【日経MJフォーラム2014】 オムニチャネル時代のEC課題解決セミナー ~本店サイト売り上げ拡大と事業の安定化支援~

 インターネット通販が普及した現在、流通・サービス業界では店舗や電子商取引(EC)サイトなど複数のチャネルを統合する「オムニチャネル」が注目を集めている。実店舗とECの売り上げ拡大の両立にはどのような戦略が必要か。このほど都内で開催された日経MJフォーラム「オムニチャネル時代のEC課題解決セミナー」(主催=日本経済新聞社)では、マーケティングの専門家や実務者などが各テーマについて講演。企業が抱える課題解決に向けた方策を示した。

 

【基調講演】 EC企業のオムニチャネル時代の戦略 ビジネスは人とのつながり

 

ジャパンEコマースコンサルタント協会

代表理事

川連一豊氏

 

 スマートフォン(スマホ)・タブレット(多機能携帯端末)の普及や交流サイト(SNS)の進化、インターネットの大容量化・高速化など、ECを取り巻く環境は日々変化している。それに伴い、個人情報保護などのセキュリティー対策や人材不足、加速するIT(情報技術)のスピードへのキャッチアップなど、EC企業がクリアしなければいけない課題も複雑さを増している。

 

 EC企業が今後進むべき道として、実店舗・アンテナショップの開設や従来店舗を生かすなどの選択肢がある。ただ、いずれにしてもオムニチャネルの実現に注力する必要があるのではないだろうか。

 

 まずはデータの整備が大前提になる。商品・在庫・顧客・解析といった様々な情報を店舗とECサイトで統合し、顧客情報管理(CRM)システムに活用する。そこで生じた問題を解決して業務にフィードバックすることが重要だ。

 

 その上で、オムニチャネルを成功に導くための作戦が3つある。

 

 1つ目は「3つのF」の実現。ユーザーが求める楽しく(Fun)、早く(Fast)、新鮮(Flesh)なものは何なのかを常に考えて行動する顧客視点が欠かせない。

 

 2つ目は、私が「魂のご馳走」と呼んでいる顧客の声の活用。ユーザーからのレビューには非常に有益なものが多い。そんな宝の山ともいえる生の情報を多く集めて、仕入れや商品ページの作成、出荷といったあらゆるプロセスの改善に生かしていく。

 

 そして3つ目が「なぜ」の追求だ。「我々はなぜこの商品を売るのか」「なぜユーザーは私たちの店で買ってくれるのか」を突き詰めて考えることで自社のビジョンが明確になり、顧客の共感を呼ぶ戦略も実行できる。

 

 最終的にビジネスは人と人とのつながりだ。オムニチャネルを通じて顧客との関係性をいかに深められるかが成功の鍵を握るといえよう。

 

課題解決セッション①  「世界トップブランドが導入するカスタマーレビュー先進事例にみる、顧客の声・評価の活用方法 レビュー効果の最大化が鍵」

 

エクスペリアジャパン

Bazaarvoiceグループ

マネージャー

古瀬智志氏

 

 当社はアイルランドが本社の情報サービス企業だ。社員数は世界で1万7000人、44カ国に事業拠点を開設している。マーケティングサービスや信用情報サービスなどが事業の柱で、日本では5000件以上の実績を持つ。

 

 カスタマーレビュー(顧客からの評価)の活用は今やECに欠かせないが、店頭や紙媒体での活用が有効だ。カスタマーレビュー導入の効果として、短期的にはコンバージョン率(訪問客に占める購入客の割合:CVR)や流入数、顧客満足度の向上、長期的には製品・サービスへの興味・関心の向上や、顧客ニーズに基づく商品開発・仕入れの実現、顧客ロイヤルティー施策の発展などが挙げられる。

 

 カスタマーレビューの導入は①サイトへの参加を促す収集②顧客とのコミュニケーションやリポーティング、分析の運用③分析結果をキャンペーンや商品改善などマーケティング展開に活用――の3つのフェーズに分けられる。各フェーズが有効に機能することでカスタマーレビューの効果を最大化に導き、新規顧客と自社メディアの関係を深くする好循環が生まれる。

 

 当社のカスタマーレビューソリューションは「Bazaarvoice」を選択している。例えば170ブランドを取り扱う女性下着の通販を展開する英国企業は導入後、CVRが全体平均で35%向上した。一方でレビューがない商品に対するCVRの低下は見られなかった。 

