象印ブランドの革新 ECサイトが後押し

2018年に創業100周年を迎えた象印マホービン。時代やライフスタイルの変化に柔軟に対応し、顧客の日常に寄り添うため、新たな取り組みを始めた。


創業100周年でブランド革新

 今回話をうかがったのは、ECサイトのシステム構築を担当した経営企画部の松浦潤システムグループ長、新たな事業開発にチャレンジしている新事業開発室の岩本雄平チームリーダー、同じく栗栖美和さんの3氏。(写真:左から栗栖美和さん、岩本雄平さん、松浦潤さん)

 象印が手掛けるのは、炊飯ジャーなどの家電製品と魔法瓶などの非家電製品を合わせた「家庭用品ブランド」。創業100周年を機に、これまでの「モノを作って売る」というスタイルから、ビジネスの形も含め、広がりを持たせな いと生き残れないと考えた。そこで、新たな経営方針「BRAND INNOVATION(ブランド革新)〜家庭用品ブランドの深化と「食」と「暮らし」のソリューションブランドへの進化〜」を掲げ、商品群や売り場を広げるとともに、お客様の課題解決に取り組む「ソリューションブランド」への変化に取り組んだ。

 

 製品の提供をベースとした事業が「水平的拡大」ならば、製品を活用して新たな体験や価値を提供するサービスに広げていくのが「垂直的拡大」だ。例えば、元々炊飯ジャーの広告宣伝活動の一環として、高級炊飯ジャーで炊いたごはんを食べられるポップアップストアを期間限定で展開していたが、それを「炊飯ジャーを購入しなくても、おいしいごはんを気軽に食べていただけるサービス」として事業の形に進化させたのが、大阪難波にある常設のごはんレストラン「象印食堂」と新大阪のお弁当専門店「象印銀白弁当」だった。

 

顧客の心地よさ大切に

 象印は過去から同様の発想でいくつかのサービスを提供してきた。2000年代前半までは子供向けだった水筒を大人向けの商品とするため、06年からマイボトルキャンペーンを開始。マイボトルを利用しやすい環境を整えるべく、町のお茶屋さんなどに空のマイボトルを持ち込めばおいしいお茶を安く入れてもらえる「給茶スポット」を07年から展開している。業界全体で02年に500万本だったマイボトルの販売は、18年には2000万本までになり、近年ではペットボトル削減につながるアイテムとしても注目されている。


 01年からは、電気ポットを利用した高齢者の安否確認サービス「みまもりほっとライン」も始めた。高齢者の日常生活を変えることなく、今までと同じように電気ポットを使用してもらうことで、その使用状況が遠くに住む親族にメールで届く。「お湯を沸かす」「給湯する」という電気ポットの操作が「安心」という新たな価値を生むサービスだ。


 新事業開発室で取り組んだ「ごはんで作った除菌ウエットティッシュ」も製品から新たな価値を生み出した一例だ。炊飯ジャーの開発では、日々大量のごはんを炊く。これまでは肥料にするなどコストをかけて再利用していた。より価値の高いものへ転換する「アップサイクル」の取り組みとしてスタートアップ企業と連携、発酵させて高濃度エタノールを生成し、除菌ウエットティッシュとして商品化することを提案した。新しい切り口であり、ESG(環境・社会・企業統治)の観点からも重要と社長からゴーサインが出た。

 どの取り組みにおいても象印が重視しているのは、単にペットボトル削減や安否確認、エコを追求するのではなく、まず顧客が心地よく過ごせるかどうか。どれだけ環境や周りの人間のためになるとしても、日常生活が窮屈になるようでは毎日使い続けてもらうことはできない。日常を心地よく過ごせたうえで、結果的に社会にも良い取り組みとなることを目指している。


 10月からスタートした「象印レンタルサービス」も、顧客の不安を取り除くことを目指した。きっかけは、育児休業中の社員が話した「いいなと思った商品も、本当に自分の生活に合うのか不安で購入をためらう」という言葉。商品を購入する前にお試しで使うことができたり、必要な時期だけ利用して返却できるサービスを始めることになった。

 

ECサイトを通じ新たな提案を

 そんな除菌ウエットティッシュやレンタルサービスなど新しい取り組みを支えているのが、20年に立ち上げたECサイト「象印ダイレクト」だ。価格ではなく、ECサイトでしか買えない商品、付帯サービスに重点を置いており、レンタルサービスを利用した顧客には、象印ダイレクトで新品を購入する際に使えるクーポンを発行している。また、購入者向けの「象印オーナーサービス」とも連携、メールマガジンで製品の使い方やレシピの提案もしている。

 ECサイトを始めるに際しては、個人情報の管理や決済などのハードルがあったが、インターファクトリーが提供する「ebisumart」を活用することで対処できた。象印のやりたい仕様が実現可能な上、開発もスムーズだった。

 除菌ウエットティッシュや数量限定のオリジナル柄ステンレスボトルなど、これまでの販売チャネルでは取り扱いが難しかった領域の事業にもECサイトは役立っている。今後は「お客様と直接つながる」部分をさらに大切にし、次に買ってもらうときにまた象印の製品を選んでもらえるような関係性を構築したいという。

 

 

https://www.interfactory.co.jp/