなもてなし可能に
 欲しい情報がある、購入を検討している、契約を確認したいといったニーズイベントが発生したとき、顧客の約2割は自動音声応答システム(IVR)などを通じてオペレーターのサポートを受けている。残りの約8割はデジタルチャネルでの自己解決を望んでいるが、十分にサポートできているとは言いにくい。

 

 企業には、ニーズイベントの発生から解決までのカスタマージャーニーについて、顧客が望む解決方法と経路を提供することが求められる。それを可能にするのが、当社のクラウドCXプラットフォーム「CXone」だ。

 

 高度なAIを備えたソリューション「Enlighten XO」により、顧客の振る舞いからインサイト(隠れた心理)を洞察。ナレッジとして蓄積・活用し、CX改善につなげる。カスタマージャーニーの開始時点から顧客をスマートにもてなすことができ、セルフサービスによる解決を促すことも可能だ。

 

 CXoneは30以上のデジタルチャネルを利用できる。ウェブサイトを訪問した顧客がチャットボットや電話などでのサポートへ移行する際も、それまでの経緯を引き継いでシームレスに対応可能。顧客の意図を推測するのではなく、データに基づいた経験的解釈により、先回りして問題の解決を図ることもできる。

 

 オペレーターに適切な情報を提供することで、顧客対応の負担軽減や生産性向上も実現。従業員体験(EX)を高める。AIで定量的に顧客対応を評価できるのも特徴だ。

 


<セッション5>

NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション
マーケティング・アナリティクス部 NPSコンサルタント
山内 政利氏

顧客心理の可視化・分析が鍵
 CXの改善は経営改善と同様に、入り口(設計)を間違えると出口(効果)のインパクトは小さくなる。入り口を間違えないためには、NPSを基準に最重要成功要因(KFS)につながるCXを可視化することが重要だ。

 NPSは顧客のロイヤルティーを定量的に可視化でき、数値の背後にある理由までコメントなどで明らかにできる。顧客と対面で接する機会が減るデジタル時代だからこそ、顧客の声を戦術的に活用できる仕組みは競争力の源泉となる。

 

 次世代のコンタクトセンターに期待される役割は、顧客対応による問題解決にとどまらない。感動体験の提供によるファンづくりが鍵だ。重視すべきKPIはNPSなどのパフォーマンス指標で、顧客心理の可視化・分析やオペレーター業務をサポートするAI・自動化の活用も進む。

 

 当社はNPSを高める支援ツールとして「NPX Pro」を提供している。NPS調査のためのアンケート作成から配信、回答収集、分析まで効率的な運用が可能。カスタマージャーニーを可視化し、組織を横断した総合的なCXの向上を支援する。フォローアップが必要な回答者を特定し、担当者に通知することもできる。テキスト分析機能を使い、顧客の本音や潜在ニーズの把握に努めている。

 

 システムは適切に運用してこそ効果を発揮する。CXを向上させる自社独自の仕組みをつくり、好循環を生むことが成功の鍵だ。スモールスタートで成果を実感しながら取り組みを広げてほしい。

 


<特別講演>

損害保険ジャパン カスタマーコミュニケーション企画部 企画グループ 課長代理
福田 晋太郎氏

デジタルとヒトの融合が鍵
 当社は2015年度からコンタクトセンターのデジタルシフトに取り組んできた。デジタルとヒトを効果的に融合させたサービスで、高い利便性と感動体験を提供。CXのさらなる向上を目指している。

 電話導線には、オペレーター自動知識支援システムを導入した。顧客との会話をテキスト化し、オペレーターに必要な回答候補や関連マニュアルを自動表示する。応対品質の向上や応対時間の短縮に効果的だ。

 

 オンライン導線には、シンプルな選択肢から用件を選択するビジュアルIVRを導入。各種変更手続きもウェブからでき、必要な場合はLINEチャットで手続きを完結する。

 

 対話形式で問題の自己解決を促すAIチャットボットも導入した。24時間365日対応でき利便性が高い。アクセス数は年間150万件近くに達している。

 

 AIチャットボットで解決に至らない場合は有人チャットで対応。1人のオペレーターが同時に複数の顧客とやり取りでき、生産性向上につながっている。

 

 こうした仕組みに加えてボイスボットを活用している。コンタクトセンターに入電があるとオンラインで受け付けできることを案内。電話での対応を選択したらAIで用件を識別し、簡易な手続きは自動処理する。対応が難しい場合はオペレーターにつなぐ。

 

 コンタクトセンターのデジタル化は、デジタルとヒトを融合する業務設計が鍵だ。その検討に現場オペレーターの協力は欠かせない。導入後は改善サイクルを回し、進化を続ける。