 主な機能として「評価・レビュー」「商品Q&A」「高度な分析」の3つを提供している。中でも分析機能が重要で、効果計測して把握し、豊富な事例にみた成果指標に基づいてベストプラクティスを展開する「Plan(企画)・Do(収集)・Check(検証)」の回転を実施できる。

 

 豊富なノウハウ提供を主軸に効果の最大化に向かった提案が当社の強みだ。今後も企業が抱える課題を解決していく。

 

課題解決セッション②  「検索・レコメンドによるパーソナライズが売上アップの鍵に! 的確な検索が売り上げ左右」

 

ゼロスタート
社長
山崎徳之氏

 最近のECのトレンドにスマホの普及がある。スマホによってインターネットの利用者が広がった結果、ECは今や日常生活に欠かせない存在になりつつある。

 ECは豊富な在庫と24時間利用できる利便性がメリットの一方で、実店舗のように店員がいない点がデメリットだ。店舗であれば店員が商品を探してくれたりアドバイスしてくれたりするが、ECではユーザーが欲しいものを見つけられなければ他のサイトへ移動してしまい、企業にとって機会損失になる。そこで検索機能が店員の役割を果たす。

 

 ユーザーがサイト内の検索エンジンでキーワード入力しているのは、手間を惜しんでも欲しい商品を探し出したいという気持ちの表れだ。そんな前のめりな状態になっているユーザーが求めている商品を正確に表示できるかが売り上げを大きく左右する。

 

 ただ、ユーザーは欲しい商品名を間違って記憶していたり、商品への詳しい知識を持ち合わせていなかったりすることがある。その場合、ECサイトは検索クエリ(入力キーワード)を最大限尊重しながらも、ECサイトが判断して最適と思われる検索結果を表示することで顧客満足度が向上し、リピーター客になってもらえる確率も高まる。

 

 さらにはレコメンド機能が威力を発揮する。これまでのユーザーの購買履歴や過去に訪問したサイトなどの行動を分析して「お薦め商品」を提案することで、ユーザー自身も気付かなかったニーズを顕在化して購買につなげることができる。

 

 当社が提供するウェブマーケティング総合プラットフォーム「ZERO―ZONE」の特徴に、パフォーマンスの高さが挙げられる。検索作業の高速化に加え、ユーザーの的確な分析とレコメンド表示を実現。既に小売り・サービス業界のリーディングカンパニーを中心に導入が進んでいる。今後も使いやすいECの実現に貢献していきたい。

 

課題解決セッション③  「今求められる「高速、安全、最適なROI」でECサイトを配信する方法 世界最大級のCDNで支援」

 

アカマイ・テクノロジーズ
マーケティング本部
プロダクト・マーケティング・マネージャー
岡本智史氏

 当社は高速・安全・安定したサイト運営を可能にする、世界最大級の分散型コンテンツデリバリーネットワーク(CDN)を提供している。世界92カ国・地域の900都市に約15万台のサーバーを設置しており、5000社を超える企業に利用されている。

 

 オムニチャネルにおいて、ウェブサイトは顧客を店舗に誘導したり、ECで直接的に売り上げを伸ばしたりするなど重要な役割を果たす。しかし、大きな課題が3つある。

 

 第1の課題は表示速度の高速化だ。表示に時間がかかるほどサイト放棄率は高まり、ECではCVRが低下する。当社はキャッシュ技術や通信経路の最適化などにより、多数の画像や動画を使ったリッチコンテンツも素早く表示できるようにする。人気ブログサイトの実例では、表示速度を従来の3分の1に短縮した。パフォーマンスが向上すればサイト利用率は高まり、店舗への送客などにも威力を発揮するだろう。

 第2の課題は安全性の強化だ。現在では一般企業もサイバー攻撃の標的となっており、昨年は世界で40兆円の被害が出たという。対策の基本は自社の顧客がいない地域からのアクセスを遮断すること。その上で、大量の不正なデータを送信してシステムをダウンさせるDDoS攻撃や、データの窃取を狙った攻撃をネットワーク上でブロックする。無償の脆弱性診断サービスも提供しているので活用してほしい。

 

 第3の課題はコストや業務負担の軽減だ。当社のクラウドネットワークは予測不能なピーク需要にも柔軟に対応でき、閑散期に容量が余るなどの無駄がない。端末・回線に合わせて画像サイズや動画の形式を自動的に最適化する機能もあり、企業が本来業務に専念できる環境をつくる。 

 

 当社はウェブサイトの高速配信、安全性の強化、最適な投下資本利益率(ROI)での配信を実現し、企業のオムニチャネル戦略を支えていく。

 

課題解決セッション④  オムニチャネル時代におけるリアル・ショップの「これまで」と「これから」原点踏まえてチャネル改革

 

ネットプロテクションズ
BtoC セールスグループ
チーフ
吉田新太氏

 当社はEC向けの後払い決済サービス「NP後払い」を提供している。購入者が商品を受け取った後、コンビニなどで代金を支払うもので、先払いに対する消費者の不安を解消する。未払いリスクを当社が負担するのが特徴で、これまで1万4000社以上、累計4000万人にご利用いただいた。

 

 最近、リアルとネットの融合について相談を受ける機会が増えた。これまでは単一のチャネルでも顧客のニーズに応えられたが、これからは細分化したニーズに多様なチャネルで応えなければ成長は見込めないという問題意識が背景にある。

 

 当社のクライアントである老舗の化粧品メーカーA社は、時代の変化を的確に捉えて美容部員による訪問販売から店舗販売へ移行。さらに来店できない顧客向けにECも併用して成功を収めた。

 しかし、店舗では新規客との出会いが減り、ECでは顧客と関係を深めるのが難しい。各チャネルの特性により構造的な問題が発生していた。

 

 そこでA社は原点に立ち戻り、どんな顧客にどんな価値を提供するのが自社の使命かを再確認した。その目的達成に必要なチャネルとして、新規客との出会いに特化したパブリックサロン、優良顧客と関係を深めるプライベートサロン、店舗がない地域を専用車で回るムーバブルサロンを考案。サロンでは物販せず、店頭のタブレットか顧客のスマホで注文すると自宅に商品が届く仕組みにした。これにより新規客の獲得と関係の深化に必要な体制を構築できたという。 

 

 A社のように物販をしないコンセプトショップを展開する例は増えている。あるアパレル企業は店舗で試着し、気に入ったら店頭のタブレットや顧客のスマホで注文するモデルを始めた。在庫を大幅に削減でき、レジなどの初期費用も必要ない。専属モデルがコーディネートする店もある。モバイルと後払い決済は相性がよいため、当社も新たなビジネス機会として注目し、取り組みを支援している。

 

【特別講演】 24時間PARCO〜商業施設パルコのオムニチャネル戦略 ウェブサイトの拡充を軸に

 

パルコ
WEB コミュニケーション部課長
パルコ・シティ
シニア・コンサルタント
唐笠亮氏

 スマホの普及などに伴い、生活者はリアルとネットを自在に行き来し、都合に合わせて便利なチャネルを選択・利用するようになった。オムニチャネルの目的は、顧客がどのチャネルで商品を購入するにせよ、結果的に自社のショップやブランドで購入してもらえるように、リアルとネットの両面から顧客の購買行動に関与することだといえる。

 

 こうした観点からパルコは、店舗とウェブサイトの連携を強化。リアルでもネ

ットでもパルコとつながる「24時間パルコ」を目指している。課題はウェブサイトの活性化だ。そこで、パルコのサイトに「ショップブログ」を開設。各テナントがお薦め商品やセール案内など店頭の最新情報を発信できるようにした。

 

 全国19店舗のパルコで3000ショップが利用しており、月間1万件の記事が投

稿されている。記事をきっかけに来店する顧客も少なくない。

 

 ショップブログを起点に、テナントのECサイトへの送客も実施している。さらに本年5月から始めた「カエルパルコ」では、ショップブログにEC機能を追加した。ブログ記事に「WEB注文&お取り置き」ボタンを表示。店頭での1週間取り置きか、そのままネット購入するかを選べる。

 

 パルコ静岡店・名古屋店の一部のテナントで運用を開始し、今秋には都心型店舗への拡大を推し進める。売り上げは店頭に計上するため、テナントスタッフのモチベーション向上にもつながっているようだ。

今秋オープンする福岡パルコ新館では、全館Wi‐Fi(ワイファイ)環境を構築し、パルコ独自のスマホアプリも公開予定。デジタルサイネージを使うなどして、リアルとネットの新たな融合を模索する。 

今後はビッグデータの活用も含め、よりパーソナライズした接客をいつでも、どこでも提供できるように、「24時間パルコ」を進化させたい。

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